珠城りょう「みなさんの胸を借りて、暴れ回りたい」~宝塚退団後、初の主演舞台『マヌエラ』が開幕へ 【ゲネプロ&囲み取材レポート】
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舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
第二次世界大戦直前の上海を舞台に、実力と美貌とを武器に生き抜いたダンサー・マヌエラの力強い姿を描いた舞台『マヌエラ』が2023年1月15日(日)から東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で開幕する。
1999年1月に天海祐希主演で初演された本作が、今回、24年ぶりに上演される。主人公のマヌエラを演じるのは、宝塚歌劇団入団からわずか9年という早さでトップスター就任を果たし、21年8月の退団まで月組を牽引してきた珠城りょう。珠城にとっては本作が退団後初の主演舞台となる。
初日を前にした14日(土)、囲み取材とゲネプロ(総通し舞台稽古)が行われた。その様子を写真とともにお伝えする。
パックン、珠城りょう、渡辺大、千葉哲也(左から)
ーー今回、演じられる役どころと意気込みを教えてください。
珠城りょう(以下、珠城):私が演じる永末妙子という役は、自分の意思をはっきり持っていて、自分の思ったことをストレートに伝えていくことのできる、とても芯の強い女性だと思います。それと同時に、まだ精神的に幼いところがあって、ひとりの女性としても危うい部分を合わせて持っている人だなと思います。
この作品は色濃い人間ドラマになっているので、妙子自身がたくさんの人と関わって、ひとりの人間として成長していく様を2時間10分の物語を通してお伝えしたいなと思いますし、今回、ダンスドラマでもありますので、そちらもあわせてきちんとひとりのダンサーとして頑張りたいと思います。
渡辺 大(以下、渡辺):和田という海軍士官で、演出の千葉さんからは「軍の象徴でいてほしい」と言われています。軍の固さというものを持ちながら、妙子といる間は素の自分が見えるという、緊張と緩和ではないですけれども、緩急を使いながらのキャラクターです。僕自身はこれが2作目の舞台。みなさんの前で芝居ができることに嬉しさを感じています。
珠城りょう
パックン:僕はパスコラという元女装の大スターで、マヌエラのダンスの先生で振付師の役です。ダンスの先生でもあって、愛の先生でもあるという先輩的な立場なんですが、パスコラという役は非常に深みがあって、強みも弱みもあって。みんな2時間10分の演劇の中で大きな変化をするんですけど、パスコラの役もその波は結構大きいですね。感情のジェットコースターをリアルに届けることができたらいいなと思っています。二十何年ぶりの、日本に来て初めてのど真面目な舞台なので、また声がかかるように頑張りたいと思います(笑)。
ーーカンパニーの仕上がりはいかがですか。
千葉哲也(以下、千葉):カンパニー自体とてもいいカンパニーなので、仕上がりはよろしいんじゃないでしょうか。自分も出ているので、自分が一番仕上がってないかもしれない。足を引っ張らないように頑張ります。……本当は出るつもりはなかったんですけどね、何となくの成り行きで出ることになっちゃったんですけど(笑)。照明さん音響さん美術さんスタッフもとてもいい感じになっていますし、ダンスがとても素敵だと思います。
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
ーー珠城さんは宝塚歌劇団を退団後、初の主演舞台ですね。
珠城:最初、稽古に入る時はみなさん初めて共演する方ばかりでしたし、とても緊張していたんですけど、稽古を重ねていくにつれて、キャストのみなさん全員がエンターテインメントを愛しているという共通の思いがあることを知りました。『マヌエラ』という作品がどうやったらより面白くなるのか、どうやったら今を生きているすべてのお客様がご覧になった時に、新しい感覚……ワクワクしていただけるものになるのか。千葉さんを筆頭にみんなで「ああでもこうでもない」とキャスト・スタッフみんなで作り上げてきたんですよね。
そういう時間を一緒に共有してきたら、プレッシャーとか……そう言いつつ緊張すると思うんですけど(笑)、みんなでつくってきたという安心感があります。どの瞬間も必ず誰かが隣にいたりとか、舞台上にいたりして、人間の体温を感じながらやっていけるステージなので、みなさんの胸を借りながら、妙子として暴れ回りたいと思いますし、それができたらいいんじゃないかなと思います。主演ではありますが……頑張ると言うことで。自分も楽しみにながらやれたらいいなと思っています。
千葉哲也
ーーそれぞれのお三方の印象は?
珠城:大さんは物腰が柔らかくて。お稽古場でも隣の席に座っていたんですけど、何気ない日常会話をいっぱいしました。私の他愛もない話を聞いてくださるお兄さん的な感じです。今回、珠城りょうだったら珠城りょう、渡辺 大さんだったら渡辺 大さんという本人の魅力が役に少しでも乗ればいいよねと言ってくださって。それを大事に稽古してきたので、妙子と和田さんのシーンは、私と大さんだからこそのやりとりになっているのではないかなと思います。
パックンさんは初めましてなんですけど、とてもオープンな方で、最初から心を開いて接してくださっていました。妙子はパストラからいろんなことを教えていただいたり、いろんなことを受け取っていくんですけど、パックンさんの心をオープンにして接してくださる感じと、パストラがリンクしていて、自然と妙子とパストラのやりとりになったような気がしています。とても楽しくやらせていただいています。
パックン:涙が出るわ(笑)。
パックン
珠城:千葉さんは、本当に失礼な話なんですけど、お話しする前は、怖い人だったらどうしようと思っていたんですよね。
千葉:顔がね(笑)。
珠城:いや、顔ではなくて、演劇をきちっとやってこられた方なので。私はミュージカルをメインにやってきて、今回のようなストレートプレイや会話劇はほぼ経験がなかったので、「こんなの、芝居じゃないよ」と言われたらどうしようと不安だったんです。でも自分が演劇やエンターテインメントに対して思っている価値観と、千葉さんが思っていらっしゃる価値観と、共感できるところがたくさんあって。
千葉さんご自身が役者さんなので、稽古の中でも待ってくださるんです。まず役者の中から生まれるものを待ってくださって、そのセリフとか動きを私たちがどう解釈して表現していくのを見られてから、「こういうやり方もあるけど、どうかな」と、たくさん導いてくださって。
ご一緒できるのはもちろんですけど、千葉さんと作品を作っていったのが楽しかったです。『マヌエラ』という作品を、千葉さんが演劇的に最後どのように着地したら面白くなるかと、新しいアイディアをたくさん盛り込んでくださって、それに感動して、驚いたりしたんですよね。それをお客様がどのように受け取ってくださるのがとっても楽しみです。みなさんとご一緒できて、楽しみです。……話しすぎですかね。以上!(笑)
渡辺 大
ーー渡辺さんは、今回舞台2回目。今後は舞台の方を中心にやりたいとお考えなのでしょうか?
渡辺:以前は舞台をやりたいやりたくないではなく、ご縁がなくて。そんな中、一昨年初めて『魔界転生』をやらせていただいて、舞台の楽しさに触れました。実は、ちょっと怖いなという部分もあったんですよ。一発勝負の世界なので。でも実際にやってみて、その怖さはとれてきていて、今は緊張感を楽しみながら、お客様の前で演技ができる楽しさを感じています。舞台に対する恐怖感は無くなってきています。
ーーパックンさんは初舞台。いろいろマルチに仕事をされていますが、今後の方向性は?
パックン:僕、今まで自分の船の舵を握ったことないんですよ。風向きが変わったら、その方向に向かってきました。もし舞台の方が流れたら喜んで行きますよ!(笑)
パックンマックンというお笑いコンビとして舞台にはたくさん立っているし、生の人間の前でやらせていただくのは、毎回楽しいんですけど、このどストレート舞台の独特の雰囲気はやみつきになりますね。スタッフもしっかりしている! 少なくともパックンマックンの関係者はみんなルーズだから!(笑)
とにかくね質が高い。期待度も高い。笑わせてごまかすことができない。そのリアルな芝居に挑戦するのも久しぶりで、大学時代以来です。自分の中に眠っていた感情とか、衰えていた筋肉をもう一回鍛え直して……すごく楽しくなってきたんです。本当に病みつきになって! この先もぜひやらせていただければと思っているんですけど、それはマネージャー次第です!(笑)
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
ーー最後に観客のみなさんへメッセージをお願いします。
珠城:ここまで無事に稽古を進めてくることができて、いよいよ初日を迎えられるかなというところまで来ることができて、本当に嬉しく思っています。この作品は、素晴らしいスタッフとキャストみんなで作り上げてきた2023年版の『マヌエラ』となっています。
ひとりでも多くのお客様にご覧いただきたいなと思いますし、コロナ禍でなかなか劇場に行けない方もいらっしゃると思うんですけど、遠くからでもご声援いただけたら嬉しいですし、勇気を持って劇場に行ってみようと思ってくださっている方は、きっと楽しんでいただける作品になっていると思います。ハードルを上げて言いますが!(笑)。心を込めて演じてまいりたいと思いますので、どうぞ楽しみにいらしてください。お待ちしております。
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
物語の舞台は、第二次世界大戦直前の上海。ニューヨークとパリとロンドンと、そして東京を一緒にしたような街。世界中の芸能人たちがハリウッドと同じくらいに憧れていた東洋の街。東京都の4分の1ほどの面積の土地に、54か国もの人種がひしめいていた街。パスポートもビザもなしに、どんな人間でも入国できた街。求めれば、どんな快楽も手に入り、金を出せば、最高の贅沢に出会え、想像を絶する悲惨さが、ある日突然目の前に転がっている街——。
永末妙子(演:珠城りょう)は松竹歌劇団で将来を期待されながらも、上海に駆け落ちし、生きていくためにダンスホールの踊り子となった。そこでかつてムーラン・ルージュのスターであったパスコラ(演:パックン)に見出され、国籍不明で美貌の一流ダンサー“マヌエラ”になる。
日本海軍士官として上海に滞在する和田(演:渡辺 大)と惹かれあいつつ、反発する2人。妙子が街中で出会った、追われる青年チェン(演:宮崎秋人)やクラブに出入りする怪しい貿易商の村岡(演:宮川 浩)など、マヌエラを取り巻く人々も時代の波の中でうごめきながら、それぞれが確かに上海で生きていた……というストーリーだ。
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
まず語っておきたいのは、タイトルロールである“マヌエラ”を演じた珠城りょう。本作でマヌエラは、「私は踊るために踊るの」「どんな時でも、踊りをやめない」とダンサーとしてのプライドを持ち、気が強い人物として描かれているが、それはどこか宝塚歌劇団で経験を積んできた珠城自身の姿と重なって見えた。
恵まれた体格を持ち、舞台上での存在感があって、ダンサーとしてのスキルも申し分なくて……という点のみならず、仲間のリューバ(演:齋藤かなこ)を思う姿や和田中尉への小気味いい返しなどから感じる、その性格や生き様もなかなか似ているのでは。「珠城りょうだったら珠城りょうという本人の魅力が役に少しでも乗れば」と会見で話していたが、それがいい意味で成功したのだと思う。なかなかの良役に出会った。
特にひとりで踊るラストのシーンは圧巻。何度も中断してきたであろうマヌエラの踊りを最後まで踊りきった妙子(とそれを演じた珠城)に精一杯の拍手を送りたい。
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
そのほかのキャストについて言えば、渡辺は軍人らしく厳格さを醸しつつ、女には不器用な和田を好演。パックンは、日本では初舞台ながら、パスコラのバックボーンを丁寧に表現。個人的には、ゲネプロ前はぎりぎりまで舞台上で確認を重ねている姿が印象的で(客が入ってからぎりぎりまで舞台上で確認をする俳優は稀)、マメさを垣間見たし、他の舞台作品も観てみたいと思った。
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
舞台『マヌエラ』のゲネプロの様子
本作はミュージカルではないので、ミュージカルを見慣れている方々にとっては「歌がない!」とある種の新鮮さがあろう。確かにマヌエラの生き様に焦点を当ててはいるが、その他の登場人物たちのストーリーが断片的に語られているので、何かひとつの筋を追って物語を楽しんだり、メッセージ性を求めたりするよりは、全体として「あの頃の上海の街で起きたこと」というような群像劇的な楽しみ方をした方がいい気もする。複数の人物が射殺されるのに、衝突する度に緊張感はあるのに、あまり血生臭さは感じないのは、やはりダンスが空気を動かしているからだろうか。それともそれが「上海」なのだろうか。なんとも言えぬ不思議な後味を感じた。
上演時間は1幕約60分、休憩20分、2幕約70分。ぜひお見逃しなく。
取材・文・撮影=五月女菜穂
公演情報
岡田亮輔 齋藤かなこ 他
<対象公演・登壇者>
1月15日(日)18時公演:珠城りょう、渡辺大、宮崎秋人、千葉哲也
1月16日(月)13時公演:珠城りょう、渡辺大、宮川浩、千葉哲也
1月18日(水)18時公演:珠城りょう、渡辺大、パックン、千葉哲也
1月19日(木)18時公演:珠城りょう、渡辺大、宮崎秋人
1月20日(金)13時公演:珠城りょう、渡辺大、パックン
日程:2023年1月31日(火)
会場:北九州芸術劇場 大ホール