藤井隆「PARCO劇場は僕にとって頑張ろうと思える場所」~岩井秀人脚本・演出のミュージカル『おとこたち』に出演

2022.11.19
インタビュー
舞台

藤井隆

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2023年3月12日(日)~4月2日(日)PARCO劇場にて、PARCO劇場開場50周年記念シリーズ ミュージカル『おとこたち』が上演される。

『おとこたち』は、岩井秀人が主宰するハイバイの劇団公演として2014年に初演、2016年に再演された演劇作品で、4人の「おとこたち」の22歳から85歳になるまでの人生の様々な問題を描いている。今回は2019年に上演された『世界は一人』でも岩井とタッグを組んだ前野健太を音楽に迎え、ミュージカルとして上演する。

4人の「おとこたち」のうちのひとりとして出演する藤井隆に、今作について話を聞いた。

面白いことを思いつく岩井さんが素晴らしいし、尊敬している

ーー今作の上演が発表されたとき、「岩井さんと初めてご一緒した『いきなり本読み!』が異常に楽しくて興奮した」とコメントされていましたが、具体的にどんなところが楽しかったのか教えてください。

とても難しくて始まって数分はずっと戸惑ってました。どうなるかわからないけど、自分をさらけ出すことになるだろうなと覚悟しました。

自分の服を着て、舞台に登場して、岩井さんにその場で「これ読んでください」って渡された脚本を読んでいく、しかも役もいろいろ変わるっていう。文字になると誤解を与えるかもしれないので言い方に気を付けたいところですが、「失敗して当たり前」みたいなことなのかなと。失敗したらどうしようとか、上手くやりたいなとか、そんなことはどうでもよくて、中心になって進めている岩井さんから与えられたことをやって、それで岩井さんが楽しそうにしてくれていればいいんだ、ということに気づいて、それは普段やっていることと全然違うので興奮はしましたね。失敗して当たり前、責任は岩井さんが取りますみたいな覚悟を感じたので、もう岩井さんに甘えようと思いました。

ーー確かに、初見の台本を人前で突然読まされるというのは、かなり特殊な状況ですよね。岩井さんはあえてその状況に俳優さんを置くことで生まれる面白さを観客にも共有したい、という発想からこの企画を始められたそうですが、俳優さんとしては藤井さんがおっしゃった通り、すべてをさらけ出す感じなのでしょうね。

ただ間違えずに読んで上手だったね、ということよりも、どうなるのかわからないまま、闇雲にとにかく走ってみるとか、思い切ってジャンプしてみるとか、そういうことの方が大事な企画なのかなと思いましたね。そういう面白いことを思いつく岩井さんがまず素晴らしいし、しかもそれを興行として実際にやってしまうところも尊敬しています。そんな岩井さんから舞台のオファーをいただいたので、もうそれは即答で「はい!」ってなもんです。

藤井隆

長いセリフよりも歌詞の方が覚えやすい

ーー藤井さんはこれまでミュージカル等の歌のあるものと、歌のないストレートプレイと両方の舞台に数々ご出演されてきました。ご自身としては両方やってきた中で、何か違いを感じる瞬間はありますか。

ミュージカルはきっかけで音楽が始まって、それに合わせてセリフを歌いますよね、それがすごい特殊なことをしているんだな、と思います。ストレートプレイのときは、もちろん毎日同じタイミングを目指してやっていますが、役の気持ちでセリフを言うので、やっぱりどうしても毎日ちょっとずつ違うと思うんです。でもミュージカルのときは、さまざまなスタッフさんのいろんなきっかけと合わせて歌で動いて行くっていうのが、僕はちゃんと出来ていませんが(笑)、共演者の方たちがバチッ! と決めてやっていらっしゃるのを見ると感動します。

ーー歌があることで助けられる部分というのはあるのでしょうか。藤井さんは歌手としてもご活躍でいらっしゃいますから、歌という武器を持って舞台上にいらっしゃるのかな、とも思うのですが。

とんでもないです! 全然へたっぴなので武器ではないですよ。でも、少し偉そうな言い方になりますが、僕の場合は長いセリフよりも歌詞の方がよっぽど覚えやすいですね。自分でも何でなのかわからないのですが……メロディがあるからですかね? 同じ分量のセリフを覚えなければいけないのであれば、ストレートプレイよりも断然ミュージカルの時の方が覚えるのが早いと思います。

ーーそうなんですね! 「歌を覚えるよりも台本のセリフの方が覚えやすい」とおっしゃる俳優さんもいらっしゃるし、本当に人によるんですね。

今、自分でしゃべりながらずいぶん図々しいことを言っているなと思いましたが(笑)。セリフを覚えるときって、何回も稽古を重ねることでそのときの感情の動きが固定されるわけで、そのときにセリフも腑に落ちる瞬間が来ると思うんですけど、ミュージカルのときはメロディがあるから、メロディにまず感情を引っ張ってもらえて、あとから歌詞がついてくるという感覚なんじゃないかなと思います。

藤井隆

ーーやはり歌手としてのキャリアを積んで来られたから、メロディに言葉や感情を乗せることに長けていらっしゃるんですね。

多分僕は恵まれていて、今まで出させていただいたミュージカルで、いい音楽といいセリフをいただいてきたのだと思います。歌いにくいとか覚えにくいというのは、これまでの経験としてあんまりないかもしれないです。共演者の方も「すごい歌いやすいよね」とおっしゃっていて、なんか「変なミュージカルだね」っていう現場がなかったから(笑)、恵まれているんだと思います。今回は前野健太さんの音楽で、どんな歌になるのかとても楽しみにしています。

目の前にお客様がいてくれる状態が好き

ーー藤井さんは俳優さんとしても芸人さんとしても様々な場でご活躍されていますが、舞台に出演することについてどのような思いを持っていらっしゃいますか。

自分のそもそものスタートが吉本新喜劇の二丁目劇場だったので、舞台に出させてもらうということは自分の原点だなという思いがあります。当時、自分は全然うまくできなかったけれど、先輩方や共演者の方々のおかげで本当に楽しい舞台をやることができて、いわば成功体験をさせていただきました。先輩がやったことに対して客席がウケてドカンと揺れるところとかを間近で見させてもらった経験は、すごく自分の中では大きな部分を占めていますね。やっぱり、目の前にお客様がいてくださるかどうかというのはすごく大きいです。テレビの収録でもお客様がいてくださるとより楽しくなりますしね。多分、僕はお客様がいてくれるという状態が好きなんだと思います。

ーー吉本新喜劇以外の舞台に初めて挑戦されたときは、戸惑いのようなものはありましたか。

いや、もう戸惑いしかなかったです。初めてのミュージカルがPARCO劇場の『ボーイズ・タイム~つよく正しくたくましく!!〜』(1999年/以下『『ボーイズ・タイム』)だったんですけど、まず一ヶ月お稽古をするということに全然ついていけなくて。吉本新喜劇は前日の夜に稽古して次の日は本番、というのを一週間ごとに内容を変えてどんどんやっていくというスタイルでしたから。だから一ヶ月の稽古の間は、できもしないくせに「早く本番がしたいな」と思っていました。今思えばすごい生意気でしたね。

ーー初めてのミュージカルの本番を迎えられたとき、手ごたえは感じられましたか。

ないです、もう全然なかったです! 本当にひどかったですね。本番始まってからもずっと演出助手の方に指導されてました。でも『ボーイズ・タイム』も、僕にとってはやっぱり成功体験になったんです。まず、あの有名なPARCO劇場に出させてもらえるということに興奮してドキドキしましたし、公演の回数を重ねて行くうちに評判が良くてお客様がどんどん増えて行ったんです。最初のミュージカルで、お客様が盛り上げてくださった舞台に出ることができて、やっぱり僕は恵まれているんだなと思いました。だからまた舞台のお話しをいただいたらやりたいな、と思っていましたが、そこから10年ミュージカル作品からは声がかからなくて(笑)。だから10年ぶりにまた声をかけてもらったときは嬉しかったです。

藤井隆

思い出すのはあの小さなホットドッグ

ーー藤井さんが演じるのは4人の「おとこたち」の内のひとりです。あとの3人の「おとこたち」を演じる共演者についての印象をお聞かせください。

ユースケ・サンタマリアさんにはバラエティ番組で本当にお世話になりました。テレビだと現場をご一緒できる時間は短いですが、舞台で長い期間をご一緒できるのはまた違った距離感だと思うのですごく楽しみです。吉原光夫さんは映画の吹き替えで同じ作品に出演したことがあって、その作品のキャンペーンでご一緒したときに、吉原さんの生歌を横で聞かせていただいたんですけど、それはもう素敵だったので、今回も同じ舞台上で吉原さんの歌を聴くことができると思うとワクワクします。橋本さとしさんはこれまで舞台は拝見していますが共演は初めてで、すごく優しい方だという噂はおうかがいしているので、きっと僕が甘えることになるんだろうなと思っています。

ーー来年PARCO劇場は50周年を迎えます。藤井さんはこれまでPARCO劇場には何度もご出演されていますが、何か思い出などあれば教えてください。

先ほど話にも出ましたが、初めて出演させていただいた『ボーイズ・タイム』は本当に特別でした。稽古に参加するのも厳しいようなスケジュールの中で出演して、本番中も開演の30分前とかに楽屋に飛び込んで、お腹ペコペコだから買ってきたファーストフードを食べて、みんなから「このあと歌うのにそんなの食べちゃダメだよ」って心配されて、本番で歌って側転しながら袖に入っていった後で気分悪くなって、舞台監督さんに「だから言ったでしょう!」って怒られて(笑)。本当に若い時はバカだったな、恥ずかしいな、と思うことがいっぱいありますけど、僕の東京での舞台の仕事の始まりはPARCO劇場からなので、本当に感謝しています。新しくなったPARCO劇場に三谷幸喜さんの『大地(Social Distancing Version)』(2020年)という作品で呼んでいただいたのもすごく嬉しかったです。あのときは感染予防対策で、客席を半分にして上演したんですけど、制作の方が「何とか成功させるんだ!」と頑張っている姿を見て、絶対僕も食らいついて行こうと思いましたし、あのお仕事に参加できたことを誇りに思っています。PARCO劇場は僕にとって頑張ろうと思える場所ですね。あと、前の劇場のロビーにあった喫茶「ブレイクタイム」の店員さんが『ボーイズ・タイム』のときに僕のことを覚えてくださって、それ以降劇場に行くと「元気?」なんていつも声をかけてくださったのが嬉しかったです。実はPARCO劇場に行くたびに思い出しているのは、「ブレイクタイム」で食べてもちょうどお腹いっぱいにならないサイズの小さなホットドッグのことです。

ーー最後にお客様に向けてのメッセージをお願いいたします。

コロナ禍でまだまだ油断できませんが、それでも僕も舞台を見に行くと、行く前と行った後では気分が違ったりしますので、皆様に劇場に来ていただけることを本当に焦がれていますし、自分自身が劇場に行くことも楽しみにしています。来年の3月、少しでも状況がよくなっていればいいなと願っていますし、スタッフ・出演者一同、万全の状態で準備してお待ちしておりますので、少し気の早い話にはなりますが、ぜひ劇場にお越しいただけたらと思います。

藤井隆

取材・文=久田絢子    撮影=鈴木久美子

公演情報

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
ミュージカル『おとこたち』
【脚本・演出】岩井秀人
【音楽】前野健太
【出演】
ユースケ・サンタマリア 藤井隆 吉原光夫
/大原櫻子 川上友里/橋本さとし
 
演奏:pf.佐山こうた b.種石幸也

<東京公演>
【日程】2023年3月12日(日)~4月2日(日)
【会場】PARCO劇場
【料金】11,000円(全席指定・税込)
【一般発売日】2022年11月19日(土)
【お問合せ】パルコステージ03-3477-5858(時間短縮営業中)
【企画・制作】パルコ/WARE/ニベル
【製作】パルコ
 
<大阪公演>
【日程】2023年4月8日(土)~ 2023年4月9日(日)
【会場】森ノ宮ピロティホール
【料金】11,500円(全席指定・税込)
【一般発売日】2023年2月26日(日)10:00~
【主催】サンライズプロモーション大阪
【お問合せ】キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日11:00~18:00)※日・祝は休み
【企画・制作】パルコ/WARE/ニベル】
【製作】パルコ
 
<福岡公演>
【日程】2023年4月15日(土)~ 2023年4月16日(日)
【会場】キャナルシティ劇場
【料金】S席:11,000円 A席:8,000円 B席:5,000円(全席指定・税込)
【一般発売日】未定
【主催】サンライズプロモーション東京/キャナルシティ劇場
【運営】シアターマネジメント福岡
【企画・製作】パルコ
【お問合せ】サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~18:00)※現在平日12:00~15:00までに短縮営業中
 
【公式ホームページ】https://stage.parco.jp/program/otokotachi
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