「この作品が完成した時、どんな景色が見えるのか楽しみ」 松田凌に聞く、舞台『聖なる怪物』の魅力

2023.2.28
インタビュー
舞台

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新進気鋭の女性映画監督・甲斐さやかの初舞台作品『聖なる怪物』。教誨のために刑務所を訪れる山川神父と、自らを“神”と呼ぶ死刑囚・町月のやり取りを中心に、信仰心と神の存在を問いかける物語だ。山川神父を演じる板尾創路とともに主演を務める松田凌にインタビューを行った。

【STORY】

山川神父(板尾創路)は教誨のため週に2、3回刑務所を訪れている。死刑囚に宗教的アプローチで被害者への反省を促し、執行までの精神の安定を図る。
 
山川が新たに教誨を始めることになった死刑囚・町月(松田凌)は、かなり奇妙でマイペースな人間だった。山川はいつも通り奪った命について考え、反省するように説教するが、町月は「反省?僕がするわけがないでしょう。僕は『神』なのだから」と言うのだ。
 
時を同じくして、敬虔な信者の真知子(石田ひかり)の娘・舞花(莉子)が行方不明となり、山川は真知子の相談に乗ることになる。舞花は、オンラインゲームを通じて『神』という人物に呼び出された形跡があった。
 
それ以来、刑務所内にいる町月が予言した不可解な出来事が、山川のまわりで起きていく。山川を根本から試すような出来事が重なっていくことで、徐々に信仰心が揺らぎ、山川は葛藤する....
 


■稽古を通して色々なものを紐解いている感覚

――発表時に「何か」に吸い込まれるようにやりたいと思ったというコメントをされていました。そう感じた理由、この作品の魅力を教えてください。

実はまだ分かっていないんです。稽古を重ねる中で紐解いているような気がします。甲斐さんが生んでくださった作品の本当の先がどんな場所に行き着くのか。それが分かるのは本番初日か千秋楽か、はたまた分からないままなのかは僕にも分かりません。ただ、何かしらの答えを見出せるのかなと思います。少しだけ分かっていたことをお話すると、台本を読んだ時「この作品に携われる可能性があるなら飛び込んだ方がいい」という直感がありました。

――台本を読ませていただいて、松田さんが演じる町月は演じ方によって印象が変わりそうなキャラクターだと感じました。ご自身は町月からどんな印象を受けましたか?

まさにその通りで、人が一人ひとり違うように、演じる俳優によっても演じ方によってもいかようにもなってしまう役だと感じました。僕の中ではタイトルにもある通り“怪物”ではあるけど“聖なる”という言葉も当てはまるなと。

矛盾しているかもしれませんが、言葉にし過ぎるのも違うと思っていて。彼を言葉で伝えようとすると陳腐になってしまうんですよね。彼自身がこの世の理についての反論を哲学化していて、今見えている自分の存在や肉体すら古い考えだと思っている人。最も純粋なる人間が神なのかペテンなのかそれとも怪物なのか。町月はそういった役柄なんじゃないかと思います。

――稽古が始まって2週間ほど経ちます。現時点で、役作りについてはいかがでしょう。

俳優はリアルではなくできるだけリアルに近しいリアリティを求めるものだと思っています。日本や世界で有名になってしまった実在の死刑囚の方の資料を集めたり、そういった方々をモデルにした作品を観たりしました。ただ、各作品に散りばめられている描写からヒントをもらうことはあっても、僕自身が特定の誰かをモデルにすることはありません。この役においてそれをやるとすごく安直になってしまうと重々理解しているので。

今回僕は板尾さんと絡むシーンが多いので、作品の中での板尾さんとのバランスを考えた上で舞台に立たなきゃいけないと思います。照明や音楽、美術や舞台装置のなかで自分がどうあるかを考えていますね。

俳優なので、役作りにおいて潜ろうと思えばいくらでも潜れますし、今までもそういう手法でやってきました。ただ、今回は今までのやり方だと演じ切る事が難しいのかもしれないとも思っています。町月じゃないですが、自分の中で何か哲学めくくらい、これまでと違う方法論で形にしたいと思います。

■カンパニーから受ける印象は……

――W主演を務める板尾さんの印象を教えていただけますか?

板尾創路さんがどれほどすごい方かは、多分ほとんどの方が知っていると思います。芸人さんとしてもそうですし、俳優としても。僕自身、板尾さんが出演されている作品をいくつも拝見してきました。

僕が言うのはおこがましいですが、やっぱり唯一無二だなと思います。板尾さんに憧れても絶対になれないだろうし、誰も追いつけない。誰も届かない場所にいらっしゃるのかもしれないという印象も受けます。W主演は恐縮ですが本当に光栄で嬉しいですね。

――他のキャストさんの印象や稽古場でのエピソードがあれば教えてください。

石田ひかりさんも板尾さんも個性的ですし、朝加真由美さんと莉子さんは舞台初出演。それぞれが俳優として歩んできた道が違い、年齢もばらつきがあります。僕が近年出演した作品は、同年代またはとても歳の離れた方が多かったんです。全然違う道を歩んできた幅広い年齢・属性の5名が集まるとこんなに面白いのかと新鮮だったというか、学ぶべきことがとても多いと感じます。それぞれが演じる役も、普通だけどちょっとおかしいんですよ。それを各々の手法で演じているので、すごく楽しく刺激的な稽古場ですね。

――作・演出の甲斐さんも舞台は初めてです。普段出演されている舞台との違い、映像的に感じる部分などはありますか?

演劇に特化した方や舞台人が演出する舞台ではないなと感じることはありますね。

やりすぎてもあれだし、やりすぎないと何も見えないということは甲斐さんとも少しお話しました。 舞台って、偶像をちゃんと具現化しておかないとお客様に伝わらないことも多いですよね。映画とかだとすごく寄りで見せることも、逆に引いて全体を映すこともできる。目の動きなど、舞台だと最後列の方には見えない部分まで映像だと繊細に追えますよね。だから例えば、幽霊を描くとき、舞台では照明を駆使したり、人が何かを被って出てきたりしますよね。映像だと煙が一筋立つとか、風がその煙をふっとなびかせるだけで伝わったりもする。

そういったところを舞台で描こうとしているのが面白いし、そこにチャレンジできるのも嬉しいです。今はその塩梅を探っているところですね。幽霊というのは例えですが、それくらい繊細なものを板の上でどう表現できるのか。新国立劇場小劇場という場所で、照明や音楽、美術、舞台の技法を使って表現するのは面白い挑戦だと思います。

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