目と目を合わせて通じ合う イラストレーター・アニメーション作家、米山舞の個展『EYE』レポート
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『YONEYAMA MAI EXHIBITION “EYE”』展示風景
イラストレーター・アニメーション作家である米山舞の個展『YONEYAMA MAI EXHIBITION “EYE”』が、2023年5月12日(金)から5月29日(月)まで、渋谷PARCO 4Fの「PARCO MUSEUM TOKYO」にて開催中だ。本記事では展示の見どころを紹介するとともに、“なぜ(わざわざ)会場に足を運ぶとスゴく面白いのか?”という点について、熱量高めにお届けしたいと思う。
会場エントランス
琴線を弾く、欲深きアニメーション
展示風景
冒頭では、アニメーターとしても活躍する米山氏の映像作品が展示されている。Eve「YOKU」のオリジナルMVや、アニメ「サイバーパンク エッジランナーズ」のエンディング映像を堪能しよう。特に、大画面で見られる「YOKU」のMVは没入感たっぷりだ。
展示風景
それにしても、2022年に発表されたカネボウの化粧品「KATE 欲コレクション」は衝撃だった……ドラッグストアで米山氏の手がけたパッケージイラストを偶然見かけて「何じゃこの素敵な商品は!」と驚き、次いでほぼ全種にわたる「品切れ」表示にも驚いたことは記憶に新しい。会場では、シャドウパレットなどのコスメを思わせるパネルでイラストが展示されていてとても可愛い。
KATE×米山舞×Eve“YOKU”キービジュアル
壁には「YOKU」のキービジュアルも。ブラックの背景には近くで見ると細やかなグリッターラメが入っていて、画面で見ていたよりグッと繊細な印象だ。
展示風景
こちらはMVの絵コンテやイメージボード。アニメーターとイラストレーター、両方の顔を持つ作家だからこそのこだわりが詰まった “作品のレシピ” である。
目と目で通じ合う……
今回展示されている作品たちは販売が予定されている(先着or抽選かは作品によって異なるので会場にて確認を)。運命を感じた一作を購入できるチャンスがある、というのは現代アートの展覧会ならではの興奮だ。
展示風景
本展のタイトルと同じ「EYE」という名を冠したこのシリーズは、作家にとって初となる、アニメーションをアート作品として販売する機会なのだそう。細長い画面に映し出されるのは、4種の“目”だ。キラリと輝くまばたきや揺れる前髪越しの瞳も魅力的だが、写真手前の「EYE-GLOW」の花びらのようなまつ毛の動きには特に目を奪われる。
「gift」
面白いのは、会場中ほどにあるこちらの作品。実は、じっくり足を止めて見ないと心を開いてくれないのだ。作品と向き合い、50cm程度まで近づくと、画面に風が吹き始める。やがて少女がこちらを見つめ返してくる。そして……
「gift」
これはぜひ実際に会場で体験してみてほしいときめきだ。改めて言うまでもないかもしれないが、他者と近づくのは、リスクもあるし怖い。これまでディスタンスと声高に言い続けてきた私たちだからこそ身に沁みる、踏み込まれることを静かに待っているアートである。タイトルが「gift(贈り物)」と知ると、本作の美しさがさらに胸に迫るような。そういえばコミュニケーションって、お互いの時間を贈りあうことなのかもしれない、と思う。
レイヤーの狭間にある叙情
展示風景
場内で出会えるさまざまな作品の中でも、特にエッジが立っているのが「SKIN」のシリーズではないだろうか。アクリル板を駆使して、層の重なりを表現した作品だ。イラストが重なり合うことで奥行きを獲得し、物理的な立体感だけでなく、人の深層心理や折り畳まれた心のひだを感じさせてくれる。
展示風景
右手前の「SKIN-HIDE」では、ツヤ消し加工で浮かび上がる甲冑の下に、人物の傷だらけの身体がうっすらと透けて見える。さらに注目したいのは、隣の「SKIN-WAVE」で水面に浮かんでいる少女の胸郭部分だ。
「SKIN-WAVE 」(部分)
揺らめくような骨格は、アクリル板の凹凸の影で表現されている。身体が水に溶けて消えてしまったようだ。
展示風景
ほかにも、鏡を使った鑑賞者の写り込みを前提とする作品など、アーティストが幅広い表現方法を模索しているのが伝わってくる。繊細な光の加減・見る角度によって表情が変わるシリーズなので、写真では魅力を伝えきれていないのがもどかしい……。
なお、本展では一部を除いてほぼすべての展示が撮影OKとなっている。写真だけでなく、動画もOKというのがすごい!
嵐の中で新陳代謝
展示風景
そして、会場の奥でひときわ存在感を放っているのが、本展のメインビジュアルにも採用されている「EYE」だ。実際に前に立つと、想像と違ってびっくりする人も多いのではないだろうか。かなりの立体感である。
「EYE」
キャンバスにプリントされたデジタルイラストの上に、アクリルペイントが施され、さらにFRPレリーフが組み合わせてある。さまざまな厚み・質感の嵐の真ん中に立つ女性像は、まさに“台風の目”だ。
「EYE」(部分)とりわけ製作者泣かせだったというレリーフ部分
会場にて、米山氏から少し話を聞くことができた。個展の要となる作品を創り出す上で、イラストレーターとして、アニメーション作家として、自分がこれまで培ってきた経験値を出力するようなものを描きたかったのだという。
「EYE」(部分)
「手を伸ばす人物は何かを出しているんでしょうか、それとも吸い込んでいるんでしょうか?」と尋ねたところ、「吸い込みながら出している」のが近いらしい。経験値を獲得して、それを新たな形で放出している。作家の語ってくれた“代謝”というキーワードが強く心に残った。この一枚はアーティストとしての道程を示すマイルストーンであり、同時にこれからの決意表明とも言えるのだろう。
DOCUMENTARY“EYE”
制作にあたっては京都芸術大学の技術サポートのもと、試行錯誤を重ねたのだという。「EYE」の裏のウォールスクリーンでは、そのメイキング映像をたっぷり見ることができる。
話の中で、SNSなどで発信するデジタルイラストは、ほんの数秒で見流されていくことも多い、と語っていた米山氏。でもこの会場で出会う作品たちはどれも画面の隅々まで創意に満ちていて、光の反射や影の揺らぎで、それこそまばたくごとに表情を変える。じっくり向き合えば向き合うだけ、こちらの感性を心地よく蹴飛ばしてくれるはずだ。
米山アートは対話を待ち望んでいる
ACEYLIC BLOCK(6種) 7,000円(税込)
ミュージアムショップでは米山舞初の作品集「EYE YONEYAMA MAI」や、本展のオリジナルグッズが多数販売されている。心に刺さった「SKIN」シリーズのアクリルブロックがあったので手に取って見たら、これ自体がアート作品のようなクオリティでびっくり。
買っちゃいました。ORIGINALNAILPOLISH LIBERTY 1,500円(税込)
個人的なおすすめは、オリジナルネイルポリッシュ。「EYE」イメージカラーのライムがかったイエローが、そのまま指先に! この上なくテンションが上がる一品だ。
米山舞の個展『EYE』は、2023年5月29日(月)まで、渋谷PARCO 4Fの「PARCO MUSEUM TOKYO」にて開催。何度でも強調したいけれど、本展は単純なデジタルイラストの展覧会では、ない。鑑賞者を待ち受けるのは、日々画面越しに目にしているイラストが活きいきと受肉した姿である。そしてそのアートは、こちらが見つめれば見つめるだけ、熱く見つめ返してくる。胸に溢れる“実際に来てよかった感”を、ぜひ体感してみてほしい。
文・写真=小杉 美香
展覧会情報
■会場 :PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F) 東京都渋谷区宇田川町15-1 tel:03-6455-2697
■会期 :2023年5月12日(金)~5月29日(月)11:00-21:00
※入場は閉場の30分前まで ※最終日18時閉場
■入場料:税込700円(型クリアカード付)、小学生以下無料
■公式HP:https://art.parco.jp/museumtokyo/detail/?id=1206
※前売券は入場日前日の 23:59 まで「e+(イープラス)」上でご購入いただけます。
※当日入場枠に空きがある時間につきましては、個展会場にて当日券をご購入の上ご入場いただけます。
※前売券で完売した日時につきましては当日券のご用意はございません。