9年ぶり3度目の難役に挑む浦井健治にインタビュー ミュージカル『アルジャーノンに花束を』は「人生のバイブルのような作品」
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「絶対に新しい花束をお客様に届けるんだ」
ーー今回は演出もキャストも大きく変わります。浦井さんは演出の上島さんとは別作品で演出・振付等ご一緒されてきていますが、どんな方ですか?
今や2.5次元の世界を牽引していく方でもあるんですが、ダンサーとしての姿を知っている僕としてはうえっしーさんがどんどん進化していく様を感じています。その上で今回一緒に作品を作れるので、エンターテインメント性やお客様への見せ方など、うえっしーさんならではのビジョンを持って紡いでくださるんじゃないかなと。2023年という今の時代の切り取り方で、作品に色付けしてくださるのかなと思っています。
ーー新キャストとして東山義久さんもご出演されますね。
森新吾が所属していたDIAMOND☆DOGSのリーダーであるよしくん(東山)が、チャーリイにとって一番大切な父親という存在をはじめ、ストラウス博士、パン屋の工場長といった役で出演してくれます。きっと新吾へのリスペクトも込めて演じてくれると思うので、よしくんの存在は僕にとってとても大きいですね。
ーー東山さんの表現者としての魅力はどんなところに感じますか?
まずダンサーとしての妖艶な色気や切れ味があり、お芝居に熱くて人情の人という印象があります。絶対に仲間を見捨てない兄貴肌なところがあって、でも相手にされないとすごく拗ねちゃうさみしんぼ(笑)。こんなこと言ったら怒られちゃうかなあ(笑)。だからよしくんがいればきっと現場が楽しくなるだろうなって。うえっしーさんとよしくんはダンサーという表現者としての共通点もあるから、演劇としてはもちろん、エンターテインメントとしても作品の核のような存在になってくれるんじゃないでしょうか。
ーー浦井さんはビジュアル撮影時のコメント動画で「この作品に出演することは怖くもあり、臆病にもなる」とおっしゃっていました。どういった点でそう感じるのでしょうか?
先程「チャーリイの体感が残っている」と話しましたが、初演・再演時は荻田さんが一挙手一投足演出してくださって、稽古場にチャーリイ・ゴードンが2人いるような状況だったんです。もちろん今回初めて観るという方もいらっしゃると思いますが、荻田さんと作ってきたチャーリイや、それが好きだと言ってくださるお客様が持つイメージがあると思います。そこに、ある意味で責任や怖さを感じるんです。
自分の中に当時のチャーリイが残っているのと同時に、演劇的に重要視したいポイントが変わってきているのも確かで。“パンドラの箱を開ける”じゃないですけど、今回のカンパニーだからこそできるものを探していかなきゃいけないなという見えない不安があります。だけど、絶対に新しい花束をお客様に届けるんだという想いを持って、そして舞台上ではきっと新吾が見守ってくれていると信じてやりたいなと思います。
ーー9年ぶりに挑むチャーリイは、どんなところをポイントにしていきたいと思いますか?
初演の際、ある施設に行かせていただいて、そこにいる方たちとお会いすることができました。そこで彼らの純粋さ、まっすぐさ、笑顔の素敵さ、集中力の高さ、そういったものをすごく感じて、それらをチャーリイを演じるにあたって大切にしようと思って臨んだんです。
いろいろなことを経験した今、上島さんと一緒に初演・再演の映像を観る機会があったんですね。そのとき感じたのが、これは家族のストーリーであり、チャーリイの周りにいる人たちの群像劇であり、社会をあぶり出すような問題提起の側面が強くあるということ。個人的にも時代の変化を感じています。2023年の今、作品の持つ意味合いも改めて考えさせられますし、この作品を上演することの責任も感じます。きっとお客様もより多感になっているんじゃないでしょうか。
ーーチャーリイを演じる上で、浦井さん自身の想いも大きく変化していますか?
言葉ひとつとっても、大切にしたいことや伝えたいことが本当に変わってきているんだろうなって思います。それは僕自身の経験上での変化もあるかもしれないし、社会が変わったというのもあると思うんです。ダニエル・キイスさんが当時SF作品として書いたお話が、以前より現実に近くなっているような面もあると思います。そう考えたとき、もしかしたらダニエル・キイスさんは最初からSFじゃなくて人間を描いていたのかもしれないな、という新たな気付きもありました。