藤間蘭黄、創作への想いを語る~「日本舞踊の可能性」 vol.4で『鳥獣人物戯画』とカフカの『変身』を日舞化

2022.10.14
インタビュー
舞台

藤間蘭黄 photo: © Hidemi Seto

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2022年11月2日(水)~3日(木・祝)東京・浅草公会堂にて、日本舞踊家の藤間蘭黄が主導する「日本舞踊の可能性」vol.4が上演される。このシリーズは、2018年のvol.1以来バレエダンサーや音楽家などとの協同作業を展開し注目される。vol.4では、日本最古の漫画「鳥獣人物戯画」に想を得た『鳥獣戯画EMAKI』、フランツ・カフカの同名小説が原作の『変身』を発表(公演後にStreaming+にて配信)。近年、紫綬褒章、日本芸術院賞、芸術選奨文部科学大臣賞を受章・受賞し、文化庁文化交流使を務めるなど海外公演も多い藤間に、公演に向けての意気込みを聞いた。
 

「日本舞踊は可能性を秘めている」

――「日本舞踊の可能性」は、2018年8月のvol.1以降、映像、バレエ、ピアノとのコラボレーションを行うなど活発に展開してこられました。これまでの歩みを振り返っていただけますか?

vol.1では、ウクライナのキエフ(現名称キーウ)で上演した『展覧会の絵』を日本でもやりたかったんです。映像とコラボレーションした『鷺娘』も同時上演すると面白いんじゃないかなと。自主公演「蘭黄の会」では新作を発表しながら古典もしっかりとお見せして、私個人の成り立ちをみてもらうつもりでやってきました。それとは違う形で「日本舞踊は可能性を秘めているよ」ということを皆に分かっていただきたい。それから日本舞踊界をもっと活性化したい。他ジャンルとのコラボや新作発表をやっていくことが「日本舞踊の可能性」のコンセプトです。

2019年11月のvol.2では、その年の1月、バレエダンサーのファルフ・ルジマトフさん、岩田守弘さんと共演している『信長』をロシア三都市(モスクワ、サンクトペテルブルク、ウラン・ウデ)で上演した凱旋の意味をこめてやりました。2020年7月に予定していたvol.3では、オーケストラが入る大々的作品をということで東京文化会館を抑えていたんです。でもパンデミックのため延期となりました。そこで2020年11月、浅草公会堂を舞台に仕切り直して『徒用心』(オペラセビーリャの理髪師」が原作)と『禍神』(ゲーテの小説「ファウスト」が原作)をやり、映像配信も行いました。国内もさることながら海外に向けて英語のほかフランス語、ロシア語、ドイツ語、ハンガリー語の字幕を付けて配信すると世界各地から反響がありました。

藤間蘭黄 photo: © Hidemi Seto

 

「鳥獣人物戯画」を新曲書下ろしで新たに日本舞踊化!

――今回の「日本舞踊の可能性」vol.4は二本立てです。初めに日本最古の漫画と称される「鳥獣人物戯画」をヒントにした『鳥獣戯画EMAKI』の創作の経緯をお聞かせください。

東アジア文化都市北九州実行委員会から「鳥獣人物戯画」をテーマに、「市民文化活動者による創作日本舞踊」を委嘱されました。「未来につなぐ東アジア伝統芸能の饗宴」(2021年8月29日)で初演しました。実はお話をいただいたとき、一度お断りしたんです。「鳥獣戯画」に関して我われの先人がいい作品をたくさん創られているんですね。私ども藤間流の4世家元・藤間勘右衞門が創っていますし、花柳寿南海先生が振付されたものもありますし、西川箕乃助さんもご自身のリサイタルで創られています。でもプロデューサーは、どうしてもこれをやりたいとおっしゃるのでやることになりました。

――蘭黄さんが作詞され、作曲が気鋭の杵屋小三郎さんです。

作曲を杵屋小三郎さんにお願いすることは最初から決まっていました。その前に同じ東アジア文化都市の開幕式典で『門司春秋』を創って山村友五郎さんと踊りましたが、その際の作曲も小三郎さんでした。小三郎さんは当時、東京芸術大学の現役学生でした。『門司春秋』は私が擬古典調に作詞をしまして、太古から現代にいたる門司の歴史を織り込みました。小三郎さんは、私のお願いに快く対応してくださいましたが、『鳥獣戯画』に関しては現代邦楽のように自由にやってくださいとお願いしました。歌詞も私が必要最低限しか書かず「こういう動きがある」というのは台本にト書きのように記しました。そこを歌詞ではなく三味線音楽の流れで表現します。

そのとき、蛙と兎がお相撲を取っている絵を見て浮かんできた音楽がバリ島(インドネシア)のケチャなんです。ケチャがカエルの泣き声に聴こえてきたんですね。小三郎さんに長唄の三味線と詞でケチャを表現できないかと無理難題を申し上げて創っていただいたんです。すると、小三郎さんの方から「では、クメール音楽とかスパニッシュテイストも入れて良いですか?」と。もちろん入れてください、とお願いしました。その結果、面白い長唄が完成しました。

『鳥獣戯画EMAKI』藤間蘭黄  ©提供:北九州市

――北九州での初演時は市民参加で10代から70代の方が出演しましたが、今回はプロの女性の日本舞踊家9名と蘭黄さんが出演します。見どころを教えてください。

先行作品には鳥羽僧正が出てきたりしますが、自分は出したくない。そこで、どうしようかと考えたとき、古典作品のなかに「~見物左衛門」というキャラクターがいることに気が付きました。それで、絵巻見物左衛門という絵巻を見歩くのが好きな人物を出して、彼が「鳥獣戯画」のなかに入ります。そして動物たちと一緒に相撲を観たり、酒盛りをしたりするんです。私以外の出演者は全員動物です。被り物はせず素踊りで表現しますが、動きで蛙なのか兎なのか猿なのかが伝わるんです。日本舞踊では意外に動物を踊ることが多いんですね。お相撲の場面なんかは古典にある振付を取り込んで振りを組み合わせています。古典を学べば使えるものがいっぱいあります。使わないともったいないと思うんです。

出演者は30代から80代までと幅広いです。60代がいないのですが、公演3日後に私がなります(笑)。皆さん基本ができているので、手順をお渡しするとある程度はすぐにできます。そこからさらにクオリティを上げていきます。小さい頃からお稽古をしていた方たちなので、体のなかにさまざまな技術が詰まっています。引き出しがたくさんあって、それを出してくれます。非常におもしろい作品になると思います。

――生演奏で、演奏者は新進気鋭の方々だそうですね。

若手の皆さんに活躍していただきたい。それも、ただやみくもに若手というのではなくて、実力のある方々にです。今回の『鳥獣戯画EMAKI』の演奏は、杵屋小三郎さんがセレクトしてくださった同世代の方々です。三味線も、お囃子も、唄も。北九州での『鳥獣戯画EMAKI』の初演は去年の8月だったのですが、音楽の方はその後の10月に小三郎さんのリサイタルでも演奏されました。その時の選りすぐりのメンバーの方が出てくださいます。

「日本舞踊の可能性」 vol.4 出演者

 

カフカの「変身」を、日本舞踊の強みを生かして創作

――もう1つの『変身』はカフカの同名小説が原作で、蘭黄さんのソロです。

以前、海外公演中にカフカの家を訪れたこともありました。もともと中東欧のツアー用に考えていた作品でしたが、パンデミックで延期になったので、日本で先に発表することになりました。小説の筋を追うというよりも、その中からいくつかのシーンをピックアップしてつなげて、舞踊作品になるようにしたという感じです。私は虫になった主人公ザムザ、そのお父さん、お母さん、妹、そして訪ねてくる上司の5役を踊り分けます。

この話はシュールじゃないですか? 朝起きると虫になっている。原作を読むと、カフカ自身が本を出すときに虫の挿絵は絶対に入れるなと伝えていたそうです。読者の想像のなかで虫になればいい。それでカフカ自身が朗読したことがあるらしいんですね。すると読みながら途中で何度も噴き出していたそうです。気持ち悪い虫の話なんだけど、何か馬鹿ばかしいような、世間に対する風刺じゃないけど、そういう意味を込めて創ったんじゃないかなという気もします。

その世界を私は素踊りで踊ります。つまり全部を見せないんですよ。皆さんが私の動きを見て「どんな虫だろう?」と想像する。日本舞踊が得意としている素踊りの技法と、カフカが虫の挿絵を入れるのではなく想像して読んでほしいと語ったという点が通じるといいなと。素踊りは、特別な衣裳、かつらを付けない簡素な衣裳で踊って森羅万象すべてを表現できるんです。

『変身』藤間蘭黄 photo: © Hidemi Seto

――コンテンポラリーダンスや創作バレエでも、ある種の抽象性が表現の特徴としてあったりします。プラス日本舞踊だと素踊りでざまざまなキャラクターを踊り分けることもできますね。

日本舞踊は歌舞伎から発生しているので、パントマイム的というか抽象の対極みたいな要素もたくさんあるわけですよ。でありながら踊りに昇華して抽象性をも網羅していて守備範囲が広いんです。抽象と具象を同時に表現できるのは日本舞踊の強みだと思うんですね。

――佐藤卓史さんがバルトークのピアノ曲を弾きます。実力あるピアニストですね。

素晴らしいですね。バルトークの超絶技巧もサラっと弾いて、音が凄く力強い。2021年1月に横浜の青葉台で初演したのですが、今回は浅草公会堂が舞台なので、最後は花道から引っ込むように演出します。そのためピアノソナタ Sz.80だけでは少し短いのでご相談したところ、ミクロコスモス Sz.107より2番も使用することにしました。

――衣裳にもこだわりがあるそうですね。

原作に「虫の腹には縞模様が見える」というようなことが書いてあります。縞といえば、北九州で『門司春秋』を創り上げたとき、舞台美術に現地の小倉織(こくらおり)を使いました。小倉織はもとは袴地だったみたいですね。縞の生地を提供してくださって、縦縞で織っているわけです。でも『変身』では横にしたいとお願いして、普段は縦にするのを横にして仕立ててもらいました。横縞の不思議な感じなんですけれど、それを履いて踊ることにしたんですね。なんとなくイメージとしても、おもしろいかなと思いまして。

浅草公会堂 外観

 

「日本舞踊のおもしろさを、一人でも多くの方に知っていただきたい」

――コロナ禍に入ってからは活動自粛期間にオンラインでお弟子さんに稽古をつけたり、Youtube配信をしたりされてきました。その後もご自身の公演や同人の五耀會の公演を続けつつ、さらには各地での合同公演や市民参加型公演にも携わっています。その原動力は?

「日本舞踊って、こんなにおもしろいんですよ」ということを、一人でも多くの方に知っていただきたいんです。『鳥獣戯画EMAKI』の初演にしても多くの方にご覧いただき、興味を持ってもらえました。ピンチはチャンスといいますが、チャンスをどのように生かしていくか。それを意識していたわけではないのですが、公演も稽古もできなくなったらYoutube配信をしようとなります。普通にやっていたら、なかなかそこには目がいきません。おかげさまで海外公演も再開できることになり、「日本舞踊の可能性」vol.4直後の11月9日から12月頭までスロバキアとハンガリー、スロベニアそれにフランス南部へ行きます。

藤間蘭黄 photo: © Hidemi Seto

――最後に「日本舞踊の可能性」vol.4への誘いをあらためてお願いします。

今回は皆さんよくご存知の「鳥獣戯画」に取材した『鳥獣戯画EMAKI』とカフカ原作『変身』という身近な題材をテーマにしていますので、十分楽しんでいただけると思います。その上で「日本舞踊って、こんなこともできるんだ」と思っていただける仕掛けを仕込んでおりますので、ぜひそれを楽しみにご来場いただければ。日本舞踊の多様性・可能性をお見せします。日本独自の民族舞踊の一つであることを実感していただきたいですね。

今回は両方とも生演奏です。『鳥獣戯画EMAKI』は作曲者の小三郎さんみずからの演奏で、『変身』の方も佐藤さんのピアノが素晴らしいです。ピアノをお聞きにお越しになる方もいらっしゃるでしょうが、「日本舞踊もおもしろい!」と思ってもらえるとうれしいですね。今回も日本舞踊にあまりなじみのない方にもお楽しみいただきたいと考えまして、落語家の桂吉坊さんにナビゲーターをお願いしました。お客様目線で解説してくださるので非常に心強いです。

取材・文=高橋森彦

公演情報

「日本舞踊の可能性」vol.4
 
日時
2022年11月2日(水) 18時開演
2022年11月3日(木・祝)14時開演
 
会場
台東区立浅草公会堂(東京都台東区浅草1-38-6)
地下鉄銀座線浅草駅より徒歩5分、 都営浅草線浅草駅より徒歩7分
 
座席
S¥8,000、 A¥5,000、 B¥2,000、 パトロネージュシート* ¥20,000
(*は代地のみのお取り扱い。 良席・直前見どころ講座等の特典付シート)
 
お問い合せ先
 (株)代地 TEL/03-5829-6130、 E-mail/info@daichi-fjm.com
 
《プログラム》
詳細は特設サイトにてご確認ください。
I「 鳥獣戯画EMAKI 」
日本最古の漫画とも言われる世界観を世代を超えた日本舞踊家たちが描く
II「 変身 」
フランツ・カフカの同名小説をバルトークのピアノ生演奏で表現
 
◆日本舞踊の可能性 特設サイト
https://www.nbkanousei.com
◆藤間蘭黄 公式サイト
http://daichi-fjm.com/index.html
◆藤間蘭黄 Instagram 
https://www.instagram.com/f.rankoh
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