世界遺産・中尊寺金色堂(岩手県)建立900年記念の特別展をレポート 国宝の仏像や工芸品などを一堂に展示

2024.1.29
レポート
アート

建立900年 特別展『中尊寺金色堂』

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2024年1月23日(火)から4月14日(日)まで、東京国立博物館 本館特別5室(東京・上野公園)にて、建立900年 特別展『中尊寺金色堂』が開催されている。

2011年にユネスコの世界遺産に登録された岩手県平泉町所在「平泉─仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」の5つの構成資産のひとつである中尊寺は、奥州藤原氏の初代当主である藤原清衡(1056~1128)によって建立され、東北地方に現存する最古の建造物だ。金色堂は、中尊寺に建立された堂塔の中でも代表的な建物で、外観は木瓦の屋根を除いて総金箔仕上げとしており、金色堂の名にふさわしい輝きを誇り、平安時代の美術・工芸・建築の粋といえる御堂である。

本展は、2024年が金色堂の天治元年(1124)の上棟(じょうとう:屋根に棟木を取り付けること)から900年を迎えることを記念して開催される特別展であり、出展されている51点(《金色堂模型》含む)のうち、48点が国宝か重要文化財という非常に豪華な内容だ。

11体もの仏像が大集結 普段は見ることができない角度から鑑賞

中尊寺金色堂には3つの須弥壇(しゅみだん)があり、本展では中央の須弥壇の上の仏像11体が勢揃いしている。《阿弥陀如来坐像》と脇に控える《観音菩薩立像》、《勢至菩薩立像》がそれぞれ1体、《地蔵菩薩立像》が6体、《持国天立像》と《増長天立像》が1体ずつ。素晴らしい仏像が並ぶさまは圧巻のひと言。国宝指定後、中央の須弥壇の仏像全てが寺外で公開される初めての展覧会である。

中央:国宝《阿弥陀如来坐像》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

右:国宝《観音菩薩立像》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

左:国宝《勢至菩薩立像》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

手前(3体):国宝《地蔵菩薩立像》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

手前(3体):国宝《地蔵菩薩立像》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

清衡が帰依していた浄土思想は、煩悩で汚れた現世から阿弥陀仏の浄土に往生して成仏することを願うもので、阿弥陀如来・観音菩薩・勢至菩薩が人々を救い損ねた場合、地蔵菩薩が救ってくださるという。会場の仏像はいずれもふっくらとして愛らしく、優美で慈悲深い顔立ちである。一方、勇猛果敢な姿の持国天と増長天は身体表現が豊かで、今にも動き出しそうだ。

手前:国宝《持国天立像》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

手前:国宝《増長天立像》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

仏像はいずれも平安時代の作だが、阿弥陀如来坐像の螺髪の刻み方に新しい造形や技法が用いられるなど、新しい時代の先駆けと言える特徴も見受けられる。奥州藤原氏が新しい試みを受け入れる柔軟性があった証だろう。なお、本展ではガラスケースに展示されており、360度の角度から仏像を鑑賞することができるので、通常は確認できない後ろ姿や繊細な指のしなり、横顔の輪郭などをじっくりと堪能できるのも嬉しい。

在りし日の金色堂を伝える逸品揃い

本展の展示品は清衡の仏教への帰依の深さを示している。護国の経典『金光明最勝王経』を紺地の染紙に写字した《金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅》は、経文を重ねて中央の九重の宝塔を書き表し、さまざまな顔料を使って釈迦説法図や説相図を描く。経文の文字で宝塔を描く宝塔曼荼羅の中で、日本でつくられたものとしては最古の作品であり、『金光明最勝王経』に依拠するものは唯一という貴重な作品だ。細い線で描かれた文字や情景は端正で美しく、繊細この上ない表現に思わず見入ってしまう。

左:国宝《金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅》第七幀 平安時代 12世紀 中尊寺大長寿院蔵 前期、 中央:国宝《金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅》第三幀 平安時代 12世紀 中尊寺大長寿院蔵 前期

室内装飾などに用いられる、華麗な透かし彫りが施された《金銅幡頭》や《金銅迦陵頻伽文華鬘(こんごうかりょうびんがもんけまん)》、須弥壇の装飾品で、青や緑のガラスを銅線で繋いだ《瓔珞断片》、敷居や長押に使用された金具類なども精緻で技巧に優れ、在りし日の金色堂の荘厳な雰囲気を伝える。

左2点:国宝《金銅迦陵頻伽文華鬘》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵 右:国宝《金銅幡頭》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

左:国宝《瓔珞断片》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵、 中央:国宝《金銅藁座金具残欠》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵、右:国宝《金銀鍍宝相華唐草文八双金具残欠》平安時代 12世紀 中尊寺金色院蔵

金色堂は須弥壇の中に遺体が安置されている。お墓の機能を果たす御堂は現存のものの中でも例を見ず、建築史上でも特筆すべき特徴といえる。本展では、金色堂で清衡の遺体を納めていた《金箔押木棺》や、棺内にあった《金塊(金箔押木棺副葬品のうち)》、《大刀(金箔押木棺副葬品のうち)》《刀装具類残欠(金箔押木棺副葬品のうち)》、《念珠類残欠(金箔押木棺副葬品のうち)》など、奥州藤原氏の栄華を示す棺や副葬品も鑑賞することができる。

超高精細な8KCGの没入映像と金色堂模型

また、大型ディスプレイの映像にて原寸大に再現された金色堂も見どころのひとつ。本映像は本展のために特別に許可を取って撮影されたもので、超高精細な8KCG(NHKと東京国立博物館が共同開発した、超高精細なデジタルアーカイブの手法)で堂内を再現。黄金に彩られた空間で燦然と輝く御仏の姿に、まるで時空を超えて清衡が夢見た極楽浄土に来訪したかのような没入感を味わえる。実際の中尊寺金色堂は文化財保護のためにガラススクリーンで仕切られているので、超高精細の映像により近くで鑑賞することができるのも嬉しい。

8KCG:(C)NHK/東京国立博物館/文化財活用センター/中尊寺 8K:(C)NHK

金色堂は何度か改修されているが、会場内にある《金色堂模型》は、昭和37年の大改修の際に得られたデータに基づいて製作されたもの。金色堂の全貌が伺えるよう精密につくられており、堂内の装飾も再現されている。

《金色堂模型 縮尺5分の1》昭和時代 20世紀 中尊寺蔵 

荘厳華麗な外観で、内部には慈悲深い仏像や信仰を示す宝物を納めている中尊寺金色堂。本展は、そんな金色堂の至宝が集結しており、しかもさまざまな角度からじっくり鑑賞できる貴重な機会だ。極楽浄土のようにきらびやかな世界に浸ろう。


文・写真=中野昭子 

展覧会情報

建立900年 特別展『中尊寺金色堂』
◼会場:東京国立博物館 本館特別5室
◼会期:2024年1月23日(火)~4月14日(日)
◼開館時間:午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
◼休館日:月曜日、2月13日(火) ※ただし、2月12日(月・休)、3月25日(月)は開館
◼主催:東京国立博物館、中尊寺、NHK、NHK プロモーション、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
◼後援:天台宗、岩手県、平泉町
◼協賛:SGC、光村印刷
◼お問い合わせ:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
◼観覧料:一般 1,600円 / 大学生 900円 / 高校生 600円
*いずれも消費税込。
*中学生以下、障がい者手帳をご提示の方とその付添者(1 名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢がわかるもの、障がい者手帳等をご提示ください。
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