山田うん×ヲノサトルが対談~テリー・ライリーの代表曲にダンスで挑む Co.山田うん『In C』をめぐって
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■なぜ、いま、テリー・ライリーの『In C.』なのか
――このたびテリー・ライリー氏作曲『In C.』を題材にした作品を企画された経緯は?
山田:『In C.』は群舞で創ろうと長い間考えていた音楽の一つです、『春の祭典』(イーゴリ・ストラヴィンスキー作曲)と『In C.』はやろうと。どちらも40分くらいの大きな流れを持つ曲ですがドラマ展開が真逆なんです。にも関わらず、どちらとも生命の大きな流れみたいなものがあってダイナミックで、同じようなものを表現していると思うんです。20世紀の音楽に影響をあたえた凄く大切な節目の音楽なので取り上げないわけにはいかない。
ヲノ:機が熟したと?
山田:カンパニーが20周年の節目を迎えました。そこで、原点に戻るようなつもりで新しい命を創りたいというような願いを込めて『In C.』を題材にしました。
『In C』フライヤー
――ヲノさんは依頼を受けてどう思われましたか?
ヲノ:大ネタをかましてきたなって(笑)。『In C.』のことは知っていました。1980年代、学生の頃に聴いて惚れました。ミニマルミュージックにはまっていた時代の思い出がよみがえってきました。でも、これは二人の個人的な感情だけじゃなくて、いま『In C.』をやることに意味がある気がしているんですよ。
――といいますと?
ヲノ:『In C.』は紙一枚に3音とか4音だけの短いフレーズが書かれていて、それを演奏者が次々に演奏していくんですよね。作曲されたのが1964年。レコードとして発売されたのが68年。ミニマルミュージックって、この時期に盛り上がり始めたんです。アメリカの公民権運動の時代で、ベトナム戦争もあって人々がそれまでの価値観や権力に反抗し始めた。ヨーロッパでも五月革命が起こり、日本でも学生運動があった時期。それまでの大きな物語が信じられなくなってきた時代に生まれた。「かっちりした曲を一人の作曲家が創って、きれいに演奏して、黙って聴く」みたいなのが崩れていった時代。そんななかで、それぞれの演奏者が自由意思で参加し、それぞれの気持ちで動かしていく音楽が生まれました。
テリーさんはジャズとかロックのような楽譜を使わない音楽はもちろん、インド音楽、アフリカ音楽のように口で伝えていくシンプルだけど複雑な音楽の影響も受けているんですね。80年代、日本ではポスト構造主義的なものが浅田彰さんの本なんかで広がった時代です。でも、その後何でもありの時代になった。ところが2020年代になって、また世界は大きな物語に飲み込まれようとしている。戦争のこともあるし、政治のこともあるし、大きな国が小さな国を蹂躙することもあれば、人々がネットの中で何が何だか分からなくなっていることもある。そういう状況で、一人ひとりが個でありながら皆で明るい未来を創っていく希望をこの曲に感じるんです。
今回考えたのは、楽譜を精読し徹底的に従うということ。一切いじっていないんですよ。いじっていないんですが、中から読み取れる新しいことを表現したい。本来は生演奏で、その時に創られる音楽というのが前提なんだけれど、あえて録音でやる。そのメリットを最大に生かしたいと思ったんですね。それはたとえば音色。生演奏の場合、10人がいて、10人が演奏していても、10種類の音色しか最初から最後まで変わらないわけですよ。そのとき、最初にテリーさんが考えていたと思われる民族音楽とか、ポップスとか、いろいろな要素が入って来る自在さを生かせる。音で世界中を旅することができるんではないかと。
――ヲノさんが全部打ち込んで創る?
ヲノ:いってみれば自分が何十人もの演奏者になって、合奏する状態をバーチャルに作る。で、そのとき、インドの音色が聴こえてきたり、あるときはアフリカの音色が聴こえてきたりといったように世界を旅する夢をお客さんにみてもらおうと思っているんですよ。ただ、これは90年代のワールドミュージック的な考えとはちょっと違うんですね。文化盗用とかではなくて、ステージという窓を通して、ダンサーの身体を通して、そういうものを想像させるような、その手がかりとして音色を使う。個とか群という言葉を想像させるように、いま、世界中にいろいろな人たちが生きていることを想像させるためなんです。
山田:想像以上の『In C』ができつつあります。私自身も『In C.』について、世界について、テリーさんの創ってきた音楽や人生について、全部を知っているわけではないです。でも、ヲノさんと私は同じ時代に生きていて、音楽の歴史や流れみたいなものは影響を受けている。そのなかでヲノさんがいまの時代を、過去の時代をどう見るんだろうと興味があったんですね。私が期待していた以上に同じ方向を向いていたことがうれしいです。
ヲノ:恐らく時代の空気、匂いは共有しているんだろうなと。付け加えておくと、タイトルの通り『In C.』はドレミファソラシドのシから始まるその音列が多少の変化はあるにせよ、基本同じのがずっと続くんですね。退屈じゃないかと思うかもしれないけれど、深いんですよ(笑)。世界中の音楽の種みたいなものが詰まっている。それをただ素直にポンポンポンと鳴らしていっても音楽が生まれないので、生み出すマジックが必要なんです。そのマジックは演奏者によって生まれます。今回は僕が工夫して土台を作って、それをダンサーが踊る音楽にしていく。今まで見たことのないものが生まれそうで楽しみです。
山田:ジャンルとかカテゴリとかあるじゃないですか? でも、どこに入れたらいいんだろうという感じの音楽ですね。
ヲノ:元のテリーさんの作品がノンジャンルなものだから。現代音楽とかミニマルミュージックといわれますが、ご本人は多分そういうのを意識してないですよね。そういうのを超えていますから。ヒント的にいうと、使った要素は西洋古典音楽、それから世界中の民族が持つ固有の歴史、僕が一番得意とする電子の音。これらが混然一体となって、最後はハッピーになって、思わずブラボーと叫びたくなるようなものを目指しました。
>(次は)門外不出!? クリエーション秘話が明かされる!