廣津留すみれ、紀平凱成らがトーク&リサイタル 「スタクラフェス in TOSHIMA」自由学園明日館の4公演をレポート

2022.12.2
レポート
クラシック

【2】紀平凱成 @ 自由学園明日館 13:30~

紀平凱成

2019年にリサイタルとCDのデビューを果たした紀平凱成は、現在21歳。幼少のころから非凡な音楽の才能を示し、2015年に東京大学と日本財団の「異才発掘プロジェクト」第1期ホーム・スカラーに選ばれる。ホームページによると、発達障害がありながら、17歳で英国のトリニティ・カレッジ・ロンドンのディプロマ(学士資格)を取得。ピアノの演奏にとどまらず、作曲も得意とし、2022年3月には自作によるピアノ楽譜を初めて出版した。

紀平のリサイタルは、午後1時30分に始まった。プログラムは、彼のオリジナルやアレンジとともに、カプースチンなどの作品で構成された。

舞台に登場した紀平は、手を振って会場の拍手に応え、自作の「Winds Send Love」を弾き始めた。しっかりとした手の持ち主のようで、音の芯は重みを帯び、しなやかな弾力を感じる。流麗な楽想の作品で、丸みのある音で清々しくメロディを歌い上げていく。

紀平凱成

弾き終えると、舞台袖に下がり、マイクでトークを始めた。「(スタクラフェスは)17歳から出演していて、毎年ワクワクでいっぱいです。皆さんも楽しんでいってください。この曲は、初録音で入れた大切な曲です」と「Winds Send Love」について説明した。次に、日本古謡の「さくらさくら」の紀平によるアレンジが披露された。調の鮮やかな変化が豊かなファンタジーを生み出す。

紀平は、カプースチン作品を得意としている。彼自身も「キラキラしていて大好き!音符は多いけれど、楽譜はとてもきれい」と述べる。演奏する前に、両手を振り上げ、大きく呼吸をして鍵盤に指を触れた。

「24の前奏曲」から第5番と第23番。メロディをしっとりと歌い上げる。リズミックな楽想では、彼の持ち味である弾力に富んだ音で、生き生きと音楽を描き出していく。そして、「トッカティーナ」では、紀平の個性がいかんなく発揮された。彼は楽譜の隅々まで端正に表わし、その音楽は豊かな響きに彩られていた。

紀平凱成

弾き終えた後、再び手を振って舞台袖に入っていく。紀平によると、続く「No Tears Forever」はコロナ禍に作曲。悲しみや怒りなどさまざまな感情がこみ上げ、でも頑張ろう……とその時の気持ちを込めて書き上げたという。

「みんなのおかげでこうやって作曲できる」との言葉が心に残る。ひと筋のメロディにさまざまな表現を織り込み、多様な情感があふれ出てくるような音楽であった。

シューマン=リスト《献呈》の演奏については、多様な解釈が存在する。紀平は、デュナーミクの幅を極端に広げることなく、歌曲のような趣を漂わせていた。主部の再現の場面で感情を昂らせるが、基本的にはメロディにハーモニーを寄り添わせるような演奏で、一貫してメロディを尊重していた。

紀平凱成

その後は、カプースチン「24の前奏曲」より第1番。動き続ける右手のパッセージも難なく弾きこなし、この作曲家の作品を自分の言葉のように自在に語っていく。

最後は、紀平のアレンジによるチックコリア「スペイン」。ジャズやクラシック音楽のテイストを織り交ぜ、彼の音楽の流れやその勢いも心地よい。アンコールは自作の「Fields」。最後は、舞台上で「ありがとうございました!」と客席に感謝の気持ちを述べてリサイタルを閉じた。

紀平凱成

>(NEXT)髙木竜馬

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