片平里菜、阪神淡路大震災から27年目最後の日に、神戸で命と向き合うーー『感謝巡礼ツアー』「ずっと来たかった」神戸太陽と虎で、みらん、優利香と弾き語り
-
ポスト -
シェア - 送る
片平里菜『感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022 - 2023』 撮影=ハヤシマコ
片平里菜『感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022 - 2023』2023.1.16(MON)神戸・太陽と虎
「すごくパワーを感じる場所と人たちだなと思う。この町がそうさせるのかな」。ライブ中、片平里菜はそう表現した。1月16日(月)神戸・太陽と虎(以下、タイトラ)にて、『感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022 - 2023』が行われた。これは今年8月にデビュー10周年を迎える片平里菜が、これまでライブで訪れたことのある地域で、感謝を伝える弾き語りツアー。昨年8月の盛岡を皮切りに、今年4月の沖縄まで全国42カ所を巡るもので、彼女にとっては過去最多&最長のツアーとなる。
昨年12月の奈良から、新年最初のライブが神戸だ。ゲストには神戸で活躍中のシンガーソングライター・優利香と、みらんが出演。この日は、片平にとっても特別な1日でもあった。翌日の1月17日は、1995年に阪神淡路大震災が発生した日。福島県出身の彼女はこれまで、福島と東京を行き来しながら東日本大震災と向き合い、被災地の人々とも交流を深めてきた。東日本大震災を体験した片平にとって、同じ未曾有の震災を体験した神戸の人々との繋がりはとりわけ大事なもの。自然の脅威、命の尊さ、場所と人が持つ力の強さ。それがわかる彼女だからこそ歌える歌があり、伝わる想いがある。この日この場所に集まった人々が作り出した、忘れられない夜になった。
片平里菜『感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022 - 2023』
前日まで寒さが緩んでいたのに、強風と寒気で一気に気温が下がったこの日の近畿地方。冷たい向かい風に抗って会場に向かう途中、27年前のあの日も、朝は雪がちらついていたな……ということを思い出した。やはり1月17日が近づくと、記憶が蘇ってくるものだ。筆者は当時奈良県に住んでいたため、直接的な被害を受けたわけではないが、地震直前の地鳴りや当時のニュース映像、震災後に見たブルーシートに覆われた神戸の町の景色は忘れられない。
ようやく会場に入り、暖房のきいた空気にホッとする。ステージにはアコースティックギターと、タイトラ名物の動物たちがスタンバイ。平日であることから、仕事を終えてやってきたとおぼしきサラリーマンも含む多くのオーディエンスが詰めかけていた。
優利香「震災を知らない世代。大好きな神戸で絶対に歌いたかった」
優利香
最初に登場したのは、地元・神戸出身の優利香。「神戸生まれ神戸育ち、シンガーソングライター・優利香がトップバッターをつとめさせていただきます!」と勢いよくアコギをかき鳴らし、「輝く未来へ」でライブスタート。清涼感のある歌声を響かせる姿は真っ直ぐで、満面の笑顔がキラキラと弾ける。MCでは柔らかい関西弁で「さっきヘアオイルつけたら手めっちゃ滑る、どうしよう(笑)」と天然っぽさも覗かせ、フロアを和ませる。
優利香
そして中高校生の頃から片平に憧れていたと語り、「いつかご一緒したいなと、私ももっと大きくなるぞと思って活動してきたんですけど、地元神戸で一緒に出演できてとても嬉しいです!」と喜びをあらわに。優利香は震災を知らない世代ではあるが、「神戸に生まれて神戸で育ち、27年目最後の夜、絶対にこの歌を歌いたいと。小学生の時からずっと歌ってきた追悼の歌を」と、阪神淡路大震災発生直後に小学校教師だった臼井真氏が町の復興を願って作った「しあわせ運べるように」をカバー。ストレートすぎる歌詞には辛さと希望が同時に押し寄せてきたが、彼女の美しい歌声から伝わる想いは温かく、オーディエンスは集中して聴き入っていた。
さらに親友について歌った新曲「須磨浦公園バス停前」や、音楽への情熱を込めた「やりたい事」などを披露。最後はABCテレビ『おはよう朝日です』のテーマソング「眩しい朝日」を明るく歌い上げてライブを終えた。地元愛と音楽に対する想いを懸命に届けるピュアなステージで、会場を魅了した。
みらん「ライブは最高のおもてなし。距離を近く感じられるライブにしたい」
みらん
続いては、みらん。落ち着いた佇まいでステージに立つと、軽やかに丸く柔らかな歌声を響かせる。1曲目の「そこで僕はミルクを思い浮かべて」を披露した後は「意地と寂しさと」をプレイ。伸びやかで情緒的で、聴く者の情緒をふわっと撫でるような歌声は、心のひだに触れる気持ち良さがあり、強く惹きつけられる。
最近まで兵庫に住んでいた彼女だが、意外にもタイトラでのライブは初めて。「やっと歌いに来れて嬉しいです」と喜びつつ、手料理で人をもてなすことが楽しくて好きだという話から「ライブは最高のおもてなしの場だなと気づいて。今日は当然ながらワクワクして来ました。より届ける感じで歌っていけたらなと思っています」と意気込み、「夏の僕にも」「瞬間」「低い飛行機」を連続で歌い上げた。
みらん
良質なメロディーからは作曲センスの高さも感じさせる。後半は、12月にリリースされた新曲「レモンの木」や、自身の本名をタイトルに冠した「美藍」を披露。情緒的なゆらぎが加わった圧倒的な歌声でフロアを釘付けにした。まだツアーは未経験だというみらん。片平の『感謝巡礼ツアー』について「42カ所を巡るツアーだなんて、とんでもないことだなと。すごすぎる。私もいつかそうやって全国を回れるようになるのかなと思ったりして」と、自身の活動と照らし合わせる場面も。ラストは「バターシュガー」でライブを締め括る。いつまでも聴いていたくなる豊かな歌声と、エッセイ本を開いているような親しみやすさと瑞々しさ、少しの孤独を感じる楽曲たちは唯一無二。これからの彼女の活動が楽しみでならない。
片平里菜「この『感謝巡礼ツアー』で、ずっと来たかった場所です」
片平里菜
いよいよ片平里菜が登場。まだまだ続くツアーのネタバレを防ぐため、セットリストをほとんど伏せることをお許しいただきたい。
電車が頭上を走り抜ける中で高らかに1曲目を歌い終えた後、「神戸・太陽と虎に来るのは2回目、今日は私にとって年明け初ライブ、ツアー26本目です! ようこそ〜!」と歓迎すると、フロアからは大きな拍手が送られた。ゲストの2人について「優利香ちゃんは爽やかなギターをかき鳴らす姿と歌声が素敵でした。みらんちゃんは、生活が見える音楽だなと思って。三者三様の楽しいイベントになってとても嬉しいです」と柔らかい表情で述べる。
片平里菜
そして、タイトラでの思い出を語り始めた。「初めて来たのは2018年の冬。写真家の石井麻木さんのイベントで連れて来てもらって、1回来ただけで胸を掴まれました。この空間も、ここに渦巻く人の意思や想いが忘れられなくて。その時に、この場所を始めた代表の松原(裕)さんにも初めてお会いしました。とっくに余命宣告を受けていたはずなのに、とにかく必死で人を笑わせる人で。麻木さんが泣きながら笑っていて、私も笑って、みんな笑って。すごい人間力と精神力だなと。その時が最初で最後になってしまったんですけど……、とにかく言いたいのは、この『感謝巡礼ツアー』でずっと来たかった場所でした。デビュー10周年の目前に、帰って来れて嬉しいです!」と笑顔をみせる。2019年に享年39歳で亡くなった松原氏のお墓参りに行ったことを、ライブの前日にTwitterで報告していた片平。最後まで「楽しいこと、おもろいこと」を追い続けた彼の人柄と生きる力に感銘を受けたのかもしれない。
「(タイトラには)これまで1回しか来てないけど、今日は「ただいま」の気持ちでやりたいと思います!」と、本編では新旧の楽曲からカバー曲までを織り交ぜた10曲を演奏。どの曲も魂を込めて歌う姿に胸を打たれた。特に印象深かったのは、「予兆」から「満月の夕」の流れ。少し長くなるが、彼女のMCでの言葉をできるだけ記しておきたい。
片平里菜
「予兆」を歌う前、「今日は阪神淡路大震災から27年目の最後の日で、明日には28年目に。大切な日の前日にツアーを組み込んでくださり、本当に感謝しています」と伝え、「太陽と虎は『COMIN’KOBE』(震災を風化させないため2005年から始まったチャリティーロックフェス)をされていたり、震災の記憶を、守るべきものを、町を人を大切にしてきた方々だと思うので、今日の日を3人で迎えられて本当に嬉しいです。でも、(阪神淡路大震災の)記憶は正直ないです。当時の私は2歳なので、ニュースの光景も覚えていなくて、どんな雰囲気だったかもわからないですが……大人になるにつれて、西の方でこんなことがあったんだと知ることができました。それから16年生きて、私の地元の福島でも東日本大震災が起きて。当時、私は18歳、高校3年生でした。もちろん大変だったし、私以上に大変な人たちが県内、特に沿岸部にはたくさんいました。お子さんがいらっしゃる方はここで住むか避難するか、どちらが正解なのか葛藤されていたり、海に流された家族を探したいけど放射能の関係で探すことができない、まだ見つからない、帰りたいのに帰れない。そんな現状が今もあったりします」と、声を絞り出すように話した。
片平里菜
「私は身を以て、自然の脅威には勝てないと思いました。その経験を通して色んなことに気づかされたし、自然や地球、先人たちの知恵からのサインじゃないかなと思ってます。私たちは地球の資源や自然を切り崩して経済を回して生きてきたけど、それを改める時期に差し掛かってる。戦争なんてしてる場合じゃないよね。世界中の子どもたちが思ってると思います。核兵器を作るなら、身を守るために軍事力を上げるなら、もっと目の前にある命を大切に。私たちの生きる地球の資源をこれ以上奪わないでくださいって。そんな、地球の命の歌を」と切々と言葉を紡ぎ、「予兆」を力強く歌い上げた。<あなたが無事でいてくれたなら これ以上なにも望まない>。失われた命、生きている命、誰にでも平等な尊い命。その全てに寄り添うように、片平の願いが会場をじんわりと満たしていった。
片平里菜
続いて披露されたのは、「満月の夕」。95年に阪神淡路大震災の発生後、慰問ライブを行った経験をもとに中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と山口洋(HEATWAVE)によって共作された楽曲で、片平が初めてタイトラに訪れた時にも披露していた。この曲との出会いは、東北の震災直後に多くのアーティストが支援物資を機材車に積み、被災地に出向いて無償でライブを行っていた頃だと振り返る。「「満月の夕」をカバーしている先輩たちと出会い、その曲を聴いて、救われた想いがしました。既に同じ経験をしている人の言葉や想いには、救われませんか? 私はこの曲を聴いて、そんな気持ちに包まれました。今日、特別な想いを私なりに歌います。どんな気持ちでここに立ったらいいか正直わからなかったけど、27年目最後の日、ここに立たせてもらってます」と決意を胸に「満月の夕」を命を燃やして歌いきった。タイトラは彼女にとって神戸と福島を繋ぐ場所であり、震災や命と向き合う場所なのかもしれない。オーディエンスは一音も聴き逃すものかとステージを見つめ、彼女の強い想いをしっかりと受け止めた。
片平里菜
アンコールで再びステージに登場した片平は天を仰ぎ「いやぁ、感慨深いなぁ」と感情を滲ませる。「震災以後、町の瓦礫が片付いても、人との縁を途切れさせず、ずっと被災地に通い続けてくれたロックバンドのお兄さんたちがいてね。本当に助かりました。そんな曲をやろうかな」と、「東北ライブハウス大作戦」に関わる先輩バンドマンへのリスペクトを込めた新曲「ロックバンドがやってきた」を響かせる。張り上げた声から伝わるエネルギーは圧倒的で心が揺さぶられ、ライブが終わった後はしばらく呆然としてしまった。これを書いている今もまだ余韻が抜けない。アンコール含め、セットリストになかった楽曲も歌われたが、この時間と場所がそうさせたのだろうなと感じた。
片平里菜
片平里菜
福島県出身の彼女が背負うものの大きさや、抱くものを第三者が想像しようとしても、それは到底難しい。震災と向き合い続けることは決して楽ではなかったはずだが、周りにいる人々と音楽が彼女を救ったのだと知ることができた。もちろん震災だけでなく、10年の活動の中で様々な出来事やターニングポイントがあったと思う。ただこの日のライブは、まさに積み上げられた10年を象徴するライブだったし、彼女の大切なコアの部分に触れることができたような気もした。新年早々、こんなにも心に残るライブを見せてくれて、こちらこそ感謝だ。『感謝巡礼ツアー』はこの先九州地方を廻り、4月の沖縄まで続いていく。彼女とゲストが紡ぎ出す、各地でしか見れない空間や繋がりを、ぜひ目撃してほしい。
片平里菜
取材・文=ERI KUBOTA 撮影=ハヤシマコ
ツアー情報
ゲスト:渡邊忍(ASPARAGUS)
・2月17日(金) @千葉・千葉LOOK
ゲスト:HOTSQUALL(acoustic set)、高橋 智恵(FOUR GET ME A NOTS)、ダグアウトカヌー(acousic set)
・2月23日(木・祝) @埼玉・熊谷HEAVEN’S ROCK
ゲスト:安野幽汰、三上隼
ゲスト:LOW IQ01、キリンリーハイ
ゲスト:LOW IQ01、MANAMI
ゲスト:大越 愛美、ジュン・ランボルギーニ
ゲスト:村松徳一、伊藤陽菜
ゲスト:村松徳一、早坂寛敏(Ys Ray)
ゲスト:香織、岸辺紗采
ゲスト:共演者有り