ピアニスト務川慧悟、”花火”打ち上げ幕を閉じた5夜連続演奏会~挑戦の果て、最終夜にみえた景色とは【レポート】

2024.1.10
レポート
クラシック

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2023年12月4日(月)から8日(金)まで浜離宮朝日ホールで開催されたピアニスト務川慧悟による5夜連続演奏会。人気実力派ピアニストの意欲的な試みとあって、前々から大きな話題をさらった。特に最終夜の12月8日(金)はそれまでの4夜のために用意されたAとBの二パターンのプログラムからそれぞれ曲目を抜粋し、かつ、新たな作品を数曲を加えての ”特別プログラム” での演奏というものだ。熱気に満ちた公演最終日の模様をお伝えしよう。


当初から発表されていたAB両プログラムからの抜粋に、新たな作品を加えての ”特別プログラム” 編成で臨んだ5夜連続演奏会の最終夜。最終的なプログラム構成は演奏会当日発表という企画性も加わり、発売当初から完売の盛況ぶりだ。事前に務川本人にインタビューした際にも、「(務川が)現在生活しているパリの日常的な音楽シーンで体験した“あること”を、実験的に舞台上で実現してみたい」との発言もあり、ファンにとっても期待値が高まっていたことだろう。

演奏会当日———会場には早い時間から多くの聴衆が詰めかけていた。エントランスで曲目が書かれたプログラムを初めて手にして溜飲を下げたのか、集った人々の表情も高揚感にあふれ、連続5日演奏会の最終日ならではのボルテージの高さが感じられた。

務川慧悟。終演後にはサイン会が行われ、一人ひとりと顔を合わせた

当日発表された特別演奏会の演奏曲目は、以下の通り。

バッハ:半音階的幻想曲とフーガ
フランク:プレリュード、コラールとフーガ
ドビュッシー:前奏曲集
  第1集より 8.亜麻色の髪の乙女
  第2集より 3.  酒の門 /5.ヒース /10.カノープ/ 12.花火
ショパン:バラード第4番 ヘ短調 Op.52
ショパン:ポロネーズ第6番 「英雄」変イ長調 Op.53
ブラームス:6つの小品 作品118より 第5曲 ロマンス
バッハ=ブゾーニ:シャコンヌ


そして、務川が語っていた “実験的” な試みというのは、この大プログラムにもかかわらず、そして連続5夜最終日にもかかわらず、休憩なしで、通常よりも会場内を暗くして90分一本勝負の演奏をするというのだ(しかし、当日の実際の演奏時間は優に120分を超えていた!)。

プログラム上に「途中の入退場はトーク中に」との記載があったことからも、務川は当初から休憩なしでの重量級プログラム演奏に加え、聴衆との交流を深めるべく曲間トークを交えることを前提にした構成を考えていたようだ。この途轍もないエネルギーの要求される企画を務川はあえて5日目に設定したのだから、驚きとともに敬意を表さずにはいられない。

務川いわく、パリでジャズバーに行った際に遭遇した「ピアニストが暗い空間で休憩を入れずに長時間にわたって延々と演奏を続けるスタイル」に影響されたという。暗くても曲間で奏者が客席に向かってフレンドリーに話しかけてくるので、まとまった時間が経過すると奏者と聴衆の間に絶妙な一体感が生まれてくるのを大いに実感したそうだ。そして、務川自身、かねてより「一つの演奏会の間に休憩時間を入れることで何かが崩れさってしまうこともあるのでは……」という大いなる疑念を抱いており、その思いを払拭すべく、前々からこのようなスタイルでの演奏会を実現したかったというのも一つの理由だそうだ。

さらに、もう一つ。(事前のインタビューでの話によると)務川いわく、このスタイルの演奏会を「家のリビングでリラックスしながら練習している自身の姿を舞台上に投影できるチャンス」と捉えており、「通常の演奏会とは一味違うアットホームな雰囲気を創りだすことで、自分自身の本来の力が最大限に発揮できたら嬉しい……」という思いが今回の “スペシャル最終日” の最大の目的のようだ。

”実験的”な試みとして、「アンコールは撮影可」に。

務川本人としては、かしこまった形式での通常の演奏会となると、なかなか自らの力を100%発揮できないことが多く、常日頃からその弱点を克服すべく、いろいろ実験してみたいという強い思いがあったようだ。務川のように、これまでに数々の大コンクールや大舞台を経験してきた実力派ピアニストでさえ、このように自らのメンタルやコンディションのコントロールについて日々模索し続けている姿に遭遇し、感慨深かった。

では当日、演奏会最終日の模様を、連続演奏会初日の12月4日(Aプログラム)と7日(Bプログラム)の演奏の所感を少しずつ交えながらお伝えしよう。

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