『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』2本立て公演が開幕~音楽もふんだんに、尾上松也奮闘【ゲネプロレポート】
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『ガラスの動物園』(左から)渡辺えり 吉岡里帆 尾上松也 (撮影:細野晋司)
テネシー・ウィリアムズの名作『ガラスの動物園』(1944年初演)と、日本の不条理演劇の第一人者である別役実によるその後日譚的作品『消えなさいローラ』(1994年初演)の初めての2本立て上演の初日の幕が、2023年11月4日、東京・紀伊国屋ホールで開いた(東京公演は11月21日まで)。上演台本・演出を手がけるのは渡辺えり。「男」と「女」が登場する『消えなさいローラ』には、『ガラスの動物園』でトム役を演じる尾上松也が「男」役で全ステージ出演、『ガラスの動物園』の他の出演者3名(吉岡里帆、和田琢磨、渡辺えり)が「女」役で代わる代わる出演するという趣向だ。初日前日に行われたゲネプロを観た。
『ガラスの動物園』尾上松也 (撮影:細野晋司)
『ガラスの動物園』吉岡里帆 渡辺えり (撮影:細野晋司)
『ガラスの動物園』。客入れ音楽として70年代の日本の楽曲が流れ、そして、黒い傘をさした人々が紀伊國屋ホールの客席通路を通って舞台に上がる。その最後に登場するのがトム役の尾上松也。彼はカバンの中から楽譜を取り出して先に舞台に上がった人々、すなわちミュージシャンたちに渡し、台本を取り出す。追憶を題材とするこの作品において、トムが作・演出も兼ねているという趣向のようで、作中、トムが指を鳴らすとミュージシャンによる生演奏が始まったり、止まったり。生演奏の他、BGMも流れるので、音楽が鳴る時間がかなり多い舞台となっている。
『ガラスの動物園』和田琢磨 吉岡里帆 (撮影:細野晋司)
『ガラスの動物園』尾上松也 渡辺えり (撮影:細野晋司)
トムは、物語におけるトムとしての出演場面の他にもたびたび現れて物語の成り行きを見守ったりもする。尾上松也は涼やかでときにどこかはかなげにも聞こえる声で、やかましい母アマンダ(渡辺えり)と引っ込み思案の姉ローラ(吉岡里帆)との暮らしに心が窮屈しきっている詩人志望の青年を表現していく。そのモノローグには、作品の時代である1930年代の状況や戦況なども書き加えられている。物暗い印象が強い舞台だが、トムがローラのために職場の同僚ジム(和田琢磨)を家に招いてくれたと知り、ジムをもてなそうと発奮するアマンダが、ローラの落ち着いたブルーのドレスよりも派手な娘時代のドレスで登場する、そのドレスのイエローが目にあざやかである。ジムとローラのダンス・シーンでは、空想のダンスもさしはさまれる。
『ガラスの動物園』渡辺えり 尾上松也 (撮影:細野晋司)
『ガラスの動物園』吉岡里帆 (撮影:細野晋司)
15分の休憩をはさんで、『消えなさいローラ』。『ガラスの動物園』でトムが家を去った後の話で、出奔した父の写真には赤でバツがつけられ、部屋は荒涼としている。その部屋を、「男」(尾上松也)が訪ねてくる。「葬儀社のもの」と名乗る「男」の相手をする「女」(この日は渡辺えり)は、はたして母アマンダなのか、それとも娘ローラなのか、そもそも「男」は何者なのか――。
『消えなさいローラ』尾上松也 (撮影:細野晋司)
『消えなさいローラ』渡辺えり (撮影:細野晋司)
戯曲中、いったいいくつ「…(三点リーダー)」が出てくるの~というところに独特の味を感じさせるこの作品で、別役実は、出て行ったトムの帰りを待つ側の心境へと思いを馳せ、「待つ」という行為の意味へと思考をめぐらせる。別役実による『ガラスの動物園』論ともいえる、ミステリーの趣もある作品で、こちらの舞台でも、物悲しいメロディーが感情を喚起するように流れたり、「男」と「女」にどこかつっこむように音が鳴ったり。不条理劇のセリフを発する尾上松也も非常に興味深い存在となっており、終幕では歌唱場面も。歌舞伎俳優の引き出しの多さを感じさせる2本立てとなっている。
『消えなさいローラ』吉岡里帆 (撮影:細野晋司)
『消えなさいローラ』和田琢磨 (撮影:細野晋司)
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
公演情報
『ガラスの動物園』 『消えなさいローラ』
『ガラスの動物園』作:テネシー・ウィリアムズ 翻訳:田島博
『消えなさいローラ』作:別役実
■出演:尾上松也 吉岡里帆 和田琢磨 渡辺えり
■ミュージシャン:川本悠自(コントラバス) 会田桃子(ヴァイオリン) 鈴木崇朗(バンドネオン)
■日程:2023年11月4日(土)~21日(火)
■会場:紀伊國屋ホール
■料金:10,000円(全席指定・税込) <一般発売/2023年9月上旬予定>
■主催:Bunkamura
■公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_Glass_Laula/
■日程:2023年11月23日(木・祝)
■会場:やまぎん県民ホール
■料金:S席 9,500円(全席指定・税込) 他券種あり <一般発売/2023年9月上旬予定>
■主催:山形県総合文化芸術館 指定管理者 みんぐるやまがた
■日程:2023年11月25日(土)・26日(日)
■会場:松下IMPホール
■料金:10,500円(全席指定・税込)<一般発売/2023年10月上旬予定>
■主催:サンライズプロモーション大阪
■企画・製作=Bunkamura
■公演に関するお問合せ Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00) www.bunkamura.co.jp