新国立劇場 2024/2025シーズン オペラ ラインアップが発表に~ベルカント・オペラと新作の多言語オペラを含む驚きの新シーズン!
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大野和士 新国立劇場 オペラ芸術監督 (撮影:長澤直子)
新国立劇場 2024/2025シーズンのオペララインアップ説明会が、2024年2月21日(水)同劇場のオペラパレス ホワイエで開催された。登壇者は、大野和士 オペラ芸術監督である。
大野監督はまず現行シーズンの、自らが指揮をした新制作の《シモン・ボッカネグラ》が、英国の歴史のあるオペラ専門誌Operaの表紙を飾り、また非常に良い評が載ったことを、記者たちにその雑誌を示しながら報告し、「就任時のシーズンにも申し上げたように、オペラの世界で新国立劇場の功績をどんどん広めていきたいと思っています。それがこういう形となって現れたのもとても幸せなことだと感じています」と述べた。
2024/25シーズンの大きな特徴は、新制作の三つの演目に現れている。具体的に言うとそれは、“ベルカント・オペラ”の躍進と、多言語による新作オペラの上演だ。
イタリア・オペラで巨匠ヴェルディの一つ前の時代、ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニが活躍した19世紀前半は、一般的に“ベルカント・オペラ”と呼ばれる、高度に洗練された歌唱技術を必要とするオペラが数多く書かれた時代である。大野監督は就任時から、ロシア・オペラの充実、新作オペラの上演、そしてベルカント・オペラのレパートリー拡充を目標にしていると述べていた通り、これまでもドニゼッティ《ドン・パスクワーレ》、ロッシーニ《チェネレントラ》などの演目を新国立劇場で上演してきた。しかし、もっともベルカントらしい作曲家ともいえるベッリーニは、新国立劇場でこれまで上演される機会がなかったのである。
今回、そのベッリーニを代表する傑作のひとつ《夢遊病の女》がシーズン開幕演目に選ばれた。《夢遊病の女》はプリマドンナ・オペラといわれる、ヒロイン役にずば抜けた歌唱技術と舞台での存在感があるソプラノが必要な演目である。新国立劇場がアミーナ役に選んだのは現在、世界最高のベルカント歌手といわれるローザ・フェオーラ。イタリア出身のまだ若い世代のソプラノだが、スカラ座やメトロポリタン歌劇場など一流の劇場でベルカント・オペラを中心に大活躍を続けているアーティストだ。まさに理想的なキャストといえよう。エルヴィーノ役には日本にもファンが多いアントニーノ・シラグーザ。ロドルフォ伯爵は新国立劇場には欠かせない妻屋秀和が出演する。指揮は昨年《リゴレット》で絶賛されたマウリツィオ・ベニーニ。
《夢遊病の女》はマドリッドのテアトロ・レアル、バルセロナのリセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場との共同制作だ。演出は俳優出身でスペインを中心に活躍しているバルバラ・リュックが手がける。
次に上演されるオペラは、最も大きなニュースとなる演目である。ロッシーニ最後のオペラで最高傑作と言われる《ウィリアム・テル》だ。ロッシーニは《セビリアの理髪師》に代表されるオペラ・ブッファの上演が多いが、一番有名な曲は《ウィリアム・テル》序曲ではないだろうか? 伝説の英雄ウィリアム・テルをめぐるシラーの戯曲を原作に、ハプスブルク家の圧制下にあった14世紀スイス・アルプス地方の民衆の自由を求める闘いを描く歴史劇で、テルが息子の頭上に乗せられたリンゴを弓で射る場面が有名だ。
ロッシーニはオペラ・ブッファだけでなくシリアスな内容のオペラ・セリアも数多く書いており、その音楽的な完成度は非常に高い。《ウィリアム・テル》はその系統に属するが、すでにロマン派的な新しいドラマチックな内容を持ったフランス語の大作だ。合唱も重要な役割を果たす。原語での舞台上演は今回が日本初。
この作品は大野監督自らが指揮をする。題名役のテルは2022年の《椿姫》ジェルモン役を歌ったゲジム・ミシュケタが再登場、そして青年アルノール役は、新国立劇場の《チェネレントラ》でも大好評だったロッシーニ・テナー、ルネ・バルベラが出演する。美しいアリアがある皇女マティルド役にはトップ・スター、オルガ・ペレチャッコが2017年のドニゼッティ《ルチア》以来の再登場。今から胸が高鳴る歌手陣である。
《ウィリアム・テル》は日本で一から作られる新制作で、演出・美術・衣裳はヤニス・コッコスが担当する。ギリシャ出身のコッコスは、世界の一流歌劇場で活躍しているが、新国立劇場では2021年の《夜鳴きうぐいす/イオランタ》をコロナ禍のために完全リモートで演出した。今回はついに来日しての舞台演出となる。
三つ目の大きな話題は、新国立劇場委嘱による新作オペラ《ナターシャ》の上演だ。台本は、ノーベル文学賞候補としても名が挙がるドイツを拠点とする作家、多和田葉子、作曲は世界で最も著名な現代作曲家の一人でオペラも数多く書いている細川俊夫である。台本作家からのメッセージとして多和田が「『日本発の多言語オペラを作ろう』と細川俊夫さんに声をかけていただいた時には脳に電光が走った」と述べているように、このオペラは日本語、ドイツ語、ウクライナ語の多言語で書かれているという。故郷を追われ彷徨う移民ナターシャと青年アラトの邂逅、そして彼らがメフィストの孫に誘われて地獄巡りに連れていかれる、という、戦争、自然破壊などの現代の様々な問題に言及した内容になりそうだ。
この作品も大野監督がタクトを取り、ドイツ人のクリスティアン・レートが演出、出演は、新国立劇場ですでに細川作曲の《松風》に出演したイルゼ・エーレンスがタイトルロールのナターシャ、近年、注目を集めているメゾソプラノ、山下裕賀が新国立劇場初登場でアラト、メフィストの孫はクリスティアン・ミードルが歌う。
以上が新制作の3本である。それ以外の6演目は再演となるが、指揮・キャストを新たにしており、楽しみな出演者が多い。
ケントリッジの名演出によるモーツァルト《魔笛》にはタミーノ歌いとして知られるパヴォル・ブレスリックや夜の女王の安井陽子、パミーナの九嶋香奈枝、パパゲーナの種谷典子など。
ワーグナー《さまよえるオランダ人》は、大野監督が昔からよく知っている間柄であり、やっと新国立劇場登場が叶うマルク・アルブレヒトの指揮で、前回コロナで来日不可能だったエフゲニー・ニキティンが題名役を歌う。
ツェムリンスキーとプッチーニの二本立て《フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ》は再び沼尻竜典指揮で、それぞれの主役にトーマス・ヨハネス・マイヤーとピエトロ・スパニョーリという大歌手が出演。
ビゼー《カルメン》はコロナ真っ最中の2021年に初演だったアレックス・オリエ演出の舞台だが、オリエが再来日して本来の意図を100%表現する舞台が観られそうだ。
没後100周年のプッチーニの《蝶々夫人》は小林厚子がタイトルロールを歌い、ロッシーニ《セビリアの理髪師》にはロッシーニ・テナー、ローレンス・ブラウンリーとヨーロッパで大活躍の脇園彩が出演する。
コロナ禍でアーティストや演目が変更になるなどの影響が出たこともあり、通常、オペラ・ハウスの中核を担う作曲家であるはずのヴェルディ作品が一つも無くなってしまったのは残念だが、ベルカント・オペラと、非常に大きな注目を集めるであろう新作オペラに期待したい。
また、日本人歌手が重要なパートで多く出演するのも2024/25シーズンの特徴で、ここまでに言及出来なかった歌手でも、《夢遊病の女》リーザ、《カルメン》ミカエラに出演する伊藤晴や、《さまよえるオランダ人》でダーラントを歌う松井浩、《ジャンニ・スキッキ》のラウレッタ役三宅理恵、リヌッチョ役村上公太(そしてこの演目では素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれるであろう残りのキャスト陣も)、聴き逃せないアーティストが多数出演している。新国立劇場が誇る合唱団の出番も多い。充実したシーズンになりそうだ。
取材・文=井内美香 写真撮影=長澤直子
公演情報
《夢遊病の女》 <新制作>
La Sonnambula / Vincenzo Bellini
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2024年10月3日[木]~10月14日[月・祝]
■予定上演時間:約3時間(休憩含む)
【指揮】マウリツィオ・ベニーニ
【演出】バルバラ・リュック
【美術】クリストフ・ヘッツァー
【衣裳】クララ・ペルッフォ
【照明】ウルス・シェーネバウム
【振付】イラッツェ・アンサ
【ロドルフォ伯爵】妻屋秀和
【テレーザ】谷口睦美
【アミーナ】ローザ・フェオーラ
【エルヴィーノ】アントニーノ・シラグーザ
【リーザ】伊藤 晴
【アレッシオ】近藤 圭
ほか
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
■共同制作:テアトロ・レアル、リセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場
《ウィリアム・テル》 <新制作>
Guillaume Tell / Gioachino Rossini
全4幕〈フランス語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2024年11月20日[水]~11月30日[土]
■予定上演時間:約5時間(休憩含む)
【指揮】大野和士
【演出・美術・衣裳】ヤニス・コッコス
【アーティスティック・コラボレーター】アンヌ・ブランカール
【照明】ヴィニチオ・ケリ
【映像】エリック・デュラント
【振付】ナタリー・ヴァン・パリス
【ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)】ゲジム・ミシュケタ
【アルノール・メルクタール】ルネ・バルベラ
【ヴァルテル・フュルスト】須藤慎吾
【メルクタール】田中大揮
【ジェミ】安井陽子
【ジェスレル】妻屋秀和
【ロドルフ】村上敏明
【リュオディ】山本康寛
【ルートルド】成田博之
【マティルド】オルガ・ペレチャッコ
【エドヴィージュ】齊藤純子
ほか
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
《魔笛》
Die Zauberflöte / Wolfgang Amadeus Mozart
全2幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2024年12月10日[火]~12月15日[日]
■予定上演時間:約3時間(休憩含む)
【指揮】トマーシュ・ネトピル
【演出】ウィリアム・ケントリッジ
【美術】ウィリアム・ケントリッジ、ザビーネ・トイニッセン
【衣裳】グレタ・ゴアリス
【照明】ジェニファー・ティプトン
【プロジェクション】キャサリン・メイバーグ
【ザラストロ】マテウス・フランサ
【タミーノ】パヴォル・ブレスリック
【弁者・僧侶Ⅰ・武士II】清水宏樹
【僧侶Ⅱ・武士I】秋谷直之
【夜の女王】安井陽子
【パミーナ】九嶋香奈枝
【侍女I】今野沙知恵
【侍女II】宮澤彩子
【侍女III】石井 藍
【童子I】前川依子
【童子II】野田千恵子
【童子III】花房英里子
【パパゲーナ】種谷典子
【パパゲーノ】駒田敏章
【モノスタトス】升島唯博
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
《さまよえるオランダ人》
Richard Wagner / Der fliegende Holländer
全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2025年1月19日[日]~2月1日[土]
■予定上演時間:約2時間50分(休憩含む)
【指揮】マルク・アルブレヒト
【演出】マティアス・フォン・シュテークマン
【美術】堀尾幸男
【衣裳】ひびのこづえ
【照明】磯野 睦
【ダーラント】松位 浩
【ゼンタ】エリザベート・ストリッド
【エリック】ジョナサン・ストートン
【マリー】金子美香
【舵手】伊藤達人
【オランダ人】エフゲニー・ニキティン
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団
アレクサンダー・ツェムリンスキー
《フィレンツェの悲劇》
Eine florentinische Tragödie / Alexander Zemlinsky
全1幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
《ジャンニ・スキッキ》
Gianni Schicchi / Giacomo Puccini
全1幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2025年2月2日[日]~2月8日[土]
■予定上演時間:約2時間35分(休憩含む)
【指揮】沼尻竜典
【演出】粟國 淳
【美術】横田あつみ
【衣裳】増田恵美
【照明】大島祐夫
『フィレンツェの悲劇》
【グイード・バルディ】デヴィッド・ポメロイ
【シモーネ】トーマス・ヨハネス・マイヤー
【ビアンカ】ナンシー・ヴァイスバッハ
【ジャンニ・スキッキ】ピエトロ・スパニョーリ
【ラウレッタ】三宅理恵
【ツィータ】与田朝子
【リヌッチョ】村上公太
【ゲラルド】青地英幸
【ネッラ】針生美智子
【ベット・ディ・シーニャ】志村文彦
【シモーネ】河野鉄平
【マルコ】吉川健一
【チェスカ】中島郁子
【スピネッロッチョ先生】畠山 茂
【アマンティオ・ディ・ニコーラオ】清水宏樹
【ピネッリーノ】大久保惇史
【グッチョ】水野 優
ほか
【管弦楽】東京交響楽団
ジョルジュ・ビゼー
《カルメン》
Carmen / Georges Bizet
全3幕〈フランス語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2025年2月26日[水]~3月8日[土]
■予定上演時間:約3時間20分(休憩含む)
【指揮】ガエタノ・デスピノーサ
【演出】アレックス・オリエ
【美術】アルフォンス・フローレス
【衣裳】リュック・カステーイス
【照明】マルコ・フィリベック
【カルメン】サマンサ・ハンキー
【ドン・ホセ】アタラ・アヤン
【エスカミーリョ】ルーカス・ゴリンスキー
【ミカエラ】伊藤 晴
【スニガ】田中大揮
【モラレス】森口賢二
【ダンカイロ】成田博之
【レメンダード】糸賀修平
【フラスキータ】冨平安希子
【メルセデス】十合翔子
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団
ジャコモ・プッチーニ
《蝶々夫人》
Giacomo Puccini / Madama Butterfly
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2025年5月14日[水]~5月24日[土]
■予定上演時間:約2時間40分(休憩含む)
【指揮】エンリケ・マッツォーラ
【演出】栗山民也
【美術】島 次郎
【衣裳】前田文子
【照明】勝柴次朗
【蝶々夫人】小林厚子
【ピンカートン】ホセ・シメリーリャ・ロメロ
【シャープレス】ブルーノ・タッディア
【スズキ】山下牧子
【ゴロ―】糸賀修平
【ボンゾ】妻屋秀和
【ヤマドリ】吉川健一
【ケート】佐藤路子
ほか
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
《セビリアの理髪師》
Gioachino Rossini / Il Barbiere di Siviglia
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2025年5月25日[日]~6月3日[火]
■予定上演時間:約3時間10分(休憩含む)
【指揮】コッラード・ロヴァーリス
【演出】ヨーゼフ・E.ケップリンガー
【美術・衣裳】ハイドルン・シュメルツァー
【照明】八木麻紀
【アルマヴィーヴァ伯爵】ローレンス・ブラウンリー
【ロジーナ】脇園 彩
【バルトロ】ジュリオ・マストロトータロ
【フィガロ】ロベルト・デ・カンディア
【ドン・バジリオ】妻屋秀和
【ベルタ】加納悦子
【フィオレッロ】高橋正尚
ほか
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
《ナターシャ》 <新制作/創作委嘱作品・世界初演>
Natasha / Hosokawa Toshio
全2幕〈日本語、ドイツ語、ウクライナ語ほかによる多言語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2025年8月11日[月・祝]~8月17日[日]
■予定上演時間:約2時間10分(休憩含む・詳細未定)
【台本】多和田葉子
【作曲】細川俊夫
【指揮】大野和士
【演出】クリスティアン・レート
【ナターシャ】イルゼ・エーレンス
【アラト】山下裕賀
【メフィストの孫】クリスティアン・ミードル
ほか
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団