ロイヤル・バレエが誇る名作『マノン』主演のリース・クラークにインタビュー~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンにて映画館上映

2024.4.1
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リース・クラーク Reece Clarke in Manon ©2024 ROH

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「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2023/24」(配給:東宝東和)の一環として、ロイヤル・バレエ『マノン』が2024年4月5日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開される(4月11日(木)まで一週間限定)。ケネス・マクミラン振付『マノン』全3幕(音楽:ジュール・マスネ)の舞台は、18世紀末パリの裏社交界。高級娼婦をしている少女マノンと神学生のデ・グリューが出会い、凄絶な愛の物語を繰り広げる。ロイヤル・バレエが1974年に世界初演し、以後受け継がれている十八番のひとつとして名高い。今回上映される映像(2024年2月7日上演舞台)でデ・グリューを披露した気鋭のプリンシパルであるリース・クラークに、役作りやマノン役のナタリア・オシポワとの共演について聞いた。
 

■「プリンシパルになれたのは幸せで、いまだに信じられない」

――クラークさんはスコットランド出身です。ロイヤル・バレエ・スクールを経て2013年にロイヤル・バレエに入団し、2022年、プリンシパルに昇格されました。ノーブルな役柄からドラマティックな役どころまで幅広く活躍されていますが、プリンシパルになるまでに苦労された点は?

リース・クラーク(以下、クラーク) ロイヤル・バレエ・スクールでのトレーニングが素晴らしく、英国的なシステムで学びました。とくにアシュトン、マクミランという、ロイヤル・バレエにとって大事な振付家の作品を学び、よいトレーニングを受けることができました。教師にも恵まれました。僕にとってロイヤル・バレエは夢のカンパニーだったので、入団できたことがうれしかったです。プリンシパルになれたのは幸せで、いまだに信じられない気持ちでいます。

――ご自身で意識して高めてこられたことはありますか?

クラーク キャリアの初期に怪我をしたことがありました。また、背が高いということもあって苦労した面はありました。それに、最初の頃は代役として踊る機会がたくさんあって、準備期間がないことも多く大変だったですね。初めのうちは体の回復に時間がかかりましたが、今では経験を重ねて自分の体について知ることができるようになりました。栄養についても勉強したりして自分の体を回復させる方法を知り、ただ休むだけでないアクティブ・リカバリーという方法も学んだりしています。ストレッチや犬の散歩もいいことだと思っています。ときに普通の人間として楽しむことも大事ですが、日々舞台の上で学ぶことができていると思います。

リース・クラーク Reece Clarke ©Royal Opera House 2024


 

■「『マノン』には、自分の人生経験を加えることができる」

――数々のケネス・マクミラン作品を踊ってこられました。今回の収録舞台上映前に流れるインタビューのなかで「マクミラン作品の特徴はリアルなことであり、アーティストとして共感する」とおっしゃっています。『マノン』というバレエのどの点に惹かれますか?

クラーク デ・グリューのキャラクターは、自分に似ている部分があると感じています。デ・グリューは「愛する人にどれだけ尽くし、自分の思いを貫くことができるか」を突き通した人物であり、僕も自分の人生と照らし合わせて考えています。たとえマノンが裏切ったりお金の方を選んだりしても、デ・グリューは自分の思いを貫くわけで、ナイーブで未熟なところもあります。僕自身も思いを貫く人間で、それによって困ったことが起きたりするのを実際に経験していますが、人生とはそのようなものだと感じています。デ・グリューは特別な役です。今回で3回目ですが、23歳でロール・デビューしたときとは大分違っています。ダンスという芸術のなかのレイヤーに自分の人生経験を加えることができるのが素晴らしいと感じます。

リース・クラーク&ナタリア・オシポワ Reece Clarke & Natalia Osipova in Manon ©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski


 

"強い"名花ナタリア・オシポワと生み出した「特別なパフォーマンス」

――マノン役のナタリア・オシポワと近年ペアを組んでいます。オシポワは今回の『マノン』のリハーサル時のインタビューで「どう演じるかは直感を大切にする」と語っています。オシポワとの間にどのような化学反応が起こりましたか?

クラーク 今回の『マノン』はいいタイミングで踊ることができました。ナタリアとは『オネーギン』(振付:ジョン・クランコ)でも共演し、『眠れる森の美女』や『白鳥の湖』のような古典作品でも踊ってきました。昨夏はロイヤル・バレエ日本公演で『ロミオとジュリエット』(振付:ケネス・マクミラン)を素晴らしく踊ることができました。『マノン』は技術的に踊るのが難しく、信頼関係がないとできません。とくにリフトが大変で、第3幕の沼地のパ・ド・ドゥは凄く危険な箇所もあるので信頼感が大事ですが、幸いにもリハーサル1日目から息が合って、お互いを理解することができました。ナタリアは強いダンサーで、直感を大事にしています。彼女が強くてドラマティックでいられて自由であるために、自分が存在している。それができているのが幸せですし、ナタリアが僕のドラマティックな部分を引出しインスパイアしてくれるんです。

ナタリアと共演する前から彼女の踊る『マノン』を観て素晴らしいと思っていました。まさに女優だと感じます。シネマ(映画館上映)のいい点は、クローズアップで観ることができること。ダンサーとダンサーとの間についても近い距離感で観ることができます。ナタリアとのケミストリーはどんどん育っていて、スタジオでも楽しく過ごすことができました。個人的にも大切な友達です。今後もっといろいろな役で共演したいです。

リース・クラーク&ナタリア・オシポワ Reece Clarke & Natalia Osipova in Manon ©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

――今回オシポワとの共演で感じた新たなインスピレーションを具体的に挙げてもらえますか?

クラーク 第2幕が印象的でした。ここではデ・グリューはあまり踊らなくて、何が起きているのか見ているような場面なのですが、ナタリアの一挙手一投足から目が離せませんでした。舞台の反対側にいるのですが、ナタリアが踊っていると強い感情を感じて目が離せなくなるんです。1か月前(※取材時)に自分が舞台に立って感じていることを消化しきれていないというか、まだあの舞台のことを考えています。初めてデ・グリューを踊った23歳のときから自分はどう変わったかを今も振り返っていますが、今回が最も感情的にも自分の心に響いたし、パワフルな瞬間を感じることができました。特別なパフォーマンスでした。

リース・クラーク&ナタリア・オシポワ Reece Clarke & Natalia Osipova in Manon ©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

 

■「『マノン』は、ロイヤル・バレエの素晴らしさを魅せるプロダクション」

――ステージングやコーチの先生方とのリハーサルによって役を深められたとすれば、それはどのような点ですか?

クラーク コーチはアレクサンドル・アグジャノフでした。彼はこの5年間僕を教えてくれているし、ナタリアも教わっていますので、素晴らしいチームワークになりました。彼は僕のアイドルだったアンソニー・ダウエル、ジョナサン・コープ、カルロス・アコスタたちを教えてきました。小さなディティールを見極める名人なんですね。ダンサーが気づかないような小さな指摘をしてくれるんです。視線の向け方とか、リフトの角度とか、細かいところを指摘してくれるし、スタイルとかの解釈を深めることを助けてくれています。舞台稽古時には、ステージングのラウラ・モレーラも一緒になって教えてくれました。彼女も素晴らしいコーチでマクミラン作品に通じていて、現役時代は女優のようなダンサーでした。彼らとスタジオで十分に準備できたので、自信を得たうえで自分の解釈をもって役を演じることができたと思います。

――今回の『マノン』映画館上映に向けて、日本の観客にメッセージをお願いします。

クラーク 『マノン』は、ロイヤル・バレエのなかでも宝石のように燦然と輝く作品で、個人的にも気に入っています。ロイヤルの素晴らしさを魅せるプロダクションです。音楽も、デザインも、振付も素晴らしい傑作です。キャストも素晴らしい。本当の芸術をベストの形でお見せいたします。先ほど言いましたが、細かいところまで演技を観るという意味でもシネマ向きです。舞台に立っている僕たちと同じような角度・近さで舞台を観ることができるのが特別です。

リース・クラーク Reece Clarke in Manon ©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

――来る2024年7〜8月、東京文化会館で行われる「第17回 世界バレエフェスティバル」に出演されます。7月27日(土)の全幕特別プロ『ラ・バヤデール』(振付・演出:ナタリア・マカロワ)初日にも出演し、主役のソロルを踊ることも話題です。意気込みをお聞かせください。

クラーク 待ちきれません! 『ラ・バヤデール』のソロルは初役です。学生の頃からこの役をやりたいと願っていて、コンクールでも踊ってきました。音楽もダイナミックで好きですし、強靭な身体能力が必要ですが、長らく待ち望んできた役柄です。ついに東京でデビューできるのがうれしいです。東京では、いつ行っても観客の皆さんが情熱的で、特別な受け止め方をしてくださいます。毎回特別なエネルギーを強く感じるので、この夏も日本に行くのが楽しみです!

【予告編】The Royal Ballet: Manon cinema trailer

取材・文=高橋森彦

上映情報

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24
ロイヤル・バレエ『マノン』

2024年 4月5日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋 ほか全国公開
 
北海道 札幌シネマフロンティア 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
宮城 フォーラム仙台 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
東京 TOHOシネマズ日本橋 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
東京 イオンシネマ シアタス調布 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
愛知 ミッドランドシネマ 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
京都 イオンシネマ京都桂川 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
大阪 大阪ステーションシティシネマ 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
兵庫 TOHOシネマズ西宮OS 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
福岡 kino cinéma天神 2024/4/5(金)~2024/4/11(木)
※上映時間について、公開日が近づきましたら上映劇場へ直接お問い合わせ下さい。
 
【振付】ケネス・マクミラン
【音楽】ジュール・マスネ
【編曲】マーティン・イェーツ
(選曲:レイトン・ルーカス、協力 ヒルダ・ゴーント)
【美術】ニコラス・ジョージアディス
【照明デザイン】ジャコポ・パンターニ
【ステージング】ラウラ・モレ―ラ
【リハーサル監督】クリストファー・サウンダース
【レペティトゥール】ディアドラ・チャップマン、ヘレン・クローフォード
【プリンシパル指導】アレクサンドル・アグジャノフ、リアン・ベンジャミン、アレッサンドラ・フェリ、エドワード・ワトソン、ゼナイダ・ヤノウスキー
【コンサートマスター】セルゲィ・レヴィティン
【指揮】クン・ケッセルズ
【演奏】ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 

【出演】
マノン:ナタリア・オシポワ
デ・グリュー:リース・クラーク
レスコー:アレクサンダー・キャンベル
ムッシュG.M.:ギャリー・エイヴィス
レスコーの愛人:マヤラ・マグリ
マダム:エリザベス・マクゴリアン
看守:ルーカス・ビヨルンボー・ブレンツロド
ベガー・チーフ(物乞いの頭):中尾太亮
高級娼婦:崔由姫、メリッサ・ハミルトン、前田紗江、アメリア・タウンゼント
三人の紳士:アクリ瑠嘉、カルヴィン・リチャードソン、ジョセフ・シセンズ
娼館の客:ハリー・チャーチス、デヴィッド・ドネリー、ジャコモ・ロヴェロ、クリストファー・サウンダース、トーマス・ホワイトヘッド
老紳士:フィリップ・モーズリー
娼婦、宿屋、洗濯女、女優、物乞い、街の人々、ねずみ捕り、召使、護衛、下男:ロイヤル・バレエのアーティスト
 
【上映時間】3時間11分
 
【STORY】
18世紀パリ。美しく衝動的な少女マノンは、若くハンサムだが貧しい学生デ・グリューと出会って恋に落ちる。だが、兄レスコーの手引きにより富豪ムッシュG.M.から愛人にならないかと誘われたマノンは、デ・グリューとの愛と、G.M.との豪奢な生活の間で引き裂かれる。
裏社交界のマダムの邸宅での宴にて華やかに着飾り、その美しさで男たちを魅了するマノン。ここを出て行こうというデ・グリューに彼女は、もっとお金を手に入れてからといかさま賭博をそそのかす。だがいかさまがG.M.に見破られた上、レスコーは殺され、マノンは逮捕される。
アメリカのニューオーリーンズに追放されたマノン。デ・グリューは夫と身分を偽り同行するが、マノンは好色な看守に目を付けられる。マノンを慰み者にした看守を殺した二人はルイジアナの沼地へと逃げ込むが、デ・グリューの腕の中でマノンは息絶える。

【公式サイト】http://tohotowa.co.jp/roh/
【配給】東宝東和 
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