北海道で初開催から25年、「伝説や奇跡が起きなくても、日常と地続きで続くフェス」にーー新たな価値観が生まれた『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2024 in EZO』を振り返る

レポート
音楽
2024.9.21
撮影=SPICE編集部(大西健斗)

撮影=SPICE編集部(大西健斗)

2日目。PROVO・12時00分のROTH BART BARON・三船雅也から始まったが、初日最後はBOHEMIAN GARDEN・23時40分ROTH BART BARON。つまりは物語が本当に続いていて、1日ずつのブツ切りでは決してなく、2日間開催の意味合いがいきわたっている。同じく12時00分にはdef gargeにて、初日同様に公募で選ばれたいわゆる若手・新人アーティストが登場する「RISING★STAR」枠としてArataが登場。特に彼らは地元・北海道札幌拠点のバンドだけあって、アメリカンドリームではないが北海道ドリームを感じた。

Arata (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=山下聡一朗

Arata (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=山下聡一朗

14時00分。PROVOにてエレキコミック・やついいちろうがDJを。「とにかく、どこにも載ってないからつぶやいて!」と本人もステージでずっと言っていたが、本当にどこにも出演情報が載っていない。私も普段から取材でお世話になっている関係性から前日に本人から直接教えてもらっていた。小さな小さなコミュニティフェスならまだしも、『RSR』みたいな大きな大きなフェスで前日に急に出演出番が決まるなんて絶対に他ではありえない。DJとして全国様々なフェスに出演しているが、『RSR』だけはシンプルに大好きなので毎年自腹で来ているという。

撮影=SPICE編集部(大西健斗)

撮影=SPICE編集部(大西健斗)

RED STAR FIELDの『RSR』オフィシャルカフェ「Red Star Cafe」における深夜営業スナック「レッドスター」のモリマン&まちゃまちゃ(ちなみにマスターは怒髪天・坂詰克彦)もそうだが、芸人がフェスに出演するのは今や普通になってきている。が、『RSR』のやつい・モリマン・まちゃまちゃたちは、音楽とお笑いの融合といった簡単なものではなくて、先程も書いたが『RSR』をシンプルに大好きで心から愛しているから来ている……、その心意気がビシバシと伝わってくる。DJ中にマイクも持たず、観客フロアに飛び込んで、観客とPROVOエリアを歌いながら走る……、そんなDJどこにもいませんよ。観客50人限定で深夜にスナックやるとか、どこにもいませんよ。そんな気持ちに芸人たちを揺り動かしてしまうのが、『RSR』である。

LiSA (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=タマイシンゴ

LiSA (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=タマイシンゴ

初日に海外からの観客が増えていることを書いたが、2日目でいうとSUN STAGEのLiSAを一目見ようと海外からの観客も多く集まっていた。5年ぶりの出場ということもあって、本人の気合いも普段より桁違いで、誰よりも激しく歌い踊っていた。「ライジングサンで、また「Rising Hope」を」という5年前の宣言を有言実行するように、「5年前の約束を果たしに来ました!」と「Rising Hope」も歌う。海外からの観客皆様も、このようなフェスの物語性にも味わいを感じて、毎年観に来てくれたら嬉しい。

My Hair is Bad (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

My Hair is Bad (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

SUN STAGE・12時30分のトップバッター・My Hair is Badの椎木知仁が「この街に台風が来なくて良かった!」と言っていて、初日の台風の影響による交通機関の運休・欠航という余波を受けなくて良かったなと、心から安堵しきっていた。ピースフルな2日目を過ごせるとMy Hairを聴いていたわけだが、初日とは違う理由で、そうとはいないことになってしまう。

2日目の朝に新千歳空港で保安検査のトラブルが発生して、発着便の遅れや欠航が発生……。当日入りを予定していた出演者たちに、その余波が襲い掛かる。到着が大幅に遅れ、タイムテーブルの調整・変更が度々行われる慌ただしい状況に陥るが、『RSR』の迅速な対応で感心してしまったのは、『RSR』アプリ内のタイムテーブルがその都度都度で修正訂正されていくこと。このスピード感には驚いた。もちろん現場は悠長なことを言ってられず、むちゃくちゃ大変だったわけで……

スガ シカオ with FUYU (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=原田直樹

スガ シカオ with FUYU (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=原田直樹

BOHEMIAN GARDEN・14時30分のスガ シカオ with FUYUでは、スガは5分前に楽屋に到着して、衣装に着替えることもなくて着の身着のまま飛び出していったという。EARTH TENT・15時10分のTHE BACK HORNも30分前に到着して、そんな中でもスタッフは完璧にバンドセット準備をして、何事も無かったかのような衝動的なライブをぶちかましてくれた。バンド初出場フェスが23年前の『RSR』ということもあり、そこに賭ける思いもひとしおだった。

THE BACK HORN (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

THE BACK HORN (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

賭ける思いもひとしおという意味では、結成20周年での記念すべき『RSR』出場と意気込んでいた9mm Parabellum Bulletは無念の出演キャンセルに……。ボーカルの菅原卓郎は何とか会場には辿り着き、仲間のミュージシャンのステージに飛び入り参加したり、何かしら会場内でゲリラ的に弾き語りライブなども考えたという。だが、結成20周年での『RSR』はバンドでライブをすることに意味があると全てを諦めた。この無念な思いは彼のSNSでも長文で綴られているし、普段から取材でお世話になっている関係性から私も直接思いを聞くことができたが、本当に無念な気持ちが嫌ってくらいに伝わってきた。しかし、次がいつになるかはわからないが、この無念な思いを『RSR』でバンドとして大爆発させる前向きな気持ちへと切り替えてもいたので、その時は必ず見届けたい。

泉谷しげる (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=原田直樹

泉谷しげる (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=原田直樹

BOHEMIAN GARDEN・17時00分と予定より50分遅れて、ステージに立ったのは今回最高齢であり初出場でもある御年76歳の泉谷しげる。テレビなどでは暴れん坊キャラだが、紳士的に遅れたことを申し訳ないと詫びて、大好きな北海道に『RSR』初出場として来れた喜びと緊張すらも打ち明ける。「良くなかったら怒っていいし、良かったら「もういいよ!」と言って欲しい!」と謙虚な姿勢を示しつつ、いざライブが始まると楽器スタッフや音響スタッフに毒づきながらギターをかき鳴らして叫び歌う。本人いわく弾き語りではなくて弾き叫び! 北海道の涼しい夏とはいえ、その年齢で立ちながら弾き叫びはしんどいはずだが、全力で手を一切抜かず歌を届ける。盆踊りのリズムで楽しむ曲では、孫に近い年齢のヤングガールたちが可愛らしく盆踊りの振りで楽しんでいる姿は、兎にも角にも嬉しかった。「来年来れるかどうかわかんない年齢」と言い切り、観客の手拍子を「悪いけど手拍子止めよう! お前たちにあげた歌だ!」と大名曲「春夏秋冬」を歌った時には、ここでしか観れない生のライブだからこその良さに感動してしまった。悪状況の中、ライブは決して止まらないという生き様を見せつけられた。

スピッツ (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

スピッツ (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

SUN STAGE・18時00分スピッツ。老若男女問わず会場中の観客全員が集まったとしか思えない国民的バンドの人気の実態をまざまざと見せつけられる。1曲目のイントロが鳴った瞬間、とてつもない歓声が起きる。30年前の楽曲ながら未だ全く色褪せないメロディーの素晴らしき力……。 

5曲目にはカバー曲も披露。イントロが鳴った瞬間、それまでの楽曲とはちょっと違う異様な大興奮に包まれ、尋常ないくらいに老若男女全てが、特に若者たちにウケまくっていた……。当の本人たちは楽曲終わりに「ジェネリック版!」や「ここがピークだと思うんですけど!」と自虐ジョークを飛ばしていたが、ラインナップの流れを考えて、観客を驚かせ楽しませる……それも35年以上のキャリアを持つベテランが今の若者たちに大人気のミュージシャンのカバーをやってのけるとは……。既に何度も書いてきている『RSR』の全ての世代の要望に応えるという理念を体現していた。天晴れとしか言い様が無い、横綱の貫禄を感じた……。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影:n-foto RSR team)

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影:n-foto RSR team)

素晴らしきライブで打ちのめされた中、PROVOで90分遅れながらも始まったライブへと向かう。Rei+中村達也のライブはアンコールの時間帯に差し掛かっていて、The Birthdayのヒライハルキを迎えて鳴らされたのは、まだ小文字でthee michelle gun elephantと表記されていた頃の27年前の素晴らしきロックンロールナンバー「ゲット・アップ・ルーシー」。3人が出演する24時00分からのライブまで、その流れは来ないと勝手に思っていたこともあり、嬉しい不意打ちが見事に決まり、ただただ泣いてしまった……。

同じ状態の人たちは山ほどいたし、狂喜乱舞状態で押し寄せる観客に対して、スタッフが慌ててステージ前に立ち、手で制するジェスチャーを見た時、90年代後半から何度も観てきたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのフェスのワンシーンが思わずフラッシュバックしてしまった……。その後も28年前の素晴らしき渋きロックンロールナンバー「シャンデリヤ」まで聴けてしまい、たった2曲で、こんな感情になってしまうのに、果たして24時からは、どんな感情になってしまうのかと不安というより期待というより何とも言えない感情にさせてもらえた。その後もイマイアキノブ、M.J.Q(山本久土+クハラカズユキ)と24時にもまた逢える素晴らしすぎる面子が続いていく。

ズーカラデル (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=山下恭子

ズーカラデル (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=山下恭子

def garge・19時20分ズーカラデル、greentope・19時30分のNOT WONK 加藤によるSADFRANK Multi Channel Soundscape Design and Session 「the gel(reprise)」と地元・北海道の若手たちが続く。初日のPROVOに引き続き加藤が登場するgreentopeは、北海道の自然の匂いに包まれたチルアウト空間。フード・お酒・コーヒーから雑貨やワークショップ・ライブペインティング・ライブ・DJなどが楽しめる。大人は椅子に座りお酒を呑みながら楽しみ、子供たちはブランコといった遊具で遊んでいる。PROVOと同じ雰囲気を持ちながらも、また違う自由な場所。ここまで大型ロックフェスで自由な落ち着いた空間が点在しているのは『RSR』だけである。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=堤瑛史

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=堤瑛史

SUN STAGE・21時00分の東京スカパラダイスオーケストラを待っていると、空に打ち上げ花火が上がる。色々なフェスで打ち上げ花火を観ているが、北海道という広大な土地だからなのか、どこのフェスで観る打ち上げ花火よりも壮大なスケールを感じる。どこの空よりも広いからだからなのか。いざライブが始まり、特に「DOWN BEAT STOMP」を聴くと、フェスにスカパラがやって来た!というハイな気分になれる。そして、feat.チバユウスケ名義な「iDale Dale! ~ダレ・ダレ!~」が特に何の説明もなく自然に鳴らされる。私たち世代からすれば、すぐに何かを感じるし、何にも詳しくない若者世代が聴いて、気になったら調べてみたらよい、どんな曲かを。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=堤瑛史

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=堤瑛史

今年35周年を迎えて、バンドとして『RSR』最多出場記録を持つ彼らはスペシャルゲストとして、菅田将暉を呼び込む。「“NO BORDER”3部作」として、第1弾imase・第2弾SUPER EIGHTとコラボレーションしていたスカパラ。昨年、菅田将暉 x 東京スカパラダイスオーケストラ名義で「るろうの形代」をリリースもした、菅田と再びタッグを組む。まだライブでお披露目していなかったので、初御披露目となった。ゲスト出演は既に発表されていたとはいえ、観客は大盛り上がりとなり菅田がステージを去る。そして、ドラムの茂木欣一がスカパラというバンドについて端的に核心を突いた表現をする。前日に「ミュージックステーション」(テレビ朝日)に生出演をして、サンボマスターが「できっこないをやらなくちゃ」を歌っていたという話から、こう繰り出された。

「スカパラの歴史は、できっこないをやらなくちゃの連続だと思います。(スカパラにとっても僕にとっても)最初のできっこないをやらなくちゃを歌います!」

2003年に茂木が初ボーカルを担当した「銀河と迷路」へ。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=堤瑛史

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=堤瑛史

終盤は、これまたスカパラと同じスーツを着たSaucy Dog・石原慎也がチューバを持って登場して「紋白蝶」を披露し、ラストナンバーは石原と共に「Paradise Has No Boader」へ。スカパラは35年間できっこないをやらなくちゃをNo Boaderでやり続けてきた。だから、未だに若手とボーダーレスで、本来ならばできっこなさそうなコラボレーションをやり続けている。その上で、さり気なく自然にチバの様な同世代の仲間たちとの絆も持ち続けている。重要なルーツは守り続けながらも、新たな若い表現と共に変化や進化を恐れずに歩み続けてきた。それは『RSR』の歩みとも重なるものがある。だからこそ、最多出場しているのだろう。まさに、ここから今年の『RSR』はルーツを守りながらも進化・変化していくラストスパートへとなっていく。

the pillows (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

the pillows (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

怒髪天と共に『RSR』に出場し続けてくれるだけで安心感があり、かつ毎年『RSR』を焚きつけてくれる地元・北海道のthe pillows。RED STAR FIELD・22時00分。この日も「LITTLE BUSTERS」という見事にアガる1曲目から入り、テンションをアゲてくれた後、ボーカルの山中さわおは、こう言い放った。

「ロックフェスティバルだからね! どんどんロックやるよ!」

THA BLUE HERBでも感じたことだが、単なるジャンル的なことを言っているのではなく、自分たちの音楽への自尊心を確かに持って真剣に音楽を鳴らしてくれている気概が届いた。フェスティバルだから祭り騒ぎをしたって構わないのだが、明らかに我々聴く側の胸を騒がしに来てくれている。だから、ピロウズが大好きなのだ。

奥田民生 (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=原田直樹

奥田民生 (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=原田直樹

本来はBOHEMIAN GARDEN・22時30分出番であった奥田民生の弾き語り。例の騒ぎによって、22時50分出番に。民生独特の緩やかな喋り口で例の騒ぎを笑いに変え、穏やかな雰囲気を崩さないが、誰にも真似できない歌の力で「野ばら」を歌う。天気模様と恋模様が絶妙なバランスで歌われる27年前のナンバー。そのメロディーに、その言葉に、酔いしれた若者たちが牧草ロールの上に座って聴いている。街頭テレビに吸い寄せられるように集まり、プロレス中継などに夢中になっていた戦後の人々は、こんな感じだったのかなどと思ってしまった。カルチャーという言葉を我々は気軽に使うが、本当に文化として民生の歌が我々に沁みこんでいるのを実感した時間……。

特別企画という枠としては、或る意味メインイベントとも言える「WEEKEND LOVERS 2024 “with You”」。RED STAR FIELD24時。チバユウスケと中村達也が主宰として、2002年にROSSO & LOSALIOS presentsとして始まったジョイントライブ 「WEEKEND LOVERS」が、『RSR』では22年ぶり2度目の開催を迎えることに。LOSALIOSとThe Birthday (クハラカズユキ・ヒライハルキ・フジイケンジ)を中心にゲストミュージシャンを迎え、“with You”をテーマにチバユウスケが残してきた楽曲を繋いでいく……と冷静ぶって書いたものの、既にPROVOでのRei+中村達也+ヒライハルキで涙腺崩壊しているだけに、どんな気持ちになるのか全く予想つかなかった。そんな気持ちの人は多かっただろうし、良い意味での緊張感が場に漂っていた。

「WEEKEND LOVERS 2024 “with You”」 (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

「WEEKEND LOVERS 2024 “with You”」 (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

トップバッターは、Drop'sの中野ミホ。チバと同じ事務所の後輩であり、可愛がられていた若手。

「私の中で響く、大切な歌を歌います」

そう言って歌われたのはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT「ドロップ」。

<ぶらぶらと夜になる ぶらぶらと夜をゆく じりじりと夜になる じりじりと夜をゆく>

ゆったりとしたテンポで弾き語られると、もうそれだけで胸いっぱいになる…。あぁ始まるんだなと魅入っていたら、曲終わり、中野が「WEEKEND LOVERS“with You”始まります」と語りかける。まるで開会宣言……。「WEEKEND LOVERS“with You”」始まりを告げた。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

クハラと達也が登場して、ツインドラム乱れ打ち。凄すぎる……。そこにクハラとM.J.Qとして活動する山本久土が加わり、ザ・スターリン「365」へ。M.J.Qは遠藤ミチロウが始動したバンドであり、スターリンと言えば、言わずもがな遠藤ミチロウなわけで。まるで日本のロックの歴史を観ているような気分になる。そこにイマイアキノブが加わり、チバのソロプロジェクト。SNAKE ON THE BEACH「Teddy Boy」へ。歌い終わりイマイは「ありがとう! チバユウスケ!」と叫ぶ。その言葉がチバの存在をより肯定してくれて、ずっとチバが存在していると思わせてくれる。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

達也+Rei+ハルキの布陣でデジャヴな感覚に陥る「シャンデリヤ」へ。素晴らしいロックは何度だって聴きたい。ここで達也、TOKIE(Ba)、堀江博久(Key)、加藤隆志(Gt)、會田茂一(Gt)というLOSALIOSの布陣で1曲やり、チバを敬愛していたYONCEと再びイマイが加わり、ROSSO「1000のタンバリン」へ。YONCEの声がいつも以上にしゃがれて聴こえて、チバを思い出す。そう言えば、達也が途中「ここにきてミッシェルよく聴くようになっている元ブランキ―面白いでしょ?」とか「ミッシェルはしんどいです!」といちいちはさむので、その感じがクッションになっていて場が和んでいたのも忘れられない。LOSALIOSで1曲やった後は、ミッシェル「CISCO」へ。それだけでも爆裂なのにThe Birthdayの3人が加わり、より極悪なビートでぶっ飛ばす。格好良いとしか言いようがない……。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

この日初となるThe Birthdayのみになり、今年4月にリリースされたNEW EP「April」から「I SAW THE LIGHT」へ。チバの歌を歌うクハラは新鮮であるが、何の違和感もなくてThe Birthdayメンバーが歌えばThe Birthdayなんだと胸が熱くなる。そして、前日夜にステージで発表されたTHA BLUE HERBのBOSSが現れる。演奏されるのは「ハレルヤ」。3人の演奏にBOSSのフリースタイルなリリックが合わさっていくが、こちらも不思議なくらいになんの違和感もなくて、とんでもないコラボレーションの化学反応を観た……。音に言葉に魂がこもっていれば、それでいいのだ。BOSSはチバが残した歌に新たな息吹をこめてくれた。凄いものを観た……。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

再びYONCEが加わり、The Birthdayと「プレスファクトリー」へ。YONCEが去り、イマイと中野が加わり、チバとイマイが結成したMidnight Bankrobbers「OH! BABY DON'T CRY」を歌うが、やはり歌い終わりはイマイが「ありがとう! チバユウスケ!」と叫ぶ。ここで日本のロックのレジェンドの中のレジェンドであるThe Street Sliders・村越 “HARRY” 弘明が登場。ビートルズもカバーしたシュレルズ「BABY IT'S YOU」から始まり、The BirthdayがトリビュートしたTHE STREET SLIDERS「Let's go down the street」を本家が歌い、最後はまさかのミッシェル「世界の終わり」へ。一気に世界のロックヒストリーが体現された豪華な3曲。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

奥田民生が登場して、チバが元々はPUFFYに提供して、その後、The Birthdayでも歌われた「誰かが」へ。PUFFYを最初にプロデュースした民生が歌うというだけで、もうクラクラしてしまう。先程、緩やかに穏やかに弾き語っていた民生とは思えないくらいの凄い雄叫びが凄い気迫でぶちかまされる。ずっと凄い時間が続いているのだが、この曲に関してはロックの神様が憑いたような驚くべき破壊力だった。そんな凄い状態の中でも少し民生が微笑んだ瞬間があって、あぁ本当にとんでもないものを観ているのだなと踊り狂いながらも涙が浮かんできた……。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

別人かのように穏やかな緩やかな語り口へと戻り、民生「俺が紹介するの?」と斉藤和義を呼び込む。チバと10年くらい前に一緒に作った楽曲「恋のサングラス」を斉藤と民生がふたりきりで歌う。そして民生は去り、達也と堀江が戻ってきて、斉藤と達也によるMANNISH BOYS「猿の惑星」へ。「WEEKEND LOVERS'13」と題して、The BirthdayとMANNISH BOYSが組んだ対バンツアーを行なったのも、もう11年も前のこと。そんな深い中の斉藤とチバだが、斉藤は、この日の昼間、札幌をひとりぶらぶら歩き、何気に服屋に入り、シャツを買ったという。すると、その店は偶然にもチバがよく行っていた服屋だったとのこと……。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

「今日、その辺にいる気がします」

斉藤の言葉は、あの世とかこの世とか難しいことはわからないが、それぞれの心の中にチバは存在し続けていたら、それでいいじゃないかと思わせてくれて、昨年末から喪失感しかなかった気持ちを軽くしてくれた。そんなタイミングでイマイとハルキも加わり、「涙がこぼれそう」へ。こぼれそうどころか、涙はこぼれるしかなかったが、心がとても清められた……。

そして、ラストナンバーは「WEEKEND LOVERS'13」の時に、チバから「テーマ曲作ろうや!」と声を掛けられて一緒に作った楽曲「WEEKEND LOVERS」をReiと共に。斉藤だけでなく、The Birthdayの全員も歌い、Reiも歌う。最後、斎藤とReiが向かい合いギターを弾き合う。時間としては長いはずの本編はあっという間のタイム感で26時31分に終わる。

アンコール。The Birthdayの3人が現れて、クハラが「最後3人で1曲やらせて下さい」とEP「April」に収録された「サイダー」へ。ハルキが歌う。クハラもフジイもハルキもチバの歌に導かれるように、この日歌っていたが、その純粋な歌声は何とも言えなかった……。The Birthdayはずっと存在し続けているのだ。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=小川舞

最後はThe Birthday「ローリン」をオールキャストで歌う。歌い終わり、スクリーンに「WEEKEND LOVERS 2024 “with You”」サングラス姿のチバが両手を広げたメインビジュアルが映し出される。チバのソロプロジェクト・SNAKE ON THE BEACH「~Wild Children」が場内に鳴り響く。ふとステージを観ると照明により幾つかの光が本来はチバが立つべきステージのセンターを射している。そして終わりを待っていたかのように、小雨が軽く降り出す……。

撮影=SPICE編集部(大西健斗)

撮影=SPICE編集部(大西健斗)

<HAPPY BIRTHDAY TO YOU>

歌の中でチバが歌う。チバは僕らの心の中で生き続けている。去年末から受け入れられなかった何かがようやく浄化された。その後もチバの歌が2曲ほど流されて、時計を見るとちょうど27時くらいだった。約3時間に渡るチバとの時間が本当に終わった。25年前『RSR』初年度はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとBLANKEY JET CITYが軸になって開催されたと言っても過言ではない。その伝説は永遠に伝え説かれていく。この時点では上手く言語化ができなかったが、どこか良い意味で一区切りがついて、次の歴史へと進んでいく……、そんな思いが漠然とあった。そんな思いは朝が来る頃に言語化されるとは思ってもいなかった。

28時00分・SUN STAGE。クリープハイプと共に夜から朝を迎える。30分前にはリハも終わっていたが、ステージから遠くで尾崎世界観の歌声と演奏を聴いていたものの、大トリに良い意味で捉われない飾らない雰囲気は感じ取れて、こちらの気持ちも落ち着いた状態になれていた。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

「特別な夜も終わりかけてたけど、ギリギリ間に合ったから、とっておきの危ないヤバイ夜遊びをしましょう」

「今日は大トリだから特別に危険日でも遊んであげる」

「キケンナアソビ」から始まったが、自然な感じでクリープの、尾崎の物語に惹きこまれていく。続く長谷川カオナシが歌う「火まつり」が終わる頃には空が白み始めている。尾崎も「最高の景色……。初めて観た、こんなの……」と感激していたが、喜びの感情を落ち着いて噛みしめていた。

「身も蓋もない水槽」「社会の窓」「社会の窓と同じ構成」とソリッドな歌が畳み込まれて、「HE IS MINE」へとなだれ込む。

「今まで朝帰りはひとりかふたりかでするもんだったけど、数万人でするのが楽しみだったし、今すごく楽しいです」

尾崎の顔は穏やかで、穏やかな声で「だいぶ明るくなったけど、まだ夜だからむちゃくちゃデカいのお願いします」と観客に語り掛ける。まぁ、こんなデカい声で聴いたことがない数万人の「セックスしよう!」と北海道の大地に轟く。

クリープハイプ (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

クリープハイプ (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

飛行機の遅れに尾崎たちも巻き込まれ、4時間も羽田空港で待ち、「やれないかもと思ったら、やりたくなって、ライジングのトリが大事なものと再確認しました」と素直な気持ちを打ち明ける。空港でのトラブルのせいを「バンドの力で何とか夏のせいにしたいと思います」と「ラブホテル」へ。

「オレンジ」では照明のオレンジの光が日の出を想像させ、28時30分を過ぎて、すっかり明るくなった頃に、子供時代からどうして夜が来て朝になるかが不思議だったと語り、いつかその瞬間を観たいと思っていて、今日やっと観れたと話す。その言葉の力も踏まえた上で、より言葉の力を感じる「ナイトオンザプラネット」が歌われて、もう魅了されるしかなかった。「イト」からのラストナンバー「栞」が歌われる前に尾崎は語り出した。そこには「WEEKEND LOVERS 2024 “with You”」で感じた伝説への漠然とした思いの答えが知らず知らずの内に待っていた。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

1984年生まれの尾崎は、『RSR』を高校生の時に音楽雑誌で知ったという。北海道に行ったこともなくて、凄い不思議な世界と感じて、自分もバンドを始めたら、そんな奇跡みたいな瞬間が続くと夢見るも、現実は全然上手くいかない。何となく続けてきて嫌なこともあったが、たまに良いこともあるから辞められなくて、遂に音楽雑誌で未知の世界だと思っていた『RSR』にも出られたという。def garge→EARTH TENT→SUN STAGEと順調に進むが、初めてのSUN STAGEが駄目だったと正直に明かす。それでも観客は奇跡が起きたみたいな顔をしてくれる時もあるから救われたものの、だからこそ伝説のライブが出来なくても普段と地続きのライブができたら良いと思えたという。

「ずっと当たり前に続いて、家にもついていくような。ポケットにちょっと入ってるような、洗濯したら出てくるような。そんなライブをしていきたいし、そんなバンドをトリに呼んでくれてありがとうございます」

「音楽雑誌でみたバンドも世代や時代が変わっていて、でも、このフェスは続いていくので……みなさんと一緒に歳を取っていけたら」

尾崎は、伝説のライブはできなくても、普段の生活と地続きのライブができたら良いという新たな価値観を、少年時代から25年かけて探し当てたのだろう。そして、その価値観は今後ニューノーマルとしてスタンダードになっていくはずだ。「WEEKEND LOVERS 2024 “with You”」で漠然と感じた次なる歴史へ進んでいく道のりの輪郭がくっきりと感じられた。

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

(C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=大峡典人

1999年初年度から今年で丸25年が経ち25周年、来年は25回目を迎える『RSR』にとって、今後の鍵を握る最重要な年度へと導いた尾崎世界観。現体制で15周年を迎えるクリープハイプも年内にはアルバムをリリースして、15周年にちなみ15曲収録されるという。そのニューアルバムを引っ提げて、2025年以降どんな躍進を更に遂げてくれるか楽しみでならない。

音楽シーンの歴史の変わり目もあり、天候や交通のトラブルも起きた今年の『RSR』だったが、一切湿っぽくならず、日常と地続きな上で、いつも以上にロマンチックな2日間を迎えられた。

「家に帰るまでが『ライジングサン』!」

初年度から言われ続けている魔法の言葉を心に秘めて、2025年8月15日(金)・16日(土)に開催される25回目の『RISING SUN ROCK FESTIVAL』を心待ちにしたい。

撮影=SPICE編集部(大西健斗)

撮影=SPICE編集部(大西健斗)

取材・文=鈴木淳史 
ライブ写真=オフィシャル提供、一部会場写真=SPICE編集部(大西健斗)撮影

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