舞台初主演・宮澤エマのリーダーシップに成河ら共演者も太鼓判 喪失と再生を描く『ラビット・ホール』会見&ゲネプロレポート
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(上段左より)山﨑光、土井ケイト、シルビア・グラブ、阿部顕嵐(下段左より)藤田俊太郎、宮澤エマ 成河
家族間の会話を通して、傷付いた心が再生するまでの道筋を繊細に描いたデヴィッド・リンゼイ=アベアーの傑作戯曲『ラビット・ホール』。2007年にピュリツァー賞を受賞し、2010年にはニコール・キッドマン製作・主演で映画化もされた。
演出が担当するのは藤田俊太郎。宮澤エマが舞台初主演を務めるほか、成河、土井ケイト、阿部顕嵐/山﨑光(ダブルキャスト)、シルビア・グラブら、実力派キャストが顔を揃えた。
この度、初日前会見&公開舞台稽古が行われたので舞台写真とともにレポートする。
ーーまずは意気込みをお願いします。
藤田:素晴らしいキャストの皆さん、そして、素晴らしいプランナー、スタッフの皆さんと一緒に丁寧に作ってきました。あとは素晴らしいお客様を劇場に迎えるだけです。PARCO劇場での開幕はまもなくですが、この愛おしくて愛すべきカンパニーで世界ツアーをしたいなと……。
宮澤:急に? 初めて聞きました。
藤田:そう思えるくらい誇らしい作品を作ることができました。今はとても幸せな気持ちで開幕を待っています。
宮澤:私は2013年に初舞台、ちょうど10年経ち、初めて主演を務めます。この作品に巡り会うことができ、スタッフさんも一流の方々ばかりの素晴らしいカンパニーでの初主演という幸せをひしひしと感じています。ファミリーのようなカンパニーですし、それぞれが魅力とスキルを持って稽古を進めてきました。ワクワクしかないです。また、この距離で座って記者会見をできるのも久しぶり。お客様にも少し安心して劇場に足を運んでいただけると思います。色々な喜びが詰まった作品になったら嬉しいです。
成河:日本には、世界が羨むほどいろんなジャンルの演劇があります。でも、日本は比較的写実性の高いもの、いわゆるリアリズムのある劇は不得手だと言われています。今回はそこにチャレンジする座組になっていて、大学のサークルの研究会かというくらい、言葉の研究をしました。様式の方に寄ってしまうと、ヨーロッパやアメリカで主流になっている会話劇から離れてお客様にとって身近なものではなくなってしまう。間口をとにかく広げたいと努力し、派手な照明もピンスポットも大きな声もいらない、超一流のスタッフワークに支えられて作り上げました。日本語でどこまでできるかのひとつの証明になったら。派手ではない日常的な会話劇が人生の支えになったり、辛い時に寄り添ってくれたりするものだということを知ってもらいたいと思います。ぜひいい感じに書いてください(笑)。
宮澤:最後、丸投げだ(笑)。
土井:会議のように、みんなで言葉をいちから見直していきました。ここまで言葉にこだわったぶん、生じゃないと成立しない舞台になっています。その場で本当に感じないと(セリフを)言えない状況になるのは稀有なこと。それができる奇跡のカンパニーですし、お客さんに「どう見えました?」って問いたいくらいです。それくらい実験的で新しい挑戦です。毎回違うし、公演ごとに進んでいくと思うので、千穐楽までに何度でも観てほしいですね。
阿部:素敵な作品と、この作品に携わる素敵な方々に出会えて本当に幸せです。僕はWキャストなので客席から観ることがあったんですが、観終えた時に思いを消化しきれず、何日もかけることもありました。皆さんにも似たようなものを受け取ってもらえると思うのでワクワクしています。同じシーンやセリフでも、その時の自分の状態によって受け取るものが全然違ったので、何度も観て楽しんでもらえたら。というのをいい感じに書いてください(笑)。
一同:(笑)。
山﨑:僕はまだまだ未熟なので、これからも改良する余地があると自負していますが、素敵な皆さんとご一緒できるのが本当に嬉しいですし、この後もみんなで突っ走っていきたいと思います。Wキャストなので、それぞれのジェイソンを観ていただけたら嬉しいですね。
シルビア:我々は一粒の種に水や太陽を与えて、作品が成長していく過程を愛情深く見ています。キャストもスタッフさんも素晴らしいですが、お客様が入ってようやく完成します。早く完成形を感じてみたい。もちろんお客様が入ってからも日々成長していきますから、千穐楽までこの作品がどれだけ皆さんに愛されるか、我々も愛し続けるか。「早く明日になーれ!」という気持ちです。
ーー宮澤さんは今回初の主演・座長です。プレッシャーはありますか?
宮澤:そう聞かれて緊張してきました……。
成河:あ! 責任とってくださいよ(笑)!
宮澤:少ない人数でやっていることもあって、ひとりも欠けてはいけないし色々な化学反応で物語が進んでいきます。この作品をどうやって皆さんにお届けするかみんなでディスカッションし、アドバイスしあって稽古をしてきました。板に立ったらみんな同等なので、素晴らしいプロフェッショナルの方々と仕事させていただいているという思いです。
ーー皆さんから見て、宮澤さんの座長ぶりはいかがでしょう。
土井:最高ですよ!
シルビア:すごいチームリーダーです。
成河:最初から本気というか覚悟を誰よりも持っていました。でもそれは座長だからというより彼女が自然に持っているもので、自然とみんな巻き込まれていましたね。
ーー稽古中のエピソードは何かありますか?
シルビア:普通は休憩中って台本を確認したりするんですが、このカンパニー、ずっとべらべら喋ってます。居酒屋みたいな会話が始まる。藤田さんやスタッフさんたちは私たちのおしゃべりを止めるのが大変だったと思います(笑)。
山﨑:稽古場で座っていると皆さんのおしゃべりが聞こえてきて。楽しそうだなって思っていました。
阿部:通し稽古の5分前でも喋ってるから、切り替えの早さもプロフェッショナルだって思いました。
宮澤:二人(阿部・山﨑)が一番大人です(笑)。
ーー藤田さんが上演を熱望していたということですが、本作のどんな部分に魅力を感じますか?
藤田:最初は戯曲の素晴らしさ、悲しい出来事からの再生を言葉だけじゃないもので伝えていくという構造に惹かれました。でも、今はこのカンパニーで演劇の形態やリアリズム、“演技の美しさ”をありとあらゆる形でディスカッションできたことが、私たちが作った意味じゃないかと思います。プランナー、プロデューサーも含めたスタッフ・キャスト全員が参加して同等に意見を言い合えたからできた。それが、私たちが作ったリアリズムの演劇だという思いです。
ーー宮澤さんに、見てほしいポイントをお聞きしたいです。
宮澤:あらすじだけを見ると悲劇的ですが、これは悲劇的な出来事のその後、一生懸命生きたいと思っている愛すべき家族と加害者になってしまった青年の話です。みんな一生懸命生きよう、相手を気遣おうとするからこそ衝突したりすれ違ったり、でもその向こうに理解があったり。舞台って、観た後に自分が何を感じるか分からないまま見て、思わぬ体験をしてしまう不思議なもの。この作品を観たら、皆さん一言では言い表せない思いを持って劇場を後にするんじゃないかと。わかりやすい作品ではないですが、唯一無二の体験をしていただけると思います。あとは、作品自体もチャレンジングですが、今のタイミングで女性が主役でこういった作品を上演するということもチャレンジ。これだけのスタッフさんを集めていただき、素晴らしい演出家のもとでやる意義のある作品だと感じています。
ニューヨーク郊外の閑静な街に暮らすコーベット夫妻。ベッカ(宮澤エマ)とハウイー(成河)の一人息子・ダニーは、8ヶ月前に飼い犬を追いかけて道路に飛び出し、交通事故で亡くなっていた。4歳で亡くなった息子を偲びつつ前に進もうとするハウイーと、息子の思い出に触れることもできないベッカ。彼女は妹のイジー(土井ケイト)、母・ナット(シルビア・グラブ)の言動にもイライラし、深く傷付く。そんなある日、車を運転していた高校生・ジェイソン(阿部顕嵐・山﨑光/Wキャスト)から手紙が届く。それを読んだベッカは——。
全編を通して客席に向かってセリフを言うことはほとんどなく、知らない人名が説明なく出てきたり、重要な情報やセリフがさらっと流れていったり。リアルタイムで起きている出来事を覗き見しているような感覚になる。
楽しい空気がちょっとした一言で崩れる緊張感、家族だからこその距離感やわだかまりによる衝突も生々しく、そのぶん楽しいシーンや心温まるやり取りが眩しい。言葉に詰まる姿、視線や指先の揺れなど、細かな部分まで神経の行き届いた演技のリアリティに引き込まれ、これが芝居であることを忘れそうになった。
『ラビット・ホール』舞台写真
『ラビット・ホール』舞台写真
『ラビット・ホール』舞台写真
『ラビット・ホール』舞台写真
宮澤は、気丈に振る舞いながらも悲しみから逃れられずにいるベッカの心境を繊細に見せる。本来しっかり者で良識ある女性であることが随所からわかるため、張り詰めた表情に胸が締め付けられた。息が詰まりそうな場面が多いこともあり、イジーやハウイーと和やかに会話をしているシーンの軽やかな笑顔に余計惹きつけられた。
成河はダニーの思い出を大切にしながらも前に進もうとするハウイーの姿勢をまっすぐに描き出す。愛息子の死、妻や妻の親族との向き合い方、加害者である少年についてといった様々な悩みを前に、自分なりの方法を見つけようと健闘する様子が切ない。
責める相手のいない不慮の事故だからこその苦しみ、悲しみ方や考え方にずれが生じた夫婦のすれ違いが見ている側にも重くのしかかり、どちらの気持ち・考え方にも納得できるからこそのやるせなさに襲われる。
『ラビット・ホール』舞台写真
『ラビット・ホール』舞台写真
『ラビット・ホール』舞台写真
イジーを演じる土井は、姉夫婦を襲った不幸と自身の妊娠という幸せの間で揺れる妹の複雑な立場を巧みに表現する。しっかり者の姉・ベッカに対して、猪突猛進で奔放な妹かと思いきや、空気を読んでフォローする場面も多く、ギャップがチャーミングだ。
また、親としてのアドバイスで娘を苛立たせてしまう母・ナットを、シルビアがリアリティを持って演じる。とりとめもなく話が飛び、かと思うといくつか前の話題に急に戻る。良かれと思って口出ししすぎるなど、親の立場でも子の立場でも「あるある」と思える人物像とやり取りではないだろうか。
『ラビット・ホール』舞台写真
『ラビット・ホール』舞台写真
そして、加害者となってしまった高校生・ジェイソンはWキャストということもあり、彼の登場シーンはゲネプロに加えてフォトコールも行われた。事故の後、コーベット夫妻に宛てた手紙を読み上げる短いシーンだけでも、それぞれが作り上げたジェイソンの違いが見えるのが面白い。文面では「(笑)」などを使いつつ、感情の読み取れない淡々としたトーンで読み上げる山﨑と、自分の趣味や母親の話題では自然と笑顔が浮かぶ阿部。アプローチは違いながらも共に掴みどころのなさを感じさせ、どちらも観てみたいと感じた。
作中で特別な事件や奇跡が起きるわけではなく、舞台はずっとコーベット夫妻の家。だが、日常を通して色々なものが少しずつ変化していく様子は、静かながら実にドラマティックだ。ベッカたちの行く末を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
『ラビット・ホール』舞台写真
本作は4月9日(日)~25日(火)までPARCO劇場で上演。秋田、福岡、大阪でも公演が予定されている。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
『ラビット・ホール』
【作】デヴィッド・リンゼイ=アベアー
【翻訳】小田島創志
【演出】藤田俊太郎
【出演】
宮澤エマ 成河 土井ケイト
阿部顕嵐/山﨑光(ダブルキャスト) シルビア・グラブ
<東京公演>
【日程】2023年4月9日(日)~4月25日(火)
【会場】PARCO劇場
【入場料金(全席指定・税込)】11,000円
【お問合せ】パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中)
<秋田公演>
【日程】2023年4月28日(金)
【会場】あきた芸術劇場ミルハス 中ホール
【入場料金(全席指定・税込)】11,000円
【主催】秋田魁新報社/AAB秋田朝日放送
【お問合せ】秋田朝日放送事業部 018-888-1505(平日9:00-17:30)
<福岡公演>
【日程】2023年5月4日(木)
【会場】キャナルシティ劇場
【入場料金(全席指定・税込)】11,000円
【主催】九州朝日放送/ピクニック
【協力】福岡パルコ
【お問合せ】ピクニック
http://www.picnic-net.com/
【日程】2023年5月13日(土)・14日(日)
【会場】森ノ宮ピロティホール
【入場料金(全席指定・税込)】11,500円
【主催】公演事務局
【お問合せ】公演事務局 0570-783-988(11:00-18:00※日祝休業)
【ハッシュタグ】#ラビット・ホール