シンガーソングライター・miu 8ヶ月ぶりの新作、15thシングル「Catch me」のオフィシャルインタビュー公開
miu
北海道旭川出身。2020年4月3日、二十歳の誕生日にYouTube channelを開設。アップしたオリジナル曲「smoke」、「dive」が世界中の音楽ファンの耳に止まり、100万回再生を突破。さらに2021年8月から配信リリースをスタートさせると、怒涛の勢いで新曲を発表し続け、その数、1年4ヶ月で14曲(remixやenglish.verを含めると18曲!)。だけども8月25日発売の「Catch me」は8ヶ月ぶりの新作だったりして。「clam voice」と称される歌声、朗らかでキュートな笑顔とは裏腹に、相当大胆で、結構極端、そしてなんだかめちゃくちゃ面白いのだ。
今回はSPICE初登場ということで、15thシングル「Catch me」についてはもちろん、シンガーソングライター・miuの内側をちょっとだけ覗かせてもらった。
——旭川出身ということですが、何か特別、音楽的に恵まれているようなご家庭だったのでしょうか?
いやいや、まったく。小さい頃、家族でカラオケに行くことはありましたけど、音楽をやっていた人は誰もいなくて。ただご機嫌に、よく歌ってはいましたね。
——歌うことが好きだったんですね。
大好きでした。毎週、『ミュージックステーション』を観ながら一緒に歌っていて。さらに部分予約でいちアーティストずつ録画して、次の週までそれを見返す、みたいなことをずっとしてて。たまに親からモノマネを振られたりもして。「“大漁まつり”歌って!」とか言われて、演歌独特のこぶしで歌ってましたね。わりとご陽気な家族なんです(笑)。
——しかし耳聞きでモノマネができちゃうんだから、かなり耳がいいんだなぁ。
あぁ、よかった方だと思います。で、小学校に上がる少し前に、サンタさんからハローキティのおもちゃのピアノが届きまして。飽きもせずずーっと弾いていたら、おじいちゃんに「ピアノやってみるか?」って言われて、ヤマハ音楽教室に通うことになったんです。なので音楽的ルーツの明確な始まりはそこですね。けど最初は大嫌いで。ハローキティのピアノは光って弾く位置を教えてくれるのが楽しかったのに、教室のピアノは光らないし。
——クククク。子供心、お察しします。
そして音大進学を希望される本気の生徒をお持ちの先生だったから、練習していかなきゃいけないし、間違ったらすごく怒られるし、モチベーションがどんどん下がってしまって、いかに練習しないかを研究し始めて(苦笑)。曲が変わる時に先生が「次はこんな曲」って演奏してくれるんですけど。楽譜を目で追いながらすっごく集中して聴いて、それを延々と歌いながら帰って、家でなんとなく弾いて確認して、1週間、ほぼピアノに触らずに次のレッスンへ行くっていう。当然、完璧には弾けないから怒られていたんですけど、さらに耳が鍛えられまして。聴けば今どこを弾いているのかわかる、だいたい弾けるようになって。そこからJ-POPを耳コピすることにはまっていって、おかげでピアノを長く続けることができたという。
——よかった。話を聞きながら心配してました。今や相棒であるピアノをいつ好きになるんだろう?って。
ここまで長い付き合いになったのは、弾き語りに出会ったからなんです。中学時代に兄の影響でONE OK ROCKと出会って、大好きになって。語り合いたいのに、当時は身近にワンオクのファンがいなくて。TwitterでOORer(ワンオクのファンの名称)のタグを検索して、フォローして、おしゃべりをする中で、その界隈ではツイキャスが流行ってるというのを知って。参加してみたら自分も配信をしたくなって、そこでピアノを弾き始めて。
——すごい! ガンガン進んでいく(笑)。
実は私、小学3年生から合唱もやっていて。「歌えるなら、弾きながら歌ってみたら?」っていうリスナーさんのコメントをキッカケに、弾き語りをスタートさせて。最初は流行りの曲のカバーをしていたんですけど、弾き語りを研究していくとすぐに、どうやらオリジナル曲を作ってライブに出るらしいぞ!?って気づいて、中学2年の時に初めて作った曲が、今も聴いてもらっている「月とお散歩」なんです。
——ONE OK ROCK のファンはいなくても、ツイキャスで音楽を語り合ったり、曲を作ったりする人は、周りにいたのかしら?
全然ですね。なので最初は地元の友達に自分が曲を作って歌ってるだなんて、恥ずかしいというか、言いづらくて。好奇心旺盛で、負けず嫌いで、楽観的でもあるのに、ものすごく気にしいな性格だったんですよ。それこそピアノの発表会とかも苦手で。相手と対峙しないインターネットの自由な空間が心地良かったんだと思います。現実世界と別次元の新しい世界、みたいな。
miu
——でも今は顔を出して活動している。その2つの世界が重なる瞬間があったわけですよね?
最近思うのは、自分が好きなことを表現できて、それを肯定して、応援してくれる人がいて、自分も同じように想いを返せる。尊重し合える世界は絶対にどこかにあって。学生時代のコミュニティってどうしても限られているし。その中でありのままの自分を見つけて、表現し合えるというのは、奇跡に近い確率なんじゃないかと思うんです。私は大学進学を機に東京に来たんですけど。自分で選んで、開拓して、今ようやく自分の居場所ができてきているなって思います。
——東京の大学を選んだのは、音楽活動も理由の1つだったと。
そうです。高校2年生の夏に初めて東京に来て。いわゆるアコースティック箱で行われるライブに出演したんです。会場に入った瞬間、うわぁ、東京ってこんなに眩しいアーティストがたくさんいるんだって感激して。私もここでずっと歌えるアーティストになりたいと思った。ちょっと悲しいですけど、居場所を見つけられていなかった地元に対して、逃げ出したい気持ちもあって。夢を追いかけつつ、逃げつつ、東京にやってきたという。
——逆算すると、上京してわりとすぐにコロナの渦に飲み込まれたのでは?
もうびっくりしました。ただコロナ禍が始まる前の1年間はフル稼働していて。なんかこう、1人の音楽に結構飽きてきていたというか。表現したいことがなくなってくると、活動ペースも段々と落ちてきて。そういう中で今のスタッフさんに声をかけていただいて、みんなでできる表現のやり方を提案してもらえるようになって。だからその時に一度目の挫折を味わい、広がる可能性も見つけられた。自分の音楽人生のタイミングと、活動のタイミングと、あとは世間のコロナ禍が重なって、私的にはよかったのかなっていう。しかもコロナ禍は動きが制限されることも多いけど、そこで新しい作り方を模索したり、自分なりの発信方法を研究できたから。
——YouTube channelを始めたら、100万回再生超え。ネットツールは得意だったとは言え、このいきなりの大反響をどういうふうに受け止めたんだろう?
まさか自分の曲が海外の方にまで聴いていただけると思ってなかったので、驚きとともに、もどかしい気持ちがあって。
——もどかしい気持ち、ですか?
努力不足もあるんですけど、私は英語がしゃべれないから。アジア圏の方が多いので、その方たちと同じ言語でお話ができない現実に、もどかしさを感じながら今も活動していて。あと、インターネットはとても広がりのあるツールだけど、私が上京して初めてライブを観た時のような、強烈な感動とは別ものだと思うんです。出会うキッカケは得ても、海外に行ってライブをして、直接触れ合うとか。みんなのことをより知れたり、私のことをもっと知ってもらう動きができていないのが寂しいなぁと思ってますね。もちろん日本にも聴いてくださる方がたくさんいるので、今できる活動を続けていって、いつかその先にいる人たちと繋がりを深めていきたいなって思ってます。夢ですね、はい。
——今春、大学を卒業。音楽の関わり方と改めて向き合うタイミングでもあったのかなと思うのですが。
ものすごくなりました。今ってメジャーとインディーでの表現に差異はあんまりない気がするんですけど。ちょっと言いづらいけれど、生活もありますし。
——いや、めちゃくちゃ大切なことですよ。
私が音楽を続けているのは、音楽が大好きだからですけど、その想いと同じくらい、私の音楽を聴いて「心がラクになった」とか、「聴けてよかった」みたいな、リスナーの方の反応・反響が重要で。自分の「好き」が誰かのためになるんだったら、私は全力で続けていきたい。このやりとりがあるから続いてることなので。音楽の表現者miuじゃなく、1人の人間として幸せであれば、ずっと続いていくんだろうなって思っているから。
——作り手にとっても、聴き手にとっても、音楽と暮らしは繋がっているものですからね。
だけど少し前までは、それをあえて切り離していて。例えばSNSで辛いとか、悲しいとか、あまり言いたくなくて。好きでいてくれる人が、私の言葉に引っ張られて同じような気持ちになって欲しくない。できれば私は声をかけてあげる存在でありたいたいなっていう想いでやっていたから。でも弱さは人間らしさでもあって。そこを避けてきたがためにどんどん言えなくなって。私は大好きな音楽で表現してるただの人間ですよというのを楽曲で描いていたはずなのに、それほど人間的に見せてられてなかったのかなって。
——そこはちょっとずつ自分の中で解消できてきていますか?
最近、少しゆったりなペースにさせてもらっているのも、自分との対話を大事にしようってことだったりするし。第2ステップじゃないですけど、今はよりありのまま生きていきたいと思ってますね。
miu
——では、今作「Catch me」で第2ステップが始まると考えていい?
実はこの曲はまた別のお話というか。去年の年末に制作したものなんですね。
——なるほど。この曲の〈まだ帰れない 何も意味を持たない事で 時を跨ぐのよ〉は、誰もが一回は経験したことのある現実逃避であり、miuさんが話してくれた葛藤とも重なっているなぁと思っていたんだけど。
確かに。心のどこかでずっとそういうことを考えていたんでしょうね。ただ見ないようにしていた。見たら止まってしまうから、止めてしまうのがとても怖かったから。
——そしてその続き、〈目覚めた時 変わらない痛みに気付くのでしょう〉を聴くと、向き合わない限り解決しない痛みを思い出して、胸が苦しいーってなります。
その歌詞は私もすごく好きですね。いつもお話を描く感覚で曲を書くんですけど。「Catch me」は片手にお酒くらいの感じで、酔い潰れて街をふらふらしてる〈私〉。普段はちょっとよく見せているから……。んー、自分の描く主人公って、やっぱり自分とどこか似ている気はしていて(照)。
——よく見せたい? 弱さは見せたくない? あれ、この話、少し前に聞いたことがあるぞって思いました。
うん。辛かったんだなぁ、私。あはははは。
——夜のキラキラと寂しい心情が同居してますよね。過去の曲を思い聴き返しても、例えば、「クリームソーダ」って甘く弾けるかわいい曲だけど、時間が経つにつれて炭酸は氷で薄まっていくし。光と影、両方を描くことでやっと完結できる、miuさんの中でそんなふうにバランスを取っているのかなって。
あぁー、それ、初めて気付きました。私は人と接する時にわりと何軸か用意していて。あとは人生の進め方も、物事の裏側を予測したり、人の気持ちを想像しつつ、思いつく限り何通りも考えて。最終的に自分の心と照らし合わせて選択していくことが多かったので、ちっちゃい頃から。曲にはそういう部分が出ているのかもしれない。
——辛さや悲しさを表に出せなかったのも、伝えたら迷惑じゃないかとか、みんなに心配をかけたくないなぁとかいう先まわり感だったりして。
そうですそうです。本当にそういうことを考えてしまう人間なんです。
miu
——そう思うと、楽曲の方が素直になれるのかもね。
「Catch me」はプロデューサーのDaidoさんとコライトという形で作らせていただいて。最初に3曲分のトラックが届いたんですけど、この曲に惹かれた理由はそれだったのかもしれない。この曲なら素直になれるって、どこかで思っていたのかな。そうだったら面白いですね、こんなにダンサブルな曲なのに。
——だって〈ほうっておいてよ〉から始まる曲のタイトルが「Catch me」って、そもそもこの裏腹感よ。
どういうこと?っていうね(笑)。このトラックはアップテンポでかっこいいんだけど、なんかちょっと孤独が滲む音だったので。夜の都会で、寂しくて、じゃあもうほうっておいて欲しいよねって。フフフ。そこから膨らませていった結果が、出だしの歌詞です。
——Daidoさんとのやりとりはかなり綿密に重ねたのでしょうか?
そうですね。私はいつもメロディと歌詞が同時に浮かんでくるので。いただいたトラックに対して、こんなメロディで、歌詞はこういうテイストでいきたいですというのを録音してお送りして。そしたらこんな感じでどうでしょう?って、ブラッシュアップされたトラックが返ってきて。その流れで仮歌を入れにスタジオにお邪魔して、直接お話しして、そこで見つけた課題を家で練習して、またレコーディングしに行って、みたいな。なんだか交換日記のようでしたね。私の中では歌詞が都会の裏側で、サウンドは都会の表側っていうイメージです。
——以前、YouTubeの番組で「キーボードと1対1で作るのにちょっと飽きた」みたいな話をされてて。あれはこの前振りだったのか!?と思いました。
まさしくそれです。アウトプットするにはインプットが絶対に必要で。去年、一昨年と、猛スピードでリリースしていた分、自分の表現が底をついた。
——間違いなく原因はそれだと思う。何せ1年半で14曲ですもの。
インプットが足りなくなってしまって、うん、飽きたっ。ハハハハ。でもこれって上京した19歳の時にも一度陥った状況で。すごいなぁ。今お話ししながら、私、あの頃と同じ感覚で動いているわって気づきました。高校時代は映画を観たり、本を読んだり、延々とインプット作業をしていたんです。でも今は時間が少し空くとついTikTokを見てしまう。それも表現の枠だし、無駄ではないんだけど。そうやって出会うもの、見るものの数が増えた分、圧倒的に心が動いたみたいな感動は少なくなっていたのかな。私にとっては、やっぱり生で観るライブが一番強いので。実はコロナ禍の余波もあったかもしれないです。そして私がまたライブをしたいなって気持ちになれたのも、声出しとか、いろいろな規制が解かれて、以前の景色が戻ってきたからというのは、少なからずあると思いますね。
——あとは今回のアンニュイなヴォーカルといい、曲によって声の表情が変わるのも、miuさんの大きな特性だなと思っていて。
私の楽曲はストーリーを描いているので、物語の主人公になりきるじゃないですけど、やはり疲れていると下に向かった声が出るし、心が弾んでいたら、密度の濃い声で元気にしゃべるとか、そういうことで振り幅をつけてレコーディングしてるところはあります。例えば、〈ほうっておいてよ〉は、ふざけた感じで「もうほうっておいてよね」なのか、ちょっと投げやりに「ほっといてよ!」なのか。
——あっ、2個目でした。
あははははは。そうです。同じ言葉でも、感情で声色がまるで変わってくるので。この1行は、主人公にとってどんな意味を持つんだろう?って考えて色付けしていくという。もちろん、ディレクションでの気づきも大事で。みなさんとやりとりしながら歌声を構築していくっていう作業を、ここ数年はやっているかな。だから「smoke」や「月とお散歩」の頃とは、表現が変わってると思いますし、今はレコーディング作業がとても楽しい。
——コライトシリーズは今後も続きそうですか?
面白かったから、多分。やっぱり1人は作りやすいんだと思うんですね、自分の好きを選べるから。人と一緒に作っていると、選択肢がどんどん増えるじゃないですか。その分、作業も増えるんだけど、新たな選択肢との出会いはインプットになるし。あとは単純に共同作業ってすごく楽しい。そして音楽を通してDaidoさんのことを深く知れて嬉しかったです。
miu
——発売日翌日には、ライブも予定されています。ライブはお好きですか?
もともとあんまり得意じゃなかったんですよね。緊張しいで、一個一個にこだわりが強くて。1人で弾き語りをやってた時も、企画ライブに呼んでいただいたら、そのライブタイトルに合わせて1つのドラマを作る。セットリストを組み立てていく中で、今回はこの子を立てて、こんなふうに動いていって、最後はこの曲でエンドロール、みたいなストーリーを作ったりしていて。さらに他のライブと曲が被らないようにとか、こだわりだしたら止まらないから。
——それ、観る側は相当面白いけどね。
だけどあんまり伝わらなかったな、悔しいなぁって思うライブも多くて。あまりの熱量で挑むから、お熱を出しちゃったりして。
——ライブへのエネルギーがまさかの体温に(苦笑)。
でも自分の音楽と改めて向き合って、確認して、第2ステップに向かう今は、ライブもすごく楽しみなんです。コロナ禍で作ってきた楽曲を生で届ける機会がなかったから。今の自分なら、きっともっと1曲1曲の主人公を表現できるっていう自信を持つことができたから。もちろんドキドキはしますけど、それでも楽しみの方が大きいかな。
——どんなライブになりそうですか?
活動に区切りとかってそんなにないと思うんですけど、付けるとしたら今かなという気がしていて。第2章のご挨拶ではないですが、描かない自分で描いていきたいなって。
——生身の自分で届けるんですね。
はい。今までは格好つけない自分が怖くて、妙に格好つけていたんですよ。MCはほとんどしない。YouTubeでの配信ライブでは、MCの代わりに、事前に綴った物語を読んでみたりとか。けど次はもうお客さまとしゃべる勢いで(笑)。元気ですか?とか言っちゃうくらい、ラフで飾らない、でも伝えたいことの軸はブレることなく。たんぽぽみたいに、ヤッホー!って感覚でやっていきたいなぁと思ってますね。
——で、家に帰ったらね、お客さん1人ひとりのポケットに白い綿毛が入ってたりして。
かわいい! それ、いいですね。みんな植えてね、きっと咲くからって(ニッコリ)。
——ライブで完璧な作品を作らなくても、むしろ生身のmiuの音楽だからこそ、お客さんの中に何かのきっかけを残せたらいいですよね。
まさに。会場に足を運んだことないんだっていう人もね、miuをきっかけにライブに来るの、めっちゃオススメしたいです。今回は展示にも面白い仕掛けを考えてるので。会場に来ないと味わえないものをいっぱい用意しているので。もちろんいつも来てくださっている方も、ベース、ギター、私のピアノと歌という、アコースティックセットでお届けするアレンジは、リリース時とかなり変わっているから。すごく熱量のある、楽しいライブになるんじゃないかなって思います。
文=山本祥子
リリース情報
ライブ情報
2023/8/26 sat 17:30 イベントスタート
CITY POP 3 SHINJUKU(東京都新宿区西新宿3-4-4)
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