新国立劇場<シェイクスピア、ダークコメディ交互上演>稽古場レポート ~ 本当に、『終わりよければすべてよし』?

2023.10.16
レポート
舞台

(左から)岡本健一、中嶋朋子  (撮影:田中亜紀)

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2009年の『ヘンリー六世』三部作からスタートし、2020年の『リチャード二世』で完結した“新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズ”。そのチームが再び集結し、この秋、シェイクスピアの“ダークコメディ(暗い喜劇)”『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』を交互に上演するという、日本初の試みに挑む(2023年10月18日(水)~11月19日(日)、新国立劇場 中劇場にて)。演出は鵜山 仁。出演は岡本健一、浦井健治、中嶋朋子、ソニンら。筆者は、『終わりよければすべてよし』の稽古を見学した。

(左から)須藤瑞己、浦井健治、福士永大、那須佐代子  (撮影:田中亜紀)

悲劇とも喜劇ともつかない結末から“問題劇”とも呼ばれ、シェイクスピア作品の中ではあまり上演機会の多くない2作品である。医師である父を亡くした孤児のヘレナ(中嶋朋子)は想いを寄せる伯爵バートラム(浦井健治)と結婚したものの、バートラムは彼女の身分の低さを嫌い、彼女をおいて出て行ってしまう。この結婚の行方、どうなる――? というのが『終わりよければすべてよし』のあらすじ。

(左から)吉村 直、那須佐代子、立川三貴  (撮影:田中亜紀)

この日の稽古は第三幕五場からスタート。ヘレナという妻がありながら、もっかバートラムはダイアナ(ソニン)を誘惑し、口説き落とそうとしている。そのダイアナと彼女の母キャピレット(藤木久美子)と隣人マリアナ(永田江里)が話しているところに、偶然ヘレナが通りかかって……というシーン。

演出の鵜山仁が、マリアナ役の永田にセリフをもっと野次馬的に言ってほしいとの指示を出し、もう一回。――と、ダイアナとキャピレットとマリアナの3人のやりとりが、『ロミオとジュリエット』のジュリエットとその母キャピュレット夫人と乳母のやりとりをもどこか思わせるような雰囲気に。そして、「乙女の名誉とは処女であることだし、貞淑にまさる財産はないのだから」というマリアナのセリフが、女性の方ばかり貞節、処女性に重きを置かれることを問いかけるこの作品において大いに重要性をもつことがわかってくる。

ヘレナ役の中嶋に対し、鵜山が「そのへんから“中嶋朋子”という個人に火がついちゃった反応はどうですか」と言葉をかけると、稽古場中から笑いが。そんな鵜山に対し、中嶋は「その理由は?」「それはなぜですか」と笑いのうちにほっこりも鋭く問いかけるシーンが再三あり、ときにダイアナ役ソニンも加わって活発なディスカッション。女たち4人のセリフのやりとりを聞いていると、処女性に対する作中の男性のダブル・スタンダードに次第に腹が立ってくるものが(笑)。

(左から)中嶋朋子、藤木久美子、ソニン  (撮影:田中亜紀)

そんなところに、バートラムその人が登場――浦井が見せるやんちゃな遊び人ぶりは、彼が“新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズ”の『ヘンリー四世』第一部&第二部で演じたハル王子を彷彿とさせて。

稽古段階から求心力を大いに発揮する浦井バートラムは、セリフも聞き取りやすく、家臣ペーローレス(亀田佳明)とのやりとりが弾んで楽しい。続くシーンでは、「指輪」という一語に、自分には誇れる血筋がないというヘレナの卑屈感を滲み出させた中嶋にはっと胸を衝かれて。場面と場面のつながりをていねいに作っていく鵜山の指示もあって、このシークエンスの作品における重要性も見えてきた。本当に、『終わりよければすべてよし』、なのか――? そんな疑問を大いに分かち合えそうな作品が期待できそう。すでに共に複数のシェイクスピア作品に挑んできたスタッフとキャストだからこそ創り上げることのできる奥行きの深い舞台が楽しみになった稽古場見学だった。

(左奥)亀田佳明(左手前)浦井健治(中央)中嶋朋子(右)岡本健一  (撮影:田中亜紀)

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

公演情報

新国立劇場 2023/2024シーズン
シェイクスピア、ダークコメディ交互上演

『尺には尺を』 Measure for Measure
『終わりよければすべてよし』 All's Well That Ends Well
 
■会場:新国立劇場 中劇場
■公演期間:2023年10月18日(水)~11月19日(日)
■料金:S席8,800円 A席6,600円 B席3,300円 *2作品通し券(S席のみ)15,800円
*通し券は新国立劇場ボックスオフィス(電話か窓口)での受付となります(Webボックスオフィスでの販売はございません)。日程の組み合わせは自由です。

 
■出演:
岡本健一、浦井健治、中嶋朋子、ソニン、
立川三貴、吉村 直、木下浩之、那須佐代子、勝部演之、
小長谷勝彦、下総源太朗、藤木久美子、川辺邦弘、亀田佳明、
永田江里、内藤裕志、須藤瑞己、福士永大、宮津侑生

 
■スタッフ:
【作】ウィリアム・シェイクスピア
【翻訳】小田島雄志
【演出】鵜山 仁
【美術】乘峯雅寛
【照明】服部 基
【音響】上田好生
【衣裳】前田文子
【ヘアメイク】馮 啓孝
【演出助手】中嶋彩乃
【舞台監督】北条 孝

 
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