中村米吉×中村橋之助インタビュー 『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』原作を思い、歌舞伎の技法で立ち上げる
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右から中村米吉、中村橋之助。
2023年3月4日(土)、木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』が、IHIステージアラウンド東京(豊洲)で開幕する。名作RPG『ファイナルファンタジーX(以下、FFX)』を、新作歌舞伎として上演する試みだ。
主人公ティーダは、尾上菊之助がつとめる。相手役となるユウナに抜擢されたのは、中村米吉。米吉は、歌舞伎の若手女方で存在感を放ち、『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』ではナウシカ役もつとめた。1月には舞台『オンディーヌ』で、タイトルロールの、水の精オンディーヌに挑戦する。ワッカ役は、中村橋之助。橋之助は、歌舞伎の若手立役として活躍。1月に『新春浅草歌舞伎』で『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 引窓』の濡髪長五郎という大役をつとめる。古典歌舞伎にも新作歌舞伎にも精力的に挑む、米吉と橋之助に話を聞いた。
主人公の少年ティーダは、ブリッツボールの人気選手だったが、ある時「スピラ」と呼ばれる別の世界に迷い込む。そこでは人々が、大いなる脅威「シン」におびえて暮らしていた。ティーダは、召喚士ユウナと出会う。ユウナは「究極召喚」を手に入れ「シン」を倒すべく、ワッカたち仲間とともに旅に出る。ティーダもまた、ともに旅をし「シン」に立ち向かう……。
■米吉のユウナ、橋之助のワッカ
ーーそれぞれの役について、お聞かせください。米吉さんは、召喚士のユウナ役です。
米吉:純然たるヒロインであり、非常に魅力的なキャラクターですね。ゲームをプレイして、ユウナが物語の軸になっていると感じました。かわいらしさ、美しさはもちろん、「召喚士として世界を救おう」という意志の強さもある。自分が犠牲になることを厭わない高潔な精神を持ちつつ、15、16歳の子としての葛藤もあります。ユウナが魅力的であればあるほど、作品全体の面白さ、切なさ、悲しさが増し、菊之助のおにいさんが演じるティーダの、存在感や魅力が、より浮き立ってくると思っています。
ユウナ
ーー橋之助さんの役は、ワッカという青年です。ブリッツボールの選手権監督をしながら、ユウナを守るガードとして、ともに旅をします。
橋之助:ワッカを演じる上で大事にしたいのは、まっすぐさやキラキラさです。明るく元気で、そのキャラクターのもとには、ユウナへの愛があります。何よりワッカらしく存在することを大事につとめたいです。
ーー米吉さんは宮崎駿さんの『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』、橋之助さんは手塚治虫さんの『新選組』や萩尾望都さんの『ポーの一族』など、原作のある新作歌舞伎や舞台(以下、原作物)に出演されています。原作のある舞台はいかがですか?
米吉:古典歌舞伎では、まず先輩に役を教わり、いかにその通りにやれるかを考えます。古典である以上、お客様は過去にその作品を何度もご覧になっていることが多い訳で、否が応でも他の役者さんがなさった時と比較されることになると思います。片や原作のある新作歌舞伎の場合、原作に触れながら自分で役を作るわけですが、原作ファンの方々がそれぞれに「このキャラクターはこう」とイメージをお持ちで、そこと比べられる。それは古典歌舞伎とはまた違ったこわさなんですよね。また、もしかしたら原作物の中でも、ゲームは、小説や漫画以上の難しさがあるかもしれません。ユウナもワッカも3Dとなって、そこにもう存在している。フルボイスですから、声のイメージもはっきりとある。しかも『FFX』は、プレイヤーが主人公ティーダと同じような目線で「一体ここはどこだ?」と訳もわからずスピラの世界に入っていきます。どんどん没入していきますから、皆さんの思い入れの度合も強いはず。
橋之助:僕が考えるのも、まず原作ファンの方々のことですね。衣裳やメイク、台詞や言葉遣いをワッカに当てはめて準備しますが、ファンの方がご覧になった時に「たしかにワッカは大枠そうなんだけど、そうじゃないんだよ」ってことがあると思うんです。そうなんだけどそうじゃない、にならないことを意識しています。
ワッカ
米吉:その中で、私たちに太刀打ちできるのは、いかに歌舞伎にしていけるのか、という部分ではないでしょうか。見得をすれば歌舞伎になる、台詞の言い回しを時代にすれば歌舞伎になる、ということだけではありません。原作を尊重し、原作に近づけ、歌舞伎の技法でユウナなりワッカなり、それぞれのお役を歌舞伎の女方と立役として造形していく。あとは演出の金谷かほりさんと菊之助のお兄さんで考えていただく演出に、食らいついていくだけです。
■女方として、立役として
ーー古典歌舞伎の中に、ユウナやワッカのヒントになりそうな役はありますか?
米吉:ユウナはあまりにも使命が大きくて……歌舞伎って、あまり世界滅亡の危機に瀕さないんです(笑)。でも少し解釈を変えれば、世界のために自分の命を捨ててでも、という感覚は、恋する人のために自分の命を捨てて、という自己犠牲と通じますね。
橋之助:皆に本当のことを告げずに自分を犠牲に……って、歌舞伎の女方だとどうですか?
米吉:たくさんいるじゃない! 『御所五郎蔵』の皐月、『伊勢音頭』のお紺みたいな「縁切り物」が、そうでしょう。縁を切るのは「あの人のため」とか「お家のため」。でも事情を説明せずに、それをやる。ユウナの場合、「〇〇のため」が「スピラという世界のため」なんですよね。
ーー『FFX』にも、ティーダという立役がいますよね?
米吉:ティーダとユウナは、非常にピュアでふわふわとした淡い関係。歌舞伎では、あまりみられない恋愛関係なんです。
橋之助:たしかにね。
米吉:国ちゃん(橋之助さんの本名、国生から)の場合、参考になる役はやっぱり『(京鹿子娘)道成寺』じゃない?
橋之助:ワッカが?
米吉:ほら、鞠唄。
橋之助:鞠……ボールだけじゃないですか、共通点って!(笑)
米吉:そういえばブリッツボールはどう表現するの?
橋之助:具体的なことはまだお話しできないのですが、歌舞伎の古典的な技法を使って表現します。少しずつ、その稽古をはじめています。
米吉:ワッカは元気がよくて力強くて頼りがいがあって、ちょっと抜けてる。普遍的なキャラクター造形ではありますよね。平右衛門(『仮名手本忠臣蔵 七段目』)とかどうですか?
橋之助:たしかに。平右衛門はちょっと抜けているけれど一途で元気で情熱があって。通じるところがありそうです。あと多分なんですが、僕自身にワッカっぽいところもある気もしていて。
米吉:それは思います。ほとんど本人そのままだもの。
橋之助:だから「歌舞伎だからこうして」とかももちろん大事ですが、まず自分のワッカっぽいところと照らし合わせながら、楽しく伸び伸びとつとめられたらいいなと思っています。米吉さんもぴったりですよ、本当に可愛くて。今年ナウシカをやって、1月にオンディーヌをやって3月にユウナをやって……すごくないですか!?
米吉:なんだか茶髪が多いし、髪も結い上げないのよね最近(笑)。
■歌舞伎役者として新作だからこそ
ーー新作と古典では、演じ手としての向き合い方も変わりそうです。
米吉:新作や、映像も残っていない100年ぶりの復活狂言など、教われる方がいないお芝居では、それまでに歌舞伎俳優としての引き出しをどれだけ増やし、何を入れてこられたか。どれを開けて何を出せるのか。ある意味で試されているような感覚があります。子どもの頃、父(中村歌六)に「歌舞伎ってなに?」と聞いたことがあるんです。その時に「歌舞伎俳優がやれば何でも歌舞伎だ」と言われて、当時はそういうものかと納得しました。でも今になり思うのは、「しっかり勉強して、しっかり歌舞伎ができる歌舞伎俳優がやれば、何をやっても歌舞伎になる」ということであり、そこが僕らの目指すべきところなんですよね。歌舞伎俳優として、僕らはまだ若手です。その点では『FFX』をしっかり歌舞伎にできるかどうかは未知数。でもそれぞれに歌舞伎俳優として経験してきたもので、『FFX』を歌舞伎として構築していかなくてはなりません。
橋之助:僕の場合、新作歌舞伎の時は、歌舞伎俳優が新作をやる、というより、いま僕たちが面白いと思うものを僕たちの力でダイレクトにお客さんに届ける、みたいな意識が強いです。幼い頃から、父(中村芝翫)が勘三郎のおじたちと新作歌舞伎を作るのをみていました。僕自身、中村座のチームでのお芝居に出ていました。自分たちがいいと思ったものを、いいと思ってもらいたい。そのために、毎回芝居を上塗りして、いい空気を作っていく感覚です。
ーー新作歌舞伎の現場では、新作ならではの学びもありそうです。
橋之助:新作歌舞伎って、古典歌舞伎の時よりも、お客様の反応がその場でダイレクトにくると感じています。その反応を受けて、僕らもその場でダイレクトに芝居を返します。今日のお客様はすごい笑う。だから、このくらいまでやってもいい、みたいな差し引き。先輩が先に舞台に出ていれば、袖から見て「今日のお客様はしっとりご覧になる空気だ。やりすぎはまずいな」とか、でもやりすぎて空回りしたり(笑)。肌で感じ、出し引きするのは新作だからこそ学べることで、僕にとって楽しみでもあります。
米吉:そこで何を学んだかは、終わってみないと分からないことの方が多いですよね。たとえば、11月に橋之助くんは二人の弟と兄弟3人で『寿曽我対面』を勤められた。五郎と十郎を勤めた福之助くんと歌之助くんは8月に新作の『新撰組』でこれまでにない大役を担われていたわけだけど、その大きな経験があったからこそ今回の『対面』は何か違ったと思うんです。でも、それが何なのかは本人しか、あるいは本人でさえ分からなかったりもする。僕も、ナウシカ役で何を得たのかと聞かれたら、ボブヘアに似合う化粧ができるようになったこと、くらいしか答えが思いつかない(笑)。でも、それも含めて積み重ね。すべては「あれをやっていなければこうはならなかった」の積み重ねです。今回は新作歌舞伎な上に、IHIステージアラウンド東京でしょう? 尾上松也兄さん以外は、初めての劇場です。歌舞伎をやること自体がはじめての空間で、どんな親和性があるのか、化学反応が起こるのか。楽しみにしています。そしてその経験を経た僕らがどんな風に前へ進んでいけるのか。皆様には是非ともご覧いただき、しかと見届けていただきたいですね。
和気あいあいと撮影に応じる米吉さんと橋之助さん。なぜか、焼きおにぎりのポーズ(米吉さん発案)。インタビューでは、それぞれの役について真摯な表情で語られました。
木下グループpresents 『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』は、2023年3月4日(土)より4月12日(水)までの公演。
取材・文・撮影=塚田史香
公演情報
※休演日:3月8日(水)、15日(水)、22日(水)、29日(水)、4月5日(水)
【前編】11:30開場 12:00開演 【後編】17:00開場 17:30開演
会場:IHIステージアラウンド東京(豊洲)
脚本:八津弘幸
演出:金谷かほり 尾上菊之助
中村梅枝 中村萬太郎 中村米吉 中村橋之助 上村吉太朗 中村芝のぶ
坂東彦三郎 中村錦之助 坂東彌十郎 中村歌六 ほか
■前編・後編通し(全席指定・税込)
●SS席 32,000円 非売品オリジナルCGビジュアルアクリルスタンド付
●S席 28,000円 非売品オリジナルCGビジュアル公演ポスター付
●A席 24,000円 ●B席 19,800円
■前編/後編(全席指定・税込)
●SS席 18,000円 ●S席 16,000円 ●A席 14,000円 ●B席 11,000円
※非売品特典グッズは付きません。
主催:『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
(TBS/ディスクガレージ/ローソンエンタテインメント/博報堂DYメディアパートナーズ/木下グループ/楽天
後援:TBSラジオ/BS-TBS 原作・協力:スクウェア・エニックス
制作協力:松竹 特別協賛:木下グループ 協賛:再春館製薬所
製作:TBS
IHI Stage Around Tokyo is produced by TBS Television, Inc., Imagine Nation B.V., and The John Gore Organization, Inc.
公式HP:https://ff10-kabuki.com/