松也、歌昇、巳之助、新悟ら8人の花形俳優が“チーム浅草”で3年ぶりに挑む『新春浅草歌舞伎』会見レポート 

2022.12.2
レポート
舞台

(左から)中村莟玉、中村隼人、坂東新悟、中村歌昇、尾上松也、坂東巳之助、中村種之助、中村橋之助

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2023年1月2日(月・休)から24日(火)まで、浅草公会堂で『新春浅草歌舞伎(以下、浅草歌舞伎)』が開催される。若手の歌舞伎俳優たちの登竜門ともいわれる公演だ。開幕に向けて会見が行われ、尾上松也中村歌昇坂東巳之助坂東新悟中村種之助中村隼人中村橋之助中村莟玉山根成之氏(松竹株式会社 専務取締役)が出席した。

『新春浅草歌舞伎』

松也は「出演者もスタッフも意気込んでおりますが、あくまでも皆さんに楽しんでいただけるよう精進し、千穐楽まで無事につとめたいです。そして翌年に繋がる浅草歌舞伎にしたいです」と挨拶をした。山根氏によれば、浅草公会堂はバックステージの構造上、歌舞伎座と同じ感染症対策をとることがむずかしかったことから、2021年1月と2022年1月の開催は見送られた。しかし「その後色々な知見を得て対策を講じ、第一部と第二部で出演者を分けること」で、浅草歌舞伎が3年ぶりに開催されるに至った。この日登壇した8名が4名ずつに別れて出演する。各部の演目と、出演者のコメントをレポートする。

第一部(出演:巳之助、新悟、隼人、橋之助)

第一部は『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)引窓(ひきまど)』と舞踊『男女道成寺(めおとどうじょうじ)』。出演は巳之助、新悟、隼人、橋之助。

■坂東巳之助(ばんどう・みのすけ)

「3年ぶりに『浅草歌舞伎』として集まれたことを心からうれしく思います。僕自身の喜びと同じくらい、お客様にも“おかえり”と喜んでいただける公演にしたいです」

巳之助は『男女道成寺』で、白拍子桜子実は狂言師左近をつとめる。白拍子から男の狂言師、さらに異なる姿になって踊る。

坂東巳之助

「『男女道成寺』に限らず、浅草では坂東三津五郎家ゆかりの舞踊作品を、多く出させていただいてきました。他のお芝居に出る時とは立場が少し変わります。私は(日本舞踊)坂東流の家元もさせていただいておりますので、家の作品に責任を持たなければならない部分が出てきます」

今回の『男女道成寺』も坂東流の振りで上演するという。

「お客様にお届けすることにおいても、新悟さんに坂東流の振りをお渡しするところでも、家元としての責任を伴います。とはいえ、何しろ華やかな作品。道成寺物としての格や品を大切に。そして隼人さんと橋之助さんがなさる『引窓』という大変素敵な、そして少ししっとりとした作品を、我々の『男女道成寺』で華やかにラッピングし、お客様に、お正月の華やかな気持ちでお持ち帰りいただけるよう、つとめたいです」

■坂東新悟(ばんどう・しんご)

「10月と11月は平成中村座公演で浅草の地におりました。コロナ禍に人がいない浅草も目にしていただけに、街に活気が戻ってきたことを感じ、うれしく思っています。浅草公会堂も一部リニューアルされました。気持ちを新たに、再開する浅草歌舞伎を精一杯つとめたいです」

『引窓』は、『双蝶々曲輪日記』全九段のうち八段目にあたるエピソードだ。新悟は南与兵衛の女房お早をつとめる。

「『引窓』を拝見するたび、お早はすごく難しいお役だなと思っておりました。女房でありながら、もとは遊女だった雰囲気を感じていただかなくてはいけません。舞台上での仕事も多いです」

力士の濡髪長五郎は、訳あって人を殺めてしまい逃亡中の身。幼い頃に離別した母は、再婚して、今は義理の息子・与兵衛夫婦と暮らしている。濡髪は母に一目会うべく与兵衛の家を訪ねてくる。

坂東新悟

「それぞれの登場人物から思いやりが強く感じられる、心の温まるお芝居です。心情を大事につとめたいです」

『男女道成寺』には、白拍子花子で出演。

「巳之助のおにいさんのお役と、一心同体な部分があります。がっぷり四つに組み、踊らせていただく感じになるのではないでしょうか。巳之助のおにいさんは体をしっかりと使い、一つひとつの振りを丁寧に踊られる方です。共同作業のように2人で作り上げる部分もあるかと思いますが、僕も何とか食らいつき、お客様に華やかな気持ちでお帰りいただけるようつとめたいです」

■中村隼人(なかむら・はやと)

「20代最後の浅草歌舞伎です。浅草歌舞伎には高校生の頃から出させていただき、色々な役に挑戦させていただきました。足りないものを教えてもらう経験をいっぱいさせていただいた劇場です。3年ぶりの浅草歌舞伎をこのメンバーでできることを本当にうれしく思います」

南与兵衛後に南方十次兵衛は、初役となる。

「これまで(濡髪を探してやってくる)二人侍などの役で、何度か『引窓』に出させていただきました。二人侍は、子どもから大人の役者になる頃に経験する登竜門的な役。その中で、ずっと憧れをもってみていた十次兵衛というお役を初めてつとめさせていただきます。とてもうれしく思います」

町人だった南与兵衛は、劇中で侍に出世し、南方十次兵衛と名を改める。その最初の任務とは……。

中村隼人

「上方の役者の皆さんが大事にされている、上方の代表的な世話狂言です。仁左衛門のおじさまにお教えいただけることとなりました。義理人情、親子の情愛が描かれた情緒のある作品です。役の気持ち、町人と武士の使い分けを大事につとめます。おじさまの十字兵衛で、母お幸をなさっていた上村吉弥さんが、今回出演してくださいます。新悟さん、橋之助さんと心強いメンバーが揃っていますので、のびのびつとめたいです」

1月には、隼人が主演する時代劇「大富豪同心」シリーズの放送もあるようだ。

「私事ですが公演期間中に、時代劇の放送があります。テレビと浅草公会堂で、まさかの同心かぶり(会場笑)。ご覧くださった方には、テレビでも舞台でも同じような格好をしているな、と思われるかもしれませんが、浅草では歌舞伎の魅力をお伝えできるよう、しっかり勉強してつとめます!」

■中村橋之助(なかむら・はしのすけ)

「浅草歌舞伎に出られることをとてもうれしく思います。10月と11月は、浅草寺での平成中村座公演で、勘九郎のあにと七之助のあにと舞台に立たせていただき、ふたりの大きさ、格好良さをあらためて感じました。僕は小学生の頃から、そのおふたりが浅草公会堂の舞台で汗をかいている姿を見て、憧れていました。あのような立派な役者になれるよう、ここにいるおにいさん方と力を合わせ一所懸命つとめます」

『引窓』で、濡髪長五郎をつとめる。

中村橋之助

「父(中村芝翫)に習います。濡髪を教えてください、と話をしたところ、“ちゃんと教えるから”と父がとても喜んでくれました。僕としても、しっかり教えていただけることがうれしく、今から楽しみにしています。そして、また大好きな勘九郎のあにの話になってしまうのですが(笑)、10月の平成中村座で、あにが『角力場』の濡髪をやりました。『引窓』は、その続きとなるお芝居です。同じ浅草で同じ濡髪。気の引き締まる思いです。しっかりと受け継ぎ、しっかり濡髪長五郎として舞台に存在していたいです」

松也・歌昇・種之助・莟玉の第二部

第二部は、『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)土佐将監閑居の場(とさのしょうげん かんきょのだん)』と『連獅子(れんじし)』。出演は松也、歌昇、種之助、莟玉。

■尾上松也(おのえ・まつや)

2015年、浅草歌舞伎の座組がこの世代を中心としたメンバーに一新された。その中でリーダー的な立ち位置になったのが松也だった。

「(世代がかわり)最初に皆で話しあったのは、先輩方が繋いできてくださった浅草歌舞伎を、僕らの代で失くすことだけはないように、後輩たちに渡せるように続けていこう、ということでした。ですから2021年の中止を知った時はショックでした。状況を考えれば仕方のないことでしたが、このままなくなってしまうのではという不安もよぎりました。そこで松竹の皆さんにご相談させていただきました」

2021年1月と2022年の1月、歌舞伎座で「浅草」の文字が入った演目が上演された。『壽浅草柱建(ことほぎて はながたつどう はしらだて)』と『難有浅草開景清(ありがたや はながたつどう あけのかげきよ)』だ。

「外題に“浅草”と入れ、若手に一幕を任せていただきました。1月は浅草で歌舞伎をやるんだ、という思いを繋ぐようなつもりで。浅草歌舞伎ができなかった2年間も、その意味では我々にとって大きな経験をさせていただいたと思っています」

『傾城反魂香』では、大事な知らせをもってくる御注進の役、狩野雅楽之助をつとめる。

尾上松也

「この作品には、修理之助で出させていただいたことがありました。その頃から、次はいつか雅楽之助を、と憧れておりました。出番は少ないながらも、非常に強い印象を残すお役。物語の背景を意識し、しっかりとつとめたいです」

さらに『連獅子』で、狂言師右近後に親獅子の精をつとめる。1ヶ月興行で2回目の親獅子役だ。

「仔獅子は1回しか経験がありませんので、親獅子の回数の方が多くなりました。僕を仔として迎えてくれる親獅子は、もう現れないのだろうな……などと年齢を感じます(笑)。この作品における親子の情愛、情感をしっかり映し出すのは、親獅子です。親が子を思う気持ちをどう表現するか。経験を積み、増えた引き出しの中から、その感情を身体で表現したいです」

■中村歌昇(なかむら・かしょう)

「浅草歌舞伎に出させていただくのは、これが7回目となります。これまで播磨屋に縁の深い演目を、多くかけさせていただき、播磨屋のおじさま(二世中村吉右衛門)に教えをいただいてまいりました。おじさまが亡くなって初めての浅草歌舞伎。おじさまから教えていただいたものを、今後我々で引き継いでいくことを使命と考え、がんばって成果を上げたいです」

『傾城反魂香』で、主人公の浮世又平をつとめる。どもりがあり、喋るのが不自由なため「どもまた」と呼ばれる絵師の役だ。

「松也のおにいさんが雅楽之助、莟玉さんが修理之助で出てくださることがとてもありがたいです。弟・種之助との勉強会『第三回 双蝶会』で、初めてさせていただいた大好きな作品です。古典でありながらファンタジーの要素が入り、見ていても楽しい作品ではないでしょうか。役は『双蝶会』のときに播磨屋のおじさまに、丁寧に丁寧に教えていただきました。どれだけ再現できるか。おじさまの又平にどれだけ近づけるか」

『連獅子』では、浄土の僧遍念をつとめる。狂言師が登場する前半と、毛の長い獅子の精が登場する後半を繋ぐ、間狂言「宗論」に登場するキャラクターだ。

中村歌昇

「宗論は初めてです。皆様を和ませる役だと思います。兄弟で間狂言に出していただけることを楽しみ、自分の役割を意識してつとめたいです」

吉右衛門との思い出を問われた歌昇。2020年1月の浅草歌舞伎で『絵本太功記 十段目』を教わったことを振り返る。

「最後に教えていただいたお役です。舞台稽古の時、僕の顔(化粧)がよくなかったため、客席にいたおじさまが筆を持ってくるようおっしゃいました。そして浅草公会堂の客席で、顔を直していただいたことを思い出します。お役だけでなく、役者としてどう生きていくべきか。たくさんのことを教わりました。よく見てよく学びよく遊びなさい、とも。播磨屋の看板を汚さないよう覚悟をもっていきたいです」

■中村種之助(なかむら・たねのすけ)

「初めて浅草歌舞伎に出させていただいた時は、20代前半でした。若さを大事に勢いをもって浅草の舞台に挑戦してまいりましたが、来年30歳になります。歌舞伎俳優としてはまだまだ若手ですが、今回やらせていただく2つの役においては、これまでに勉強させていただいてきたことを、今の年齢でできるたしかなものとして、形にできたらと思っております」

『傾城反魂香』では、女房おとくで出演。おとくは、喋りが苦手な夫を明るく支え、二人三脚でがんばる女房だ。兄弟で夫婦役をつとめることとなる。

中村種之助

「おとくは『双蝶会』でやらせていただいた役です。『双蝶会』で勉強した演目を、1か月の本興行でさせていただくのは、これが初めて。とても嬉しく思います。先輩方に習ったこと、先輩方のお芝居をみて感じてきたものを、お客様にも感じていただけるようつとめたいです」

『連獅子』では、法華の僧蓮念をつとめる。

「『連獅子』の宗論は、兄と父の襲名披露興行でつとめたことがあります。遍念との性格の違いを出し、楽しく、皆様にほっとしていただける時間にできたらと思います」

■中村莟玉(なかむら・かんぎょく)

莟玉は今回のメンバーでは最年少。2019年11月の舞台で、それまで名乗っていた梅丸から、今の名前になった。
「はじめて莟玉の名前で浅草歌舞伎に参加できますことを嬉しく思います。感染症対策のため、第一部と第二部で4人ずつに分かれて出演します。もちろん寂しい気持ちもありますが、現段階でできる精一杯ということで、一所懸命のぞみたいと思います」

『傾城反魂香』の修理之助は4回目。

「回数を重ねて、同じ役をつとめる難しさ、プレッシャーを感じます。初役のときは、まだ10代でした。そこからの自分の変化をつきつけられます。気を引き締めてつとめます。歌昇さんと種之介さんが『双蝶会』でやられた又平とおとくを、僕は客席から拝見しておりました。“ああ、本当に素敵だな”と思った又平夫婦の中に、修理之助として入っていけることがとてもうれしいです。楽しみにしております」

中村莟玉

『連獅子』では、狂言師左近後に仔獅子の精をつとめる。

「歌舞伎をご存知ない方でも、イメージいただける演目のひとつです。僕自身、歌舞伎の世界に入る前から憧れていたお役でした。ただ近年は実の親子や、おじいさまとお孫さんで上演されることが多い演目です。養父の梅玉が“『連獅子』は僕はちょっと無理かな”と言っておりましたので(笑)、自分がチャレンジする機会はないと思っていました。今回、松也のおにいさんとやらせていただけると聞いた時は、大変うれしく思いました。おにいさんを親と思い、慕って、思い切りぶつかっていきたいです」

チーム浅草、3年ぶりの特別な公演へ

会見では、質疑応答やフォトセッション前のちょっとした合間にも、俳優同士が談笑する姿がみられた。座組内はライバル関係なのか和気あいあいとした雰囲気なのか。記者から問われ、松也が答えた。

「役者同士なのだからライバルだ、という見方もあるかもしれません。ですが浅草歌舞伎は、地域の方も協力してくださり皆で、和気あいあいという雰囲気。“チーム浅草”の意識が強いように思います。もちろんお芝居では、ピリッとしなくてはお客様に良いものをお見せできないこともあります。僕らなりに、メリハリをつけてやってきたつもりです」

江戸時代には芝居町として、明治以降は芸能の町として栄えてきた浅草。1980年に、浅草でのお正月の歌舞伎公演が復活し、2003年からは今に続く『新春浅草歌舞伎』となった。メンバーを入れ替えながら回を重ねて今に至る。

会見の合間、談笑する姿も

「僕ら世代が任せていただいた頃、僕らはまだ皆、本興行で大役を任せていただく年齢ではございませんでした。浅草で大役をつとめることで経験値が上がっていく。それぞれが浅草の舞台を経験し、他の舞台に立ち新しく感じることが多々あったと思います。浅草歌舞伎は、スキルと役者としての大きさを磨かせていただいてきた特別な公演です」

3年ぶりに開催される、浅草のお正月の風物詩『新春浅草歌舞伎』は、2023年1月2日(月・休)から24日(火)まで。


※初掲時、内容に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

『新春浅草歌舞伎』
日程:2023年1月2日(月・休)〜24日(火)
会場:浅草公会堂
 
第一部(午前11時開演)
 
一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
引窓
 
南与兵衛後に南方十次兵衛:中村隼人
濡髪長五郎:中村橋之助
女房お早:坂東新悟
母お幸:上村吉弥
 
二、男女道成寺(めおとどうじょうじ)
 
白拍子桜子実は狂言師左近:坂東巳之助
白拍子花子:坂東新悟
 
第二部(午後15時開演)
 
近松門左衛門 作
一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
土佐将監閑居の場
 
浮世又平後に土佐又平光起:中村歌昇
女房おとく:中村種之助
土佐修理之助:中村莟玉
土佐将監光信:中村吉之丞
将監北の方:中村歌女之丞
狩野雅楽之助:尾上松也
 
河竹黙阿弥 作
二、連獅子(れんじし)
 
狂言師右近後に親獅子の精:尾上松也
狂言師左近後に仔獅子の精:中村莟玉
法華の僧蓮念:中村種之助
浄土の僧遍念:中村歌昇
 
 
主催・製作:松竹株式会社
 
公式 Twitter @asakusa_kab
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