Web3.0でアニメ業界は変革するのか GONZO石川真一郎が語る『SAMURAI cryptos』プロジェクトで打ち出すアニメの未来

インタビュー
アニメ/ゲーム
2022.11.1

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アニメーション制作会社であるGONZOが打ち出した『SAMURAI cryptos』プロジェクト。Teller Novelとのコラボレーションにより、イラストを元にしたストーリー原案コンテストが2022年9月20日より開催された(現在は募集終了)。オリジナルアニメは数あれど、ストーリー原案を募集するというのは新しい取り組みになる。変革が進むアニメ制作の現場でGONZOは今何をしようとしているのか、Web3.0、NFTは本当にアニメの制作現場を変えるのか。常に革新的な作品や取り組みをしてきた同社が、どのような未来を見ているのかを代表取締役社長の石川真一郎氏に訊いてきた。

――本日はよろしくお願いいたします。改めて石川さんから今回の『SAMURAI cryptos』プロジェクトを起ち上げた理由をお聞かせいただければ。

まずGONZOが大事にしている考え方のお話になりますが、例えば漫画原作で、もう中身ができているものをそのままアニメ化するというのは、ある意味、どこでも作れると思うんです。そういうものよりは、やはりクリエイター達がファンの方々とも触発し合いながら新しいものを作っていくっていうのが、GONZOの作品作りだと思うんです。そして今回注目しているブロックチェーンの技術っていうのは、ユーザーたちがある意味アナーキーに物を作っていくのに、非常に相性がいいなという風に思っていたので、ずっと注目してたんですね。

――そこから『SAMURAI cryptos』の企画につながっていくと。

はい、日本のアニメ業界全体をNFTベースでさらに次の世代に持っていこう!みたいな勉強会をずっとやってる中で、いよいよNFTの技術と市場が熟しつつあるなというのがわかったので、GONZOっぽい新しいコンテンツを作ろうじゃないかって話になったんです。いろいろディスカッションしている中で、NFTはグローバルなものだし、GONZOもグローバルに発信するっていうのが理念のひとつなので、「日本人が世界にアニメでNFTで発信するなら『侍』だろ!」っていう。安直な考えが生まれて(笑)。

――確かに侍、忍者というのは海外に向けるとしたらキャッチーですよね。

『侍』で何か作っていくんだったら何がいいだろう? という考えの中で、私がプロデューサーとして思ったのは、アニメって結局キャラだよね、と。じゃあ『SAMURAI cryptos』向けのキャラクターを、GONZOにゆかりのあるデザイナーの方々から出していただいて。それをベースにものを考える、それがスタートポイントでしたね。

――まずキャラありき。

しかもひとつのビジュアルからアイディアを持ち寄って作っちゃうと、中央集権的なモノづくりになってしまうので、それぞれがぜんぜん関係なく、ディスカッションもせず、コンセプトだけから作られたいくつかの絵からアニメが作られていくっていうのをやってみようと思ったんです。で、そこにユーザーも巻き込んでやろうっていうことで生まれたのが『SAMURAI cryptos』っていうプロジェクトですね。

――本当に企画とイラストだけなんですね、スタートラインは。

でも、その中でやっぱりなにかしらの軸は必要だよね、ということで3つのキーワードだけは提示しています。これはもう僕が勝手に考えたんですけど、僕はずっとWeb3.0のことを勉強していて、その中で「サイファー」という言葉が浮かんだんです。20世紀は「サイバー」の時代だったと思うんです。『ブレードランナー』とか、『攻殻機動隊』も「サイバー」じゃないですか。じゃなくて、21世紀は「サイファー」だよね、と。

――「サイファー」ですか、暗号、とかそういう意味ですよね。

そうですね、「暗号化された」っていう意味なんですけど、アラビア語では基本的に「ゼロ」っていう意味もあるんです。「ゼロから生み出す」っていう意味と、「暗号化」って意味も込めて「サイファー」という言葉がひとつ。

――あと2つは?

「ディセントラル」分散、つまり中央集権で作りたくないっていうこと。最後が「ソリダリティ」ですね。Web3.0の世界では「ユニティ」って言葉がよく使われるんですよ。でも「ユニティ」って調和ってイメージじゃないですか。同じ意味の言葉でも、「ソリダリティ」っていうのは「ソリッド」から出てきている言葉なので、すごく「個」が立っている。個性を持ってみんなでひとつのものを作り上げていくっていう雰囲気が「ユニティ」よりも強い感じがしたんです。「ユニティ」は、みんなで予定調和で作っていくような雰囲気があるので、あえて「ソリダリティ」っていう言葉を選びました、同じ意味なんですけどね(笑)。その3つの言葉をベースに、デザイナーのみなさん作ってください、それ以外何にも言いません、という作り方です。

アニメ業界のグッズはNFT的なもの?

――僕らもアニメゲームに関わっているお仕事をしているので、アニメの作り方みたいなものはなんとなくわかっているつもりなんですが、シンプルに面白いと同時に、すごい大変な企画だろうなっていう印象があります。NFTというものと絡めていくのもそう思った部分の一つで、ゲームの世界もNFTが絡んだものが非常に増えていると思うんですが、アニメファンの間では、まだそこまでNFTって具体的に捉えられていない印象もあります。そこを絡ましていくっていうことに関してのお考えだったり、手応えみたいなものはいかがでしょうか?

そういう意味で言うと、実はアニメファンって、潜在的にNFT的な考え方で物の購買行動を行っているんですよ。

――潜在的に、ですか。

だってキャラクターの缶バッジってよく考えたら、あれに番号付いてたらNFTなんですよ。

――シリアルが付いていれば確かに「代替不可能なトークン」という意味ではそうですね。

でしょ。NFTってコイン1個1個にアイデンティティを付けるっていう考え方なわけですよ。アニメファンは元々、缶バッジ買ったりそういうのでNFT的な付加価値をつける行動をしている。中古販売店でセル画が高値で売買されているのもそうです(笑)。

――セル画は一品ものですから確かに(笑)。

一応違法じゃないけど、どこかにセル画を横流しした悪い奴がいるんですよね(笑)。だけど、これはオフィシャルなものではない。ちゃんと原作者に還元もされずに、販売者と販売店だけが儲けているような商売になっているものを、きちっとアニメ会社もクリエイターも儲かるようにも今後なっていくだろうなっていうのが、僕の基本的なNFTに対する考えです。

――そうですね、僕ら消費者も制作会社や原作者にちゃんと還元したいと思っています。

アニメとNFTっていうのは、キャラクタービジネスの根幹になりうる技術だって僕は思っているんです。文化的にはアニメファンの方にはすごく受け入れ易いんじゃないかなって。クリアファイルにアニメの版権イラストがあると、それをただのクリアファイルよりも高値でも買ってくれる人たちなわけだから、その価値観がわかってる方たちなんですよね。複製原画とかも1枚しか出てないと、何万円でも買ってくれる。それの原価がいくらなのか?じゃなくて、重要なのはそれが本物なのか、本物のデザイナーがサインして売ってくれたかどうかなんですよ。 

――確かにそれはそうだと思います。グッズのことを購入側は原価で考えないですね。

『SAMURAI cryptos』はそういう世界観のものに育てていきたい思いが強かったんです。で、実際やってみたら最初成功したんです。だけど買った連中が、明らかにアニメファンじゃなかったんですよ。

NFTを投資家からファンのものにするためには

――アニメファンじゃなかった?

どちらかと言うと、アートコレクションを買っている人たち。世界中のNFTバブルで、ちょっと前で言うとビットコインで儲けた連中っていうのが、NFTを投機的にやっているのがほとんどだっていうことに気付いたんです。Discordとかでチャットコミュニティ作ったんですけど、そこで使っている言葉とかも、いわゆるキャラクタービジネスとかが好きな人たちの言葉じゃない。「今後のロードマップはどうなっているんだ」とか……アニメで「ロードマップ」なんて言葉、使わないじゃないですか(笑)。

――そうですね(笑)。

「このアニメはいつ映画化されるんですか?」とか、「テレビシリーズになるんですか?」とか、そんな質問ならわかるんだけど。「このプロジェクトのロードマップはどうなっているんだ」と。「すぐにいろんなことをやらないと、価値が落ちるじゃないか。俺達が買ったもの」みたいな(笑)。そういうコメントしか出てこない。ああ、こりゃダメだなと思って。

――そういう人達相手じゃだめですか。

はい、それに付き合っていたらこの作品、多分3カ月くらいですごく価値上がるけど、アニメにはなんないなと思ったんです。なのでじっくり時間をかけて、ユーザーを育てていこうっていうことでいろんなことやってみたんですけど。いかんせん最初にグローバルに向けてNFTバブルの波に乗っちゃったもんだから、集まっている連中がそういう連中が中心になって、逆にアニメファンにはまったく浸透しなかったんですね。

――確かに僕らも面白さをキャッチするのに正直少し時間かかった気がしています。

まぁ、遠かったってことですよね。自分たちのものじゃないところでやっているものというか。英語中心だし、Discordとか使っているし、ちょっと違うコミュニティだよな、って感じられちゃったなって。アニメファンに企画を引き戻すには何がいいかなって考えているときに、「石川さんに近い題材ありますよ。テラーノベルっていうところが炎上していますよ、版権を違法に使って」みたいな話が出て(笑)。「これだ!」と思ったんです。

――炎上しているのに「これだ!」なんですね(笑)。

この人達、真面目にやっていたのに、たまたま若者のアニメファンとかが、自分達で二次創作している中で『NARUTO』とかの版権絵を勝手に使い始めて、それが大問題になって炎上しているっていう。これ、別に会社が悪いわけじゃないじゃないですか。アップしてる子が勝手にどっかから持ってきた絵を自分のアイコンにしてノベル書いているだけなんですけど。そりゃ明らかに違法なので(笑)。

――そうですよね……正直、SPICEもインタビューなどの撮り下ろし写真が、あっという間に誰かのツイッターアイコンになっていたりすることがあります。やめてもらいたい…せめて表に出さないでほしい…。

まあテラーノベルさんのも商業化されてないから、どこまでが違法かっていうのはありますけど。だから彼らも相当困っていたんです。「そんじゃあ、オフィシャルで一緒にやってみましょうよ『SAMURAI cryptos』、まさに絵からスタートして、ストーリーが現時点でない、そういうのどう思います?」ってお伺いしたら、「そういう切り口で入ってきたコンテンツだと、うちのユーザー喜ぶと思います」っていうことだったんで「それじゃあやりましょうか」って。多分2~3週間で決まって。

――そんなスピード感だったんですね。

そうそう。彼らが「公式」に違法じゃないっていうことを一生懸命やろうとしていた。だけど違法じゃないようにしようと思うと、『NARUTO』の二次創作描くときに、『NARUTO』の絵が使えないっていうことになっちゃうわけですよ。すると、イラストを使いたいなら自分の手で描いた絵じゃなきゃいけない。だけど、文字書く人で絵が描ける人なんてそんなにいない。そうするとどうすりゃいいんだみたいな話に絶対なるハズなんです。

――そうですよね。

ちょうどそこに、絵だけあって、中身がまだないものがある。ならいっそ二次創作からスタートしようと。二次創作のアイディアがたくさん出てくる中で、それを全部吸収して、僕がプロデュースするっていう建付けにしようとなったんです。元々そういう建付けでDiscordも作ったんですけど、そっちには文字はほとんど投稿されなかったですね。やっぱりお金のことしか考えない人たちしか集まってなかった(笑)。

――あはは!(笑)

これは丁度いい取り組みになるんじゃないかってことで、2週間くらいで設計して。彼らが1カ月くらいでサイトとかもぜんぶ作ってローンチしたのが今回っていう。ちょっと長くなりましたけど、そういう流れです。

――めちゃくちゃ面白いですね、その流れ自体が(笑)。

他のWeb3.0系の取材でも申し上げたんですけど、Crunchyroll(クランチロール)って、最初に日本では大問題になっていたんですね。その時に僕「でも……某大手アニメ会社さんとかテレビ局さんがネットに作品を出さないからこういうことになっているんだよ」と言っていたんです。ユーザーは当然、特に海外にいる人達は、日本で出た瞬間に見たいわけです。「それに応えてないほうも悪いんだよ」っていうのは、僕らはそれを真摯に受け止めるべきだと思ったんですよね。「それなら」って僕らはあっちの方まで飛んで、アポをすぐ取って「そっちが合法化するんならウチのコンテンツ全部なんとか調整して出してあげるからマージン払ってくれ」って話をしたんです。

――仕事が早い!

で、「そういってもお金はないでしょ?その分うちが出資するから、それで買わない?」って話をして出資したんです(笑)。それで成功して、そのあと1年後ぐらいにテレ東さんとか集英社さんとかも出資して、コンテンツをオフィシャルで入れるようになって大成功。最終的に1,200億以上で売却されるなんて思わなかったけど。

――ソニーが買い取ったあの売却はかなり話題になりましたからね。

そういう新しいものはとにかく全部飛びつくのが僕の性分なんです。特にユーザーから求められて生まれてきたものっていうのは、最初違法かもしれないけど、それが流行っているってことは、合法なことをやっている人たちがちゃんとユーザーのニーズに応えてないってことだと思うんです。だとすると、テラーノベルさんも同じことが起きているんだろうなと思って。でもうちがやるなら合法でやらないと、コンテンツを作っている立場なんで(笑)。そういうユーザーの思いをどう合法にするかが僕の仕事だと思っているんです。

資本主義の仕組みがWeb3.0、NFTによって崩壊する?

――そういうファンの思いや、受け皿になっているものを救いたいっていう思いがあるんでしょうか。

救いたいって言うか、もっと言うと僕は特許とか崩壊すると思うんですよ。いわゆる、中央集権的な権利システムって話をする時、特許が一番わかりやすいんです。

――是非お聞かせ頂けると……!

例えば薬品ってすごい値段高いじゃないですか。それは開発費がたくさんかかるから、特許で護られている。だけどね、本当に必要な人たちはなかなかそれは使えなくて、アフリカとかでどんどん死んでいるわけですよ。それって何かおかしくないですか。根本的に金持ちだけが儲かるような仕組みになっている。

――根本として資本主義社会ですから、そうなっちゃいますよね。

これって、作る人たちに還元されるのは当たり前だと思うんですよ。だけど結局大企業だけが集中的に儲かるっていう仕組みになってしまっているわけです。それをどう変えるかっていうのが、21世紀の今、考えられていることだと思うんです。

――なるほど。

GONZOは元々そっち側のサイドにいる人間だと僕らは思っているんですけど、だとすると版権とかが法律で守られる時代じゃなくて、証明書が付くことによって何が最初に出たかっていうのが価値になる。骨董品って、別に法律で護られてないじゃないですか。ピカソの描いた絵って、版権があるわけじゃない。

――そうですね、鑑定書があるということと、作品自体の評価が価値ですもんね。

今Web3.0で起きていることっていうのは、まさにCrunchyrollで起きてたことと一緒だと思うんです。大企業が自分で護って、一部の人達がぼろ儲けできる、集中して小さな人たちを潰していくっていう20世紀型の社会構造をどう壊していくかということ。大企業は自分のコンテンツを守りたいと思うはずなんですよ、だってそれで儲けているから。我々はコンテンツを創出するサイドなんだけど、ユーザーになるべく寄り添っていく。法律に護られないでも正当に創出したものが評価されるよう時代に絶対なっていくと信じているので。そこの時代を創っていく第一人者でいたいという気持ちが一番強いですね。

――アニメ制作だと『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』のような、制作会社が自分たちで出資することで、クオリティの担保やお金の動きなどを含めてコンテンツを変えていこう、と動き始めている部分もあると思っています。そういうのとは、違う方向性を狙いたかったっていうことなんでしょうか?

それは20世紀にやっていたことなんですよね。自分達で100%権利を持っているところも大量にあるし。その次のステップだと思っているんです。個人的にはそれは古いやり方だと思っていて、企業で資本を持っている人たちが権利をガメるってことにどうしてもなっちゃうんですよ。

――確かにそれはそうです、自社のコンテンツですからね。

極論、お金出してない人には分配しないってことを意味していますから。じゃあ途中で出来ているセル画を売る権利は誰にあるかって言うと、所有者は契約上でぜんぶアニメ会社になっているわけです。描いた人たちに、「描いてくれたからシェアしてあげるよ」っていう態度なわけですよ。僕はそれはよく考えたらおかしいと思う。そうは言っても自分たちもアニメ会社やっているので、守んなきゃいけない部分はありますんで。自分で矛盾したこと言ってるの、よくわかってるんですよ(笑)。

――難しいところですね……。

それをどういう風に変えていく仕組みを作っていけるのか、っていうのがひとつのポイントですね。会社としても儲かんなきゃいけないから、だったら、アニメーターの方が勝手にそういう版権を描いて売ることもできるけど、自動的に制作会社に入ってくるような構造にすりゃいいわけじゃないですか。NFTの構造はそれを作れるわけだから、ならそういう市場が健全に形成されていくっていうことを作っていくことが、本当の意味で21世紀型のアニメの作り方なんじゃないかって。

――まるっきり今までとは変わりますね、それが実現したら。

それが出来れば、出資は1円もする必要がなくなるはずなんですよ。今はもうベンチャーキャピタルにお金が集まらない時代になっちゃった。何でかって言うと、クラウドファンディングの方がお金が集まっちゃうんですよ。クールなプロジェクトだと、3億とか5億とか集まる。ベンチャーキャピタルなんて、会社にどんなにお金出してくれるって言っても、せいぜい無名な人だと1億とか5000万とかが限界なわけですよね。だけど、無名な人のアイディアが素晴らしかったら、3億円がクラウドファンディングで、しかも株渡さずに集まる時代じゃないですか。

――それはそうですね、クラウドファンディングもだいぶ浸透してきた気がします。

そういう時代に出資って古いわけですよ。本当にすごいコンテンツ持っていたら、それを欲しい人たちがクラウドファンディングでお金出してくれる。でもクラウドファンディングのサイトって保証しているって形を取っていても、実は保証出来ていないこともある。お金出したのに商品が届かないっていうトラブルになるっていうことがあるじゃないですか。「もう2年届いてねーぞ、どうなってんだよ」みたいなこと、世界中で起きてる(笑)。

――ありますね……僕もクラウドファンディングやったことがありますが、発送はそれはそれで大変な作業ではありますけど、いつ届くんだ問題はついて回りますね。

NFTはそれにならないんですよね。だって、その元になる権利と紐づいているわけだから。そのNFT自体がその人の所有物になる。そこらへんが、我々が今後作っていかなきゃいけない世界観なのかな、と。その中での新しいコンテンツの作り方が、今回のテラーノベルさんとの取り組みです。

――僕も前に、香港とか台湾にアニメイベントで行きましたが、やっぱり現地のファンは最新作をほぼタイムラグなしで見ている。当時まだ今みたいにNetflixとかAmazon primeが無い時期だったんですけど、イリーガルなもので見たくないけどそれしかないから、それで見ているとは言ってましたね。

うちの作品を全部TOKYOMXに流したのは、サイマルキャスト(1つの放送局が同じ時間帯に同じ番組を、異なるチャンネル、放送方式、放送媒体で放送すること)が許されるテレビ局がMXしか当時なかったからなんです。本当は吹き替え版もサイマルでやりたかったんですけど、それは流石に難しかった。まぁ、これからはできる時代になってくるんじゃないかと思いますけど……今回の『SAMURAI cryptos』もそうですけど、コンテンツの作り方自体も変わっていくはずで、頭からファンの人達と一緒に作っていく。作品がローンチするときにはそのファンの人達が、待ってました!って言ってくれるから、そのあと商品化とかされれば売れると思うんです。その最初からいるファンの人達がNFTを持っていれば、その価値が100倍~1000倍になる可能性もある。理由としてはそのコンテンツとして最初に出たものだからです。今だってアニメグッズの中でも値段が高いのは、後から出てきたものよりは……

――コミケやイベントで最初に出たものが価値が高い(笑)。

そういうことです。作品が面白くなりそう!それを信じて買ってくれたわけだから(笑)。だけどその最初に買った連中が、1週間とか2週間後とかに3倍の値段で売る気満々の、単なる投資家だったってことに気付いたのが、先ほどの『SAMURAI cryptos』の初期だったんです。

――確かにそれは違いますね、ターゲットが(笑)。

アニメ作るのは2~3年かかりますんで。そう最初から言っているのに、来る文句はそればっかりで。みんな売る気満々なわけですよ(笑)。投機目的でやっている連中じゃなくて、本当の意味でコンテンツを作っていく人たちがNFTみたいな技術を活用して、市場を形成していく第一弾に『SAMURAI cryptos』はなりたいですね。

――僕はWeb3.0に詳しい方じゃないんですけど、やっぱりNFTって聞いたときに遠いなって感じたのは、まさにそこのところでした。めちゃくちゃ詳しい投資家の人が勝手に回しているっていう印象があったので。

NFTやっている人って、元手持ってなきゃいけないんで。25~45歳くらいが多いんですよ。うちのアニメファンでいうと『LAST EXILE』あたりが好きな人達(笑)。

――ずばり僕ら世代ですね(笑)。

まぁ、そこそこお金あって、家庭ができて子供がいるくらいの年代。1個か2個くらいは買うぐらいのお小遣いはあるような。ちょっと1~2回呑みに行くのを止めたら、1万円は貯まるわけだから、1個くらいは試しに何か買ってみたりするんですよ。ただ今回はそこの年齢層じゃなくて、テラーノベルさんのメイン層であるもう少し若い子たち。90年代に『攻殻機動隊』に興奮したの頃の我々みたいな人達です。その人たちが今後NFTを最初に手に入れて、それをベースに作っていくみたいなシステムに参加してくれたら、きっと日本が世界の最先端になれるんじゃないかなって僕は思っているんです。日本のオタクはパワーあるはずなんで。うまくいけば日本のアニメが、世界の次世代コンテンツの中核になりうる可能性もあるんじゃないかなと。それを作るのが大きな夢ですね。

――実際テラーノベルの方で、結構な量の作品が上がっています、感覚はいかがですか。

テラーノベルさんと話していたんですけど、みんなこういうのを求めていたんだな、って思いました。0から1を生みだすって、凄く辛いじゃないですか。GONZOもオリジナル作品何回かやっていますが、0から1作るのは本当に大変。

――そうですよね。

なにかきっかけをもらって、それを100にする方がずっと楽なんですね。だからすごい勢いで飛びついてきてくれていて。しかも、クオリティがめちゃくちゃ高い。中には明らかにコンセプトと関係ないことを書いてきている人もいるわけですよ。だけど、クオリティが高い。彼らの頭の中ではつながっているんだと思うんです。それを読み解くのが楽しみですね。

――それはすごく感じました。明後日の方向どころか、地球の裏側か?みたいな話を書いている人もいれば、王道書いている人もいる。

でも、それがGONZOっぽいと思うんですよね。うちよく「原作クラッシャー」って言われるんだけど、僕はそれ、誉め言葉だと思っているんですよ。クリエイティビティがクラッシュするから、新たなものが必ずスパークする。岡本太郎の「芸術は爆発」じゃないけど、爆発の瞬間をたくさん作っていくっていうのが作品を作るっていうこと、新しいものを作ることだと僕は思うんで。

――確かに。

GONZOでは原作がある作品の場合、原作者とディスカッションすれば当然喧嘩になることもあるんですけど(笑)。正直過去作が全部が成功したとは言わないけれど、クラッシュすることで、新たなものが生まれてくるっていうプロセスこそが、GONZOがずっとやってきたことだし、これからもやろうと思っています。今回は特に大規模にクラッシュが起きていますし、もし収束させられなくなったら、僕の力不足ということで怒っていただければ結構ですので(笑)。

――今回、このストーリー募集のこの話を見て、印象的だったのが、そのストーリーをアニメ化するわけじゃなくて、アイディアをいただくこともあると思う、いうのを大前提で言っているじゃないですか。なにか種をもらうと言うか。

そうです。その種をもらうだけじゃなくて、みんなで、その種からいろんなものが生まれてくる。世の中に何十億人と人がいて、その人たちがいろんなものやったり作ったりしている中で、それがWeb3.0的な経済性とどうつながっていって、参加した人達が経済的にも満足できるか。どうすればそれが作れるのかなっていう社会大実験をやっているというか。

――なるほど、難しいとは思いますが、本当にうまく行けば、アニメーターさんの金銭的な問題だったり、二次創作に関する考え方も変わるかもしれませんね。

そうですね、浮世絵とかも初版だと証明されると、高額で取引されていて、第何版かわからないやつだと、3千円で売られていますよね。アニメの版権だって。デジタルになるといくらでも作れるわけです。しかも同じクオリティのものだから、それがいつ出たものかってことだけが重要になると思うんです。「アイドルのあの子は、オレが最初に目を付けた。あの時から俺は光る棒を振ってたんだぞ」って言われて、証拠の最初の握手券を彼が持っているとします。どこの経済価値にもつながってないけど、その子が世界的なスーパースターになったとしたら、最初に握手した握手券は、1億円で取引されている可能性があるわけですよ。

――そうですね、世界的タレントを世界で最初に推した証、ですからね。

すると、その彼はもう1億円の価値を持っているわけじゃないですか。「1回目に俺が見つけて握手しただけ」みたいな価値観が生まれてくることによって、コンテンツの作り方や経済性も変わるんじゃないかなと。

――そうなったらかなり面白いですね。アニメの作り方も変わりそうです。

多分プロダクションっていうものを、物理的に持つ時代じゃなくなる気がしています。全部家で出来るんですもん。音楽で言えばビリー・アイリッシュとかは全部自分のところで、お兄ちゃんと一緒に作っているわけじゃないですか。

――そうですね、音楽はDTMも発達したので家のデスクで作れる時代になりました。

そういう風にアニメもなると思うんですよ。ただ、大量の人達がいないとアニメは作れない。ならバーチャルでリモートな環境で、個々人たちが集まれる環境ができる。そういうクリエイターがあるブランドの元に集められて、アニメが作られていくっていう仕組みになっていくんじゃないかと思っています。『SAMURAI cryptos』をアニメにするときは、そういうやり方にした最初のアニメですって言って出したいと思っているんですよ。

――リモート環境で作られるアニメですか。

つまりスタジオっていう場所が無い。アニメーター達がネットワークでつながっていて、やりたい人達が集まって作る。プロデューサーが色々仕切らないとできないと思うんで、そこはある程度中央集権的な部分は必要だと思うんですけど、2年後なのか5年後なのかわからないけれど、出来ればそういうアニメ製作にしたいなと思います。まずはショート、短編からでもいいので。

――変な話ですが、GONZOさんの過去に作られた、いわゆる原作付き作品も僕らは好きなものが多いんです。そういう原作付き的なものはもうあまり興味がない感じなんでしょうか?

いや、そんなことはないと思いますよ。僕は原作付きの作品はやらないって言っているつもりはなくて、こういう新しい作り方に、相性よく一緒にやってくれる方、ぜひGONZOと組んでやりましょう! って思っています。
 

取材・文:加東岳史、林信行

 

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