猿之助と愉快な仲間たち 第3回公演『ナミダドロップス』が開幕 オフィシャルレポート&舞台写真が到着
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市川猿之助がスーパーバイザーをつとめる演劇プロジェクト「猿之助と愉快な仲間たち(以下、えんゆか)」の第3回公演『ナミダドロップス』が、2023年3月8日(水)に東京・神田明神ホールにて初日を迎えた。
本プロジェクトは、2021年に「コロナ禍で活躍の機会を失った若手俳優に活躍の場を」とのコンセプトのもと旗揚げされた。以来、歌舞伎俳優だけでなく、ストレートプレイ、ミュージカル、新国劇、大衆演劇、アクション、ダンスなど多様なバックボーンをもつ俳優が集まり公演を重ねる。第3回となる本公演では、脚本に藤倉梓を迎え、市川青虎が演出を手掛ける。出演は、市川猿之助、松雪泰子、下村青、嘉島典俊、石橋正次ほか。鶴屋南北の『金幣猿島郡』とヴィクトル・ユゴ―の小説『ノートルダム・ド・パリ』を融合した物語となる。
物語の舞台は、戦乱が続き荒廃した日本らしき国の首都。街には鐘楼堂があり、そこを預かる権力者で聖職者の帯刀(たてわき)は、警備隊長の陽光(はるみつ)らを率いて圧政を強いている。鐘楼堂には、清日古という鐘つき人が密かに暮らしている。生まれついての“近寄りがたい”容姿から、帯刀の庇護の下、鐘をつき、祈り、ご飯を食べ、夜にだけ街を歩き、誰に会うこともなく生きてきた。
戦時下における一時の祭りの日、街に「キサラギ舞踊団」が現れる。一団は流れ者の劇作家・玄(げん)の書いたパフォーマンスショーで人々を楽しませた。そして踊り子の翡翠(ひすい)が、美しい歌声を聞かせた。その声に、姿に、心を震わせる者たちがいた。帯刀、陽光、清日古だった。聖職者にもかかわらず翡翠を求める気持ちをおさえきれない帯刀は……。
暗転した場内に鐘の音が響き、舞台に無数の黒い人影が現れる。歌舞伎の渡り台詞のような言葉が、降り始めの雨のような詩的なテンポでステージに広がる。猿之助が演じる清日古は、無垢な眼差しの奥に複雑なアイデンティティを内在し、清日古の孤独を際立てる。モノローグでは、あどけなささえ感じさせる清らかな声を聞かせ、後半には気迫を迸らせた。嘉島典俊の玄は、ブレることのないキャラクターと、全身から溢れる明るさで、狂言回しのように物語を牽引しつづけた。翡翠役は松雪泰子。ベールの先まで行きわたる説明不要の美しさで本作を彩る。帯刀に詮議される場面では、翡翠は愛があるからこその強さを発露し、帯刀が秘めていた愛ゆえの弱さを引きずり出す。その帯刀を演じるのが下村青。悲痛なまでの苦悩、怒りを1人のキャラクターの中で振り幅大きく煮えたぎらせる。こんなにも美しい闇があるのか、と思わされる怪演で、ドラマを佳境へと追い込んでいく。本プロジェクトの第2回公演で初めて舞台を経験した大知は、今回陽光役に大抜擢され、品のある物腰でキーパーソンを演じる。本作に流れる『金幣猿島郡』のエッセンスを繋ぐ。
民衆は生き生きと、警備兵たちはソリッドな空気で物語に緩急をつけ、ダンサーと若手歌舞伎俳優によるキサラギ舞踊団のダンスシーンは華を添えていた。劇中には、レモネード、ドロップス、タルト・タタンなど甘い言葉を散りばめながら、メルヘン趣味にとどまらない普遍的な人間の業、それでも生きることの意味を問いかける。明らかになる過去の因縁、愛に動かされた人間たちの選択、そして怒涛のクライマックスへ……。
上演時間は、途中休憩を含み2時間30分。東京公演は3月14日(火)まで。その後、3月19日(日)に京都芸術劇場春秋座、3月21日(火・祝)に愛知・岡崎市民会館あおいホールにて。また愛知公演では『岡崎市民会館 開館55周年記念 岡崎市特別公演』と題した舞踊公演で、『操り三番叟』、『素踊り(上、供奴・下、藤娘)』、『元禄花見踊』を披露する。
市川青虎(演出)コメント
人生の選択の物語だと思っています。劇中のように、人生の試練をレモンに例えるなら、そのまま噛めばただ酸っぱいだけ。でも甘露を注いでいけばレモネードにもなります。『猿之助と愉快な仲間たち』というプロジェクトもまた、コロナ禍という困難の中で猿之助さんが用意してくれた甘露。試練でありチャンスです。ご覧くださるお客さまにも、お一人おひとりの人生と選択をふり返っていただけるような作品になれば幸いです