#KTちゃん、「ディスらないラップ」という平和的手段でバトルに挑むFJDアーティストに訊く、ラップ愛、バトル、夢
#KTちゃん
ヤッホー、KTです、ラップを愛するFJD。わずか1年前、「高校生RAP選手権」でデビューを果たすといきなり大注目を浴び、FJD(ファースト女子大生)になった今もMCバトルで活躍中のラッパー、その名は#KTちゃん。キュートなルックス、底抜けに陽気なキャラ、「ディスらないラップ」という平和的手段でバトルに挑むけなげな姿が人気を呼び、特に同世代の女子にラップやバトルの面白さを伝える伝道師としての存在を確立した彼女が、アーティスト・#KTちゃんとして満を持して新曲をリリースする。その「BaNe BaNe feat.DOTAMA」について、ラップ愛について、バトルについて、これからの夢について。#KTちゃんを好きにならずにいられない、夢がいっぱいのインタビュー。ぜひご覧あれ。
――MCバトル界を大いに賑わせているFJDラッパー・#KTちゃんが、バトルデビュー1年を機に、因縁の相手と言えるラッパー・DOTAMAを迎えて新曲「BaNe BaNe feat. DOTAMA」をリリースしました。というか、まだ1年しか経ってなかったんですね。
はい。あっという間でした。
――そもそも「女の子版DOTAMA」と評価されたことが、DOTAMAさんとの縁の始まりといいますか。
そうです。カルちゃん(呂布カルマ)が、私が初めて出た「高校生RAP選手権」の審査員で、「女の子版DOTAMAみたいだ」と言ってくださって、そこから注目していただけた部分も大きいので。それが去年の7月で、1年の節目でタマちゃん(DOTAMA)と一緒に曲を作りたいなと思って、今回お誘いしました。
#KTちゃん、DOTAMA
――DOTAMAさんとは去年の11月と、つい先日の7月と、バトル(「戦極MCBATTLE」)は2回やってるんでしたっけ。
2回やってます。でも新曲「BaNe BaNe」のMVの中で、エレベーターの中でバトルっぽいシーンがあるんですけど、あのシーンは監督さんが急に「MCバトル風の画角が撮りたいのでこの場でやってくれませんか」って、何も言われていない状態でラップバトルを突然やることになって。そのあとに大会でバトルがあったから、3回やってる説もあります(笑)。MVの時は8小節3ターンぐらい、けっこうがっつりバトルをやったので。
――その時の音声って残ってないんですか? 聞きたい。
ないんです。二人の顔から想像して楽しんでもらえれば(笑)。
――しかもそれを、間にはさまれたKAƵMA(しずる)さんがなんとも言えない顔であたふたしてる(笑)。あれ、むちゃくちゃ可笑しいです。
そう(笑)。いきなりMCバトルが始まったので、KAƵMAさんもめっちゃびっくりして、その顔がそのままカメラに(笑)。
――バトルもMVも全部が即興。かっこいい。
MCバトルは即興の中の、その場限りの瞬間の芸というか。化学反応とかが生まれるのがすごく魅力的なものだなと思います。
――自分のバトルは見直したくないというラッパーもいますよね。
私はたぶん、ほかのMCバトラーの方よりは見てると思います。私がいつも最初に「ヤッホー、どこどこ(地名)、KTです、ナントカ愛するFJD」って言って始めるんですけど、自分の個性として毎回言っているワードを真似して、「ヤッホー両国ガミちゃんです」って、漢a.k.a.GAMIさんが言ってくれたりとか。普段と違うラッパーの一面が見れたりするのも、私自身も楽しみなので。
――漢さん最高です。それをやらせた時点で#KTちゃんの勝ちでしょう。
だから私自身も、それを見るために振り返ったりします。「あの時の漢さん、面白いなー」って。
#KTちゃん、DOTAMA
――#KTちゃんの掲げる「(直接的に)ディスらないラップ」というのを、尊重してくれてるんじゃないですか? 相手のことを考える優しいラップ。
それも「高校生RAP選手権」の……そもそも「高校生RAP選手権」を受けようと思ったのが、高校生時代がコロナ禍で、行事がなくなっちゃって、思い出作りのノリで受けに行った予選大会だったので。受けようと決めた2週間前からフリースタイルの練習を始めて、その時に、ディスったりディスられたりというMCバトルを見て、なんか悪口言い合ってるのって怖いし嫌だなーと思ったところから、「(直接的に)ディスらないラップ」というのが自分の中で生まれて、そこからずっと貫いてやってきてます。
――しかも、負けても全然悔しがらない。ニコニコしてる。
いや、悔しいですよ!
――でも必ず宣伝して帰るじゃないですか。「物販やってます!」って満面の笑顔で(笑)。
そう(笑)。この前も、とろサーモンの久保田さんと、ミステリオさんと、3人で「ハッシュタグ同盟」っていうのを組んでバトル(7月22日「戦極MCBATTLE」)に出たんですけど、終わって告知してたら「長いから帰って」ってソデに追いやられました(笑)。押されながら「見てください~」って言いながら。
――だからもちろん勝ちたいんでしょうけど、ただ勝ち負けだけでバトルをやってないですよね。マイク握って、魅せて、お客さんが沸けば、それでOKみたいなふうに見えます。
第一は、お客さんに盛り上がってもらいたいというのがあるんですけど、MCバトル界隈で自分の存在を確立させて、自分がMCバトル界でバトルをしていることをみんなに示していきたい。そういう意味で、MCバトルは今後も続けていきたいし、いつも勝ちたいと思ってやってきたし、負けると毎回悔しい思いをしているんです。7月にMCバトルが三つあって、本当に勝ちに行っていたので、負けて悔しいですよ。
――7月は何勝何敗だったんですか?
3戦3敗です……。まだ大きな大会で勝ててないので。大きな大会は、毎回豪華なラッパーの方がいるんですけど、その中で勝利を勝ち取りたい気持ちがすごくあります。
――負けて覚える相撲かな。毎回勉強ですか。
はい。ここはこうしたらもっと盛り上がるかな、とか、そういうふうに振り返ったりもしながら、お客さんを盛り上げながら、自分の中でどういうビジョンを想像すれば勝てるようになるんだろう?って考えながらやってます。
――アスリートっぽいですね。なんだか。
そういう部分もある気がします。MCバトルって、ちょっとスポーツっぽいですよね。
#KTちゃん
――#KTちゃんって、本格的なMCバトルと、TikTokでやっているラップ企画みたいな、ラップ好きを増やしたいというバラエティっぽい活動と、どっちもやってますよね。どっちも大事なものですか。
はい。全然ラップを知らない方とか、今まで興味を持ったことがなかったという方も、私のバトルだったり、TikTokのコンテンツだったりを通して、ラップに興味を持ってくれる、ヒップホップの入口になれるような存在になりたいです。
――もう十分なってると思いますけど。
インスタのDMとかで、私をきっかけにラップにハマりましたと言ってくれる方とか、バトルが終わったあと、物販のところに会いに来てくれて、「今日#KTちゃんを見に初めてバトルに来ました」と言ってくれる女の子も増えてきて、男の子ももちろんいるんですけど、少しずつだけど私も貢献できてるのかな?と。
――でもバトルの#KTちゃんを見ている人が、今回の新曲「BaNe BaNe」を聴いたら、いい意味でびっくりするかも。バトルの#KTちゃんと、音源を作る#KTちゃんは、分けて考えている?
MCバトルの時は、MCバトルの#KTちゃんなんですけど、音源の#KTちゃんともちろん一緒なんですけど、アーティストとしてやっていく上で……MCバトルで私のことを知ってくれている方が多い中で、音源で私のことを、アーティストとしての#KTちゃんをもっと知ってもらいたいというので、MCバトルの覇気ある感じとは、今回はちょっと違うコンセプトの曲を作りました。チルい感じの。今後、アーティスト活動にももっと力を入れて、音源も作っていきたいなと思っています。
――もともとiri、chelmicoとかが好きになってラップっぽい音楽にハマったって、何かで読みましたけど。それだったらこういう曲は全然有りだなと思いました。
いろんなコンセプトの曲もやってみたいなと思いつつ、今回はこういう、エモい感じの曲にしました。
――「BaNe BaNe」はどういうふうに作っていったんですか。
まずチームでテーマを決めて、「覚悟」が今回のテーマになっているんですけど、それを知った上で、私がまずリリックを書いて。トラックをRed-Tさんという方が作ってくれたんですけど、何の打ち合わせも無しに、テーマだけお互い知ってる状態で完成させて、最後にガッチャンコさせました。それだからこその化学反応みたいなものがすごくあって、「覚悟」と言ったら、「おっしゃ、行くぞ、立ち向かうぞ」みたいな曲になるイメージがあるじゃないですか。でもそのテーマを自分なりに解釈して、自分の世界観を作っていく時に、オラァー!って行くよりは、バネみたいにびよーんと壁を乗り越えるみたいな、伸び伸びと気持ちよく飛び越えて次のステージへどんどん行こう、みたいな。そういうものが自分のイメージの中にあったので。そこに、ジャンジャカジャカジャカ!みたいな曲が来るのかと思ったら、めっちゃチルい感じの曲の曲で、「これいい! 好き!」みたいな感じになって、すごく面白いなと思いました。いい曲になりました。
――そのあと、DOTAMAさんに入ってもらって。
私のリリックも入っている状態のものをタマちゃんに渡して、「ここの部分を、こういうテーマで、リリックを書いてほしい」と言って、書いてくれたリリックが、私に対して背中を押してくれるようなメッセージで。サビの中に《アッパレなカーテンコール、you want to see it too,right?》っていうリリックがあるんですけど、タマちゃんがそのリリックを見た時に、#KTちゃんは始まったばかりなんだから、カーテンコールするのは早いでしょっていう、私に対して熱く背中を押してくれるメッセージが入ったリリックを書いてくれて。私自身もすごく嬉しかったし、この曲を聴いてくれる方も、きっとタマちゃんのリリックに背中を押される方もたくさんいるんじゃないかなと思うので。そこはすごく聴きどころの部分です。
――素敵です。なんていい人。
タマちゃん、この前のバトルもチームで優勝されていて、最強でした。
――ぜひみなさん、女子男子問わず、おじさんから子供まで、チルい中にぐっと胸に響く曲だと思うので、チェックしてほしいです。話が戻っちゃいますけど、バトルシーンってやっぱり、男社会じゃないですか。なんだかんだ。
多いですね、男性の方が。まあまあ人数がいるような大きな大会でも、女の子は私しかいなかったりとか、そういうことがほとんどです。
――ただのヒップホップファンの目線で言うと、そこで女子がサバイブしていくのって、男っぽいほうに寄せていくパターンがありますよね。より強いほうへ、いかついほうへ、男勝りのほうへ、みたいな。逆に、女性を強調して、過剰にエロチックな方向にいくとか。それはそれでかっこいいと思うけれど、#KTちゃんはその方向では全然ない。女子のままで軽やかにバトルしているところがすごくいいなぁと思ったりするわけです。
私が思うのは、そういうかっこいい路線というか、強そうな路線に、自分の身なりとかバイブスを持っていくのも、一つの戦い方だと思うんですけど、私自身は普通の高校生で、MCバトルの存在も知らないままに過ごしてきた時間があり、ストリート育ちでもなんでもないから。おうちに帰ったら普通にご飯があって、あったかいお風呂が待ってて、そういう生活をしてきた一人の女の子だったので。そこを強そうな感じに取り繕うのは、自分の中では嘘になっちゃうわけじゃないですか。自分が生きてきた道とはズレちゃうというか、自分が嘘になっちゃうと思って。だったら私は、今まで過ごして来た年月のこのまんまを、ありのままの私でいることがリアルかなと思ったので、変にワルぶったりとかそういうことはしないです。
――その、素の自分を出すということがなかなかできないんですよね。それはバトルだけじゃなく、たぶん学校でも仕事でも、世の中のいろんな場所で、いろんな人が思っていることだと思うので。#KTちゃんはすごく勇気を与える存在になりうると思うんです。
嬉しいです。
――しかもそれで楽しませている。
さらけ出すというか、私はこのまんま、周りを気にせずやっていきます。
――だからこそ、漢さんや呂布カルマさんみたいな人もきちんと接してくれるんじゃないかと思うんですけどね。
嬉しいですね。大先輩ラッパーのみなさんも、私としゃべる時は娘を見るような目で話してくださるので(笑)。いい方ばかりです。営業妨害になっちゃうかもしれないけど(笑)。
――それはあなたが彼らをいい方にしているんじゃないですか。ヒップホップ界に平和を広めている人ですよ。俺の方が強いぞ文化という面が強いですからね、昔からヒップホップは。特にバトルは。でもそれだけじゃただのケンカで終わってしまう。
MCバトルは口げんかである一方、エンタテインメントな部分もすごくあるから、見てて面白いんですよね。対戦相手が毎回違うからこそ起きる、意外な試合の画とかすごく面白いですし、もっと広まっていったら嬉しいです。
――ちなみにバトルの時って、ある程度事前に準備しておくんですか。こういうことを言ってやろうとか。
いえ、ぎりぎりまで対戦相手がわからないので。でも私は「ファンタジーワード」って言ってるんですけど、ディズニーとか、おとぎ話とか、そういうワードが好きだから使いたいというのがあるので。日常生活を過ごしている時に、おとぎ話のワードで韻を踏めないかな?とか考えて、家でビートを流してラップしてみたりする時に、「こういう感じ、イケるな」とか、そういうことはやりますけど、あとは本当にその場のノリです。ただ音源のリリックは、こういう考えで、こういう世界観のワードがあったらいつか使えそうだなとか、たまにメモっておくぐらいはありますけど、基本、そんなにないです。
――「BaNe BaNe」で一番気に入っているラインは?
1バース目の、《somebody、コッソリ言ってんだワラワラw》から、《I don’t care.Did you say,パニャパニャ》の、《パニャパニャ》です(笑)。
――まさかの(笑)。あれはどこからきたんですか。
みんなが私に対していろんな意見を言ってくることに対して、いろいろ言ってきてるみたいだけど「え、今なんて言いました?」みたいな、あんまり気にしてない自分がいて。それをリリックに落とし込んだ時に、みんなが言っている言葉を総称したいなと思って。プラスな言葉もマイナスな言葉も全部総括して《パニャパニャ》です。幸せな感じもあるし、ちょっとユーモアある言葉でもあるし、辞書で調べても出てこないので、たぶん私の造語になるんですけど。
――素敵な言語感覚。やいのやいのとか、ああだこうだとかじゃなくて。
歌っている時も、ほかのところはブレッシーなんですけど、《パニャパニャ》のところだけリミッターが外れて歌っているところが自分の中でもお気に入りです。歌い方も込みで。そのあとの《夢中をニュ~っと注入したら》の《ニュ~》も好きです(笑)。普段しゃべってる時も、擬音語を使いながら説明することが多くて、そういうのもあるのかなって思います。
――そのうち「#KT語辞典」ができるかも。
解読不可能な言葉たちをまとめて(笑)。
#KTちゃん
――ライブの話もしておきましょうか。イベント以外の主催ライブで言うと、10月6日に原宿ルイードでバースデーパーティーがあります。名付けて『HARAJUKU RAP PARTY vol.0-#KTちゃん birthday-』。
19歳の誕生日に、初めてのバースデーパーティーを開こうと思ってます。私のライブと、ゲストラッパーの方のライブと、MCバトルも入れてやろうと思っていて。紅白歌合戦じゃないけど、男女に分かれて、男の子ラッパー対女の子ラッパーの対決みたいな、新しいバトルの形式もやりたいなと思っています。MCバトルは女の子が少ないので、これを機に私もやってみたいなと思ってくれる子がいたら嬉しいなと思って。
――プロデューサー気質、ありますね。頭の中にいろんなアイディアが駆け巡っていそう。
ほんとですか? 想像力が豊かなので、「これ、できないかも」って普通だったら思うようなことも、全部できる前提で考えていくみたいな、そういうところはあるかもしれないです。だって「高校生RAP選手権」も、そもそもヒップホップが好きな高校生の子たちが、ここで名を上げて有名になってラップドリームをつかむんだって意気込んでる中へ、2週間前からラップ始めた子がポンと入っていったので(笑)。でもそうやって、最初は興味本位で受けたものだったとしても、今こうして1年経って、自分が今見ている景色がこんなに変わってると思うと、挑戦してよかったなと思いますし、可能性は無限大だなと思います。
――impossible is nothing.1年後、2年後、3年後、5年後、どんな未来予想図を描いていますか。
まずはアーティスト・#KTちゃんをみなさんに知っていただくところからだと思うんですけど。#KTちゃんをどんどんふくらませていって、ライブにお客さんをたくさん呼んで、3月に両国国技館でMCバトルをやったんですけど、あのステージでいつかアーティストとしてワンマンライブをするのが今の目標です。あと、MCバトルで勝ちたいです。
――本音が(笑)。通算で今まで何勝何敗なんでしたっけ。1年間で。
大きな現場の大会は、ゼロ勝です……。ただABEMAの番組が2回あったんですけど、2回とも勝ってます。地元の先輩サイプレス上野さんにも。
――そりゃすごい。
そう、うえちょに勝利しちゃってるんですけど。でもこの間、カルちゃんとラジオをご一緒させていただいたんですけど、その時に「それはノーカウントです」と言われました(笑)。「なんでダメなんだー」と思ったんですけど、次は現場で、客判定で、圧倒的な勝利をつかんでやろうと意気込んでおります。
――頼もしい。夢がいっぱい。
主催の大会とかもやってみたいです。それこそ、バースデーパーティーの時にやろうとしているMCバトルだったり、ライブだったりをどんどん大きくして、やっていきたいです。
――楽しみです。今後も定期的に観察に来ます。観察は失礼ですね(笑)。何て言うんだろう、成長の途中経過を確かめていきたいです。半年後、1年後にはとんでもないことになっているかもしれない。
ぜひ見張っていてください(笑)。その時は、勝ち#KT+アーティスト#KTで、またお会いしましょう。
取材・文=宮本英夫
リリース情報
2023年7月21日(金)配信
ライブ情報
日程:2023年10月6日(金)
時間:open/start 18:00/18:30
場所:原宿RUIDO
2次先行販売中!(~23年8月31日(月)23:59)
一般発売予定(23年9月16日(土)10:00〜)
https://eplus.jp/sf/detail/3919080001-P0030001