音楽を愉しみ尽くせる、唯一無二の輝きを放つミュージカル『ジャージー・ボーイズ』チームBLACK プレビュー公演レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』チーム BLACK 舞台写真 写真提供:東宝演劇部
2022年10月8日(土)に東京・日生劇場にて開幕する、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』のプレビュー公演が7日(金)に行われた。その前日に披露された、新生フランキー・ヴァリとして注目の花村想太率いるチームGREENに続き、この日は2016年の初演からフランキーを演じ、本作を牽引してきた中川晃教を筆頭とするチームBLACK(中川晃教・藤岡正明・東 啓介・大山真志)のメンバーが登場。前回の帝劇コンサート版から約2年、待望の本公演の上演となった。
はじまりはニュージャージー州の貧しい片田舎。“天使の歌声”を持つフランキーは、成功を夢見る兄貴分のトミーとニックのバンドグループに迎え入れられる。早速3人での音楽活動をスタートさせるが、フランキーの歌声をもってしてもグループには未だ何かが欠けていた。
鳴かず飛ばずの日々が続く中、作曲の才能溢れるボブが加入。フランキーの歌声に魅了されたボブは、その声のために曲を書きたいと思うのだった。しかし彼らを待っていたのは過酷な下積み生活。そんな中でも自分たちの音楽を磨き、それぞれの才能を開花させていく。そして彼らはついに「ザ・フォー・シーズンズ」としてレコード会社と契約し、次々とヒット曲を生み出していく。富も名声も手にしたはずの4人だったが、輝かしい活躍の裏では、莫大な借金やグループ内の確執、家族の不仲など、様々な問題が勃発し、彼らの固い絆を蝕んでいった。それらはやがて取り返しのつかない大きな軋轢となり、グループを引き裂くのだった――。
劇場に入りまず目に飛び込んでくるのは、ステージの両脇に聳え立ち、幾重にも積まれたテレビモニター。このセットを目にすると、「『ジャージー・ボーイズ(以下JB)』の世界に帰ってきた!」という歓びが込み上げてくる。それぐらい、JBにはおなじみで欠かせない装置で、劇中でもステージ上や客席の様子などさまざまな映像を映し出し、作品を象徴するような存在でもある。
本作は伝説のヴォーカルグループ「ザ・フォー・シーズンズ」の栄光と挫折の軌跡を、その名の通りフォーシーズンズ=四季に置き換えて描き、ストリーテラ―としてそれぞれのメンバーがリレー式に春、夏、秋、冬と語り繋いでいく。
写真提供:東宝演劇部
「春」、まだニュージャージーで暮らす何者でもない若者だった頃を語るのは、グループ結成の中心人物とも言えるトミー・デヴィート(藤岡正明)。彼が弟分であるフランキー(中川晃教)の歌声に才を見出さなければ、グループもこの物語も生まれていなかったかもしれない、と思うと、どんなに喧嘩っ早く問題だらけの人物に見えても偉大に思えてくるから不思議だ。藤岡は初演でもトミーを演じており、“堂に入ったチンピラ感”は健在、いやさらにパワーアップし、その徹底したガラの悪さは、後の彼の人生をも予見させるほど。しかしそれだけではなく、奥手なフランキーに恋愛の指南をするなど、憎めない兄貴分としての一面も好演。芝居の中で自然にアドリブを入れて客席を湧かすなど、藤岡の見せる“余裕感”が、トミーという人物の破格さや面白さをより引き立たせている。中川と二人で歌うシーンでは、息の合ったうつくしいハーモニーも印象的だ。
写真提供:東宝演劇部
グループが結成され一気にスターへの階段を登っていく「夏」を振り返るのは、作曲を担うボブ・ゴーディオ(東 啓介)。鮮やかな黄色のジャケットを脱ぎながら登場し、階段をゆっくり降りてくる東のボブは、舞台映えするその身体性の華やかさにまず目が奪われる。また、明快な語り口で観客を心地よく導いてくれるのも魅力的だ。類まれな音楽の才能と交渉力を持ち合わせたボブが、フランキーの歌声に魅せられて「その声のために曲を書きたい」と思い、才能で結ばれた二人が互いに唯一無二の存在として認め合う場面は、劇中でも特別な輝きがある名シーンだ。また、グループをスターダムにのし上げたヒット曲「Sherry」「Big Girls Don't Cry」「Walk Like a Man」らの名曲を畳みかけるように披露するなど、ザ・フォー・シーズンズの楽曲の魅力がぎゅっと詰まった章になっている。
写真提供:東宝演劇部
人生はずっと右肩上がりとはいかない。栄華のあとに訪れる陰りを描いた「秋」を担うのは、劇中で目立たなく存在してきたニック・マッシ(大山真志)。トミーと初期からバンドを組んできたニックだったが、トミーが抱える借金問題や素行の悪さについに堪忍袋の緒が切れ、これまでの積年の不満や怒りをぶつけるシーンは、ニックの苦悩が胸に迫り、固唾を呑んで見てしまう(シリアスなシーンではあるのだが、絶妙にひと匙の笑いが込められているところもいい)。いい意味で凡庸さのあるニックは、いちばん共感を寄せやすい人物でもあり、グループの中で彼が抱く“疎外感”にも自然と納得させられる。大山の説得力ある芝居と佇まい、人物造形が作品を引き締め深みを与えていて、キャスティングの好例を感じずにはいられなかった。
グループの解散後を描いた「冬」では、中川演じるフランキーが最後の語り部となる。この章で何よりも印象深く残るナンバーは、ボブと組みソロとして活動を開始したフランキーのヒット曲となり、数多くのアーティストがカバーしてきた名曲「Can't Take My Eyes Off You」。ミラーボールが劇場中を照らし、中川の伸びやかでうつくしい歌声が客席全体を包み込む、まさに夢ごこちとも言える時間で、「この時間がずっと続けばいいのに」と思わずにはいられない。
また、家族を失ったフランキーの悲しみも描かれ、亡き娘を想い歌う場面も心に沁み入る。「春」から季節をめぐり、青年期から壮年期までの変化をナチュラルに演じ、フランキーの生涯を体現する中川の手腕には、さらに磨き上げられた高音ヴォイスと共に、今回も驚かされるばかりであった。
写真提供:東宝演劇部
そしてJBといえば、一体感と多幸感に溢れたカーテンコールの時間についても言及しておきたい。劇中で歌われたヒットソングを4人がメドレーで歌い繋ぐこの時間は、さながら彼らのコンサートに来ているような感覚に。ペンライトを振ったり、観客もかしこまらず自由に音楽に身を委ねて盛り上がれる解放感は格別だ。「Big Girls Don't Cry」という曲では簡単な振付けがあるので、ぜひ事前に出演者がレクチャーしている動画をチェックして、一緒に踊って盛り上がってほしい。
余談だが、筆者は初演時にJBのプロモーションビデオの収録にオーディエンスで参加したのだが、そのときの参加者たちの作品への期待や熱気(それはその場にいた演者たちを圧倒させるほどの)が、狭いライブハウスの中で充満していたことを上演のたびに思い出す。シアタークリエからスタートし、コンサート版も含めその後さまざまな劇場でこの作品が上演され、多くの人々を魅了し続けていく姿を、一観客としてこれからも見届けていきたいと思う。
写真提供:東宝演劇部
ライブでもコンサートでもない、けれど音楽的快楽と愉しさ、ステージを共に創る歓びを存分に享受することができる本作は、音楽好きにはぜひ一度劇場で観てほしい演目。大人が観ても満足度の高いミュージカル作品というのは、そう多くは出会えないものだが、『ジャージー・ボーイズ』は“若者”の季節を過ぎ去った、出会いと別れを繰り返し生きてきた大人にこそ沁み渡る物語と、カンパニー全体が持つ、作品を構築する素晴らしい技量が一体となっているからこそ、唯一無二の輝きを放つ作品なのだと、改めて感じさせられた。
本作の東京公演は2022年10月29日(土)まで上演され、その後、大阪・福岡・愛知・秋田・神奈川にて全国ツアーが行われる。
プレビュー開幕に先立ち、出演者の意気込みが届いた。
■中川晃教(チームBLACK フランキー・ヴァリ役)
演出や美術の変更や、新たな出演者の皆様が加わり、2016年の初演キャストとスタッフ皆様と共に創り上げた奇跡の舞台が、どのように進化を遂げるのか。初参加の皆様や、2020年の帝劇コンサートが本作デビューとなる東さん大山さんは凄まじいスピードで進む稽古に順応して、尊敬するに値するものでした。美しいハーモニー、息の合った芝居。とにかく全身全霊でこの作品をお客様にお届けしていきますので、どうぞ応援をよろしくお願いします!
■藤岡正明(チームBLACK トミー・デヴィート役)
今回嬉しかったことはシンプルに、久しぶりにジャージーの世界に戻ってこられたことです。大変だったことは、やはりハーモニーの精度を高めることが一番大変だった気がします。
2020年、新型コロナの脅威によって中止になった『ジャージー・ボーイズ』本公演が、とうとう開幕いたします!2年分の悔しさと、待っていてくださったお客様への感謝の思いを胸に、最高の『ジャージー・ボーイズ』をお届けいたします!
■東 啓介(チームBLACK ボブ・ゴーディオ役)
いよいよ開幕! 2年前のコンサートから、やっと本公演ができるという喜びがまずあります。不安やプレッシャーなどもありますが、それよりも楽しみの方が大きいです! 皆様に早く見て頂きたい気持ちでいっぱいです!
チームBLACK、チームGREEN、どちらのチームも、全く雰囲気の違うものになっていますので、ぜひどちらも楽しみにしていてください!
■大山真志(チームBLACK ニック・マッシ役)
2020年はコンサートという形で、なんとか皆様の元にエンターテインメントをお届けさせて頂いた訳ですが、今年、こうして『ジャージー・ボーイズ』の本編に出演できる事を心から幸せに思います。観たら必ず楽しんで頂ける圧倒的な面白さが詰まっていると思います。劇場でお待ちしてます。
取材・文=古内かほ
公演情報
■チーム BLACK
フランキー・ヴァリ:中川晃教
トミー・デヴィート:藤岡正明
ボブ・ゴーディオ:東 啓介
ニック・マッシ:大山真志
フランキー・ヴァリ:花村想太
トミー・デヴィート:尾上右近
ボブ・ゴーディオ:有澤樟太郎
ニック・マッシ:spi
ジップ・デカルロ:山路和弘
ノーム・ワックスマン:戸井勝海
大音智海 山野靖博 若松渓太 杉浦奎介 岡 施孜
脚本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
音楽:ボブ・ゴーディオ
詞 :ボブ・クルー
翻訳:小田島恒志
訳詞:高橋亜子
演出:藤田俊太郎
音楽監督:島 健
<プレビュー公演>日程:2022年10月6日(木)~10月7日(金)
<本公演>日程:2022年10月8日(土)~10月29日(土)
会場:日生劇場
日程:2022年10月18日(火)
開演:18:00~(開場 17:15~)
会場:日生劇場(東京都)
出演者:
中川晃教/藤岡正明/東啓介/大山真志
加藤潤一/山路和弘/戸井勝海
受付期間:2022/7/23(土)10:00~2022/10/18(火)18:00
日程:2022年10月22日(土)
開演:13:00~((開場 12:15~)
会場:日生劇場 (東京都)
出演者:
中川晃教/藤岡正明/東啓介/大山真志
加藤潤一/山路和弘/戸井勝海
受付期間:2022/7/23(土)10:00~2022/10/22(土)13:00
本公演 S席:14,000円 A席 9,500円 B席:4,500円
プレビュー公演 S席:13,000円 A席:8,500円 B席:4,000円
<大阪公演>
日程:2022年11月3日(木・祝)~6日(日)
会場:新歌舞伎座
お問い合わせ:新歌舞伎座 06-7730-2121
日程:2022年11月10日(木)~13日(日)
会場:博多座
お問い合わせ:博多座電話予約センター092-263-5555
日程:2022年11月26日(土)~27日(日)
会場:日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
お問い合わせ:キョードー東海 052-972-7466
日程:2022年12月3日(土)~4日(日)
会場:あきた芸術劇場ミルハス
お問い合わせ:キョードー東北 022-217-7788
日程:2022年12月10日(土)~11日(日)
会場:横須賀芸術劇場
お問い合わせ:横須賀芸術劇場電話予約センター046-823-9999
KM ミュージック 045-201-9999