加藤シゲアキ、“書けない”作家の苦悩と奮闘を全力で表現 『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』囲み&フォトコールレポート
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(左から)マキノノゾミ、平祐奈、加藤シゲアキ、金田明夫
2023年4月1日(土)より、新国立劇場 中劇場にて、パルコ・プロデュース2023「エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」が上演される。
映画監督としても活躍するフランスの若手劇作家・演出家アレクシス・ミシャリクがトム・ストッパードの映画「恋に落ちたシェイクスピア」に触発されて生まれた本作。2016年にパリで上演するやいなや大ヒットを記録し、ロングラン公演を経てミシャリクの出世作となった。2017年にはフランス演劇界最高の栄誉と言われるモリエール賞で7部門にノミネートされ、作品賞、脚本家賞、演出家賞など5冠を達成。舞台版の初演から2年後の2018年にはミシャリク自身の手で映画化された。
今回、演出を務めるのは、劇作家・演出家として数多くの作品に携わっているマキノノゾミ。“書けない”劇作家エドモン・ロスタン役は、NEWSとしての活動に加え、作家としても活躍する加藤シゲアキ。さらに、大谷亮介、平祐奈、細田善彦、福田転球、三上市朗、土屋佑壱、枝元萌、佐藤みゆき、章平、安蘭けい、金田明夫と、個性と実力を兼ね備えたキャストが勢揃いし、総勢12人で約50もの役を演じ分ける。
舞台は1897年パリ。2年間にもわたるスランプに陥っている崖っぷちの劇作家エドモン・ロスタン(加藤シゲアキ)に、大女優サラ・ベルナール(枝元萌)からの依頼が舞い込む。偉大な喜劇王コクラン(大谷亮介)に戯曲を書くことを約束するが、その舞台の初日はなんと3週間後!
ムッシュ・オノレ(金田明夫)のカフェで構想を練り、17世紀に実在した剣豪詩人、シラノ・ド・ベルジュラックを主人公にした話を書き始めた。衣裳係のジャンヌ(平祐奈)に恋する友人の俳優レオ(細田善彦)の恋愛相談に乗り、訳あり主演女優(安蘭けい)とプロデューサー兄弟(三上市朗・土屋佑壱)の気まぐれに振り回され、妻ローズ(佐藤みゆき)に怒られ、ありとあらゆるトラブルに見舞われながら、舞台監督のリュシアン(福田転球)やコクランの息子ジャン(章平)たちと稽古をはじめるが……。
初日を前にフォトコールと囲み取材が行われ、囲み取材には加藤シゲアキ、平祐奈、金田明夫、マキノノゾミが登場した。
ーーいよいよ初日を迎えます。
加藤:ドタバタコメディなんですが、稽古の現場も実際にドタバタしていました(笑)。本当に初日を迎えられるのかという状態でしたが、ひとまず全員で初日を迎えられてほっとしています。「抱腹絶倒のコメディ」って誰かがチラシに書いちゃったから。
ーーそれはマキノさんが書いたわけではないんですね。
マキノ:違います。すごいプレッシャーでした。
平:“エドモントレーニング”と言うくらいの熱量でした。稽古の時に、加藤さんが着ているジャケットの色が変わっちゃうくらい汗をかいていました。
加藤:絞れるんじゃないかって思ったね。みんな痩せてきてると思います。
金田:何十年も役者をやっていますが、これだけドタバタするのは初めての経験。場面転換も本当に多くて、台本をいただいた時に映画と勘違いするくらいでした。フォトコールは一部のシーンだけでしたが、実際は2時間続きますから。ジェットコースターなんてもんじゃないですね。
加藤:12人で50役以上ですからね。エドモンはずっとエドモンですが、皆さん着替えも多いです。
マキノ:早着替えが全員で200回以上あるんじゃないかな。
加藤:表もドタバタですけど裏はもっとすごいですよ。
金田:バックステージも面白いです。
平:覗いてみて欲しいくらいです!
金田:今は緊張してるからいいけど、ほっとしたときに何が起きるか怖いですよね。
加藤:一回稽古場でありましたよね。「金田さん出番です!」ってことが(笑)。
マキノ:キャストも裏のスタッフさんもみんながフル稼働ですからね。
ーーマキノさんは今回適材適所という感じですが、自信はありますか?
マキノ:自信はない、って言っちゃ駄目なんですけど(笑)。喜劇って登場人物たちは追い込まれていて、周りから見ていると面白いっていうのが基本。文字通り追い込まれています。僕ら全員、誰も余裕がないです。だから相当面白いと思いますね。
ーーエドモンは詩人で劇作家。演じる加藤さんは、普段の自分に似ていると思う部分はありますか?
加藤:ないですが、稽古から帰ると締め切りに追われているので。休みなくエドモンをやってます(笑)。エドモンは2年書けておらず、僕にはそういった経験はありませんが、スランプに陥った時の気持ちは分かると思います。マキノさんもそれがすごく分かる方ですし、実際に3週間で芝居をやられたことがあると聞いて。
マキノ:劇団をやってるとよくあるのでリアルに分かるけど、分かるのと表現できるのは違います(笑)。多分、お客さんは2時間を通して観たらなんだか知らないけど感動すると思うんです。「よくやってるな」と思ってもらえたら。
ーーセリフのテンポや掛け合いのスピードがすごく速いですよね。
加藤:フランスの上演時間に限りなく近づけたいというマキノさんの強い思いがあってこうなりました。
マキノ:「フランス語って喋っていて気持ちのいい言語だよ」というふうに見えるんです。日本語でもそれに近い身体感覚を持ってやることをテーマにしています。翻訳劇の場合、上演時間がすごく伸びちゃうことがあるんですが、それはなんだか負けた気がする。気分だけでもフランス人になりきってやれないものかと。
加藤:今まで使ったことのない言葉もあるし、独特の言い回しが多い。「なんでこんな言い回しするんだ!」と作家としては思います(笑)。でも戯曲に沿ってやるものですから。コメディなので、追い込まれてシリアスになっていくんじゃなく「やばい!!」って言わなきゃいけない。家で書いているときは言えないから気持ちいいですね(笑)。ここで「どうすんだ!」ってストレス発散しています。
マキノ:心の声がダダ漏れだからね(笑)。
加藤:モノローグこんな大きい声で言うんだって思いますね(笑)。
ーー加藤さんと金田さんのカフェでのやりとりもすごく心地よかったです。
金田:マキノさんに言われたんですが、僕ら役者が心地いいテンポだと、見ている方はちょっとまったりするそうなんです。だから常に先行するんだと言われて、繰り返しているうちにだんだん気持ち良く言えるようになってきました。
加藤:最初は無理してセリフを早くしてましたよね。
金田:これは非常にいい経験だったと思います。
ーー加藤さんは、髭には慣れましたか?
加藤:慣れないですね。喋りづらいですし汗もすごいし。でも実際のエドモンになるべく寄せたくて、いまだに試行錯誤しています。通し稽古ができていなくていきなり本番なので、どうなるかまだ分かりません。追い込まれていますが、クリアした時の快感はあります。それと、155年前の今日(4月1日)はエドモンの誕生日らしいんです。この偶然は運命を感じますね。どこかで観ていてくれるかもしれないですから、エドモンに怒られないように頑張りたいと思います。
ーー髪型と髭が作家っぽくてお似合いですが、今後ひげを生やす予定は。
加藤:文豪になる時とかですかね。でも僕ジャニーズなので、増田と小山の明るい髪色と並んだら浮くと思います(笑)。みんな忙しくてあまり会えていませんが、メンバーの舞台は行き合うので今回も来てくれるんじゃないですかね。
ーー平さんはいかがでしょう。
平:本当に稽古初日からバタバタでしたが、皆さんとずっと一緒にいたので仲良くなるスピードも早かったです。皆さん大先輩ですが、すごく優しくて親戚みたいに仲良くさせていただいて、とても楽しいです。私が演じるジャンヌは言葉にどんどん酔ってしまう。日本人には中々ない感情で難しいですが、楽しんで演じられたらと思います。
ーー最後に、皆さんへのメッセージをお願いします。
加藤:さっきも言いましたが、エドモンの誕生日に初日を迎えられる、数奇な運命がバチっとはまった舞台だと思いたいので……。
金田:なんで途中から弱気になるの(笑)。
加藤:誰も自信を持ってないんです。作中にあるセリフなんですが「こんな大混乱になっちゃって」って、エドモンと同じ気持ちです。「これ大丈夫なのかな」とまだ思っています。けど、大丈夫でしょう! 最後まで頑張っていきたいと思います!
※以下、フォトコールの写真と一部ネタバレあり。
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
フォトコールで披露されたのは、大女優であるサラ・ベルナールのために書いた作品の興行が失敗したことから始まる物語の冒頭。イプセンをはじめとする近代演劇の台頭により、作品や手法が「古臭い」「時代遅れ」と嘲笑されるエドモンの苦悩が描かれるのだが、会見でも話に出た独特のセリフ回しにより、その苦しみはどこかユーモラスに映る。エドモンが苦しむ一方、妻のローズは現実的に生活に勤しんでいる対比もリアルで、温度差につい笑ってしまう。
また、エドモンが訪れるカフェの店主・オノレを演じる金田は、のちに生まれる『シラノ・ド・ベルジュラック』の主人公を思わせる軽妙洒脱なセリフが耳に心地いい。大女優のサラを演じる枝元や喜劇王コクラン役の大谷は、大御所らしい堂々とした雰囲気でエドモンを翻弄するのが楽しく、この先の展開にワクワクした。
エドモンと友人・レオのやりとり、衣裳係のジャンヌが自分のファンだと知ったエドモンの驚きや喜び、ジャンヌの友人・ジャクリーヌ(安蘭けい)に振り回されるエドモンの気まずそうな表情など、次々に変化する状況から目が離せなくなる。
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』舞台写真
また、30分程度のフォトコールでも次々に場面転換がなされ、加藤以外のキャスト陣が入れ替わり立ち替わり様々なキャラクターとして登場するスピード感に圧倒される。名作『シラノ・ド・ベルジュラック』が生まれた舞台裏で巻き起こるドタバタコメディに笑いながら、約2時間ノンストップで繰り広げられるエドモンの奮闘を見守り、様々な感情に出会えるはずだ。
本作は4月1日(土)より16日(日)まで新国立劇場 中劇場で上演された後、4月22日(土)〜24日(月)まで大阪公演も行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈