伝説のコメディ『12人のおかしな大阪人2023』わかぎゑふ×うえだひろし×木内義一に聞く。「人がしゃべるってすげえな、と思っていただけたら」
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(左から)出演者のうえだひろし、台本・演出のわかぎゑふ、出演者の木内義一。 [撮影]吉永美和子
1995年に、升毅、生瀬勝久、キムラ緑子などの、関西小劇場のスター俳優12人を集めて上演された『12人のおかしな大阪人』。法廷劇の傑作『十二人の怒れる男』よろしく、ある殺人事件の陪審員として集められた12人の大阪人たちが、容疑者の有罪or無罪について、議論……というよりも、ボケ・ツッコミの会話をノンストップで繰り広げるシチュエーション・コメディだ。2021年には、オリジナルキャストの一人だったわかぎゑふが、今関西で活躍する俳優たちを集めて、26年ぶりの復活公演を実現した。
「95年版と遜色ない」と大きな評判を呼んだこの作品が、わずか2年で再演を実現! しかも「大阪以外でもやってほしい」という声に応えて、28年ぶりに東京でも上演が行われる(2023年1月7日(土)~17日(火)東京・紀伊國屋ホール、1月21日(土)・22日(日)大阪・松下IMPホール)。とにかくこれを観れば、いろんな意味で“大阪”のリアルがわかるという本作について、台本・演出のわかぎと、現在そろってNHKの朝ドラ『舞いあがれ!』に出演中の、うえだひろし&木内義一に話を聞いた。
■誰が観ても「あ、大阪人やな」と思ってもらえるような作りに。
──『12人のおかしな大阪人』については、SPICEでは2020年のリーディング配信の時に、脚本の東野ひろあきさんから詳しい話をうかがったことがあります。わかぎさんの目線では、1995年版はどんな公演でしたか?
わかぎ あの頃は関西の小劇場がイケイケドンドンな時で「とにかく12人(の人気俳優)を集めたらおもろいんとちゃう? 集めたら何とかなるやろう」と、企画が先行して始まった感じがしました。しかも公演直前で(出演者の)牧野エミちゃんが事故ったとか、阪神・淡路大震災とかいろいろあったから、この作品がいいか悪いかなんて、一ミリも考える時間がなかったですね。今思うと荒っぽい部分が多いけど、いろんなトラブルのおかげで結束力が生まれたから、自分たちの中ではすごくいい思い出にはなっています。
『12人のおかしな大阪人』を読み合わせてみたん会(2020年)
うえだ 前回の稽古中に、当時の記録映像を見せてもらったんですけど、もう抜群に面白くて、お客さんも大爆笑していて「やばい、これはまずい!」と。そこからは結構みんなで、誰がどういう役割を持つかということを、ちゃんと話し合うようになりました。
木内 ……そんな話したっけ?
うえだ 話したよ。あなたすぐ忘れちゃうから(笑)。
──そのリーディング配信が評判となり、2021年に開館した[枚方市総合文化芸術センター]のプロデュースで、舞台公演が実現しました。
わかぎ 劇場ができる3年前から、私が演劇部門のアドバイザーをやっていて、その最後の事業として、この作品を提案しました。劇場からは「お任せします」と言われたので、関西の俳優たちに声をかけていきましたが、最初から「この役で」と思って呼んだ子もいれば、とにかくオファーをしてから、はめこめそうな所に入れていった子もいます。(早川)丈二だけは「何とかして俺を使ってください!」と売り込んできましたけど(笑)。
『12人のおかしな大阪人~2021』公演チラシ。
──脚本には結構、加筆修正が行われていましたね。
わかぎ 1995年版は、キャストによってセリフ量が全然違っていて「12人そろえるためだけに作ったんやろうな」って思うような役もあったんです。だから12人が全員、絶対不要ではないように台詞を整理しました。あとは、義一が演じる議長役の男が、ラストで「時限爆弾をしかけた」という嘘をついて、全員が「いいかげんにせえっ!」ってツッコむというオチが、28年前から嫌で嫌で(笑)。
うえだ オチとしてはちょっと弱いですよね。「え?」って、カックンとなる。
わかぎ 「何のために、これやらなあかんねやろう?」と。これだけは絶対にせえへんと思って、ラストの部分は全部書き換えて、ちゃんと芝居らしくしました(笑)。
うえだひろし。 [撮影]吉永美和子
──初演で苦労した部分はありましたか?
うえだ 僕は普段、普通に大阪人として生きているけど、見せ物として改めて「大阪人」を演じるのは難しいなあ、と思いました。大阪人と銘打ってる限りは、誰が観ても「あ、大阪人やな」と思ってもらえるような作り方をしないと。そのためにはちょっと誇張した演技も必要だし、その塩梅を考えるのが大変でしたね。
木内 僕は会議の進行役ということもあって、周りほどはっちゃけなくても大丈夫だったので、そんなに苦労はしなかった……というか、あまり何も考えず、素直にやっていた気がします。
木内義一。 [撮影]吉永美和子
わかぎ 95年は「絶対自分が一番目立とう」という意識が強い人が多かったけど、私はそういう舞台がすごく嫌なので、絶対ワンチームにしようと思っていました。実際にちゃんとチーム力がある座組になったし、26年前とは違う舞台を作れたなあと思います。初演の時はちょうど緊急事態宣言の隙間で、あの時だけ劇場を満席にできたんです。私は一番後ろの座席で観ていたんですけど、たくさんの拍手がシャワーみたいに降りかかって、人間のしゃべる声や拍手の音ってやっぱりすごいなあ、パワーがあるなあと思いました。その時は「いつかまたやりたいね」って、みんなで抱き合って別れたけど、それから一月後に「来年『12人』やりません?」って声がかかって。
うえだ そのお知らせのLINEを見た時は「何やて?」って思いましたね。わかぎさんが、すごい営業をかけてくれたのかと。
わかぎ 全然。何なら逆営業を掛けてもらったから(笑)。
わかぎゑふ。 [撮影]吉永美和子
■台詞を変えなくても、人が変わるだけでいろいろ変化が。
──初演キャストから茂山宗彦さんとドヰタイジさんが出られなくなった代わりに、今回は「ジャニーズ事務所」の今江大地さんと、「梅棒」などに出演されている多和田任益さんが加わりました。
わかぎ 2人とも、今回の製作委員会から紹介されました。今江君の芝居は観たことがあって「小さくてかわいいなあ」と。周りの人からも「すごく芝居好きで、凝り性だよ」と教えてもらったから、彼に関してはそんなに心配はしていなかったです。多和田さんは東京にいるから、どんな人か全然情報が入ってこなくて……この話があってから「梅棒」を観に行ったんですけど、台詞が一言しかなくて、あとは踊ってばかりだった(一同笑)。
(左から)今江大地、うえだひろし(リリパットアーミーⅡ)、内山絢貴(劇団五期会)。
──梅棒ですからねえ。
わかぎ だから「台詞を切るようなことになっても、しょうがないか」と思っていたけど、中学生まで堺にいたということもあって、すぐみんなになじみましたね。みんなと同じ、アホの子やった(笑)。
──今江さんは大熊隆太郎さんが演じていた大学生の役、多和田さんは茂山さんが演じた会長の役で出演されます。
わかぎ 大地はやっぱり大学生役が一番ハマると思ったし、大熊君も彼を差し置いて、自分が大学生をやるなんてビビるに決まってるから(笑)。大学生には劇中劇のパートがあって、大熊君は「これは劇中劇です」という雰囲気でサラッとやっていたけど、大地はめちゃくちゃ真面目にシリアスに演じてて、それでも成立してるから面白いです。
任益が演じる会長は、95年は山にい(山西惇)だったし、クセが強い人ばかりが演じてる役。でも何の「会長」かは全然説明されていないし、逆にまったくクセのない若い子がやっても成立するだろうと思いました。でもフタを開けてみたら、別の意味で大変なクセ者で(笑)。すごいキャラクターを作ってきて、しかもそれがめっちゃ面白いんですよ。
木内 しかもだんだん、クセが強くなってます。
わかぎ だから2人とも何の心配もなかったし、今演出で困ってることもないけれど、二枚目で売ってるのに、これは大丈夫かなあ? って、そっちが心配になってます。それで昨日任益に「大地と任益はすっかりなじんでるけど、ファンが減ったらどうしよう? って思ってんねん」って聞いたら「えー、むしろなじみたい」って……何言うとんねんお前(一同笑)。
(左から)大江雅子、大熊隆太郎(劇団壱劇屋)、木内義一(テノヒラサイズ)。
──お二人の意外な一面が見られそうですね。木内さんは前回と同じ役ですが、うえださんはドヰさんが演じたサラリーマンに配役が変更されました。
うえだ 僕が前回演じて、今回は大熊君が演じる塾講師とサラリーマンは、どっちもちょっと場を荒らすような役なんですよ。あの時はドヰさんに対して「もっと早よしゃべって!」とかいろいろ思ってたんですけど、いざやってみたら「この役ムズ(難しい)!」って。
木内 ドヰぴょんがやるたびに、どんどんどんどん長くなっていくシーンがあったけど、あれうえだ君も長くなっていってるもんな?
うえだ テンポは早くしてるつもりやけど、手数を足さんと面白くならんかな? というのがあって。本当にムズい役やなあと、改めて思ってます。
木内 僕は前よりももっと、会話をつなげることを意識してるんですけど、今回はみんなが慣れてきたのか、ガヤ(雑談のような声)が多いんですよ。まだ俺がしゃべってるのに、全然別のことをしゃべってたりすることが増えて。どうやってこっちを向かせるか、ちゃっちゃと進行できるかというのを、もっと強化せなあかんなあと思っています。対決ですね、いろいろと(笑)。
──11人対僕、みたいな。
木内 そういう感じです。前回よりボケる人も多いから、結構ツッコミの部分が増えています。台詞はほぼ同じですけど、人が変わったことで、自然といろいろ変わりましたね。
わかぎ 前よりも確実に濃くなりました。やっぱり芝居って生き物やから、面白いなあと思います。
(左から)古場町茉美(Z system)、多和田任益、早川丈二(MousePiece-ree)。
■これを観ておけば、大阪に来た時に違和感なく過ごせます。
──そして今回、本作が28年ぶりに東京で上演されることになりましたが。
わかぎ 東京、みんなビビってますよ(笑)。
木内 だって僕レベルの役者が紀伊國屋ホールに立てるという、それでまずビビるのに、しかも10日間ですよ? 初日ホンマに、ブルブル震えてると思います。
うえだ まあビビるというか、こんな「12人の地味な大阪人」でいいのかと(一同笑)。
木内 やっぱり初演の人らが華々しいからねえ。
わかぎ いや、全然そんなことないよ。あの頃はまだどの劇団も、そんなに東京公演を打ってはいなかったから、思ってるほど華やかではなかったし。
(左から)古川剛充(ゲキゲキ/劇団『劇団』)、ボブ・マーサム(THE ROB CARLTON)、前田晃男(ボラ☆ボラ)。
──あのそうそうたる出演者たちも、まだ全国区のTVでブレイクする前でしたよね。
わかぎ そうなんです。だから「生瀬さんと升さんがいれば大阪は埋まるけど、東京大丈夫かなあ?」という感じだった。
うえだ まさに今、そういう気分なんですよ(笑)。とはいえ「かましたろう」という気持ちも、もちろんあります。
わかぎ 毛利家の矢と一緒ですよ。矢が3本あったら折れへんって。12人も束ねたら、何とかなるんちゃう? って、私は思っています。
──でも東京の人がこれを観たら「大阪人、だいたいこんな感じです」ってわかってもらえそうですね。
うえだ 一人の人がメインでしゃべっていても、周りがあれこれツッコんだり、いちいち「そんなわけないやろ~」って反応したりするのは、大阪人っぽいですよね?
木内 うん、なかなか本題に入らへんっていうのもね。
わかぎ 初めて会った人たち同士でも、ちょっと雰囲気に慣れてきたら、すぐに他人にツッコめるのが大阪人だし、確かにこんな感じですよね。これを観ておいてくれたら、東京の人は大阪に来ても、違和感なく過ごせるはずです。これ以上ひどい人たちはいないと思うんで(一同笑)。
日替わりゲストたち。(左上から時計回りに)東野ひろあき、茂山宗彦(茂山千五郎家狂言師)、桂九雀、ドヰタイジ(STAR☆JACKS)。
──あと、警備員役で登場する日替わりゲストが、前回の東野ひろあきさんと桂九雀さんに、茂山さんとドヰさんまで加わって、かなりバージョンが広がりました。
わかぎ 大阪公演の最終日には、宗彦以外全員出ますよ。
木内 この日が一番不安なんですよ。「どないなるんやろう?」って。これ、本番いきなりやる感じですよね?
わかぎ そうや。稽古したっておもんないやん(笑)。
──それでは最後に、公演にむけた意気込みなど。
木内 噛まずにがんばるぞ!(笑)
うえだ 絶対に噛んだらあかん所がありますからね。
わかぎ 最後のあの長台詞だけは、噛んだらもうアウトやから。
木内 だからそこを、噛まないように。まあでも毎回毎回、みんなの空気が全然違うと思うので、それを楽しみたいですね。そしてお客様にも楽しんでもらいたいと思います。
うえだ 作品自体は完成してるというか、みんなの中でちゃんと積み上がってるので、あとはホンマに東京で10日間、地味な大阪人たちでやれるかどうか(笑)。でも、地味でも絶対面白いと思うんで「あ、大阪人ってこんなんなんや」って、笑ってもらえたら嬉しいです。
わかぎ はっきり言って、プロジェクションマッピングもなければ、歌もダンスもなければ、素晴らしい仕掛けもない、ただしゃべってるだけの芝居です。でも「人がしゃべるって、すげえな」って思ってもらえたらいいですね。東京の人は初笑いに、大阪の人もお正月気分が残っている中で、観に来ていただけたらと思います。
(左から)出演者のうえだひろし、台本・演出のわかぎゑふ、出演者の木内義一。 [撮影]吉永美和子
取材・文=吉永美和子
公演情報
■企画・台本・演出:わかぎゑふ
■脚本:東野ひろあき
■出演:今江大地、うえだひろし(リリパットアーミーⅡ)、内山絢貴(劇団五期会)、大江雅子、大熊隆太郎(劇団壱劇屋)、木内義一(テノヒラサイズ)、古場町茉美(Z system)、多和田任益、早川丈二(MousePiece-ree)、古川剛充(ゲキゲキ/劇団『劇団』)、ボブ・マーサム(THE ROB CARLTON)、前田晃男(ボラ☆ボラ)
■日替わり出演:東野ひろあき、茂山宗彦(茂山千五郎家狂言師)、ドヰタイジ(STAR☆JACKS)、桂九雀
※ゲスト出演スケジュールは、公式サイトでご確認を。
■日時:2023年1月7日(土)~17日(火) 7日…17:00~、8・14日=13:00~/17:00~、9・15日…13:00~、11日=14:00~/18:30~、12・13・16日=18:30~、17日=14:00~、10日=休演
■会場:紀伊國屋ホール
■料金:7,200円
■問い合わせ:0570-00-3337(サンライズプロモーション東京)※平日12:00~15:00
■日時:2023年1月21日(土)・22日(日) 12:00~/16:00~
■会場:松下IMPホール
■料金:6,500円
■問い合わせ:0570-200-888(キョードーインフォメーション)※平日・土曜11:00~18:00
※この情報は1月3日時点のものです。新型コロナウイルスの状況次第で変更となる場合がございますので、公式サイトで最新の情報をチェックしてください。