山田うん×ヲノサトルが対談~テリー・ライリーの代表曲にダンスで挑む Co.山田うん『In C』をめぐって
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■設立20年を迎えたCo.山田うん、新たな挑戦
――音楽が上がって来る前のリハーサルでは何をしていたんですか?
山田:たくさんの振付をしてきました。短いものから大きなシーケンスになっているものまでいくつかのパーツを創りました。2人のものもあれば、1人ずつ、3人ずつ、4人ずつというふうにグループになっているものも創りました。
――手がかりは?
山田:ジェームス・ブラウンの曲とかがかかっています。曲がないと堅苦しくなるので、リラックスできるように。テンポ感は一緒なんですよ。
ヲノ:カンフーの特訓とかで、クルマを磨かせておいて、後で試合になったときに「この動きだったのか!」という。そういう秘密の特訓ですね。
山田:秘密の特訓です!
ヲノ:ダンサーはびっくりしますね。
山田:今回は目の前のお客さんに対して踊るというのではなく、皆で踊るというか、キャンプファイヤーみたいに皆でワイワイ踊る。芸術作品であることと、目の前のお客さんに対して踊るということはどうやったら両立できるのかを主題にしています。
ヲノ:それは『いきのね』でも凄く感じたんですよね。神楽を題材にした作品ですが、お祭りって人に見せるものではないじゃないですか。神様に見せているというか、何かここにいる人たちとは違う次元にいる人たちに捧げる。音楽もそうなんですよね。ここにいる人に聴かせているのではないという。ライブをやっていても、自分の演奏とか観客の空気とかが相まって、何かもう一つ上のものに捧げているような部分ってあると思うんですよ。今回は『In C.』という曲の力もあって、『いきのね』のときのみたいな観客の皆さんも含めて祭りを創るような大きなことができるような気がしています。
山田:芸術としても文化としても踊りというのはあります。その違いを自覚して踊ることによって、私たちの生活とか文化ということに対してもう一回喜びを見い出そうよという意味も込めていますね。
『いきのね』 撮影:羽鳥直志
――具体的にどのようにしているのでしょうか?
山田:ダンサーが12人いて、ほかにL字の遺跡みたいなのが12個あるんですよ。私がデザインしたんですけれども、それ以外の衣裳の断片みたいなものも含めて全部で53個あります。『In C.』の楽譜も53種類です。53個の存在は壁であったり、人間のパーツであるようにも見えたり、家であったり、昔あった都市の残骸であったり、またはもしかしたら今の戦地のようにも見えるのかもしれない。未来の都市のようにも見えるし、お風呂とかお鍋にも見えるかもしれない。そうした日々の営みを彷彿とさせる存在として瓦礫をつかうんですけれども、それと体との合わせ技で、ヲノさんの音楽による世界旅行と合わさる予定です。
――今回オーディションもして新しいメンバーが入りました。彼らも含めて、ダンサーたちとどのような空間を立ち上げられそうですか?
山田:新鮮ですね。新しい女性ダンサーが2人入ってきたのですが、タイプが違っています。今までにいないタイプなので、本当に楽しみにしていてください。
――衣裳も作品によってお願いする方が違いますね。今回は飯嶋久美子さんです。
山田:シームレスに変化するという『In C.』的な発想から、モチーフは「おでん」なんです。飯嶋さんのほうから「おでん」というのが持ち上がってきまして。
ヲノ:その心は? 初めて聞きましたよ!
山田:「おでん」も少しずつ、じわじわと味が沁みてくる。
ヲノ:そういうこと?(笑)。
山田:ダシが大事じゃないですか? そこからモチーフが立ち上がってきているんですけれども、それがどのように表れるのか。
ヲノ:『In C』ミーツ「おでん」(笑)。観るしかないですね!
山田:私の中での『In C』のコンセプトは、ポンペイ遺跡みたいなものです。埋もれてしまった過去なんですけれど、未来都市みたいなモノが埋まっていて、そこには小さな営みがたくさんある。素朴な暮らしがたくさんあるんですね。私たちの小さな小さな日々の生活というものを何か創りたいなと。今はネットもあって、人々の生活を覗けてしまう世界ですよね。それはポジティブにもネガティブにも働きますが、そういう世界の中で私たちの営みってどういうことだろうねということも含めてのメッセージではあるんですけれど。
ヲノ:僕が音楽で創っているものと驚くほど符合していますね。同じことを別の角度から考えているなと。テリーさんの細かい断片が重なって世界を創るという音楽からインスパイアされているのでしょうが、今の時代に復活させる意味があるとますます思いました。
Co.山田うん
――最後に公演に向けての意気込みをお願いします。
山田:『In C.』ができた頃と違って、ネット社会とかグローバルな時代の一歩一歩というのは、私が一歩だと思ったら、千歩だったみたいなことが起こったりする。至極小さなことなのに大きくなってしまったり、その逆もあったり。縮小と拡大というのが、今までの基準ではコントロールできない。そういう時代の一歩なんですよね。というところのミニマルミュージック、ミニマルな形というのはどういうものなのかを提示したいと思います。凄く昔のことと、凄く先のこと、過去のことと未来のことが、その意味すら変わるような、そういうミニマルの世界、新しいミニマルを見てもらえたらなと思っています。
ヲノ:コロナの世の中でオンライン全盛です。でも、同じ場所にいて何かを共有しながら何かを起こしていくという舞台の力を信じているので、それを早く自分も体験したいです。観客の皆さんも含めて皆で創るものですので楽しみにしています。
取材・文=高橋森彦
公演情報
※前売券は完売