もし歌舞伎の安土桃山時代の中にルパン三世たちがいたら? 片岡愛之助がルパン三世に扮する、新作歌舞伎『流白浪燦星』(ルパン三世)製作発表レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
片岡愛之助
新橋演舞場にて2023年12月5日(火)~25日(月)に、新作歌舞伎『流白浪燦星』(ルパン三世)が上演される。
人気漫画家モンキー・パンチの原作により、漫画、テレビアニメを筆頭に国内外で数多くの人気を誇る『ルパン三世』シリーズ。これまで数々の名作やコラボレーションなどが生み出されてきたが、この度新作歌舞伎として登場。オリジナルストーリーとなる本作は、時代を石川五右衛門が実在した安土桃山時代に設定し、歌舞伎の技法や演出を盛り込んで大胆に描き出していくという。出演は片岡愛之助(ルパン三世)、尾上松也(石川五ェ門)、市川笑三郎(次元大介)、市川笑也(峰不二子)、市川中車(銭形警部)ら。
開幕を控えた11月7日(火)、片岡愛之助と脚本・演出の戸部和久による取材会が行われた。その様子を写真とともにお伝えする。
片岡愛之助(右)と脚本・演出の戸部和久
ーーまずは一言ずつご挨拶をお願いします!
戸部和久(以下、戸部):本日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。愛之助さんと若干洋服が被ってしまいまして、ドキドキしております(笑)。
今回『ルパン三世』を歌舞伎でさせていただくということになりまして、いろいろな方々のご理解とご協力を得て、今日この日を迎えることができました。本当にありがとうございます。ルパンを歌舞伎にという話が松竹の会社の中であがりまして、それで私の方に大命が降りてきました。その中でアニメを制作しているトムス・エンタテインメントさんにご理解をいただこうと、流れ星と白浪ということを合わせて考えまして、ペラ1枚の紙に題名の『流白浪燦星(ルパン三世)』と書いて、またトムスさんに持っていき。一か八かだったんですけれども、案外反応がよく「いけるかも」と思ったところが発端でございまして……今日までたどり着くことができました。
そして、愛之助さんが非常にタイトなスケジュールの中、引き受けてくださって。何かに引き寄せられるかのように……ルパンが歌舞伎を愛してくれているのか、歌舞伎がルパンを愛せるのか分かりませんが、そういう感じでここまで来れたということ、正直、私、びっくりいたしております。 本日はどうぞよろしくお願いいたします。
脚本・演出の戸部和久
片岡愛之助(以下、愛之助):お忙しい中、こんなたくさんお集まりくださいまして、ありがとうございます。 今回、私は『流白浪燦星(ルパン三世)』のルパン三世を勤めさせていただきます。まさか自分が.……今回もそうですけど(笑)、ルパン三世を勤めさせていただくなんて思いもよらず。僕もルパンの漫画やアニメで育ってきた人間でございますから。
歌舞伎でルパンをやる。すごく面白いなと思ったんですけれども、本当にいろいろいろいろ話し合いました。結局、歌舞伎の安土桃山時代の中にルパン三世、いわゆるルパン一味がいたらどんな感じかというところに落ち着きました。
と申しますのは、やはり歌舞伎というものは、そもそも夢の世界でございます。例えば、主役の人がはっと片手を振ったら10人ぐらいの人がトンボ返りしたりするわけで。ありえないことが起こるのが歌舞伎の世界でございます。ですから、今回も、もし歌舞伎の安土桃山時代の中にルパン三世たちがいたら……というところから始まるわけでございます。
衣裳やカツラなども相談しながら作らせていただきました。全力で頑張っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
ーー改めてそもそも歌舞伎でルパン三世をやろうと思ったきっかけや経緯を教えてください。
戸部:正直申しまして、なかなか歌舞伎も大変な時代を迎えまして、息が長い古典作品として将来発展できるような題材はないだろうかといろいろ探しておりました。そのときに『ルパン三世』がひとつ候補として出てきまして。このキャラクターの設定を歌舞伎に当てはめても、非常に汎用性が高い。今回の物語は、例えばカリオストロの城をやるということではなくて、全くオリジナルの物語で作らせていただいている状況でございますが、これが歌舞伎座でかかるような何本のうちの1本という作品に展開できる可能性がある題材であると。それが大きな決断の要素になりました。
片岡愛之助
ーールパン三世といったら観客の中にも確固たるイメージがあると思うのですが、そこに近づくために何か心がけることがあれば教えてください。
愛之助:そうですね、私の中にもルパン三世のイメージはありますね。すごくダンディで、 面白く、そしておっちょこちょいで、それでいて峰不二子に一途。間抜けだけれども、きっちり締めるところは締める、決めるところは決めるイメージもございます。
ですが、やはり今回は歌舞伎の中の『流白浪燦星(ルパン三世)』なので、戸部先生が書いていただいた本を具現化する、体現することが、私たち役者の役割でございます。別にモノマネのように、漫画のルパン三世をそのままやるわけではないので、そこはぜひ歌舞伎の中の『流白浪燦星(ルパン三世)』と思っていただければ嬉しいです。
それでいてもお決まりのセリフがありますよね。ルパンの「ふ〜じこちゃん!」とか銭形警部の「ルパーン!」とか。それら皆様が「これ聞きたいな」と思うであろうセリフは入ってますよ。
ーー峰不二子は市川笑也さん。リアル峰不二子とも言われる藤原紀香さんを妻に持つ愛之助さんとしての心境は?
愛之助:あはは。写真を見せていただいて、本当に美しくて。もう一途に愛せます(笑)。(紀香さんも)すごく綺麗だねと。
ーーアニメ作品ではルパンと銭形の掛け合いの見どころだと思うのですが、愛之助さんは銭形を演じる市川中車さんとのやり取りで楽しみにしていることありますか。
愛之助:楽しみしかないですね。私も久しぶりにご一緒させていただくので。どんな銭形なのか……といっても大体想像つくんですけれども(笑)、さすがにここに土下座は出てこないと思うんですけど、わかんないですよね。ご本人がどうしたいのか、勝手にするのか(笑)。まずは僕はお稽古が楽しみです。
脚本・演出の戸部和久
ーー『流白浪燦星(ルパン三世)』というタイトル。正直最初は読めなかったのですが、これは誰が考えたのですか?
戸部:私です。新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』やスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』など、カタカナで原作の漫画なりを表現することが多いのですが、今回はモンキー・パンチ先生が歌舞伎が大好きでいらっしゃったというようなお話も聞きながら、これが古典歌舞伎としてちゃんと上演できるようにしていきたいなという思いがございまして、漢字でルパン三世を表しました。寝ても覚めても、1ヶ月ぐらいクルクル考えていました。
象徴的なイメージを思ったとき、「空をかける、ひとすじの流れ星」という歌詞から「流」と「星」を着想しました。その2文字をとっかかりに、歌舞伎の中で白浪物という盗賊が活躍するジャンルがありますので、「白」は「パ」ならギリギリいけるかな、「浪」が「ン」はちょっとごめんなさい、気持ちで頑張って読んでください(笑)。それで「ルパン」を「流白浪」としました。ひとすじの星が燦然と輝くような、まさに愛之助さんのようなイメージで「燦」を加え、『流白浪燦星(ルパン三世)』となりました。これならば歌舞伎としていけるんじゃないかなと私は思った次第でございます。
愛之助:歌舞伎の題は大体奇数なんです。だからよく歌舞伎を知ってる人が見ると、うまく作ったなときっと思ってくださるんじゃないかな。
『ルパン三世』のキャラクターが描かれたパネルを背景に会見が行われた。
ーーこの『ルパン三世』の世界観を歌舞伎の舞台にする上で苦労されたことは?
戸部:実は台本上はそんなに苦労はないんです。 モンキー・パンチ先生が歌舞伎へのリスペクトをお持ちの中で、もし今が江戸時代だとしたら、もうすでに歌舞伎になっているんじゃないかなと思ってしまうぐらい、キャラクターの関係性や設定は苦なく舞台にさせていただくことができたと思っています。今回、古典歌舞伎の世界のいろいろな場面を出させていただきますが、その中にうまく馴染んで、はまっていけるのかなと。
逆に1番意識したところはビジュアルの部分。皆さん、ルパンといえばこれだというイメージがあると思うんですけれども、それをそのままやってしまうと、古典歌舞伎の世界にはまってこない。それをいかに落とし込んでいくか、どうやったら成立するんだろうかと悩みました。
最終的に愛之助さんに衣裳を着ていただいて、ものすごく格好良く、かつ愛嬌がある感じに決めていただいて。そのとき「これはいけるんじゃないか、面白いものになるんじゃないか」と思いましたね。他のキャラクターの皆さんの扮装が並ぶと「あ、ルパンだ」と感じましたが、そのビジュアルの部分が1番難しかったですね。
それと音楽。今回、アニメ『ルパン三世』シリーズの大野(雄生)先生の音楽を和楽器でアレンジして、見せ場のところで使っていきたいと思っています。竹本の演奏も入りますし、和楽器でアレンジしたテーマ曲の録音も入ります。ザ・歌舞伎という音楽も入っていきますので、音楽もひとつの見どころとして楽しんでいただければと思います。愛之助さん、いかがですか?
愛之助:音楽も聞いていただいたら、ちょっとワクワクするようにできております。僕も聞いた瞬間ワクワクしました。義太夫が入るので、本当に歌舞伎っぽくもなっておりますし、歌舞伎の演出では、例えば「だんまり」や「本水」も使ったりします。歌舞伎らしさ全開の舞台作りになっておりますので、 楽しんでいただけると思います。
片岡愛之助
ーー安土桃山時代ということは初代五右衛門が存在しているわけですよね。今回たまたま安土桃山時代なのか、その辺にからくり考えてたりするのか。いかがでしょう。
戸部:あー、いい質問だと思います。石川五右衛門は盗賊として日本でかなり有名なものですけど、それを培ってきたのは歌舞伎。いわゆる初代石川五右衛門のいる世界にルパンがいたらどうなんだろうか、そういうもの見てみたいな、その絵や顔合わせを見てみたいなと思って、この物語を書き始めました。
なので、そこは乞うご期待という部分でありますが、ルパン対五右衛門(五ェ門)というような側面もひとつあります。ルパンという歴史と、歌舞伎の五右衛門とが結びつくことによって、もうひとつ深い繋がりが、ルパンと歌舞伎の間にできたらいいなという風に思っています。……ま、あんまり言っちゃうとね(笑)。
片岡愛之助
ーーここまで長く愛される『ルパン三世』。愛される理由はなんだと思いますか?
戸部:キャラクターが格好いいんですよね。不二子ちゃんも可愛いし、次元は次元で格好いいし、五ェ門も格好いいかつ愛せるところがある。それぞれの人物やキャラクターの中に包容力があるというか、簡単なんだけど、すごく深い人物設計が積み重ねられている。だからこそ、多くの人に愛されてきたのだなと思います。
それがこの歌舞伎という世界に来る。やはり我々も400年間やってる中で、例えば弁慶であったり義経であったり有名なキャラクターはいますが、それはその歴史の中であったり、見に来てくださったお客様の中であったりによって洗い上げられて作り上げられていったキャラクターであると思うんですね。だからルパンもいろんな場所や場面で活躍して、キャラクターがどんどんどんどん深まっていって……今回、ルパンが歌舞伎に来てもらって、そのルパンと一緒に歌舞伎も成長していきたいし、ルパンも歌舞伎を通じてまた一回り違うルパンになっていく。それもまたひとつの楽しみに思っていただけるように作っていけたらなと思っております。
愛之助:やっぱり盗賊じゃないですか、言っても。だから平たく言うと、ダークヒーローの格好よさじゃないですか。 悪を持って悪を制すところがすごく気持ちいい。それでいて、不二子ちゃんには一途。あれだけ騙されて、あれだけされても大好きなんですもの。一途さやちょっとお茶目な部分にも惹かれますよね。
片岡愛之助(右)と脚本・演出の戸部和久
なお、本公演の
取材・文・撮影=五月女菜穂
公演情報
『流白浪燦星』
会場:新橋演舞場
【休演】11日(月)、18日(月)
【貸切】13日(水)夜の部
夜の部 午後4時30分~
ルパン三世:片岡愛之助
石川五ェ門:尾上松也
次元大介:市川笑三郎
峰不二子:市川笑也
銭形警部:市川中車
長須登美衛門:中村鷹之資
牢名主九十三郎:市川寿猿
唐句麗屋銀座衛門:市川猿弥
真柴久吉:坂東彌十郎
※昼夜同一狂言