海宝直人に訊く、ペリー来航からの日本を描いたミュージカル『太平洋序曲』歌唱曲への印象「聴けば聴くほどスルメのように中毒になる」

2022.11.21
インタビュー
舞台

海宝直人 撮影=岩村美佳

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梅田芸術劇場とイギリスのメニエール・チョコレート・ファクトリー劇場による共同制作第1弾として、2023年春に東京の日生劇場、大阪の梅田芸術劇場にて上演が決定したスティーヴン・ソンドハイムの名作ミュージカル『太平洋序曲』。鎖国を解き、西洋化へ向かう波瀾の江戸時代末期の日本を描く同作。『TOP HAT』での鮮やかな手腕が記憶に新しい演出家、マシュー・ホワイトをイギリスより迎え新演出で届ける。今回SPICEでは香山弥左衛門役の海宝直人に、役に対する考えやWキャストの廣瀬友祐について訊いた。さらに2ページ目には『太平洋序曲』での歌唱曲や、海宝直人オリジナルアルバムから本人オススメの楽曲を、Spotifyのリンクと共にコメント付きで紹介する。

――まず、ミュージカル『太平洋序曲』にご出演するにあたって、今のお気持ちを教えてください。

スティーヴン・ソンドハイムさんの作品に初めて出演させていただいたのは、ミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(2013年)という作品でした。出演者がほぼ全員20代というようなカンパニーだったので思い出深いです。ソンドハイムさんの楽曲は、歌いこなしたり、表現したりするのがとても難しいんですよ。当時は緻密な音楽を、どうやってハーモニーとして成立させながら芝居としてやっていくかに苦戦しました。大変だった思い出もありますが、その経験が自分にとって大きな財産になっています。その時からずっと、ソンドハイムさんの作品にまた関わりたいと思っていました。特に『太平洋序曲』は日本人にとって特別な作品ですので、携わることができてとても光栄です。

ーー今回は梅田芸術劇場が共同制作という形で参加します。

『太平洋序曲』は1976年の初演でも、いい意味で賛否が分かれた作品です。現段階(2022年10月初旬)ではどういう形に仕上がるのか想像もつきませんが、演出によって作品の持つ空気感やメッセージ性が大きく変わるのだろうなと、すごくワクワクしています。『太平洋序曲』を日英共同で作ることにも意義があると思いますし、参加できるのは役者として幸せなことです。

――ブロードウェイ初演版で、印象深い場面などありましたか?

初演のセリフは全部英語でしたが、英語でありながら口調は歌舞伎調だったところがおもしろかったですね。「Someone in a Tree」(日米交渉を人々の視点から描いた場面)とか、ソンドハイムさんの緊張と緩和の感覚がとても素敵だな思いました。密談のはずが実は名もなき人々が見ていたということもすごく大きな意味を感じて、好きなシーンでした。

――今回、演じられる香山弥左衛門は、ペリー来航時に浦賀奉行としてペリーとの交渉に臨み、次第に西洋文化に傾倒していく下級武士です。鎖国破りの罪で捕らえられたジョン万次郎(ウエンツ瑛士・立石俊樹)という役の印象や、現時点でどんなふうに演じていきたいとお考えですか?

初演の時は将軍や、その他の役もキャラクターが相当立っていて、デフォルメされた部分が大きい印象を受けました。その中で香山はとてもニュートラルというか、普通の人として描かれている印象があって。マシューさんもおっしゃっていましたが、香山は観客が感情移入できる、自分と重ねて見られるような、リアリティのあるキャラクターです。彼の苦悩や悲しみ、思いに共感してもらえるような人物になるだろうなと思っています。

海宝直人

――マシューさんは「美しく複雑な役」と表現されていましたが、複雑さはどういうところに感じれらますか?

香山は、いきなり幕府に呼ばれて、知恵を絞り出して(交渉を)乗り切っていきます。その中に彼なりの葛藤や愛する人との別れ、友との決別がある。また、香山は西洋文化に傾倒していくキャラクターです。日本人代表というと変かもしれないけども、香山というキャラクターを通して、日本人の良くも悪くも変化を受け入れる能力が高いという本質も感じました。日本は「変化」というものに対して、特殊な歴史をたどってきていると思うんですよね。開国して明治時代に西洋化し、第二次世界大戦を経て、今度は一気にアメリカ文化を取り入れ、焼け野原から高度経済成長で世界のトップに肩を並べるような国になる。変化を受け入れる能力は、良くも悪くも高くて。海外の人たちから見ると、日本人はすごく独特なんだろうなと思います。

――2018年にロンドン・ピーコックシアターでのTHE HIT OPERA SHOW『TRIOPERAS』に出演されたとき、マシューさんが観に来られたそうですね。そのときにお話されたことなど、覚えていらっしゃることがあれば教えてください。

「英語の表現がとても良かった」と言ってくださって、とてもうれしかったですね。当時は英語がプレッシャーでしたから。

――それから4年以上が経ちますが、この間に「僕はこう変わったよ」とマシューさんにアピールするなら、どのようなことをお伝えしたいですか?

何でしょうね……(笑)? キャラクターや役柄、作品も含めて、当時よりもいろいろな経験をさせていただいたので、表現の幅の広がりをお見せできたらなと思います。

――Wキャストの廣瀬友祐さんについて教えてください。

廣瀬くんとは『メリリー・ウィー・ロール・アロング』で一緒で、その時からご飯に行ったり、仲良くしていていました。それ以来、舞台作品での共演はなかったのですが、お互いに出演舞台を観に行くとかはしています。廣瀬くんとのWキャストはとても楽しみですね。廣瀬くんにしかない空気感がとても好きなんですよね、僕。最近はミュージカル『INTO THE WOODS』(2022年)を拝見しましたが、シリアスとコメディが廣瀬くんにしかないバランス感覚で保たれていました。今回、同じ役をやらせてもらうので、廣瀬くんが香山というキャラクターをどういうふうに作っていくのかを間近で見られるのは、すごく刺激になるし、勉強になるし、楽しいだろうなと思ってワクワクしています。

――今回の作品に限らず、海宝さんが舞台に立つ上で大切にされていることはありますか?

舞台の上に立っていて、共に演じていて、相手役とか、いろんなキャラクターといかにきちんと交流するか。その上で「聞く」ことが必要だなと思っていて。つい聞いている気になっているけど、物理的にただ音を聞いているだけになりがちなんですよね。これは俳優としての課題でもあります。ちゃんと聴いて、真剣に相手の思いに反応することは意外と難しいので、大事にしたいなと思っています。

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