音楽劇『遠くに街がみえる』が本番間近~音楽監督 大谷圭介.、作・演出 高杉征司、企画制作 上田晶人に話を聞いた
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音楽劇 「遠くに街がみえる」稽古風景 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
京都府立府民ホール “アルティ” が制作する創作音楽劇『遠くに街がみえる』の本番が目前に迫っている。
この公演は、劇作家にして演出家の高杉征司が書き下ろした物語をガイドラインとして、稽古場での子供たちの声や動きを反映し、彼自身が台本として作り上げたものに、作曲家 若林千春が曲を付けた完全オリジナルな音楽劇だ。出演者はオーディションで選ばれた小学校4年生から高校3年生までの22人にプロの俳優・声楽家たち10名、そして京都にゆかりのあるプロの音楽家が6人の、計38人。
音楽劇 「遠くに街がみえる」稽古風景 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
「コロナで制約が多い中、同級生同士しか接する機会が無い子供たちに、プロフェッショナルな大人も入った形の舞台作りを経験させてあげたいと思った」と語る企画制作担当の上田晶人。そして、オペラ歌手として活躍する傍らで、京都市少年合唱団などで子供たちに合唱指導する大谷圭介.は「演奏家としてのキャリアも大切ですが、それ以上に自分の力を未来に投資したい」と力を込める。この舞台のために作曲家 若林千春が書き下ろした音楽を生演奏するのは、人気ヴァイオリニスト石上真由子をはじめとする京都に所縁のある音楽家6人。京都から、完全オリジナルの新作音楽劇が誕生する。
音楽監督を務めるオペラ歌手の大谷圭介.と、作・演出を務める劇作家にして演出家の高杉征司、それに企画制作の上田晶人に話を聞いた。
音楽劇 「遠くに街がみえる」稽古風景 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
―― 上田さんの呼びかけで、多くの人が集まり、画期的な音楽劇が誕生しようとしています。
上田晶人 22歳で(公)京都文化財団に入社し、劇場に勤務し、以来ずっと作品制作に携わって来ました。その立場から、コロナで閉塞した状況に置かれた子供たちに劇場の素晴らしさを伝えたいと思い、今回の音楽劇を作る発想が生まれました。一般に劇場は、作品を見る場所ですが、一方では作品を作るための場所でもあり、それを通して育つための場所でもあります。未経験の子供でも、舞台に立つという事は自分の可能性を形にすることです。もちろん作品のクオリティは大切ですが、創作過程で先生や先輩に叱られたり、皆の前で恥ずかしい思いをした経験は何にも代えがたいものです。半年後、本番を終え、日常生活に戻った時に自分の成長に気付けたら、これほど素晴らしい事はないのではないでしょうか。
音楽監督 大谷圭介.、企画制作 上田晶人(左より) (C)H.isojima
―― 上田さんの熱い呼びかけに呼応する形で、大谷さんや高杉さんがチーム上田に集まって来られたという事ですね。
大谷圭介. 上田さんと仕事をするのは10年ぶりですが、熱い方です(笑)。私も京都市少年合唱団で合唱指導をしているので子供たちと接していますが、コロナで合唱が出来ないのは大問題でした。子供たちにとって、声が出せないのは、彼らの成長に関わる問題です。そんな時に上田さんからこの企画のハナシを聞いて、心底ありがたいなぁと思いました。こんな時だからこそ、子供たちがイキイキと自分を表現できる本物の舞台に出会えることは貴重です。
オペラ歌手(バリトン)大谷圭介. 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
―― 大谷さんは、関西二期会の「リゴレット」ではタイトルロールを演じられるなど、オペラの世界でも大活躍をされながら、後進の指導にも力を入れておられます。
大谷 自分の演奏家としてのキャリアも大切ですが、それ以上に自分の力を未来に投資したいと思ってやらせて頂いています。今回出演するのは、全員オーディションに通った子供たちなので、積極性があり、体力、精神力ともにポテンシャルは高い子ばかり。指導者としてやりがいを感じます。今回、このために作曲された若林千春さんの曲が本当に素晴らしいです。稽古の段階から、若林さんの手書きの譜面をそのまま使っているので「自分たちのためにまさに今、この曲を作曲家の先生が書いてくれたんだ!」というのが子供たちにも伝わります。これは大変貴重な体験です。子供たちに望むことは、技術に走るのではなく、魂を込めて身体中の全細胞を震わせて一生懸命に歌ってほしい。それだけですね。
作曲家 若林千春 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
音楽劇 「遠くに街がみえる」稽古風景 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
―― 今回の音楽劇のために高杉さんが台本を書かれたのですね。
高杉征司 ガイドライン的に物語は設定していました。そこにワークショップで子供たちの声質や性格などを見ながら役を割り振って、完全な宛書を試みました。物語の舞台は、とある街の学生寮。そこに集った子供たちの出会い、交流、苦悩、そして成長を、四季を通して描いています。日々の稽古の中でも子供たちと接しているとアイデアが湧いてきて、随時感性に響くものに書き換えたりしていきます。子供たちは吸収力が凄いですし、楽しむ力が凄いです。彼らのリアルな感情というか、生々しさが見えるものになるといいですね。劇場は誰にとっても特別な場所で、目に見えない息吹などを感じられる素敵な舞台。色々と行き詰まり、悩んでいても、それを乗り越えた時に以前と違った自分に気づく。舞台を通してそんな経験をしてもらいたいです。子供たちには舞台上をしっかりと等身大の自分として生きてほしいと思います。私も彼らと行動を共にして、人としても演出家としても成長させてもらえればと思っています。
劇作家・演出家 高杉征司 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
―― 音楽は生演奏ですね。
大谷圭介. 京都に所縁があり、全国で活躍中の音楽家が6名出演します。ヴァイオリンの石上真由子さん、チェロの上森祥平さん、フルートの若林かをりさん、クラリネットの上田希さん、ピアノの船橋美穂さん、打楽器の宮本妥子さんたち6人は、舞台の中央で演奏し、その周りで子供たちがお芝居をします。奏者が楽器を弾く表情もお客様から良く見えます。奏者も芝居を意識し、そのシーンに応じた表情で楽器を演奏し、時には芝居にも参加をする。そういう芝居心のある素晴らしい音楽家6名が集結しましたので、彼らにもご期待ください。そしてなんといっても若林千春さんの音楽が本当に素晴らしいです。これは劇場で観て、聴いて、体験することに意味のある作品です。ぜひお越しください。
石上真由子(ヴァイオリン) 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
上森祥平(チェロ) 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
若林かをり(フルート) 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
上田希(クラリネット) 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
船橋美穂(ピアノ) 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
宮本妥子(打楽器) 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
上田晶人 子供たちには今回の舞台を経験することで、劇場は特別な場所だと思って貰えると良いですね。将来、彼らがお客さんとして劇場に来ることがあれば、事務所に顔を出して「あの時は大変だったけど、楽しかったですね!」という話が出来ると素敵です。それが出演者としてだったら格別です(笑)。人の繋がりは宝物です。今回一緒にやっていただいている大谷さんや高杉さんとの繋がりもそうです。どうぞ、舞台上で弾ける等身大の子供たちを観に来てください。お待ちしています。
皆様のお越しを、ここ「アルティ」でお待ちしています。 写真提供:京都府立府民ホール “アルティ”
取材・文=磯島浩彰
公演情報
3月18日19時開演(18:30開場)