『機動戦士ガンダム 水星の魔女』スレッタ・マーキュリー役・市ノ瀬加那インタビュー「一人の生きてる人間として演じるということ」
撮影:大塚正明
2022年10月から7年ぶりにガンダムシリーズ最新作、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が放送中だ。そこで主人公のスレッタ・マーキュリー役を演じる市ノ瀬加那にインタビューしてきた。オーディションから主人公への抜擢、そしてガンダムシリーズというものをどうとらえているのかを聞いた。
(C)創通・サンライズ・MBS
――まずは『機動戦士ガンダム 水星の魔女』への出演、主人公のスレッタ・マーキュリー役に決まった時の感想からお聞きしたいです。
スレッタ・マーキュリー役に決まった時は夢みたいな感覚で。オーディションは一次審査、二次審査とあったんですけれども、「ずっとこの大作の主人公を誰がやるんだろう?」と思っていたんです。やりたいけど、やりたい分、凄い慎重になっちゃうというか。お家で練習している時も、何回も録音したりして、「ここはちょっと違うかも?」とか「ちょっと近付いてきた」みたいな、繰り返しスレッタに近付けていく作業をして、オーディションに挑みました。それで二次審査に進む事ができたのですが、何でしょう……自分がまさかスレッタを演じるとは思ってもみなかったので、自分にとっては夢のような気持ちです。だから合格の連絡をマネージャーさんからいただいた時も、その時は寝ぼけていたというのもあり、夢だったんじゃないかなって思ってしまうくらいだったんです。7年ぶりの新作で、TVシリーズ初の女性主人公という事で、なかなか凄いタイミングでスレッタを演じさせていただくことになったと思いまして、TVシリーズのガンダムは今まで男性が主人公だったじゃないですか?
――そうですね。今回の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』がTVシリーズ初の女性主人公ですね。
このタイミングで『水星の魔女』に出演できたというのが、自分にとって何か奇跡のような出来事だなって思っていて。これが2年先とか、逆に2年前とかだったらまた違う形になっていたと思うんです。とても有難いタイミングでスレッタと巡り合う事が出来たなと思っています。
(C)創通・サンライズ・MBS
――先ほどオーディションの時に練習されたという話をされていましたが、何か理想像があったのでしょうか?
そうですね。台本をいただいた時に、そのキャラクターの声が頭の中で再生されるんですが、最初に頭の中で再生されたものを演じてみようと思っても、意外とこうギャップがあったりするんです。
――最初のインスピレーションと実際に声を出してみるとギャップがあると。
何かキョドり具合がちょっと少ないな、とか。ここはもうちょっと落ち着いた方が良いなみたいな、録音して自分の声を聞いてみて、そういった擦り合わせを結構してますね。
撮影:大塚正明
――今のお話を聞くと、役者としてだけではなく、演出家としての面もお持ちなのかなと。
確かに色々な役をやらせていただいた事で、そういう外側から見るみたいな視点が、深まっていったのかなと思います。まだまだですけど。
――そんなご自身なりの引き出しを作ってアフレコに臨んだと思うのですが、音響監督や監督から「こういう風に演じてほしい、こうして欲しい」といった具体的な指示はあったのでしょうか?
第1話のアフレコが始まる前に、(小林寛)監督から「一人の生きている人間として演じて欲しい」と言われました。変に可愛く演じようとしなくても良いし、この子達は普通に生活して食べて寝て、トイレもする、と言われて。なので、リアリティのある形のお芝居をしたら良いのかなと私は捉えたんです。アニメだと可愛い感じに演じることも多いんですけど、スレッタならではのお芝居を意識しています。アフレコ現場で、自分の中のスレッタ像と、監督や音響監督さんのスレッタ像というのを、ディレクションで知っていく、その過程でよりスレッタの事を好きになるというか。凄い面白い子なんです、思っている以上に。
(C)創通・サンライズ・MBS
――面白い子、ですか。
はい、すごく面白い。「?」のリアクション。「うん?」「ん?」っていうのがあるじゃないですか。そういうリアクションを私は無意識にテストの時に「ご」って言ってたみたいなんですよ。でも本番の時には普通のリアクションに戻っていた。そして本番の収録が終わって、リテイクの時に「ここのシーンのリアクショはテストの時の「ご」が良いみたいです」って音響監督さんがおっしゃられて。リテイクで改めて「ご」っていう声を収録したんですけど、最初のテストのリアリティのあるというか、自然な「ご」がなかなか出なくて……。それで結局テストの時のものを使っていただくっていう事になったんです。そこで、そのくらいちょっと変わった子でも良いんだなっていう風に思いました。
――テストでナチュラルに出たものが良かったと。
そうなんですよね。「演じよう」と思うと、アクションが大き目になっちゃうのかもしれません。
(C)創通・サンライズ・MBS
――今回が学園を舞台にした作品だからこそ、そういう等身大で、ナチュラルなものを求められた、というのもあるのかもしれないですね。
そうですね。それぞれのキャラクターにスポットライトが当たりますし、皆さんと一緒にアフレコでお芝居していても、ナチュラルなお芝居の方が多いなと思いました。アニメの登場人物ではありますが、どこかにいそうな女の子としてスレッタを演じたいと思っています。
――演じられるスレッタ・マーキュリーの第一印象はどのようなものだったのでしょうか? そして先ほど演技についても色々とお聞きしましたが、アフレコをされるうえでその印象がどういう風に変わっていったのかもお聞きしたいです。
最初にスレッタの設定を見た時は、結構おとなしいキャラクターなのかなと思っていました。内向的というか、何かこう上手く人に意見が言えなかったりとか、それでちょっと内に籠っちゃう子といったイメージで。でも台本をいただいてお芝居を進めていくうちに印象が変わっていきました。内向的でコミュニケーションは苦手ではあるんですけど、人には興味ある子で、一歩頑張って踏み込もうとする所があったりする。でも先ほども言いましたけど、ちょっと変わった部分もある子。だからどうやって、そういった部分をを少しずつ出してけるかなというのは考え所でした。もっと子供の頃は、同世代の子達と関わりがなかったりして、どう距離を詰めて良いのかが分からない子なんですよね。距離を詰めたいけど、詰めすぎちゃったり。だからそういうチグハグ具合なところをお芝居の中で意識して演じたりしています。
撮影:大塚正明
――演じるうえで、バランスを掴むのが難しい役なのかなと思いましたが、最初からすんなりいったのでしょうか?
最初は戸惑いました。監督からも「アドリブたくさん入れて大丈夫ですよ~」って言っていただいたんですが、「アドリブってどうやってやるんだ?」って(笑)。最初はスレッタを掴めていない部分もありましたが、ディレクションしていただくごとに、どんどんとスレッタの人物像が広がっていって、今は何となく、「こういう方向でスレッタを演じれば良いのかな?」と見えてきた感じがします。
――よろしければ、そんなアドリブで採用されたものがあれば教えてください。
最初、スレッタはテンパり具合がマシマシなので、同じ言葉を繰り返したりするんですけど、「すみません」を「すみばせん」みたいな感じで言ってみたりとか(笑)。そういうちょっと一文字だけ変えてみることで、スレッタのコミュニケーションが苦手な所を出せれば良いなと思い、演じています。
(C)創通・サンライズ・MBS
――では、改めてガンダムシリーズに対して、どんな印象をお持ちでしょうか?
『ガンダム』は「男の子のもの」という印象だったんですよ。でもいざ見てみると戦いについて深く考えさせられる作品と言いますか、敵同士だけれども、そこにロマンがあったりとか。アムロとランバ・ラル大尉が酒場で出会って言葉を交わすシーンとかも境遇が違えば、もしもお互い仲間だったら凄く良い関係性も築けたかも知れないなと考えたり、凄い切ないけれどそういったところに良さを感じました。「戦いって何だろう?」と改めて考える機会になりました。
――凄く深くご覧になってますね。びっくりしたのが『機動戦士ガンダム』のテレビシリーズをご覧になったことがあるんですね。(笑)。
ガンダムシリーズとして、この『水星の魔女』に受け継がれている所もあると思うので、主人公として出演する以上、やっぱりまずは初めから観た方が良いかなと思いまして。モビルスーツもカッコ良いですし、それぞれの葛藤だとか、敵側にもフォーカスが当たるからこそ感情移入をしてしまって…どこかもどかしいですよね。自分が小中学生の時に『ガンダム』を見ていたら、また違う印象を持ったのかもしれない、とも感じますが。
(C)創通・サンライズ・MBS
――なるほど。ではちょっと方向性が変わりますが、声優になろうと思ったキッカケのアニメ作品があればお聞きしたいです。
幼少期というか子供の頃はいわゆるアニメチャンネルでアニメを観ていました。中でも多く見ていたのがジャンプ作品、『銀魂』や『ドラゴンボール』などですね。そこから『テニスの王子様』が好きになって。バトル系やスポーツ系、戦う作品が好きになりました。
――アニメチャンネルは放送タイミングによって見る作品が変わりますよね。『ガンダム』という作品の場合はキャラクターを演じる、というところに加えて、ガンダムに乗ることで演技が他の作品と違ってくると思いますが、いかがですか?
普段スレッタが喋っている時は、わりとコソコソ喋りといいますか、日常的なトーンで喋っているんですが、やっぱりガンダムに乗ると声を張るじゃないですか。でも今のところ、これまでのシリーズ作品と比べると戦闘シーンは少しライトな感じで演じてたりして。後半になるにつれて、ちょっと違う感じになってより声を張るシーンとかも増えていくのかもしれませんが…。
撮影:大塚正明
――ガンダムの操縦シーンって非常に難しそうだなと思っていて。
映像が速くて、物凄くカット割が細かいので、今がどんな状況なのかを必死にト書で理解するっていう作業をやってますね(笑)。
――確かに宇宙空間とかで自分がどういう状況なのかを把握するのは難しそうです。では最後にこんなところを見て欲しい、というのをいただければと。
この『水星の魔女』では、ガンダムが危険なものとして扱われているんですよね。そんな中でどうやって物語が切り開かれていくのかがキーになるのかなと思っています。加えて、色々なところに伏線がちりばめられていると思うので、ぜひそこにも注目して見ていただきたいです。
取材:文=林信行 撮影:大塚正明
放送情報
TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
企画・制作:サンライズ
原作:矢立 肇/富野由悠季
監督:小林 寛
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン原案:モグモ
メインキャラクターデザイン:田頭真理恵
キャラクターデザイン:戸井田珠里/高谷浩利
メカニカルデザイン:JNTHED/海老川兼武/稲田 航/形部一平/寺岡賢司/柳瀬敬之
音楽:大間々 昂 ほか
(C)創通・サンライズ・MBS