文字と共に少しずつ失われていく、在るべきもの──今度は“おじさんの生態”を軸に7名×Wキャストで描く、〈オイスターズ〉の『日本語おじさん辞典』が名古屋で
オイスターズ『日本語おじさん辞典』チラシ表
2022年10月末に名古屋、11月半ばに東京で『ちちんち』公演を行ったばかりの〈オイスターズ〉が、第25回公演『日本語おじさん辞典』を、12月15日(木)~19日(月)と21日(水)~25日(日)の2週に渡り、名古屋市中川区の「ささしまスタジオ」にて上演する。
〈オイスターズ〉の座付き作家・演出家で俳優の平塚直隆が劇作と演出を務める本作『日本語おじさん辞典』には、元となる作品がある。同じく平塚が作・演出を務め、2012年に《若手演出家コンクール2011》で最優秀賞を受賞した、『日本語私辞典』がそれだ。筒井康隆の小説「残像に口紅を」に想を得て生み出されたというこの戯曲。実際の上演では、日本語の五十音+濁音と半濁音(全71文字)が書かれた障子パネルを背景に物語が展開していく中、世の中から日に日に消えていってしまう文字が、視覚的にも一文字ずつ障子パネルから欠落していく(その文字の組み合わせによって表される物事自体も消滅)。使えるコトバが徐々に制限されてゆきつつも、登場人物達は残された文字を駆使してどうにか意味を成すコトバを編み出し、意思疎通を続けていく…という構造の作品だ。
『日本語私辞典』上演風景より 2022年3月/ささしまスタジオ
前述のコンクール最終審査公演として2012年3月に初演されたこの『日本語私辞典』は、2013年には札幌・伊丹・名古屋・広島の4都市で上演。2015年にも福岡・東京・仙台で再演ツアーを敢行し各地へ進出するなど、2006年に結成された〈オイスターズ〉の、いわば出世作となった作品とも言える。昨年2021年にも、6年ぶりに名古屋と北海道・富良野で再演されたが、今作では“私”が“おじさん”に変換されているとおり、話の内容は全く異なっている。『日本語おじさん辞典』として当初の公演予定だった今年3月に開幕したが、1ステージ上演後に出演者の新型コロナウイルス陽性が確認されたため、以降の公演は中止となって延期に。そのため、前述の『ちちんち』よりも前に構想・準備されていた作品なのである。
『日本語おじさん辞典』Aキャストの稽古風景より
「去年の夏に『日本語私辞典』を上演したあと、女子高生が主役だったのを、あ、今度はおじさんでやろう、と思ったんですよ。その時点から、おじさんってどういうことなのかな? と考えていて。僕もおじさんですけど、なんかいろんなことを諦めてる状態なのかなぁと。ああしたい、こうしたいということがもう特には無くて、日々の生活にあまり期待してない状態なんじゃないかなと思って」と、平塚。
「周りの人を見ていてもそう思うし、ネットで調べたりとかもしたんですよね、「おじさんの生態」とか(笑)。世に言うおじさんの定義は、42歳頃~みたいなことが書いてあって、結構若いなぁ…なんて思ったり。なにしろおじさんを主人公にして書こうと思ったら、僕の書くおじさんだから、ダメな人というか、特に活力もなく平凡に、今より上も目指さないしこのままでいい、なんて思っている。そういう日々を過ごしている人が、ふとしたきっかけで希望を見つけちゃう、という話です。
その“希望”というのは本当に単純なことですけど、おじさんって、若い子に優しくされたり微笑んでもらったりするだけで、「あれ? 僕のこと好きなのかな?」って勘違いするじゃないですか。これを書いてた頃は、名古屋の河村たかし市長が金メダル噛んだり、政治家がいろいろ失言したり、やたらそんなニュースが聞こえてきた時期でもあって、そういう勘違いをしがちなおじさんは「面白いと思って…」とか「良かれと思って…」とか言うけど、なにそれ? 全然面白くないんだけど、って。そういうズレみたいなことを書こうと思って、ふとした勘違いのきっかけから、このままでいいや、と思っていた生活が崩れていく話にしよう、と思ったんです」
『日本語おじさん辞典』Bキャストの稽古風景より
平塚といえば、先日当サイトで紹介した『ちちんち』のインタビュー(2022年10月26日)でも、「今は “お父さん”という存在についてよく考えていて、面白いものが書けそうな可能性を感じている」と発言。どういうわけか、最近は “おじさん世代” の人々に創作意欲をかきたてられているようで…
「『ちちんち』よりも先に『日本語おじさん辞典』を書いたので、最初は40~50代ぐらいの男の人って、なんか面白いなぁと思い始めたんですよね。どこか自虐的だし、諦めてるし、なのにすぐ勘違いして期待するし。そこから、子どもがいる、いない、でどれだけ違うのかな? と思って、“お父さん”という存在も気になりだした感じですね」
『日本語おじさん辞典』Aキャストの稽古風景より
さて、今作ではそんな “おじさん達”が、7名×2チームの計14名出演する。12月15日(木)~19日(月)には、憲俊、佐治なげる、田内康介、中内こもる、中尾達也、八代将弥、山口雅也のAキャスト、21日(水)~25日(日)は、上田定行、神谷尚吾、児玉しし丸、丹羽亮仁、久川德明、日比野正裕、平塚直隆のBキャストと、完全分離しての上演だ。
『日本語おじさん辞典』Aキャスト/前列左から・山口雅也、憲俊 後列左から・佐治なげる、田内康介、中尾達也、中内こもる、八代将弥、作・演出の平塚直隆
『日本語おじさん辞典』Bキャスト/左から・神谷尚吾、児玉しし丸、丹羽亮仁、上田定行、日比野正裕、久川德明、平塚直隆
「初演はAキャストでやっていたんですけど、コロナで中止になるのはもう嫌なので、稽古も両チームが顔を合わさないようにやっています。本番も、午前と午後とかのWキャストだと入れ替わりで会ってしまうので、もう絶対に会わないようにしてやろうと思って(笑)」
と、もしもの事態にもいずれかのチームは上演できるよう、体制を整えたのだとか。また、両チームとも演出は特に変えていないそうだが、Aキャストは30代~40代、Bキャストは40代~60代と、世代が異なるのも見どころのひとつになっている。
「僕は以前からBキャストの世代の方達と作品を創ってみたかったので、今回新しくもう1チーム作ろうと思った時に、声を掛けさせていただいて参加してもらえたのですごく嬉しいです。でも皆さん、僕が想定しているようなダメなおじさんじゃなくて、演劇やってる人達だからお腹もそんなに出てないし、やっぱり役者さんだなぁって(笑)。それをどう、ダメなおじさん達に見せるか、というのが目指すところですね。あと、このおじさん達だけで若い女の子の役とかもやるので、その演じ分けも面白いと思います」
『日本語おじさん辞典』Bキャストの稽古風景より
軸となる人物や設定を変えながら、今後もさまざまなバリエーションの上演が期待できそうな本作。徹頭徹尾、コトバと格闘し続ける平塚脚本とそれを発語し演じる出演者14名の奮闘ぶり、そして同じ脚本でもAとBのキャストでは見え方がどう変わるのか、それぞれのチームが醸し出す雰囲気を味わいつつ見比べてみるのも面白そうだ。
オイスターズ『日本語おじさん辞典』チラシ裏
取材・文=望月勝美
公演情報
■作・演出:平塚直隆
■出演:
Aキャスト/田内康介、中尾達也(以上、オイスターズ)、憲俊(SCANP)、佐治なげる、中内こもる、八代将弥(16号室/room16)、山口雅也
Bキャスト/上田定行、神谷尚吾(劇団B級遊撃隊)、児玉しし丸(劇団うりんこ)、丹羽亮仁、久川德明(劇団翔航群)、日比野正裕、平塚直隆(オイスターズ)
■日時:
Aキャスト/2022年12月15日(木)19:30、16日(金)19:30、17日(土)14:00・18:00、18日(日)11:00・15:00、19日(月)19:30
Bキャスト/2022年12月21日(水)19:30、22日(木)19:30、23日(金)19:30、24日(土)14:00・18:00、25日(日)11:00・15:00
■会場:ささしまスタジオ(愛知県名古屋市中川区福住町8-11)
■料金:前売3,500円 当日4,000円 u25(25歳以下)前売・当日とも2,500円 u19・o65(19歳以下・65歳以上)前売・当日とも1,000円
■アクセス:名古屋駅から名古屋臨海高速鉄道あおなみ線で「ささしまライブ駅」下車、南西へ徒歩7分
■問い合わせ:090-1860-2149 theatrical_unit_oysters@yahoo.co.jp
■公式サイト:https://oysters.official.jp/