みつなかオペラが、モーツァルトのダ・ポンテ三部作の最終回『フィガロの結婚』を上演 ―― 指揮者 牧村邦彦と演出家 井原広樹、出演者8名がその魅力を大いに語る
長太優子、古瀬まきを、内山歌寿美、高重咲智華(前列左より)武久竜也、迎肇聡、東平聞、柏原保典(後列左より) 撮影=H.isojima
兵庫県川西市にある客席数500席に満たないみつなかホールで毎年開催される「みつなかオペラ」は、まるでヨーロッパの片田舎の劇場でオペラを観ている気分に浸れると人気のプロダクションだ。充実の歌手と、百戦錬磨のオーケストラから紡ぎ出される音楽はクオリティが高く、一般のオペラファンはもちろん、東京から音楽関係者がわざわざ足を運ぶことでも知られている。今年2023年は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲、ロレンツォ・ダ・ポンテ台本による「ダ・ポンテ三部作」(『フィガロの結婚』、『ドン・ジョヴァンニ』、『コジ・ファン・トゥッテ』)の3年目。絶大な人気を誇る『フィガロの結婚』を10月8日(日)、9日(月・祝)の2日間上演する。伯爵の従者フィガロと、伯爵夫人の侍女スザンナの結婚をめぐり、一癖も二癖もある登場人物を巻き込んだ狂乱の1日が始まる。二人は無事に結婚出来るのか。
ダ・ポンテ三部作 第一弾『ドン・ジョヴァンニ』(21.12.12 みつなかホール) 写真提供:みつなかホール
ダ・ポンテ三部作 第二弾『コジ・ファン・トゥッテ』(22.11.5 みつなかホール) 写真提供:みつなかホール
『フィガロの結婚』の魅力や今回の演出プラン、自分の役に込めた思いなどを、指揮者の牧村邦彦、演出の井原広樹、出演者を代表して、伯爵役の迎肇聡、東平聞、伯爵夫人役の内山歌寿美、スザンナ役の古瀬まきを、ケルビーノ役の高重咲智華、バルトロ役の武久竜也、ドン・クルツィオ役の柏原保典、バルバリーナ役の長太優子に聞いた。
ダ・ポンテ三部作 第一弾『ドン・ジョヴァンニ』(21.12.12 みつなかホール) 写真提供:みつなかホール
ダ・ポンテ三部作 第二弾『コジ・ファン・トゥッテ』(22.11.5 みつなかホール) 写真提供:みつなかホール
「SPICE」取材風景 写真提供:みつなかホール
『フィガロの結婚』は、ストーリーも音楽も最高です!
――20年前のみつなかオペラ『ボッカチオ』のチラシを偶然ネットで見つけて、迎さんと東さんのお名前を発見しました。レオネット役をダブルキャストで演じられていたようですが、覚えていらっしゃいますか? それから20年、『フィガロの結婚』の伯爵役をダブルキャストで出演する事について、感想をお願いします。
東平聞:(フランツ・フォン・)スッペ作曲の『ボッカチオ』ですか。レオネット役の事も、全く覚えていません(笑)。迎君とは同い歳なので、20年前という事は二人とも25歳ですね。おそらくその作品がプロのオペラ団体デビューだったと思います。みつなかオペラもこの20年の間で、随分発展を遂げられました。今ではオペラ界注目のプロダクションです。そこで『フィガロの結婚』の伯爵をやらせて頂けるのは、大変光栄なことです。
東平聞(バリトン) 写真提供:みつなかホール
――伯爵役はこれまで何度くらい演じられていますか。
東:実は、伯爵役をフルでやるのは今回が初めてです。ずっとやりたかった役でした。バリトンの代表的な役ですから、これまでにも錚々たる先輩方が演じて来られたのを、色々と聴いて来ました。難しいアリアも有って、挑戦し甲斐があります。母校の大阪音楽大学では選抜オペラといって、モーツァルトのオペラばかりを取り上げる演奏会が有ります。入学した時、先輩たちが取り組んでいたのが『フィガロの結婚』で、生まれて初めて観たオペラでした。憧れの先輩が伯爵をやっていたこともあり、自分にとって目標とする役でした。しっかりと準備をして、見事に務め上げたいと思っています。
迎肇聡:ごめんなさい。私も『ボッカチオ』の記憶はありません(笑)。20年前というと音楽人生のスタートですね。将来、大好きなオペラを歌って生活して行けるようになりたいと願っていましたが、ここまで何とかオペラ歌手を仕事としてやって来ることが出来ました。『フィガロの結婚』は、いちばん出演回数の多いオペラだと思います。若い頃はフィガロ役をやらせて頂く機会が多かったのですが、今ではもっぱら伯爵役です。
同い歳の伯爵、迎肇聡、東平聞(左より)
――『フィガロの結婚』がこれほど人気なのは何故だと思われますか。
迎:親しみやすいストーリーがうけるのではないでしょうか。適度なごちゃごちゃ加減の昼ドラという感じで。そして誰も死なないですしね。伯爵の屋敷の中で、スザンナとフィガロが一緒になるのを伯爵が横恋慕を企て、邪魔するという単純なストーリー。『コジ・ファン・トゥッテ』のようにカップルを入れ替えるといった手が込んでいないのが、受け入れやすいのかもしれませんね。音楽の知名度的には、『蝶々夫人』や『トゥーランドット』の方が良く知られているように思います。
迎肇聡(バリトン) 写真提供:みつなかホール
――古瀬さんは、『フィガロの結婚』の人気の秘密はどこにあると思われますか。
古瀬まきを:何と言っても音楽が素晴らしいと思います。そして、最後に偉い人がごめんなさいと言うのが、心地良いのではないでしょうか。上演当時の市民感情もそうですが、そこが日本人にもウケルのだと思います。仲違いしていた人が仲直りして、皆がハッピーになる幸せなオペラ。ラストの許しの音楽は、全ての人の心を浄化してくれます。それがお客様にも伝わるので、上演され続けるのではないでしょうか。
古瀬まきを(ソプラノ) 写真提供:みつなかホール
――古瀬さんはみつなかオペラには随分久しぶりのご出演だそうですね。スザンナ役は何度目でしょうか。
古瀬:みつなかオペラは11年ぶりになります。ありがたいことに(ガエターノ・)ドニゼッティの『ランメルモールのルチア』のタイトルロールをやらせてもらいました。みつなかオペラは以前にも増して人気のようですし、兵庫県出身の私には素敵な劇場の存在が誇らしいです。スザンナを通してやるのは4回目ですが、凄く久し振りです。演出の井原さんは、ビジョンが明確にお有りの方。楽譜に書かれていることをしっかりやった上で井原さんのカラーが加わると、どんなモノに仕上がるか、まず私自身が楽しみたいと思っています。過去にやったスザンナとは違ったものになりそうです。新しい古瀬まきをにご期待ください。
初日組の立ち稽古より 松森治(フィガロ)、古瀬まきを(スザンナ)、大賀真理子(マルチェリーナ)、武久竜也(バルトロ)
――内山さんは今回の出演者でいちばんの若手です。堂々とオーディションで伯爵夫人役を掴まれました。
内山歌寿美:大阪出身ですのでみつなかオペラは良く知っています。新国立劇場オペラ研修所の先輩方も沢山出演されておられるので、絶対に出演したいプロダクションでした。オーディションに合格出来て、本当に幸せでした。家族や友人たちも聴きに来てくれるそうで、地元に帰って来たんだと実感しました。
内山歌寿美(ソプラノ) 写真提供:みつなかホール
――伯爵夫人役をされたことは有りますか。どのように演じようと思っておられますか。
内山:伯爵夫人は大学院の時にやっていて、今回が2度目です。彼女は伯爵夫人である前に、ロジーナという女性です。作家ボーマルシェによる「フィガロ三部作」の、(ジョアキーノ・)ロッシーニ作曲『セビリアの理髪師』のロジーナであり、(ダリウス・)ミヨー作曲『罪ある母』の伯爵夫人と同一人物だという事を忘れてはいけないと思っています。『フィガロの結婚』だけを聴くと、2幕のアリア「Porgi amor」から始まって、少々精神を病んでいる女性と思われがちですが、『セビリアの理髪師』の時の溌剌とした、したたかな女性という面も、このオペラの中では出していきたいと思っています。立ち稽古は始まったばかりですので、井原さんの演出で作品が本番までどう変わっていくのか、楽しみです。
長太優子(バルバリーナ)、高重咲智華(ケルビーノ)、東平聞(伯爵)、内山歌寿美(伯爵夫人)(左より)
――高重さんも、みつなかオペラは初めてですね。
高重咲智華:はい、出身校がくらしき作陽大学で、演出の井原先生が教えに来られていました。師匠は藤田卓也先生で、先生がみつなかオペラに出演されていたのを観て、いつかあのステージに立ってみたいと憧れを持つようになりました。今回『フィガロの結婚』のオーディションを受けられるだけでもありがたいと思って挑んだのですが、まさかケルビーノに選んで頂けるなんて夢のようです。藤田先生はとても喜んでくださいました。
高重咲智華(メゾソプラノ) 写真提供:みつなかホール
――どんなケルビーノを演じようと思っておられますか。
高重:ケルビーノは学生時代に2度やっています。男の子ですが女性が演じることで、中性的な雰囲気になればと思います。自分の感情の動きもわからない思春期の少年ですが、スザンナもバルバリーナもケルビーノの美しさには一目置いているところがあります。彼が原因となって周囲をかき乱しているのに、意外と人は彼を許してしまう。そんな魅力を私なりに考えて出せればと思っています。井原さんからは、もっと色気を出して欲しいと言われています。本番までケルビーノにとことん向き合って行こうと思っています。
二日目組 武久竜也(バルトロ)、長太優子(バルバリーナ)、内山歌寿美(伯爵夫人)、高重咲智華(ケルビーノ)、東平聞(伯爵)
――武久さんも今回がみつなかオペラデビューとお聞きしました。
武久竜也:これまでなかなか機会が無くて、初めて出演させて頂きます。バルトロの役をフルでやるのは今回が初めてです。思い入れのある役だけに、この役で「みつなかオペラ」デビューを飾れることが嬉しいです。バルトロと言えば、何と言っても登場シーンじゃないでしょうか。「復讐だ!」と歌うアリアは迫力十分。彼のフィガロに対する敵対心がよく分かります。そんな中、思いが成就する直前にフィガロが自分の息子だとわかると、戸惑いながらも運命を受け入れて、フィガロへの復讐心を取り払うところが凄いと思います。国や宗教など、価値観の違いはあるかもしれませんが、運命と同様に、憎んでいた相手をも受け入れる寛容な心。そのあたりが今回のテーマなのかもしれませんし、バルトロが愛される所以かもしれませんね。
武久竜也(バス) 写真提供:みつなかホール
――確かにこのオペラのラストでは、許しや受け入れといったところにスポットが当たります。このオペラの人気の秘密はそこにあるのかもしれませんね。
武久:ダ・ポンテが書くストーリーは面白いし、モーツァルトの音楽は最高に素晴らしい。11人の登場人物は、喜怒哀楽を繰り返しながら劇が進んで行くので、多彩なドラマがあります。今回はフィガロにスポットを当てて聴いてみようとか、今回は伯爵夫人で、といった具合で、色々な楽しみ方が出来るオペラだと思います。そのあたりが人気の秘密かもしれませんね。
村岡瞳(スザンナ)、西村圭市(フィガロ)、大賀真理子(マルチェリーナ)、武久竜也(バルトロ)
――柏原さんはみつなかオペラの前身の「川西市民オペラ」時代から出演されているとお聞きしました。今回の裁判官ドン・クルツィオをどんなふうに演じようと思っておられますか。
柏原保典:1991年から川西市民オペラがスタートしましたが、私は第6回目の『カルメン』から出演させて頂いております。役に対して特別な思いは有りません。「この役は柏原にやらしたら面白いのでは」と、与えて頂いた役を、しっかり着実にやらせて頂くだけです。フィガロの出生の秘密が明らかになるところで歌われる六重唱を楽しみにしています。
柏原保典(テノール) 写真提供:みつなかホール
迎:柏原さんは、ヨーロッパの劇場に一人はいると言われる、例えば『トスカ』の堂守をやらせたら第一級の歌唱をするという劇場の名物的な存在だと思います(笑)。
初日組 迎肇聡(伯爵)、古瀬まきを(スザンナ)、柏原保典(ドン・クルツィオ)(左より)
――そんなドン・クルツィオ役を、二日目組では若い加護翔大さんが演じられる対比も、面白い所ですね。では、二日目組でバルバリーナを演じられる長太優子さん、お願いします。長太さんは川西市のご出身だそうですね。
長太優子:みつなかオペラのチラシに名前が載るのを目標に頑張って来ました。みつなかホールは学生の時に合唱でお手伝いをしたり、コロナによる緊急事態宣言明けの『魔笛』では、ダーメをやらせて頂いたことは有りましたが、やはり憧れのみつなかオペラのキャストで出演したいと頑張って来ました。実は学生の時に、スザンナをやりました。その時のフィガロが迎さんでした。迎さん、覚えてらっしゃいます?!
長太優子(ソプラノ) 写真提供:みつなかホール
迎:もちろん、覚えていますよ(汗)。
長太:オペラデビューは『フィガロの結婚』の大好きなバルバリーナが良いなと思っていました。4幕冒頭のカヴァティーナを歌いたかったのです。そして念願のみつなかオペラデビューがバルバリーナに決まり! 学生時代の自分に、夢は叶うよと教えてあげたいと思います。
本番のホールを使った立ち稽古の様子 写真提供:みつなかホール
――バルバリーナはどんな女性でしょうか。
長太:思春期前の、女性になりかけの可愛い少女だと思います。素直で純粋、悪気無く余計な事を言ってしまいます。彼女の発する不用意な一言で、物語は動きます。あまり物事を深く考えていないのですが、それでも皆から愛されている。そんな無邪気な少女を可愛く演じたいです。
長太優子(バルバリーナ)、高重咲智華(ケルビーノ)(左より)
迎:このオペラでは、フィガロに限らず、男性はいい意味でアホなんですね。騙しているつもりが騙されたりとか。フィガロは、自分が伯爵とは違って頭が良い所を見せているつもりですが、スザンナの方が一枚も二枚も上手な事は、お客さんが良くご存知です。そんな子供のような可愛いらしさがフィガロの魅力だと思います。伯爵も自分勝手に振舞っているつもりでも、スザンナと奥さんが入れ替わっている事さえわからない。結果的に素直に謝り、奥さんが許し、皆も納得し受け入れる事がこの作品のテーマのように思います。
初日組の立ち稽古より 柏原保典(ドン・クルツィオ)、迎肇聡(伯爵)、武久竜也(バルトロ)
――東さん、内山さんとは役作りの打ち合わせはされていますか。
東:この間初めてやりました。立ち稽古が始まったところなので、フィナーレの謝罪のシーンはこれからの課題だと思います。牧村さんには「謝り方がエラそうや」と言われました。実は、あの謝罪のシーンはメチャクチャ難しいんですよ。大声で歌って、ノーノーと怒り狂っていると思ったら、伯爵夫人の一言で音楽の曲調が変わり、急に謝る。一体いつ反省したんやってなりますよね(笑)。
内山:東さんは、とても楽しい方です。これから本番まで、よろしくお願いします。組違いの伯爵夫人が並河寿美さん。将来、並河さんの様な歌手になりたいと思っているので、色々と勉強させて頂いています。このプロダクションでは私がいちばん歳下で、緊張の毎日です。
二日目組 内山歌寿美(伯爵夫人)、東平聞(伯爵)
――それにしても、モーツァルトはあの場面で最高の音楽を用意しましたね。あれを聴くと何もかも許してしまい、受け入れてしまいそうになります。迎さん、皆さんを代表して、「SPICE」の読者にメッセージをお願いします。
迎:ダ・ポンテの3部作を締め括る形で、『フィガロの結婚』をお届け致します。稽古場の雰囲気は最高。間違いなく面白い作品をお届けできると思います。今年は『フィガロの結婚』の当たり年のようで、色々な所で行われますが、自信を持ってみつなかオペラの『フィガロの結婚』をお勧めします。ぜひお越しください。皆様のご来場をお待ちしています。
二日目組の歌稽古の様子
「手紙の二重唱」を天国的に美しく響かせたいです(牧村邦彦)
続いて、指揮者の牧村邦彦にも話を聞いた。
――牧村さん、ダ・ポンテ三部作もいよいよ『フィガロの結婚』ですね。『フィガロ』は何度くらい指揮されましたか。
ちゃんと数えたことは有りませんが30回くらいだと思います。昔、名古屋で1週間12回公演というのがありました。1日2回公演の日もありましたが、どの公演もちゃんとは売れました。凄いオペラですね。途中から腕が痛くて上がらなかった事を覚えています(笑)。それこそ日本中の色々な演出家とやっています。先ごろ亡くなった栗山昌良先生ともご一緒しました。意外にも井原君とは初めてです。
牧村邦彦(指揮者) 写真提供:みつなかホール
――それは意外ですね。演劇色の強い『フィガロの結婚』ですが、井原さんの演出は如何ですか。
立ち稽古を見ていて、相変わらず独創的な考え方をしているので、面白いなと思っていたところです。井原君は音楽的な側面からだけでなく芝居的なアプローチをするので、人とは違った新鮮な演出をやって来ます。色々な考え方が有っていいのですが、問題は音楽的に上手く響くかどうか。奇抜な並びをやっても、音楽的な響きがしないとダメだと思うのです。そこは一緒に模索します。ダ・ポンテの題材を共に読み解くので、基本的には同じ方向を向くとは思います。
井原広樹(演出家)
――聴きどころはどの辺りになりますか。
有名なアリアが盛りだくさんのオペラです。ベテラン組にはちゃんと付けるから、勝手に歌っていいよと言っています(笑)。若い人には、音楽のスタイルや古典のスタイルについてキチンと伝えようと思っています。『フィガロ』の中で僕が大事にしているのは、伯爵夫人とスザンナの「手紙の二重唱」です。あの曲は譜面的には然程難しくはないのですが、キチンと丁寧に、天国的に美しく聴かせたいですね。若い人たちも、学生の頃から習う曲なので簡単に考えているようですが、音楽として成り立たせるのは本当に難しい曲です。
「手紙の二重唱」を天国的に美しく響かせたいです
――最後にメッセージをお願いします。
みつなかオペラでは、ドニゼッティや(ヴィンチェンツォ・)ベッリーニ、(ジャコモ・)プッチーニなど、色々な3本シリーズを取り上げて来ましたが、いよいよモーツァルトのダ・ポンテ3部作が完結します。個人的には作曲順ではなく、最後が『フィガロの結婚』というのがみつなかオペラっぽくてちょっと嬉しいです。『フィガロの結婚』を終えたら、そうですね、ずっと同じ制作陣と共に走って来たので、気分的にはここらでちょっと大きく深呼吸をしたいなぁと、そんな感じでいます(笑)。ベテランと、これからの関西のオペラ界を背負って立つ若い人たちとのコラボは、みつなかオペラならではです。お客様には有望な若手の歌声をご自身の耳でお聴きになって、どうか彼らを応援し、育ててあげて頂きたいです。ぜひみつなかホールにお越しください。これからのオペラ界を共に盛り上げて頂けると嬉しく思います。
ぜひ、みつなかホールにお越しください
『フィガロの結婚』は、「ダイバーシティ&インクルージョン」がテーマです(井原広樹)
10分しかない立ち稽古の合間の休憩時間に、演出の井原広樹も取材に応じてくれた。
――先ほど、一部の出演者にお話を聞きましたが、皆さん「愛」や「許し」や「受け入れ」といった事をテーマとして捉えておられました。
そうですね。伯爵が謝罪し、伯爵夫人は許しました。それは、モーツァルトの美しい音楽が物語っています。但し、それは以前と同じ関係に戻る事では無くて、二人で新しい夫婦の在り方を見つけて行きましょう、みたいなことだと僕は理解しています。伯爵は分かっていないと思いますが(笑)。ダ・ポンテ三部作を通して、今風に言えば、「ダイバーシティ&インクルージョン(人材の多様性を認め、受け入れて生かすこと)」がテーマになっていると思います。『フィガロの結婚』に関して言うなら、それをフランス革命の反骨心みたいなものに置き換えてやりたい。僕たちはコロナを経験した訳ですが、アフターコロナみたいなパラダイムシフト(当たり前のことが劇的に変化する)とシンクロさせていきたいと思っています。昨年の『コジ・ファン・トゥッテ』はまさにそうでした。二組のカップルの関係は一度崩壊しています。その中で自分たちが前に進むためにどうしたらいいか。ハッピーエンドとは、元に戻る事ではなくて、新しいシステムを再発見するような事が作品の中にあると思っているので、今僕たちが抱えている問題とシンクロ出来るのではないでしょうか。上手く見せる事が出来れば、多くの方に共感を持ってもらえると思います。
井原広樹(演出家)
――「ダイバーシティ&インクルージョン」が、井原さんのここ最近のテーマですね。昨年のザ・カレッジ・オペラハウスのフランツ・ヨーゼフ・ハイドン作曲、歌劇『無人島』でも、そのような事を感じました。
僕の中では一貫してそうですね。ダ・ポンテもそうですが、ハイドンの『無人島』や、モーツァルトでいうと『皇帝ティートの慈悲』の作家、メタスタジオも、そういうモノを好んでいると思います。例えば破壊について、僕は否定はしませんが、その次にリナシメント(再生、復活)みたいなものがある破壊でないといけないという思いが有ります。
みつなかオペラの『フィガロの結婚』にご期待ください
そこまで言うと、そそくさと稽古の現場に戻って行った井原広樹。
単に「謝罪」や「許し」といった言葉ではなく、お互いの置かれた立場を尊重し、それを受け入れて、自分の中で生かしていく「ダイバーシティ・インクリュージョン」を意識した『フィガロの結婚』は、更に核心を突いた深淵な世界が作品となって、観る者を捉えて離さないのではないか。みつなかオペラの『フィガロの結婚』は、オペラファンはもちろん、普段はミュージカルや宝塚歌劇が好き! 歌舞伎が最高! という、オペラ初心者にも必見の作品だとオススメしたい。個人的には今からワクワクが止まらない。芸術の秋を満喫するなら、このオペラを観ない手は無いと思うのだ。
取材・文=磯島浩彰
公演情報
歌劇『フィガロの結婚』全4幕 原語上演・字幕付
作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト 台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
10月9日(月・祝)14:00開演(13:30開場)
■会場:川西市みつなかホール
■指揮:牧村邦彦
■演出:井原広樹
■合唱指揮:岩城拓也
■管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■合唱:みつなかオペラ合唱団
■キャスト:
10/8
伯爵:迎 肇聡
伯爵夫人:並河 寿美
スザンナ:古瀬まきを
フィガロ:松森 治
ケルビーノ:伊藤 絵美
マルチェリーナ :大賀真理子
バルトロ:片桐 直樹
バジリオ:松本 薫平
ドン・クルツィオ:柏原 保典
バルバリーナ:森 千夏
アントニオ:田中崇由希
伯爵:東 平聞
伯爵夫人:内山歌寿美
スザンナ:村岡 瞳
フィガロ:西村 圭市
ケルビーノ:高重咲智華
マルチェリーナ :岸畑真由子
バルトロ:武久 竜也
バジリオ:中川 正崇
ドン・クルツィオ:加護 翔大
バルバリーナ:長太 優子
アントニオ:西村 明浩
■料金:一般8,000円 割引(小・中・高生、障がいのある人)5,000円
■問い合わせ:みつなかホール 072-740-1117
■公式サイト:https://www.kawanishi-bunka-sports.com/bunka/kouen/1/1487.html