「子供って残酷」[Alexandros]川上洋平、超能力を持つ少年少女の無垢なる恐怖を描いた北欧発のサイキック・スリラー『イノセンツ』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】
撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)
大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、ノルウェーのアカデミー賞と呼ばれるアマンダ賞で監督賞をはじめ4冠に輝いたサイキック・スリラー『イノセンツ』。郊外の団地に引っ越してきた幼い姉妹を中心とした超能力を持つ少年少女たちの無垢なる恐怖を描き、大友克洋の傑作マンガ『童夢』にインスピレーションを得たという異色作を語ります。
『イノセンツ』
──『イノセンツ』はどうでしたか?
おもしろかったですね! すごく好きでした。
──北欧発のサイキック・スリラーっていう位置付けですけど。
たしかに北欧独特の雰囲気のサイキック・スリラーってあまりないですよね。北欧のホラーといえば最近だと『ミッドサマー』ですが、あれはスウェーデンの森に囲まれた草原が舞台で、シチュエーションからしてザ・北欧って感じだったけど、『イノセンツ』の舞台は団地。だからそこまで北欧感はなかったけど。でも、だからこそちょっと親しみを持ちながらのめり込んでいけた。ただ、雰囲気はちゃんとあったよね。日本の団地を舞台にした『クロユリ団地』とかとはまた違う北欧ならではの不穏な団地感。人なのか色合いなのかカメラワークなのかわかんないけど、怖いですよね。
──確かに。
そして、この映画はサイキックが入ってくるのが新しいですよね。あまりホラーって感じはしないんだけど、不気味でした。とにかく主役の子供たちがすごかった!
──そうですよね。メインの子役4人全員がノルウェーのアカデミー賞と称されるアマンダ賞の最優秀主演女優賞もしくは男優賞にノミネートされています。
神童や。主人公のイーダのお姉ちゃんで自閉症のアナを演じた女優さん、途中まで実際にそうなのかと思って観てました。演技経験はまだそんなにないらしいのですごいなあと。
──リアルでしたよね。『イノセンツ』はカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品されています。
カンヌの動画を観たんですが、キャスト皆で並んでて、写真撮影する時にどうしていいかわからない感じが初々しくて微笑ましかった。「かわいい!」って思いました(笑)。
──子役のキャスティングは長い時間をかけて行われ、選ばれた4人に合わせて脚本のジェンダーや人種を変えたらしいです。
へえ、そうなんですね。イーダ役の子が最初に決まったのかな。あの子はそこまで超能力は使えないけどいい味出してたよね。
──そうですよね。アナと、あと同じ団地に住むベンとアイシャの超能力が強くて、その内ベンが凶悪化していくという流れです。
あの子は悪かったね(笑)。まだ善悪の判断がつかない段階の子供の残酷さがちゃんと伝わってきたね。
『イノセンツ』より
■一応ハッピーエンドなのに、なんとなく後味が悪い
──善悪の判断がつかない子供が超能力を手にした時の恐ろしさを感じますよね。
そうですよね。イーダも病気のお姉ちゃんのことを序盤つねったりして。「子供って残酷だよなあ」と思いつつ、「自分が子供の時、そういうことをやっていたのかな」とも思う。忘れてしまってるけど。アナは最初は喋れないっていうハンデを抱えているけれど、アイシャがイタコ的な役割を担ったこともあって喋れるようになるじゃないですか。でもあれって結局アナの言葉なのかな? それともアイシャの言葉なのか。いろんな解釈ができますよね。
──そうですよね。混ざってる感じもあったし。後半、姉妹が結託して戦いを挑む流れを考えると、成長物語の要素もあるのかなと思いました。
確かにありましたね。ちょっとネタバレになるけど、一応これハッピーエンドですよね? なのになんとな〜く後味が悪いですよね(笑)。ハリウッド映画的なすっきり感とは違うっていうか。あの終わり方に腑に落ちない自分がいました。
──エスキル・フォクト監督がインスパイアされたと公言している大友克洋の『童夢』をかなり踏襲したストーリーになってますね。
僕、『AKIRA』も含めて大友作品を読んだことないんですよね。でも大友作品に影響を受けてる映画ってめっちゃ多いので、さすがにそろそろ読みます。すいません。
『イノセンツ』より