藤間爽子に聞く~『ハムレット』でヒロイン・オフィーリア役に挑戦「野村萬斎さんの演出を受けるのが楽しみ」

2022.12.28
インタビュー
舞台

藤間爽子 (撮影:池上夢貢)

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 世田谷パブリックシアターの芸術監督としての20年間、伝統演劇と現代演劇の融合など、新たな表現を探求し続けてきた狂言師・野村萬斎が、2022年2月、任期最後の公演として上演した「戯曲リーディング公演 『ハムレット』より」。自身が幾度もタイトルロールを演じてきた『ハムレット』を新たな視点で構成・演出した舞台は、本公演への期待を高め、好評を博した。

 そしていよいよ、2023年3月――これまでも萬斎と共に作品を創り上げてきた信頼の厚いスタッフやキャスト陣に加え、フレッシュな俳優陣が揃い、新たな『ハムレット』が立ち上がる。萬斎は演出を手掛けると共に、ハムレットを導く亡き父王の亡霊、そして叔父王クローディアスを演じる。ハムレット役には、長男であり弟子でもある野村裕基が決定し、舞台上での対峙にも注目が集まる。

 取材が行われたこの日、ヒロインであるオフィーリア役に決定した藤間爽子が鮮やかなブルーのドレスをまとって撮影スタジオに入ると、その可憐な姿が目に飛び込んできた。三代目藤間紫として日本舞踊紫派藤間流の家元も勤め、その一方で阿佐ヶ谷スパイダースにも所属、近年はTVドラマにも出演するなど、ジャンルを超え、幅広い才能を生かして挑むオフィーリア……次世代を担う顔ぶれが揃う話題作は、必見の舞台となりそうだ。


――まずは、シェイクスピア作『ハムレット』への出演が決まった瞬間のお気持ちを教えていただけますか?

 『ハムレット』、しかもオフィーリアの役をやらせていただける日が来るなんて全く想像もしていなかったので、お話を頂戴した時はとても驚きました。初めての翻訳劇出演への緊張もありますし、とにかく厚い壁のように立ちはだかるタイトルの存在感に圧倒されてしまって……正直、怖気付く気持ちというか、プレッシャーもあります(笑)。演出を野村萬斎さんが手がけられることにも、参加させていただける喜びと身が引き締まるような思いがありますし、自分の舞台人生においても大きな挑戦になると思っています。

――本日は撮影日だったので、先ほど、萬斎さんやハムレット役の野村裕基さんと少しお話できましたね。

 1月から始まるお稽古までまだしばらく時間がありますが、萬斎さんがいらっしゃる現場だと思うだけで、全てを見透かされそうな気がするというか、背筋がピンと伸びる感覚がします。裕基さんとは年齢も近いこともあってお話しやすく、ホッとしましたし。同じ古典芸能の世界で生きる方と共演させていただけるのも、貴重な機会で楽しみです。また今日はお会いできなかったのですが、(オフィーリアの兄レアーティーズと、廷臣ローゼンクランツの二役を演じる)岡本圭人さんとも同世代。同時代を生きる俳優さんたちとご一緒できるのは幸せな現場です。

――若き狂言師としても活躍する裕基さん、三代目藤間紫として日本舞踊紫派藤間流の家元も勤め、阿佐ヶ谷スパイダースにも所属する爽子さん、アイドルとして活躍後、ストレートプレイからミュージカルまで幅広くこなす岡本さん。多ジャンルの往来あるフレッシュな顔ぶれに、演劇ファンからも期待の声が上がっています

 そう伺うと、また緊張してきちゃいますね(笑)。裕基さん、岡本さん、お二人とも活動の幅が広くていらっしゃいますし、三人の共通ポイントとして、実は“身体表現”があるんです。日本の古典芸能を背景にお持ちになる萬斎さんが演出されることですし、そうした身体性についても、今回のお芝居では重要になってくるのかな?と思っていて。

――日本舞踊、あるいはバレエやダンスなど、基礎に身体表現を身に着けている方は舞台での存在の仕方、空間の掴み方が的確なように思えます

 特に意識してはいないのですが、「身体表現をしている人は芝居の仕方が違う」と言われる機会は多いですね。そういったことの自覚や発見も生まれるかな……と、萬斎さんの演出を受けるのが楽しみなんです。

――王子ハムレットの恋人であるオフィーリアを演じることについて、現在の思いを伺えますか。

 あらためて戯曲を読み直してみると、健気な女性だと感じました。そんな彼女が、錯乱状態になって死んでいくまでの心の動きを理解し、成立させて、ちゃんと自分の中に落とし込まないといけないな……と。ここはお稽古をしながら、皆さんとしっかりとお話をしていきたいところです。今年2月に開催された『ハムレット』リーディング公演を映像で拝見したのですが、読むだけにとどまらない、さまざまな要素が盛り込まれた公演になっていました。これが今度はお芝居として立体化したらどうなるのだろうと、とにかくワクワクしました! そしてやはり、物語の圧倒的なスケールが感じられ、幕が開くまでいっぱい悩むのだろうなぁとも感じます。

――そういえば……おばあさま(初世藤間紫)が『マクベス』で魔女たちを司るヘカテをされたことがありましたよね(2006年初演、栗田芳宏演出、りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピア・シリーズ)。

 そうなんです! あの舞台が、私が生まれて初めて体験した(観劇した)シェイクスピア作品でした。当時まだ小学生だったので記憶は曖昧なのですが、「すごいものを目撃した」という記憶は自分の中に強く残っています。市川右團次さん(当時右近)がマクベス、市川笑也さんがマクベス夫人を演じられて……能楽堂での公演でしたし、和のテイストでのシェイクスピアだったこともよく覚えています

――おばあさまが力強くてすごい存在感だったので、爽子さんのシェイクスピア初挑戦にも期待が高まっています。最近では話題のTVドラマ『silent』などにもご出演、日本舞踊、現代劇、映像とジャンルレスのご活躍を見ていると、「最強の表現者になる」意気込み、バイタリティを感じますし。

 意気込みだなんてそんな(笑)。なんでもやってみたいワガママな性分というか、ただ好きなことをやっているだけなんです。

――今後、やってみたいことなどは?

 私は東京生まれ東京育ちなのですが、ここ以外の土地で舞台をつくったり、何かを吸収するのは楽しそうですよね。

――滞在でのクリエイションという意味ですか?

 ……こう言ってみたものの、具体的なことまで考えてはいないのですが(笑)、旅行が好きなので、たまには東京から離れていろんなことを学んだり、経験を取り込んだり、インプットの時間があるといいな、と。ここ数年、コロナで遠出が難しい時期が続きましたし。

――日本舞踊家の俊英が集結した映像作品『地水火風空 そして、踊』(作・演出:尾上菊之丞)で爽子さんが、主軸となる雨乞いの乙女や天女の役を凛と舞われていて印象深かったのですが、あの作品も小田原や高知などオールロケでしたね。都会を離れ自然の中で見える表現というものもありそうです。今後の活動も楽しみにしつつ……最後に、あらためて『ハムレット』への意気込みを教えてください。

 やはり、名だたる女優の方々が演じてこられた役ですから、皆さまが思い描くオフィーリア像に少しでも近づきたい気持ちはもちろん、その反面、ちょっと冒険もしたいとも思っていて。とにかく演出の萬斎さんを信頼してついていきたいですし、どんな風景が見えてくるのか、稽古が始まる日がとても楽しみです。

取材・文=川添史子
写真撮影=池上夢貢
ヘアメイク=川口博史
スタイリング=和田ミリ
トップス ¥75,900、スカート ¥104,500/AKIKOAOKI(問い合わせ先 https://www.akikoaoki.com
イヤリング ¥15,400/Jouete(問い合わせ先
https://www.jouete.com
 

公演情報

『ハムレット』

【作】 W.シェイクスピア 【翻訳】河合祥一郎 【構成・演出】野村萬斎

【出演】
野村裕基/岡本圭人/藤間爽子/
釆澤靖起 松浦海之介 森永友基 月崎晴夫
神保良介 浦野真介 遠山悠介
村田雄浩/河原崎國太郎/若村麻由美/野村萬斎

【美術】松井るみ 【照明】北澤真 【音楽】藤原道山 【音響】尾崎弘征 【衣裳】半田悦子 【ヘアメイク】川口博史
【アクション】渥美博 【演出助手】日置浩輔 【舞台監督】澁谷壽久
【技術監督】熊谷明人 【プロダクションマネージャー】勝康隆 【制作】若山宏太 【プロデューサー】浅田聡子

【芸術監督】白井晃
 
<世田谷パブリックシアター公演>
【日程】2023年3月6日(月)~3月19日(日)
【主催】 公益財団法人せたがや文化財団
【企画制作】 世田谷パブリックシアター
【後援】 世田谷区
https://setagaya-pt.jp/

 
<ツアー公演>
【江戸川公演】

2023年3月25日(土)
江戸川区総合文化センター・大ホール
https://edogawa-bunkacenter.jp/

【枚方公演】
2023年3月29日(水)
枚方市総合文化芸術センター・関西医大 大ホール
https://hirakata-arts.jp/
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