ヴォーカリスト・麻衣にインタビュー 音楽監督を務める女声コーラスグループ、リトルキャロルと東京・長野でコンサート開催

インタビュー
クラシック
2023.4.6


ヴォーカリスト・麻衣が音楽監督を務める女声コーラスグループ、リトルキャロル。彼女らが歌声を響かせるコンサート『BEAUTIFUL HARMONY 麻衣 with リトルキャロル』が2023年4月、東京と長野で開催されることになった。果たしてどのような想いで歌を届けているのか、麻衣に話を聞いた。

ーー今回のコンサートはどのようなテーマのステージになるのでしょうか。

麻衣:昨年4月にリリースしたアルバムが「BEAUTIFUL HARMONEY」というタイトルで、このコンサートも同じタイトルになっておりますので、基本的にはアルバム全曲をお届けしたいと思っています。リトルキャロルという女声合唱団が一緒にアルバムを作っているんですが、リトルキャロルは私がNHK東京児童合唱団に5歳から入っていたんですけど、その卒団生で作った合唱団なんです。私と同い年から後輩と一緒にやっているんですが、今年で27年目になりました。このアルバムは、私たちの活動の本当に集大成というか…できることをすべて出し切ったというアルバムです。声に囲まれているようなイメージで、本当にきれいなメロディ、とても美しい、まさにビューティフル・ハーモニーのタイトル通りの、みなさんにとって心地いい音楽をお届けしたいと思っています。

ーーコロナ禍の中での制作になったそうですね。

麻衣:まさにコロナ禍という中で制作したので、合唱のレコーディングもままならないようなときもありました。収録の前日にPCR検査を受けて、やっと参加できて本当によかったね、という場面がありましたね。私も含め、みんなも体調管理をしていたと思うんですけど、それぞれ子どもも居たりするので、風邪をもらってきたりですとか、いろんなことがありながらも、その日に向けて体調管理をして挑みました。全員が出ることができて、その日に久しぶりにマスクを外して歌えたんです。それがどんなに幸せなことをかを実感しました。みんなの想いのようなものが、あの日に凝縮されてアルバムに入ったと思いますし、あの時だけの心意気が出ていると思うんですよね。やっぱり、普段のアルバムとは違うことだったと思っています。

ーー静かに、穏やかな気持ちで聴くことができるサウンドで、コロナ禍の癒しとしてはぴったりだったように思います。

麻衣:もともと、以前からこういうアルバムがあったらいいな、とは考えていたんです。きっかけは子育ての中からでした。今は3歳なんですが、0歳から1歳くらいの時に寝かしつけでCDを流していたんですけど、オルゴールとかの言葉がない音楽が結構多かったんですね。言葉が入っているものだと、流しているうちにアップテンポのものも混ざってきたりして、逆に目が覚めちゃう(笑)。それで、声でオルゴールのような、同じ曲調で美しいメロディがずっと流れているような、合唱をフィーチャーして女声でのアルバムを作りたいと思いました。それがたまたま、こういう時代ですからこんなアルバムがあってもいいんじゃないかということもあって制作に至ったんです。

ーー楽曲について、いくつかピックアップしてご紹介いただきたいと思うのですが、いかがでしょうか。

麻衣:個人的に難しかったのは「風の通り道」ですね。私のソロは一瞬だけですが、その一瞬だけのワンフレーズでもとっても難しく。何度か歌っているんですが、もともと器楽的なメロディで歌用に作られていないんです。収録したのは初めてで、やっぱりこの器楽的メロディを歌うのは至難の業だなと感じました。

あと、「The Prayer」は昔から好きで、でも私には歌えないかな、と思っていた曲でした。最後のほうは盛り上がるし、オペラ調になっていくので、私はあまり得意じゃなかったんですね。でも、そこは合唱の力が大いに発揮されました。私自身も、こういう曲をものにできたということで自信もできましたね。本当にきりがないくらい、いろいろな発見があったアルバムでした。まさに集大成という気持ちです。

集大成と言っても、また1年後とかに同じように集大成と言っているかも知れないですが(笑)。去年の時点では、タイミング的に本当にいろいろと考える時間がありましたし、合唱で30人くらい参加していて、あの時期にやれたことが自分としてもすごく嬉しかった。みんなも「楽しみにしてたよ」って言ってくれて、練習とかもなかなか大変でしたからね。

ーーリトルキャロルらしいサウンドとはどういうものでしょうか。

麻衣:リトルキャロルらしさ、は本当に大事にしているところです。合唱団は数多の数があって、気軽に始められる音楽の最初の入り口だと思っているんですね。誰でも声が出せれば参加できるものですから。ただ、合唱ってみなさんにとってはピンと来ないような曲も多いと思うんですよ。合唱をやっている側からすると、歌い甲斐があって、合唱冥利に尽きるような曲があるんですけど、コンサートという形になったときに一般の合唱をやっていないお客さんはあまりいらっしゃらないことが多くて。私はリトルキャロルがそうならないよう、すごく意識しています。今、それが現実となっているかどうかは分からないですが、合唱がお好きな方も、そうじゃない方も受け入れやすい、また次も聴きに来たいと思ってもらえるコンサートになるように、選曲からまず心掛けています。

27年の積み重ねがあって、もみんなで手売りしてきたんですけど、最近では待っていてくださる方もたくさんいて…それもひとつの結果だと、ここ10年くらいで思うようになりました。

あとは、私は今44歳で、下は20代もいるんですけど、多くの世代は私くらい。やっぱり声の成長というか、年齢を経た声色になってくるものではあるんです。年齢とともに声は低くなってしまうもので、ピンと張っていた声がなかなか出せなくなってくるな…と思っているんですが、それはもう戦いですよね。以前の声を維持できるように努力しています。

そのひとつが、ビブラートの習得です。私たちは児童合唱上がりなので、いわゆるビブラートが効かせない声なんですよ。ノンビブラートで一番美しい声は、ビブラートに行く直前が一番きれいなんです。ということは、どこまで行けばビブラートがかかるかを自分で知っておかないとギリギリの限界まではいけない。ここ5年くらいはそういう練習もすごくしています。それをやることで声帯も鍛えられますし、声が衰えることなくやっていけるんじゃないかと思っています。特に上のソプラノの人たちはそこが大事で、私と同世代のソプラノもたくさんいますが、今もピンと張った声が出せています。この考えは間違っていなかったな、と思いますね。

そういう細かいところまで考えることが好きな人たちが、集まってきたように思いますね。28年やってきましたから、登録人数はたくさんいました。もちろん、家庭の事情で地方に行ってしまったとか、やむを得ない事情で参加できなくなった人もいますが、今も参加してくれている人たちは、そういう妥協しない考えに賛同してくれている人たちだと思いますね。考え方は結構、体育会系なんです。思慮深く歌いますし、練習も重ねますから。必ず週1回は欠かさずに練習がありますしね。それぞれ家庭があって、子どもの世話をしたり、家のことをしたりしながら、たぶん時にはいろいろ言われたりもする中でやっていますから、みんなにも気合が入っているんです。そういう部分で同じ考えをしている人たちがいるってことも、すごくいいなって思います。

ーー合唱に興味を持たれたきっかけはなんだったんでしょうか。

麻衣:ちょうど「ナウシカ・レクイエム」を録ったその年の暮れに、NHK児童合唱団のクリスマスコンサートを聴きに行ったんです。そこで作詞は谷川俊太郎さん、作曲は林光さんの「クリスマス」という曲に出合いました。母がものすごくいい曲だと気に入って、よく歌ってくれて、それが私も大好きになってこの合唱団に入りたいと思うようになりました。もともと歌は好きで、「ナウシカ・レクイエム」も歌わせてみたら音程取れるじゃん、じゃレコーディングしてみようか、くらいの感じだったと思うんですけど、私にとってはあの印象的なレコーディングの経験があって、歌がやりたくなったときに素晴らしい合唱の曲に出合ったというのが、私の歌のはじまりです。

あの頃は、歌をやるには合唱くらいしか選択肢がなかったんですよ。今ならボイストレーニングに通うとかもあるかもしれないですけど。でも、私は個人的にはやっぱり合唱をお勧めしたいです。合唱はみんなで歌えるから楽しいし、大勢の中で切磋琢磨して伸ばす方が絶対にいいと思うんですよね。人と協調して歌うこととか、成長においても合唱はすごく大切なことを学べると思います。そして、個性を消しつつも、最終的には個性を出さなければいけないという、ある種の矛盾をずっと追いかけなければいけません。正反対のギャップのようなものが、合唱にはあるんだと思います。

ただ、NHK児童合唱団は高校2年生で卒団。でも、みんな友達だし、歌でつながった人たちなので、まだまだみんなで歌いたいよね、リトルキャロルを結成しました。私だけが言い出したわけじゃなく、とみんな同じような想いを抱えていたので自然と集まりましたね。ただ、私の周りの環境がコンサートのことについてアドバイスをしてくれる大人がいたりとかしたので、だんだんと先陣を切るようなことにはなりましたが、最初はもうみんなでやろうとしたことでした。いつの間にか、気付けば28年たっていましたね。

ーー最後に、公演を楽しみにしていらっしゃる方にメッセージをお願いします。

麻衣:本当に長い間培ったこの声の集まり、声の厚み、その歴史が詰まったコンサートになっています。ぜひ幅広い年代の方に聴いていただきたいと思っています。小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで、何世代にもわたって楽しんでいただけるコンサートにしたいと思っていますので、ぜひお越しください!

公演情報

『BEAUTIFUL HARMONY 麻衣 with リトルキャロル』
 
​■ 開催日時 ■
2023年4月8日(土)14:00開演(13:30開場)
東京 ​銀座王子ホール
 
2023年4月15日(土)14:00開演(13:30開場)​
長野 長野市芸術館リサイタルホール
 
■ 出演 ■
[歌]麻衣
[コーラス]リトルキャロル
[ピアノ]中島剛(東京公演)菊池亮太(長野公演)
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