新幹線CMソング収録、andropの新アルバム『gravity』に詰め込んだ祝福の意味ーー内澤崇仁「前向きなのに、頑張らなくていい」
内澤崇仁
中条あやみが出演中のJR西日本 新幹線の旅「旅は、のぞみだ。」のCMソングに「Arata」が抜擢されたandrop。8月23日(水)には爽やかさ満載で旅にピッタリな「Arata」を含む13枚目のアルバム『gravity』をリリースした。作品を作り終えた内澤崇仁(Vo)に、「ラジオDJになったキッカケはandrop」というFM802のDJ 田中麻希がインタビュー! 取材場所は新曲になぞらえて、大阪の梅田にある創作ダイニングARATAからお届け。宇宙をテーマにした同作に込めたメッセージに切り込む。
内澤崇仁、田中麻希
ーー『gravity』聴かせていただきました。色鮮やかな景色が浮かんでくるようなアルバムです。
耳で、音楽で、人を引き寄せる音楽を作りたい、そして人との繋がりを持つアルバムにしたいという思いがありました。みんなコロナ禍で大変な思いや、窮屈な思いをしてきたので、気持ちが晴れやかになって前向きになれるような音楽を鳴らしたくて。なので重力や引き寄せるという意味がある『gravity』をタイトルにしました。今までで1番明るくて、どんな高さから飛び込んでも怪我しないくらい、すごく柔らかいクッションみたいに受け止めてくれるアルバムです。
ーーどんな状況であっても、全方向から優しく肯定してくれそうです。タイトルはすべてローマ字表記ですね。
漢字やひらがな、カタカナだと、その文字の印象に曲を左右されることがあるんですよね。まず最初に聴いた印象で曲を判断してもらいたいので、自分の中で記号っぽい雰囲気に1番近かったローマ字表記を使っています。デモも仮タイトルはなくて、日付とかの番号なんですよ。
ーー結成当初からandropの音楽を先入観なく聴いてほしいという想いを強く感じます。1曲目の「Parasol」から新たな幕開けを感じました。<元気になるなら ちょっとくらい嘘はつこう>という歌詞が好きです。
例えば落ち込んでる人がいたとして、その人の笑顔のためだったら、ちょっとくらい嘘をついてもいいかなと思う瞬間があったりしますよね。曲を作る前から「Parasol」を1曲目にすると決めていたんですよ。前向きな曲調なのに、頑張らなくていいというメッセージとして込めるとおもしろいかなと。日傘を差して待つとか、とどまる時もあってもいいんじゃないかというような歌詞にしたかったんです。前作のアルバム『fab』を作り終えたときに「次作は打ち込みではなくギターのサウンドが全面に出ていくようなバンド像はどうだろうか」と話し合いをしていたので、ギターのフィードバックから始まって、前向きで太陽や光に向かって駆け出したくなるような曲調という構想は練っていました。
内澤崇仁
ーーギターの音色にもすごく惹かれました。佐藤(拓也)さんが笑顔でギターを弾いてらっしゃる姿も目に浮かんできます。4曲目の「Hyper Vacation」も爽快なギターロックで、広がりのあるメロディが癖になります。コロナ禍で思い通りのバケーションが過ごせなかった現状も踏まえてなのでしょうか。
まさにそうですね。今年の夏はみんな開放的になって、弾けるんじゃなかろうかという予測はしてました。例えば楽曲提供をさせていただいた現場でも、開放的な曲を作ろうと話していて「じゃあ」とandropにフィードバックさせてみました。
ーー2曲目のはピアノの音色が優しく響く「Arata」。まさに今、ARATAというお店で取材していますが、こちらはJR西日本の新幹線の旅のCMソングになっています。
実は5年前の春に作った曲なんです。前に進むような、旅に似合う雰囲気の曲だなとずっと思っていて。JR西日本さんのコンペの話をいただいたときに、テーマやメッセージにぴったりだなと思ってエントリーしたところ、選んでいただけました。テーマにより寄せて作り直しますと言ったのですが、「現状のままの方がいいです」とをおっしゃってくださったので、サビは5年前からほとんどそのまんまです。
ARATA
ーードラムのカツカツカツというイントロも、新幹線に乗ってガタンゴトンと揺れる感じに思えました。サビには鐘の音も入っていますね。
自分が体験したことによって見る世界が変わっていく、新しい自分になっていくことを祝福する曲にしたかったので、ベルやチャイムが入っています。
ーー歌詞の中には、<今>や<新たな光>というワードもありますが、影の部分も含めてandropの音楽のように感じます。
楽しみと悲しみのように対になっているものを表現することによって、より聴く人の居場所を作れる曲になるのかなと思っています。
内澤崇仁
ーー3曲目の「Black Coffee」はガラッと雰囲気が変わって、R&Bの雰囲気も感じます。ビルボードライブでもまた聴かせていただけたら嬉しいです。
まさにそういう思いもあります。ビルボードライブは毎年やらせてもらっているので、その時に楽しい音楽の表現の仕方とか、曲調とかも意識をしてみました。
ーー「Black Coffee」は、内澤さんにそばで歌ってもらってるような感覚にもなりました。
音数が少ないので、細かい呼吸の音も聞き取りやすくて、近く感じられるようになってるとは思います。
ーーちなみにブラックコーヒーは飲まれますか?
今回の制作の時は、眠気覚ましのためにめちゃくちゃ飲みました。もちろんブラックで。豆から挽くこともあります。でもすっごい濃いのを飲んでも眠くなるんですよね。謎です。
ーー日常の中の一場面からも着想を得て、音楽へ還元しているのですね。
あとは(アルバム制作は徹夜作業もあるので)ブラックな仕事ですよね(笑)。ほかにもブラックミュージックで歌ってと、いろんなブラックをかけ合わせてみました。曲を作る時に、僕は遠くの宇宙まで自分を持って行って、そこで作って、地上に戻ってきて完成させるみたいな感覚があるんですね。今回のアルバムは宇宙をテーマにしているので、自宅から宇宙に行ってるサマが曲になったらおもしろいかなというのがありまして、歌詞に反映しました。
内澤崇仁
ーー2023年の第一弾シングルでもあった5曲目の「Happy Birthday, New You」の中にも、アンタレスやシリウスという惑星のワードが出てきます。
この曲は、実態はないけど身近に感じるものをテーマにしています。宇宙は掴みようがないけれど実際にあるもの。全然身近ではないんですけども、実は自分の中に宇宙があるのかなと。
ーー<新しいあなたになる>という歌詞も素敵です。
自分のターニングポイントや、決意した時のことは結構覚えているじゃないですか。新しい自分に生まれ変わると決意した瞬間は、その人の新しい誕生日になるはず。生まれてくる日は自分では選べませんが、自分で新しい誕生日を決められるといいのかなと思いまして。毎回祝うのは難しいので、新しいあなたになった時に「ハッピーバースデー」と言ってあげられるような曲ができたらいいなと作られた曲です。
ーー 音像にもすごく衝撃を受けました。
andropで今までやってこなかったんですけども、弦を緩めたり張ったりして、チューニングを安定させないで揺れさせるギターの「アーミング奏法」というものを使っています。音像もディレイとかコーラスとか、色々エフェクトをかけてるので、ステレオのLとR(左と右)で位相のずれが起こるんですよ。感覚が変わるので、それらが不思議な空間を演出しております。
ーーそれこそ、宇宙空間を旅しているようでもあり、イヤホンで聴くと「自分は今どこにいるんだろう」という感覚にもなります。ベースに90年代を感じさせるサウンドもあって、歌詞とマッチしていますね。
やっぱり僕にとってのギターのサウンドは、90年代が原体験で一番大きくて。なので、ギターを全面に出した今作は90年代のサウンドがチョイスしやすかったんだと思います。
内澤崇仁
ーー6曲目に収録の「Toast」に惹かれまして。お守りみたいな曲だなと。
岡山県の『hoshioto』というフェスの帰りのバスの中で、祝福の曲を作ろうと思いまして。「Toast」は乾杯という意味で、乾杯は感情を一緒に共有する素敵な行為ですよね。最近は酒造でライブをしたり、お酒を飲みながらのフェスにも出させてもらう機会が増えてきたので、ライブでも乾杯したいですね。
ーーよくやった、トースト! ライブで一緒にやりたいです。<諦めないでよくもまあ だから出会えたんだよ>という一節もありますが、内澤さん自身が振り返られて、音楽人生の中でよかったと思える出会いはなんですか?
メンバーとの出会いはすごく大きかったですね。当初僕は期間は短くてもいいから、聴く人に対して残るものを作りたいという思いが強かったんです。それを一緒に具現化して歩んでくれるメンバーがいるから、助けられてここまできました。
ーー10周年記念ライブ『androp -10th. Anniversary live-』に私も行かせていただきましたが、メンバー4人が初めてバンドとして音を合わせた曲「Image Word」から始まりました。メンバーとの出会いは、大きいものだったのかなと思っています。では今、音楽を紡ぎ続ける原動力は何でしょうか。
好奇心と罪悪感ですかね。いろんな音を作れて、いろんな音を知っている自分でありたいし、なんでもできる自分でありたいんです。ギターひとつをとっても、歌でも作曲でも歌詞でも「これとこれを掛け合わせたら何ができるんだろうか」と探求するところが音楽にはたくさんあります。だからこそ作った音楽に対して「本当にこれでよかったんだろうか」という罪悪感もあるので、良かったんだという証を作りたい思いはあります。
ーー放たれた音楽を受け取った人のことまで考えられている。
届くまでが作曲だと思ってます。自分のために作るのなら、別に世に出さなくてもいいわけじゃないですか。外に出して人に届いてからようやく思いを共有したり、伝えたりが始まるわけです。ライブやリリースを通して人に曲が届くことで、ようやく自分の中での作曲が完結します。
内澤崇仁、田中麻希
ーーあなたに歌ってるよというメッセージは、一貫して感じています。出会いといえば、私がラジオDJになるキッカケはラジオから届いたandropの音楽でした。
すごいことですよね。保護者的な目線からすると、銀行員からDJへの転職は結構心配ですよ。でもそういうのをお聞きできると、辞めずに曲を作り続けこれてよかったなと思いますね。
ーーラジオDJデビュー1曲目はandropの「Arigato」をかけさせていただきました。アルバムラストの「Cosmos」は、内澤さんの弾き語りで作られたとても暖かいバラードですね。
壮大な曲ができました。等身大で身近にいるような曲で終わりにしたくて。あとツアーも意識をしていたので、その前には絶対完成させたかった。あと数時間で発売延期だったんですけど、なんとか納品することができました。ちょうどツアーの終わりが10月なので、最後の曲は秋桜と書く「Cosmos」というタイトルにしました。
ーーアルバムのスペシャストア限定パッケージには特典として、2022年の日比谷公園大音楽堂でのワンマンライブを収録したDVDもついてきます(受付終了)。
そのさらに5年前に大雨の日比谷を体験していたので、いつかリベンジしたいという思いがありました。結果、すごく晴れたし思い出深いですね。「September」という曲もあのライブで初めて披露させてもらいました。
ーー雨の日の日比谷の演出も良く覚えていますが、晴れの日比谷では照明や映像も駆使されていましたね。
ようやくドレスコード集合できて、全体的な演出という点でもリベンジできました。すべてにおいて、日比谷での出演が禁止されるギリギリのところまで攻めていましたね。森の中で仕組むとか、圧倒的な量のスモークを焚くとか。
ーーそして、8月27日(日)のZepp Shinjukuを皮切りに始まるツアー『androp one-man live tour 2023 “fab gravity”』も迫ってきています。どんなライブになりそうでしょうか。
前回の『fab』という作品と、今回の新しい作品が混ざって、濃い化学変化をもたらすようなライブにしたいなと思っております。
ーー『fab』もラップもあり、パワーポップな感じやギターロックの感じもありな作品です。その2作が融合されたらどんなライブになるんだろうとワクワクしています!
そうですね。しかも2作ともライブに意識を置いて作曲してるものなので、濃いライブになるのではないかと思います。そしてライブを意識してアルバムのリリースをしたのは今回が初めてなので、とても楽しみです。
内澤崇仁、田中麻希
取材=田中麻希 撮影=高村直希 文=川井美波(SPICE編集部)
リリース情報
2023年8月23日(水)発売
品番:PECF-9054
形態:CD+DVD
税込価格:6,100円
収録曲)
CD
01.Parasol
02.Arata
03.Black Coffee
04.Hyper Vacation
05.Happy Birthday, New You
06.Toast
ツアー情報
08月27日(日) Zepp Shinjuku(TOKYO)
09月02日(土) 広島 LIVE VANQUISH
09月09日(土) 名古屋 CLUB QUATTRO
09月16日(土) 仙台 darwin
09月30日(土) HEAVEN’S ROCK さいたま新都心VJ-3
10月08日(日) 福岡 DRUM Be-1
10月14日(土) 札幌 cube garden
各公演:5,900円(税込)
7月1日より一般発売
■イープラス
■8月25日(金)『SWEET LOVE SHOWER2023』
会場:山中湖交流プラザ きらら
会場:KT Zepp Yokohama
ARATA店舗情報
Instagram:https://www.instagram.com/casual_dining_arata/