「この作品が完成した時、どんな景色が見えるのか楽しみ」 松田凌に聞く、舞台『聖なる怪物』の魅力

2023.2.28
インタビュー
舞台

■作・演出の甲斐さやかが描き出す世界に惹かれる

――今お話しいただいた部分が演出全体の見どころとして、松田さんが個人的に注目してほしい部分や見どころはありますか?

抽象的になってしまうんですが、甲斐さんの世界を感じてほしいです。多分、俳優はみんな、甲斐さんが描く世界に一度足を踏み入れてみたいと感じると思うんです。僕もそれでこの作品に惹きつけられるのかなと思いますが、それだけじゃない気もしています。 心の裏側に張り付いているものに手を突っ込まれるというか、手を差し伸べられるというか。琴線に触れるような瞬間もあって。

舞台上にろうそくなどのちょっとした仕掛けというか、繊細さを抽出したようなものがあるんです。観た方も「ん? これはなんだ?」と思うでしょうが、その「?」もすべて狙いというか。「?」をそのまま流してくださってもいいですが、受け取っちゃったら「もしかしたらこうなのかな?」と思うような鍵がたくさん散りばめられている。そういったところも含めて、他にない舞台だと思います。難解になってしまってすみません。明確に「ここが」と言いたいんですが……。

――確かに、台本を読み終えたあと、考え込みながら何度か読み返しました。観た方がどんな印象を受けるのか個人的にも気になります。

オリジナルなので、お客様は僕たちの舞台でこの作品に初めて触れてくださいますよね。先に台本を読んでいたらびっくりすると思います。例えばニール・サイモンやシェイクスピアなどは台本が販売されていますし、劇場で上演した作品の台本を販売していることもありますが、本を読むのと観るのでは印象が全然違う。この作品も文庫化したらいいなと思うくらい違うんですよ。それが舞台の魅力ですし、僕らが体現する意味でもあると思います。

――板尾さんが演じるのは神父で、キリスト教に縁がない方にとっては馴染みのない言葉も出てきます。観る方が物語に入りやすいように押さえておくといい知識などはありますか?

ほとんどはお芝居で伝わると思うので、そこまで厳密なものはありません。ただ、言われた通り馴染みのない言葉も出てきます。神父さんが死刑囚にあやまちを悔い改めさせて天に導くために神の教えを説くことを「教誨(きょうかい)」と言うことだとか。また、作中で大きく出てくるわけではありませんが、死刑囚が処刑されるまでの流れなどは知っていて損はないというか、物語が分かりやすくなると思います。あと、僕が演じる町月は哲学的でちょっと難解な言葉を使います。ただ、知らないと分からないということはないのでフラットに観にきていただいて大丈夫です。観た方の受け取り方によって印象は全く変わるでしょうし、観てから「あの言葉はなんだろう」と調べて紐解いていただくのもありだと思うので。

■町月との共通点は神を信じていないところ

――ちなみに、登場人物たちは山川神父の元に告解に行っています。身近に教会があったら話しに行きたいことがあれば、話せる範囲で教えてください。

ありすぎて。僕は地獄行きだと思うので、天国に行くことは諦めています(笑)。

もちろん、法を犯したり人道を外れた行いをしたりは神に誓ってしていません。ただ、小さな積み重ねとして、悔い改めることはたくさんありますし、それがない人生はつまらないとも思ってしまうというか。人はあやまちを犯すものだと思うんです。

どこからが「人道を外れた行い」かのラインは読んでくださる皆さんにお任せしますが、僕は自分の中のラインを越えると一切許せなくなってしまうんです。でも、それとは別のところの話で、例えば僕が取材に遅刻してしまったとして、それだけでも関係者の皆さんに迷惑をかけますよね。仮にライターさんやカメラマンさんがすごく大事な用事があるなかで取材を引き受けてくれたのに僕が大遅刻してきたとなったら、それだけで人生が少し変わってしまう。そういうことを考え始めると、僕は信じられない罪を犯してきてますよ。

――なるほど(笑)。

そこで「じゃあ次からどうするか」を考えるのが大事ですよね。織田信長とかの時代は人生50年だったのが今は80年。その中で一度もあやまちを犯したことがありませんという人間がいたら、嘘だと思います。「神に誓って嘘をついていませんと言えますか?」と聞きたいですね(笑)。なので、懺悔したいことはありすぎて追いつきません。

ただ、自分があやまちを犯してしまった時に、ちゃんと懺悔を聞いてくれる人たちが周りにいる人間ではありたいです。世のため人のために行動するというと大きな話になりますが、少なくとも誰かにとって良き影響を与えられる人間でありたい。本作のキーワードの一つに「天秤」があるんですが、自分を天秤にかけた時、善き行いが少し重くなっていたら、天国に行けるかもしれないですね。

――なるほど。台本を読むと、山川神父と町月の対話で価値観や信じていたものが揺らいでいく感覚があったので、今のお話を聞きながら松田さんが演じる町月が楽しみになりました。

遠からず近からずの役だと思います。でも、誰にとってもそうな気もするんですよね。吸い込んでくるから、町月を追いかければ追いかけるほど怖くなりますよ。

一番合致したのは神を信じていないところ。町月は自分が神だと言っていて、僕は神なんて信じていないのでそこは違いますが。 「そんなものいないだろ」と思っているわけじゃなく、神様を信じることで自分の中に甘えが生じることが嫌。僕は神社に行って神様にいくつもお願いするのってどうなのかなって思うんです。毎日普通に生きられるのは幸せなことで、それについて感謝することは大事だと思います。でも、感謝も述べずに「あれとこれとこれをお願いします」はおこがましい気がして。都合のいい時だけ神頼みするのが嫌なんです。だから僕の「信じない」は、頼りすぎないという意味です。

でも、事故や病気から奇跡的に助かったとか、逆に不幸があった時とか、ちらっと“神様”がよぎる瞬間はある。だから神様はどこかで見てくれているのかもしれないし、敬愛していた祖父とかが亡くなって、神様のもとに近づけていたら嬉しいとも思うし。祖父に見守られていると思うのは、僕にも信仰心のようなものがあるからかもしれません。

――最後に、観にくる方へのメッセージをお願いします。

この作品に身を投じて、今までになかった人生観や糧をいただいていると稽古の段階から感じています。この作品が完成し、本番で皆さんに観ていただく時に自分がどんな面持ちをしていて、どんな景色が待っているんだろうとワクワクしています。僕が今まで30年生きてきた中で分からなかった、感じたことのなかったものを感じているので、観にきてくださった皆様にも、今までにない感覚を持って帰っていただけるんじゃないかと思います。

このインタビューでちゃんとした答えを出せなかった質問の答えは、おそらく舞台上にあると思うので、ぜひ足を運んで確かめていただきたいです。観にきていただいて損はないと思いますので、よろしくお願いします。

取材・文=吉田沙奈 撮影=福岡諒祠

公演情報

『聖なる怪物』

■作・演出:甲斐さやか
■キャスト:板尾創路 松田凌/莉子 朝加真由美/石田ひかり
  
<公演日程>
■2023年3月10日(金)~3月19日(日)
 会場:新国立劇場 小劇場

<料金>
S席/8,500円 バルコニー席/6,500円
※未就学児入場不可
※全席指定

<公式サイト>https://thesacredmen.com
<公式Twitter>https://twitter.com/thesacredmen

■主催・企画・製作:ミックスゾーン
  • イープラス
  • 松田凌
  • 「この作品が完成した時、どんな景色が見えるのか楽しみ」 松田凌に聞く、舞台『聖なる怪物』の魅力