三浦宏規、てっぺんを目指した先に見たものは何か?フレンチロックミュージカル『赤と黒』ゲネプロレポート
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ここからはゲネプロの模様をお伝えしよう。
時代はナポレオンの帝政が崩壊し、王政復古の世に戻ったフランス。小さな町ヴェリエールで貧しい製材屋の息子として生まれ育ったジュリアン・ソレル(三浦宏規)は、聡明で美しい青年だ。寡黙だが、心の中ではブルジョワたちが支配する世の中に激しい怒りを覚えていた。聖職者となって出世しようと企むジュリアンは、町長のレナール(東山光明)の子どもたちの家庭教師の職を得る。
ブルジョワたちが噂話をしている中、ジュリアン役の三浦が颯爽と登場。すっきりとした立ち姿、爽やかな笑顔を見せながらも寡黙な風情を見せるジュリアン。クールで寡黙に装っているけれど、誰もいないところでは不適な笑みを見せる上昇志向の強い男で、いわゆる二面性のある役を三浦は巧みに演じ分ける。
三浦宏規
噂好きで下層階級に対して偏見を持つブルジョアたちの前で、ジュリアンは自身の知識の深さを見せつけると、途端に一目置かれるようになる。
そんなジュリアンを見て、レナール家のお手伝い・エリザ(池尻香波)は、一目ぼれをして彼から目が離せない。そして彼女だけではなく、夫とはすっかり冷めきった関係の夫人、ルイーズ(夢咲ねね)もジュリアンの聡明さと美しさに興味を持つようになる。
(左から)夢咲ねね、池尻香波
出演しているキャストがそれぞれの役にぴったりハマっているので、知らず知らずのうちに物語の中に入り込んでしまう。ジュリアンの友人・ジェロニモ役を演じる東山義久は、鮮やかなダンスシーンをところどころで見せ、本領を発揮。それと同時にちょっと冷めた目線で、ストーリーテラーとしての役もこなす。
東山義久
町長として世間体を気にするレナールを演じるのは東山光明。世間体ばかりを気にして妻のルイーズの気持ちを理解していない。彼女に対しては「もう少しおしゃれをしろ」と見た目に注文をつけ、ルイーズが「頭が痛いの…」と言えば「全く女ってやつは、いつもどこか調子が悪い」と暴言を吐くモラハラぶりだ。そんなスケールの小さい男を東山光明は、嫌味なだけでなく、時にコメディータッチで軽快に演じる。
(左から)夢咲ねね、東山光明、駒田一、遠藤瑠美子
レナールと犬猿の仲で、負けず劣らず嫌味な役を演じるのはヴァルノ(駒田一)だ。何かとレナールと張り合って見栄を張り、おまけにルイーズに好意を持ち、手を出そうとするから最悪な男だ。そんな狡猾な男を駒田は、『レ・ミゼラブル』のテナルディエばりに、弾けて演じている。この男がその後のジュリアンの未来に大きく影響を与える。
夢咲ねね
夫をはじめとして、つまらない男性に囲まれ嫌気がさしているルイーズを演じるのは夢咲。夫に何も期待できない分、信じるのは神のみ…と信心深い女性になるのも無理はない。お手伝いのエリザがジュリアンに心を寄せていることに気付き、二人の間を取り持とうとする心優しい女性だが、ジュリアンと2人きりになると、彼の美しさに飲み込まれそうになってしまい、戸惑う。
そんなルイーズの気持ちを悟ったのか、いきなり寝室に忍び込むジュリアン。その大胆さにルイーズは驚愕し一度は拒否するものの、素直に去ろうとするジュリアンを思わず引き留めてしまう。その複雑な女心を夢咲はしっとりと演じた。
この場面は公開稽古で披露されたが、その時に感じたものとは少し違うテイストになっているような気がした。
公開稽古後の取材で、三浦はジュリアンを「ピュアに演じたい」と語っていたが、このシーンではジュリアンのピュアさがより際立ち、ルイーズ役の夢咲は、公開稽古ではジュリアンの行動に対する戸惑いが全面に出ていたが、今回は憎からず思っているジュリアンを手放したら後悔するかも…という女心が垣間見れたようにも思えた。
そんな二人が禁断の恋に落ちるものの、ジュリアンに想いを寄せるエリザがヴァルノに告げ口をしてしまい、レナールが二人の関係を知ることになる。ここでルイーズが驚きの行動に出て、ジュリアンは身も心もボロボロになり、レナール家を後にする。
三浦宏規
ここで、公開稽古で披露された楽曲「赤と黒」が披露される。三浦が怒りを爆発させ、アンサンブルと激しいダンスを見せる。ルイーズとの恋が終わり、階級が低い家に生まれたばかりになぜこんな目に合うのかというぶつけどころのない怒りを全身で表す。三浦は公開稽古時よりさらにパワーアップした歌とダンスで、1幕を締めくくる。
田村芽実
2幕冒頭ではガラッと雰囲気が変わり、ラ・モール侯爵(川口竜也)の家で行われている華やかなパーティーシーンから始まる。ラ・モール侯爵の娘、マチルド(田村芽実)を中心に上流階級の人たちが酒とダンスに興じている。
公開稽古時でも披露された2幕冒頭だが、華やかな衣装に身をまとった田村が演じるマチルドは、わがままだけれどもなんとも魅力的な女性だ。父親のラ・モール侯爵を演じる川口は、マチルドのことを目の中に入れても痛くないほどかわいがっている様子がよく分かり、マチルドのご機嫌伺いをするのに必死だ。
(左から)川口竜也、田村芽実
筆者は2幕冒頭のシーンを密かに楽しみにしていた。マチルドを演じる田村の表情一つひとつが本当にかわいらしいし、重厚な役を演じることが多い川口がオロオロと翻弄されるのが新鮮だからだ。実際にマチルドが娘だったら、世の父親は川口のようになってしまうだろうと思うとクスッと笑ってしまう。
マチルドが翻弄するのは父親だけではない。新たにラ・モール侯爵の秘書としてやってきたジュリアンもマチルドの小悪魔的な魅力にハマり、マチルドも天気の話しかしないつまらない貴族より、どこか影のあるジュリアンに惹かれていく。しかしこの恋もまた、第三者の策略によって阻まれ――。
マチルドはジュリアンに「私を信じて!」と訴えるが、上流階級にいるマチルドの言葉を信じるには、ジュリアンの心は傷つきすぎていた。ルイーズとマチルド、2人の女性に出会ってジュリアンは、自分が置かれている立場を嫌というほど思い知らされたのだ。
(左から)夢咲ねね、三浦宏規、田村芽実
ジュリアンは純粋に貧しい生活から逃れたくて、上を目指そうとしていた。ただそれだけなのに、上流階級の人たちは「異端児」であるジュリアンを廃除しようと必死になる。この構図は、とかく自分と違うものを色眼鏡でみてしまう現代にも通じるのではないかと感じた。
物語のラスト、ジュリアンが発する言葉に胸がえぐられる。そして肩を落としてとぼとぼと歩くジュリアンを演じる三浦の背中には、どこまでも哀愁が漂っていた。
本公演は同劇場で27日まで上演。その後、2024年1月3日(水)~1月9日(火)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演される。
取材・文・撮影=咲田真菜