アイドルも元FPSプロプレイヤーも「全員ガチンコ勝負」 名勝負続出の『The Gaming Days』プレイオフレポート

レポート
アニメ/ゲーム
2022.10.21
左から岩本蓮加、吉田綾乃クリスティー、丹生明里

左から岩本蓮加、吉田綾乃クリスティー、丹生明里

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8月31日~9月18日、イスタンブールにて繰り広げられたVALORANT最大のイベントの一つ、『VALORANT Champions Tour 2022』。ほぼ毎夜、時に仕事をしつつ、時にはゲーム友達とゲームをしながらブラジルのLOUDが優勝をもぎ取るまでをやいのやいの言いながら観戦していた。

大きなイベントがひと段落付き、次はどのイベントを観戦しようかな…と思っていた矢先に「VALORANTのオフライン大会があるから、ゲストライターとして突撃レポートしない?」というオファーを頂いた。国内でそんな楽しそうなイベントがあったなんて……!

という訳で二つ返事でお受けした自称「いにしえからのシューターゲーム大好きマン」である私、声優の望月英が、10/2に行われた『The Gaming Days』プレイオフの激戦の熱をお届けします。


『The Gaming Days』。「ゲームが上達したいタレントやクリエイターがチームを組み、『VALORANT』シーン最前線で活躍しているプレイヤーからコーチングを受けて練習し、シリーズ戦を行う」といったコンセプトの大会。

SONYの技術を集結させたゲーミングギア「INZONE」、「はじめての1台からストイックな競技シーンまで」プレイヤーが求めるスタイルや環境に応えるゲーミングPC「GALLERIA」、ゲーミングチェアの始祖的ポジションである「DXRacer」が協賛として入り、公式LINEアカウントに登録すれば、そのゲームやジャンルに疎いユーザー向けに丁寧に解説されたコンテンツを豊富に用意されている。更にはVALORANTキャスターの大ベテランである岸大河とYukishiroが試合を実況解説し、ヘビーゲーマーから普段ゲームをしない視聴者も楽しめる……と、とても手厚いサポートが嬉しいイベントとなっていた。

参加チームは4チーム。各々チームごとにテーマのついたコーチングがなされ、圧倒的な破壊力を目指し、AIM重視なフィジカル派の「NOLFT」。スピードとテクニックを鍛え上げる事を重視した「A-ZEN」。綿密に練られた戦略によって相手を追い詰める頭脳派チーム「qed」。チームの結束力を高め、連携に重きを置いた「Collective Vibes」。各チームはFPSに精通している「サポート枠」の選手とVALORANTプレイ歴の浅い「新人枠」の選手、計5人で構成される。

この日の第1試合は前日までに行ったシリーズ戦3戦の結果、3位決定戦となる「NOLFT」対「qed」。第1マップは本作中でもスパイク(爆弾)設置解除が作戦目標である、タクティカルFPS「らしい」ベーシックなステージ、アセントから開始された。VALORANTは13本先取、最大で1ゲーム勝利するのに25ラウンドの戦いとなる。それの2ゲーム先取がチーム勝利条件、長くなれば一試合1時間を超える戦いになる本大会では、チームワーク、プレイングスキルと共に精神力や体力も必要となってくる、まさに「eスポーツ」だ。

緊張の第一戦、試合前のマイクパフォーマンスで「Aサイトに行くから蛇足来い!待ってるぞ!」と煽った「NOLFT」メンバー、こく兄が「qed」yunocyに1stブラッドを奪われた瞬間に展開が加速する。

序盤はアーケードゲームを原点にカードゲーム等が得意な「フィジカルチームNOLFTの頭脳派」ちょもすが他メンバーへの迅速なカバー、効率のいいスキル回し等の盤面コントロール力が光る。対する「qed」蛇足も常にクレバーな立ち回りと安定したエイム力でラウンド数を返していく。

一進一退の攻防からNOLFTに少しずつ流れが傾いていく中、前日に行われたシリーズ戦#3でもACE(敵チームを一人で全員キル)を決めた「qed」Doriが二日連続でACEを叩き込んでからチームメイト、やふへゐ先生によるチームプレイのトスに応え、キルの山を積み上げる素晴らしい集中力で流れを押し戻す。

しかしその流れを断ち切ったのが「NOLFT」藍井エイル。フィジカル派チームに相応しい「緩急」の急の起爆剤となる、思い切りのいい設置ポイントへのエントリーからのディフェンダーキルで爆弾設置の起点になっていく。

そして会場最後尾である関係者・メディア席まで聞こえる大声でムードメーカーを務めるこく兄、頭脳派ちょもす両プレイヤーの熟練ゲーマーらしい「攻め時の嗅覚」による絶妙なタイミングでのアルティメット発動で第1マップ勝利を収めた。

続いて第2マップは3つのスパイク設置ポイントがあり、本ゲームの中でもトップレベルの混戦となりやすい「ヘイヴン」。

この試合でもyunocyが1stブラッドから優れたスパイク設置後の位置取りで4キルを見せ、更に前線を奥まで迅速に敷いて相手の進行を遅らせるぎこちゃん、そして相変わらずのどんな戦況でも冷静さを失わない蛇足の他味方プレイヤーの射線をカバーするプレイングが序盤のqedの勝利に貢献していく。

しかし、前マップでは他プレイヤーの穴を埋める様なスタイルであった「NOLFT」YamatoNが大暴れ。プロゲーマーとしての第一線を離れ、eスポーツチーム「REJECT」運営部部長として活動する今でも腕は衰えていない所を見せつける。

その後も1on1の形をしっかりと作り完璧な立ち回りをみせるDori、索敵やフラッシュスキルを駆使しサポート、自らもしっかりとキルを取っていける「NOLFT」CHiCO、しっかりとヘッドラインをキープしながらクロスファイア(十字砲火)を浴びせるぎこちゃん、やふへゐ先生のコンビネーションが会場の熱を上げていく。

こく兄がアルティメット「オービタルストライク」による完璧なエリアコントロールにより試合はNOLFT12‐9qed、こく兄の「リーチィィィ!!!」の雄たけびによって?そのまま押し切られるかと思いきや、こんな激熱展開にも関わらず「どこまでもクレバー」蛇足の好プレイによって試合は12-11へ。

「どっちもあるぞこれ」という緊張感の中…スパイク設置有効時間残り25秒、設置ポイントへのラッシュ、CHiCOの1stブラッドを皮切りに、余りにも堂々とした迷いのない深いラインへ差し込んでいく藍井エイルによりポイント確保→スパイク設置、敵検知から流れるようにキル処理をするYamatoN。気が付けばあっという間にNOLFTがチームコンセプトに相応しい「フィジカル」によりラウンド奪取。13ポイントによりマップ勝利、3位決定戦はNOLFTに軍配が上がった。

「NOLFT」はこの試合が初めてのマップ取得(ゲーム勝利)となったらしいが、それが信じられない程の全プレイヤーが素晴らしい働きをしたグッドゲームだった。手前に行われていたチーム練習の配信でも敗戦後に「何が良くなかったのか」、「これを修正していきたい」、と初心者・上級者関係なく意見を投げあう、その様はまるでプロゲーミングチームが、大会優勝を目指して切磋琢磨する光景そのものだった。

対戦後、コーチであるFiskerもコメントしていたが、しっかりとコミュニケーションを取る等の練度の向上による勝利だったのではないだろうか。

惜しくも敗戦となってしまった「qed」だが、対戦中もラウンド勝利の際は共に全力で喜びの表情を見せていたコーチ、MOTHER3も含め、各メンバーにくやしさはあるものの後悔の残る表情は無く、「また同じメンバーでリベンジしたい」と各々が口にしていた辺りからもイベントコンセプトにもある「ゲームが上達したい」という点に本人たちも強い手応えを感じている様子が見て取れた。

続いての試合は決勝戦となるシリーズ戦1位「Collective Vibes」(以下「CV」と表記)vs2位「A-ZEN」(以下、「AZ」)の対戦となる。

対戦前、最初に表示された今までのシリーズ戦のポイントを見て目を疑った。2位の「AZ」がWINラウンド30、LOSEラウンド26で差し引き4ポイント獲得に対し、1位の「CV」はWINラウンド39、LOSEラウンドがまさかの11で28ポイント。

「13ラウンド先取で1試合勝利」というルールでシリーズ戦3試合を行い、全試合を通して11ラウンドしか取られていない。今までの試合を全て大差で勝ち越しているこの驚異的な数字にキャスター両名も驚きの声を上げていた。

「CV」は新人枠の3人に、アイドルグループ「乃木坂46」から岩本蓮加と吉田綾乃クリスティー、同じく「坂道グループ」の「日向坂46」から丹生明里が参戦している。正直、僕はこのお三方に心から謝罪したいと思っている。参加メンバーを見た時

「連携重視がコンセプトの坂道グループお三方のチームか…!人気がある方を呼んで、今まで「VALORANT」を通ってこなかったファン層の方に興味を持ってもらう“インフルエンサー枠”的なやつかな!」

と思いながらシリーズ戦のアーカイブを覗いてみた。とんでもなかった。完全に僕の勉強不足であった。

僕たちゲーマーはプレイ画面を見れば、プレイヤーが誰であろうと「本気でやっているか」「楽しんでやっているか」がなんとなく見える。つまり「こっち側の人」であるかが分かるのだ。

お三方のプレイ画面全て、悩む余地の欠片も無く、VALORANTを本気で楽しんでいる「ムチャクチャ上手いプレイヤー」そのものだった。

「CV」コーチであるadeも「(ツアー中の為)調整の時間が少し短くて厳しい戦いになるかな?と思ったけどメチャクチャ強いんだよ」とシリーズ戦#1ミラー配信でも興奮気味に話す、プロのお墨付きが付く程のプレイングだった。

決勝戦第1試合はヘイヴン。開幕1ラウンドでは「CV」のサポート枠であるストリーマー「AlphaAzur」が会場をどよめかせるクラッチ(自チーム残り1人の状態から、複数人生存している敵チームを全キルし逆転勝利する事)から、丹生が「初期武器であるクラシックで装備の揃った敵プレイヤーをダブルキル」「次ラウンド全員ヘッドショットによるトリプルキル」というキャスター陣も思わず絶叫からの「ワァオ…」と思わず苦笑してしまうようなスーパープレイを立て続けに見せ流れる様な4本先取。

現地観戦のVALORANTファンも「俺より全然上手ェよ…」「推せるわ…」と各所でどよめきが止まらない程の「魅せつけるプレイ」が飛び出した。


プロゲーミングチーム「父ノ背中」メンバーである「AZ」けんきがチームメイトのメルトンと共に見事な対処で2本取り返すも、流れを変えきれずCV10-2AZで攻守交替。

交代直後は「AZ」のムードメーカー、VTuberカガセ・ウノが根性を見せた逆転勝ちから12-7まで持ち直す。しかしメルトン操るレイズの大量キルを狙えるアルティメット「ショーストッパー」をアビリティ「バリアオーブ」による氷の壁一つで完全封殺をする岩本の天才的な対応、人数削りからの数的有利でパーフェクトな射線カバーにより「CV」が貫禄の1本先取を決めた。

「このままシリーズ戦の流れと同じくCVの圧勝か…?」という会場の空気。第2試合のアセントでその空気に変化が訪れた。「AZ」サイドでは軍師であるコーチ、「IGZIST」所属の名VALORANTプレイヤーoitaNの指揮か、攻撃力の高いレイズにピックチェンジしたカガセ、自由に動き始めたメルトンが躍動。それをカバーし、エリアコントロールをするけんきとゲームに造詣が深い二人のVTuber雛星あいる、白粉いとの懸命なカバーにより一進一退のラウンドの奪い合いが始まる。

対する「CV」サイドもエンジンが温まり始めた「のりりん」こと「ZETADIVISION」鈴木ノリアキが、敵が来るであろう位置に標準を置く通称「プリエイム」での堅牢な防御力でキルを重ね、更に吉田が第1試合から機動力の高いエージェント「ジェット」を駆使し接近戦に特化したショットガン「ジャッジ」による大暴れで対抗。

10-10に追いつく展開で「AZ」のタイムアウトからパーフェクトを捥ぎ取り「チームとしての歯車の噛み合いが間に合った」感を見せ10-12リーチとなった矢先、落ち着いたプレイングによる「CV」全員の粘りによってスコアは12-12に。固定クレジットによる2本先取の延長戦「オーバータイム」に突入する。

観戦側すらも胃の痛くなる緊張感の中、ここに来て「AZ」新人枠であるVTuber3人のコンビネーションがその空気を切り裂いた。覚醒したかのようなカガセのトリプルキルでパーフェクト勝利、12-14で「AZ」が1本取返し、勝負は次マップへ持ち越しとなった。

運命の第3マップ「バインド」。開幕は「CVのゴールキーパー」鈴木と安定した動きを見せ続けるAlphaAzur、「AZ」白粉の地力を感じる上手さとメルトンの粘り強い心理戦による活躍によりラウンドの取り合いからスタート。そんな中、優勝決定戦にして「AZ」サポート陣、けんきとメルトンに動きの変化が見られた。不可避な状況以外での1対1の撃ち合いを極力避ける等、リスクを背負うアタックを明確に減らし始めたのだ。

「CV」サポート枠は勿論かもしれないが、岩本、吉田、丹生の新人枠3人に対しても「タイマンなら勝てるであろう相手」として行動しなくなったのである。

「元FPSプロプレイヤーの本気を引き出すプレイをする坂道アイドル」。

字面にするだけでゾクゾクと鳥肌が立つフレーズが頭をよぎる中、双方3人生存状態でスパイク解除をやってのけるという強心臓っぷりを見せつけるAlphaAzurに会場の熱量もマシマシに。

気が付けば坂道グループのTシャツを着ている「CV」サポーターも「AZ」のナイスプレイに惜しみない拍手を送り、物販の「AZ」Tシャツを着ている「AZ」サポーターも「CV」鈴木の活躍シーンで興奮気味に手に持ったバルーンを打ち鳴らしていた。こんな会場の一つになり方もeスポーツにはあるのだ。

CV8-4AZから雛星が光るプレイを見せて8-8、追いつかれてのタイムアウトをとったCV。気づけば決勝戦が開始されてから3時間が経過していた。ゲーマーとしての身体面、精神面のスタミナが問われる局面で、けんきがプロとしての対応を見せつけ8-11の逆転。

プロゲーマーとアマチュアゲーマーの差の一つとして、良く挙げられる「対応力」。対戦中に相手のクセや得手不得手を察知し、自分の土俵に持ち込む力はやはりプロが一枚上手だ。

「プロゲーマー、対応完了か…?」

そう思った矢先、丹生、吉田の「負けたくない!」という気迫のこもったアタック、「10年に一度」の吠える鈴木、執念の狙撃によってラウンドは11-11に雪崩れ込む。

しかし、その熱に呼応したのは味方だけでは無かった。現場には居なかったが、明らかに血の通ったプレイを感じさせる雛星のトリプルキルによって11-12。AZマッチポイント。1キル毎に歓声の挙がる場内。敵の退路を塞ぐ雛星のオービタルストライク。判断の一瞬の迷いを逃さないけんき、メルトンの連携キル。

11-13。

『The Gaming Days VALORANT Series』記念すべき第1回、「A-ZEN」が正に周りを「唖然」とさせる形で初代チャンピオンを勝ち取った。

優勝を決め立ち上がったものの、ふらつき座っていたチェアーの背もたれにフラフラともたれかかったけんきの姿は正に「全力を出し切ったプロ」そのものだった。前日までの一方的な展開をここまでひっくり返す状況へ辿り着いたのは、サポート枠である二人は勿論、必死に食らいついていったどころか最終的にサポート枠を助けるまでに成長した新人枠VTuber3人の熱量の賜物だろう。そのパワーに、そしてここまでの本気のプレーをぶつけ合えた「CV」の面々にも心からの称賛を送りたい。

惜しくも2位となった「CV」。試合後コメントで悔しがりつつ「悔いはないです。楽しめました!」と気丈な笑顔を見せた岩本に、コメントしようとして涙をこらえる吉田に、「またこのチームで戦いたい」と言い切った丹生に、それぞれ「食らった」方も多いのではないだろうか。

フィジカル、テクニック、ストラテジー、チームワークのテーマに分けられた4つのチーム。サポート枠、新人枠としてそれぞれ呼ばれた5人。4つのチームの5人全員が、最終日となるプレーオフには全てが洗練され、「全員が主役」となっていた。

久々にeスポーツ観戦漬けになれた1日。仕事としての観戦ではあったが、素晴らしい技術と気持ちの応酬を目の当たりにして「いにしえのFPS大好きおじさん」としても大満足な1日だった。

「The Gaming Days」これからの動向も見逃せない!

レポート・文=望月英

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