明日海りお、元宝塚歌劇団花組トップスターが活動20年の中で芽生えた変化「自分自身を削りすぎないようになりました」
明日海りお 撮影=福家信哉
2019年に宝塚歌劇団を退団した、元花組トップスターの明日海りお。5年半にも及ぶトップ時代は『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』(2014年)、『ポーの一族』(2018年)など数々のヒット作で主演をつとめた。そんな明日海が9月15日(金)から19日(火)まで東京国際フォーラム ホールC、9月22日(金)から24日(日)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて、活動20周年記念コンサート『ヴォイス・イン・ブルー』を開催する。明日海の歌などはもちろんのこと、連日さまざまなゲストも招いてコラボレーションも披露。中でも、明日海の同期生で宝塚歌劇団専科として活躍し、現役スターとしてOGのソロコンサートに出演するのは史上初となる凪七瑠海との共演は大きな注目をあつめている。そこで今回は明日海に、あらためて20年の歩みについて話を訊いた。
明日海りお
――2019年に宝塚歌劇団を退団されたことは大きな分岐点になったかと思います。退団公演の最後の幕がおりた瞬間はどんな心境でしたか。
当時は、お客様にいかに「退団」という言葉を意識させないかをずっと考えていました。というのも、なにをするにも常に「最後の何々」と付いてしまう。そうすると、作品をご覧いただく際になんらかの要素が付け加えられてしまいます。純粋に作品や役を評価してもらえないのではないかと感じていたんです。そしてなにより、最後まで男役として一番カッコ良い去り方について考えていました。それに必死だったので、公演中は実感があまりありませんでした。
――たしかにおっしゃるように、「退団」という言葉によっていろんなバイアスがかかる可能性もありますね。
ですので、本当に退団が実感できたのはパレードを終えて緞帳が降り、背負っていた大羽根を最後におろした瞬間です。あのときのことは一生忘れません。大羽根をおろしてからもすぐ「サヨナラショー」のお衣装に着替えなければいけないのですが、「これを背負うことはもうないんだ」という、なんとも言えない気持ちになりました。トップスターの大羽根は、ひときわ大きく宝塚歌劇団のシンボルでもあります。公演では、約1時間半の芝居をし、そしてショーで踊り続け、その最後にスターは一番重い大羽根を背負って階段をかけのぼって、そしてステージへと降りていく。その時間はもっとも幸福度が高いものなんです。だからこそ大羽根をおろしたときは、寂しいようなホッとしたような、いろんな感情が入り混じって泣きそうになりました。
明日海りお
――そして宝塚歌劇団の初舞台から20周年を数える2023年、節目を記念したコンサート『ヴォイス・イン・ブルー』を開催されます。タイトルにもある青色にこめた想いとはどういうものなのでしょうか。
宝塚歌劇団では、それぞれの組のトップはこの色、二番手はこの色とイメージさせるカラーがありました。退団後も日本語吹替版でムーラン役の声優をつとめた映画『ムーラン』(2020年)では赤、ミュージカル『エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン -WAR PAINT-』(2023年)ではピンクなど役柄にあった色を経験しました。さまざまな色をまとってきた中で、「自分が好きな色はなんなんだろう」と考えたとき、浮かんできたのが淡い青色だったんです。それほど主張が強くないところが好きで、自分らしいカラーだなと。
明日海りお
――先ほど、退団公演もなるべく情報や先入観をなくして見せたいとおっしゃっていましたよね。明日海さんはあまり主張しない物事がお好きなのかなと思いました。
そういうところもあるかもしれません。やはり劇場に足を運んでくださるお客様に、その人の楽しみ方をしていただきたいので。「自分はこういう役者になりたい」「こういう人間です」「この作品のテーマはこういうことです。ここで笑ってください、泣いてください」と主張せず、自由に作品を楽しんでもらいたい気持ちが強いです。
――宝塚歌劇の元スターの「主張をあまりしたくない」という言葉はちょっと意外です。
性格的になにごとも押し付けがましくなりたくないだけなんです。作品、芝居、楽曲が本来持っているものを純粋に感じて欲しいので。そしてご覧いただきながら、ご自身の経験と作品をリンクさせてほしい。というのもやっぱり、映画、舞台などを鑑賞するとき、自分の私生活などで気になる出来事があれば、それが影響して作品に没頭できなくなることもあるじゃないですか。だけどせっかくだから、物語にできるだけのめり込んでもらえる環境を作りたいんです。作品と一体感を持ってもらうためにはどうするべきか。そう考えると「自分」という主張は過度に必要ないと私は考えています。
明日海りお
――そういった考えの中で20年にわたり活動を続けてこられましたが、逆に途中で諦めたこと、やめた物事などはありませんか。
私は同じ物事を繰り返すことが好きで、その中で新しい発見を常にしていきます。なのであまり途中でなにかをやめるということは少ないのですが、ただ宝塚時代ほど現在は厳しく身体を絞ることはなくなりました。当時は「シャープであればあるほどカッコ良い」と考えていたのです。稽古や舞台上であれだけ動くのでそんなに気にする必要はなかったのに、私自身、顔つきもあまり大人っぽくないですし、背も高くないから、「極まっている」という雰囲気を出すためにシャープさをかなり意識していました。でも退団してからは和らいできて、気にせずにたくさん食べることもあります。ときにはお弁当を2個、いただいたりして(笑)。
――相当、食べますね!
そうなんです、結構食べるんです(笑)。今は「ゆったりするくらいがちょうど良い」と感じています。
――自分で自分を追い込みすぎなくなってきたわけですね。
「こうしなきゃ、ああしなきゃ」は少なくなってきましたし、自分自身を削りすぎないようにもなりました。そういう考え方ができるようになったからか、「こんな気持ち、味わったことがなかったな」と新しい発見も増えました。ただ本番前にはきっちり役のために体を作り、そして当日には楽屋でちゃんとメイクをして、幕があけば共演者やお客様と絆を育みながら舞台を作りあげていくという、そんな生活をずっと続けていきたい。その中でいろいろ学んで成長していきたいです。
明日海りお
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉
公演情報
出演者: 明日海りお
日替わりゲスト(出演日順)
東京:井上芳雄 浦井健治 上原理生 平方元基 田代万里生
蘭乃はな 花乃まりあ 仙名彩世 華優希
大阪:山崎育三郎 古川雄大 凪七瑠海(宝塚歌劇団)
<東京公演>東京国際フォーラム ホール C 2023年9月15日(金)~19日(火)
<東京公演>12,000円(全席指定・税込)
<大阪公演>S 席 12,000円、A 席 7,500円(全席指定・税込)
公式サイト:https://www.ken-on.co.jp/asumi20th
公演に関するお問い合わせ:
<東京公演>DISK GARAGE https://info.diskgarage.com/
<大阪公演>梅田芸術劇場 06-6377-3800(10:00~18:00)
企画・制作・主催:研音/梅田芸術劇場