藤井風、米津玄師、野田洋次郎(RADWIMPS)、Aimer、ハナレグミ、レキシ……yui率いるFLOWER FLOWERのメンバーであり、EGO-WRAPPIN’に参加しながらも、多くの作品に関わるベーシスト・真船勝博に迫った【インタビュー連載・匠の人】
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■死ぬまでに20曲くらい作れたらいいなって思ってます
――FLOWER FLOWERは今年で結成から丸10年になりますが、音源もライブもそれぞれのプレイヤビリティがぶつかり合う刺激的なバンドに見えます。真船さんにとってはどんな場ですか?
最初はyuiちゃんが楽曲や歌詞に衝動的にぶつける感情にメンバー全員が乗っかって、がむしゃらにセッションして曲ができていた感じが大きくて。刺々しい曲も多かったんですが、年数を重ね、yuiちゃんも家庭を持ったことで、良い意味で刺々した部分もありながら、どちらかというと包み込むような方向になってきたと思ってます。コロナ禍でも作曲活動はしてますが、「このバンドはこうじゃなきゃいけない」っていうのがないのがFLOWER FLOWERの強みだと思ってます。例えば、「このバンドはこういう方向性です」っていうわかりやすさがあれば、それを目指して曲を作り、違ったらまたやり直せばいいですけど、FLOWER FLOWERはそうではなくメンバーそれぞれの音楽性が活かされて素直にできた曲がすごく良いんですよね。でも、世間からするとイメージが湧きにくいバンドだとは思います。EGO-WRAPPIN’もそういうところがあるかもしれないです。世間的には昭和歌謡のイメージがあるのかもしれないですが、自分が参加する前からいろんなジャンルをリスペクトしつつEGOらしく音楽をやっていて、今も進化し続けています。その上で、昔のスタンダード曲を演奏したり、思い切りフリージャズもやるバンドで、僕はそういうバンドで育ってきているので、FLOWER FLOWERがいろんな音楽にチャレンジするのは自然だし何より音楽的だと思っています。
――真船さん自身のヴィジョンとしては、3年ほど前のインタビューでは、「いつか自分の好きなアーティストを呼んでアルバムを作りたい」とおっしゃってましたが、今はどんなことを考えていますか?
この取材の前も曲を書いていたんですが、ベーシストのソロアルバムってなかなか難しいですよね。ボーカルを入れる/入れないの話になるし。僕はマーカス・ミラーみたいにベースが表立った曲も好きですし、一歩下がってアーティストのバックで弾くことも大好きなので、やりたいことが多すぎて、「じゃあ何をしたらいいんだろう」ってなるんですけど(笑)。今はアルバム単位で出すというよりは、配信で1曲2曲出す形が主流になってきてるので、あまり大げさに捉えずに、とりあえずその時自分が作りたいと思った曲をレコーディングしてこまめに出すのがいいのかなと思ってます。こっそりと曲の赤ちゃんみたいなものを色々作ってるんですが、自分ひとりで作り上げるのもいいし、この20年間いろんなミュージシャンと一緒にやってきたので、「この曲はこの人に弾いてもらいたい」とか「この人に歌ってもらいたい」という気持ちで作ってる曲もあります。死ぬまでに20曲くらい作れたらいいなって思ってます。
――真船さんはアニメやゲームのサントラにも関わられていますし、ボカロPのSAKURAmotiさんの曲をディレクションしたり、幅広い音作りもできる方ですもんね。
もちろんベースは大好きなんですが、家だとギターを弾いたり、鍵盤を弾いたり、打ち込みしてる時の方が楽しいんですよね。コロナ渦で美波さんというアーティストのアレンジ・プロデュースを手掛けたんですが、めちゃくちゃ刺激になりました。アレンジャー業やプロデュース業はまだ数は全然少ないんですが、風くんをはじめ20代の若い人たちからもらえる刺激はすごく大きくて。美波さんは歌の存在感・熱量と歌詞の個性が相まって、彼女でしか表現できない世界観を構築していますが、言葉が通じない海外の人にもちゃんと届いている。彼女と制作ができてすごく楽しいです。自分の中では楽曲をビルドアップするのは今でも不思議な感じがあって。例えば弾き語りのデモをもらったとして、家でアレンジを試行錯誤しまくって挫けてと、ということを繰り返しているうちに、無意識にフレーズを入れた瞬間に楽曲がバッと広がる時があるんです。しかもその生まれたフレーズを他のミュージシャンに弾いてもらうことによって何十倍も良くなる。僕は0から1を作るというよりは、1を50や120にする役割の人だと思ってるんですが、その過程が本当に楽しいんです。曲が曲になった瞬間といいますか。だから今は曲を制作する欲が強いですね。
――まだまだ伸びしろをお持ちなんですね。
40代半ばでまだまだ伸びしろがあってありがたいなあっていう感じですね。自分のモチベーション次第で何とでもなるんですよね。そのモチベーションの根底にはいろんな人との出会いがあって。年上年下関係なく、いろんな人とずっと音を出し続けたいというのが、この先ずっと目標ですね。僕が何のために音楽をやってきたかを振り返ると、単純に生業のためだけじゃなくて、結局種を撒いたり育てるポジションなのかなとなんとなく思っています。米津(玄師)くんとも最初、EGO-WRAPPIN‘でお世話になっていた方に米津くんが初めて人とレコーディングするタイミングで声をかけてもらって、僕とBOBOさんと米津くんと3人でスタジオに入って、メジャー1発目の「サンタマリア」と「百鬼夜行」を練習したこともありました。7年前ぐらいに、RADWIMPSの(野田)洋次郎くんが、Aimerちゃんの「蝶々結び」と酸欠少女さユりちゃんの「フラレガイガール」をプロデュースしましたが、その2曲に諸々のお手伝いで参加したんです。両方ともめちゃくちゃ良いテイクで、「良い化学反応が生まれたな」と思っていたら、洋次郎くんが「奇跡的なようで必然的な作品になりました。自分にとって真船さんはラッキージンクスのような方です」ってメールしてくれて、「嬉しいこと言ってくれるな」と思いました。風くんのライブも、この3年間sacchanとかと一緒に作ってきて、ここからまた次のステップに行ってもらいたいなという気持ちがあります。これからもラッキージンクスのような存在でいれたらいいなと思いますね。
――変化していくのは必要ですよね。
そうなんです。日本の音楽業界というのは、閉鎖的なパイをみんなで奪い合ってるようにも思えて。そうなると先細りしていく未来しかない。大切なのはいかに広げていくかで、かき混ぜて浄化して新しい空気を入れることが大事だと思っています。世代交代っていう意味合いもありますし、若い世代と中間の世代と上の世代が一緒に演奏することによって新しいサウンドが生まれたり、上の世代の音楽的な経験を共有したり。上の世代が下の子をどんどん引っ張っていったり、逆に下の世代から新しいパッションをもらうことで音楽を続けるモチベーションを互いにもらったりと、どんどん循環していくと思うんです。自分もその中のどこかにいて、ぐるぐる回りながら伸び伸びと音楽ができたらいいですよね。
――今の真船さんは、そういう状態に見えます。
自分がやりたいこととやっていることがやっとひとつになってきた感じがあります。今まではベースが好きだったけど、アレンジやプロデュース、ディレクションといった制作もだんだんできるようになってきて単純に嬉しいんです。その嬉しさが今のモチベーションですね。
取材・文=小松香里