「生きるパワーを劇場で感じて明日への糧に」2020年のリベンジを胸に、ミュージカル『RENT』がついに開幕! 囲み取材&ゲネプロレポート
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以下、3月9日(木)のゲネプロの模様をレポートする。この日のWキャストは花村想太(マーク)、古屋敬多(ロジャー)、遥海(ミミ)、加藤潤一(コリンズ)、百名ヒロキ(エンジェル)、鈴木瑛美子(モーリーン)が務めた。
1991年、ニューヨーク・イーストヴィレッジ。映像作家のマークは、友人で元ロックバンドのボーカル、ロジャーと古いロフトで暮らしている。夢を追う彼らに金はない。家賃(レント)を滞納し、クリスマス・イヴにもかかわらず電気も暖房も止められてしまう。恋人をエイズで亡くして以来、引きこもり続けているロジャー自身もHIVに感染しており、せめて死ぬ前に1曲後世に残す曲を書きたいともがいている。ある日、彼は階下に住むSMクラブのダンサー、ミミと出会うが彼女もまたHIVポジティブだった。一方のマークはパフォーマンスアーティストのモーリーンに振られたばかり。彼女の新しい相手は女性弁護士のジョアンヌだ。仲間のコリンズは暴漢に襲われたところをストリートドラマーのエンジェルに助けられ、二人は惹かれあう。季節は巡り、彼らの関係もまた少しずつ変わってゆく。出会い、衝突、葛藤、別れ、そして二度目のクリスマス・イヴ……
冒頭、映像作家の青年マークがビデオカメラを手に観客に語りかける。その瞬間から我々はマークと共に登場人物たちが生きる1年の日々を追っていくことになる。マークは本作における主人公であり、同時に傍観者でもあるのだ。彼は周りの友人たちに巻き起こる出来事をカメラを通して見つめ、受け止め、自分自身を模索し続けていく。
そんな難しい立ち位置のマークという役を、花村は力みのない自然体な演技で見事に成立させていた。「RENT」「What You Own」といった疾走感のあるロックナンバーでは、突き抜けるような爽快な歌声を劇場に響かせる。ロジャーと共に奏でる激しくも繊細なハーモニーは必聴だ。
過去を引きずり心を閉ざしたロジャーと、今という瞬間を懸命に生きるミミ。一見対照的な2人だが、共にHIV陽性であることがきっかけで少しずつ距離を縮めていく様子が「I Should Tell You」「Without You」といった美しいバラードと共に描かれていく。
本作初参加となる古屋は、ハスキーで色気のある歌声でロジャーを好演。どこか哀愁漂う眼差しが印象的だ。一方の遥海は、力強いパフォーマンスでエネルギーに満ち溢れたミミを体現していた。3階建てのセットをフルに使った迫力の「Out Tonight」で、その魅力を堪能できるだろう。
自由奔放なアングラパフォーマーのモーリーンと、真面目な弁護士ジョアンヌという異色カップルからも目が離せない。モーリーン役の鈴木は、抗議パフォーマンス「Over The Moon」で独特な間合いを使って笑いを取り、抜群のコメディセンスを発揮していた。本作初参加となる塚本直は、キビキビとした立ち居振る舞いで少々神経質なジョアンヌを表現。ありのままを受け入れて欲しいと2人が火花を散らす「Take Me Or Leave Me」では共に圧巻の歌声で感情を爆発させており、聴き応えたっぷりだ。
出会った瞬間から着実に愛を育んでいく姿が微笑ましいのは、エンジェルとコリンズだ。ストリートドラマーかつドラァグクイーンのエンジェルを演じた百名も本作初参加。一際派手な衣装を着こなし、しなやかな足さばきのダンスで魅せてくれた。加藤は大きく温かな愛でエンジェルを包み込むコリンズを演じた。コリンズが静かに歌い始める「I’ll Cover You(Reprise)」からは、エンジェルへの全身全霊の愛が伝わってきた。2人が互いを思いやる姿は、純粋に人を愛して生きることの尊さを改めて教えてくれる。
マークとロジャーのところに家賃(レント)を取り立てに来るなど、何かと対立するシーンが目立つベニー。しかし彼も元々はマークたちと同じように夢を追いかける仲間だった。令嬢と結婚してお金を手にした今、違う形で夢を実現させようと葛藤する様子が吉田広大が演じるベニーからは垣間見える。
登場人物一人ひとりの生き様はもちろん、キャストたちが一体となって歌声を重ねる「Life Support」「La Vie Boheme」「Seasons Of Love」といった名曲も本作の見どころとして外せない。特に2幕冒頭に全キャストで贈る「Seasons of Love」は、客席に語りかけるような歌詞やソリストの魂の叫びのような歌声が全身に響き渡ってくる。路上で暮らすホームレス、ライフカフェの客、HIVのライフサポートのメンバー、電話をかけてくる親たちなど、アンサンブルキャスト陣も様々な姿で奮闘していた。
HIV、ドラッグ、貧困……多くの困難が立ちはだかる時代をエネルギッシュに生き抜く登場人物たちの姿に勇気をもらえるはずだ。劇場で溢れんばかりの生命力を感じ、「No Day But Today」というメッセージを胸に刻んでほしい。
上演時間は約2時間45分(休憩あり)。東京公演は4月2日(日)まで、その後は大阪、愛知と4月13日(木)まで公演が続く。
なお、日比谷・シアタークリエでは公演当日に「エンジェルシート」と称して最前列のセンターブロック10席が抽選販売される。本公演の
取材・文・写真=松村 蘭(らんねえ)
公演情報
■日程:2023年3月8日(水)~4月2日(日)
■会場:シアタークリエ
■演出:マイケル・グライフ
■日本版リステージ:アンディ・セニョールJr.
【マーク・コーエン】
花村想太/平間壮一 (Wキャスト)
【ロジャー・デイヴィス】
古屋敬多(Lead)/甲斐翔真 (Wキャスト)
【ミミ・マルケス】
遥海/八木アリサ (Wキャスト)
【トム・コリンズ】
加藤潤一/SUNHEE (Wキャスト)
【エンジェル・デュモット・シュナール】
百名ヒロキ/RIOSKE (Wキャスト)
【モーリーン・ジョンソン】
佐竹莉奈/鈴木瑛美子 (Wキャスト)
【ジョアンヌ・ジェファーソン】 塚本直
【ベンジャミン・“ベニー”・コフィン3世】 吉田広大
チャンヘ 長谷川開 小熊綸
ロビンソン春輝 吉田華奈 Zinee