内野聖陽「地獄の底まで付き合うよ」 上田慎一郎監督との初タッグ、主演映画『アングリースクワッド』への想い
内野聖陽が主演する映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が、2024年11月22日に、東京・新宿ピカデリーほかで全国公開される。2016年に、俳優のマ・ドンソクが主演し、韓国で放送されたドラマ『元カレは天才詐欺師 〜38師機動隊〜』が原作。普段は「役者の領分を超えることはしない」ことを信条とする内野だが、『カメラを止めるな!』(以降、カメ止め)で脚光を浴びた上田慎一郎監督の熱い思いに触れ「地獄の底まで付き合うよ」と覚悟を決め、制作に臨んだという。
物語は、真面目で気弱な税務署員・熊沢二郎(内野)が主人公。家族のために自分を押し殺し生きていたが、ある事件をきっかけに開眼。脱税王(小澤征悦)から未納の10億円を徴収するため、天才詐欺師集団とタッグを組み、一大バトルを展開していく。
――韓国で話題を集めたドラマの映画化について、どのように取り組んでいこうと思われましたか。
韓国では全16話で放送されたドラマ。それを1作に凝縮すると聞いて、最初は「無謀だなぁ」って思いました。マ・ドンソクさんが主演された作品自体は、面白いなと思いましたが、見てやっぱり「これを1作にするの??」って思いました。
――上田監督作品に出演するのは、初めてですね。
ええ。僕が出演した『スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディー』(源孝志監督)を見てくれていたらしくて、オファーをいただきました。僕も『カメ止め』を見て、面白い監督だなと思っていたので、出会い方がうれしかったですね。
――2021年に初対面した際、監督からは「撮影前に脚本について、議論をする時間を設けたい」とお願いされたと聞きました。
熊沢という人物を作っていく上で、とても大切な時間になりました。脚本をいただく僕ら役者は、その最初の読者になるわけですよね。第一のお客さんとまで言ったら不遜かもしれないけれど。だから疑問に思った部分について「ここの描写って、不親切じゃないですか?」とか、いろいろ突っ込ませていただいたんです。
――突っ込み、ですか。
はい。疑問を持った箇所に付箋をつけて、解決できたら外して。それを繰り返していきました。コロナ禍だったので、アクリル越しに上田君の熱意がビシバシ伝わってきたのを覚えています。回を重ねるごとに精度が上がって、最終的な脚本にするまで時間がかかりました。原作のよさは残しつつも、上田監督のオリジナリティも沢山込められたものになったと確信しています。
――内野さんは毎回そのように、脚本作りにも携わられるのでしょうか?
いやいや。僕は役者なので、役者の領分を超えることはホントはあまり好きじゃないんです。昔、ドラマ『臨場』で検視官の役を務めたとき、この検視官は捜査1課とかにズカズカ入っていくんですが、それってすごくパワーがいることだよねって感じて。でもそうやって、誰かが自分の領分を超えていかないと真実にたどり着かないこともあるということも学びました。だから、創作活動全体にもコミットせざるを得ない時がある。上田くんだから動いてしまったというところがありますね。
――すごい熱量ですね。
そうなんです。今回は監督がすごいハングリー精神で、おじさん(内野)にぶつかってきたので、その熱に動かされました。ゴールがあまりにも遠くて、正直逃げだしたくなることもあったんですけど(笑)、僕が演じた熊沢についてや、詐欺師たちと出会う場面などに「こういうやりとりがあったら、面白いんじゃない」とアイディアを出すたびに、それを形にしていこうとする彼の熱意がすごくて。「地獄の底まで付き合うよ」と腰を据えましたね。付箋紙を何枚使ったことか(笑)。
『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』11月22日(金)新宿ピカデリーほか全国公開 (C)2024アングリースクワッド製作委員会
――上田監督との脚本作りはどのような時間になりましたか。
本作りの課程で、上田監督の笑いのセンスやものの見方を知り、その考え方に感銘を受けました。人をワクワクさせるサスペンスって何だろうということなど、彼なりのきちんとした答えを持っている。もの作りに対して真面目な姿勢に触発された時間でした。彼とはまたいつか仕事がしてみたいと思う方ですね。
――上田監督と、撮影現場で印象に残っていることはありましたか?
現場が紛糾しないように、カンパニーの中では気を使っている自分がいましたね(笑)。監督は役が背負っている背景について、セリフにしていない部分を丁寧に役者に説明して、演出をつけていたのが印象に残っています。コロナ禍の撮影で、演出がリモートになった時期もありました。そんな珍道中もありましたが、監督にシンパシーを感じながら作品作りができたので、想像以上のものができたと思います。
――内野さんは役に徹底的に寄り添い、役に身を投げ打つ印象があります。演じた熊沢については、どのように役作りをして行かれたのでしょうか。
熊沢は怒りを忘れた男がテーマでした。役作りに関しては、上田監督から税務署OBが書いた暴露本をいただいて、内部の様子を知る助けになりました。熊沢は、あることをきっかけに、詐欺師と出会い共謀する中で人生のワクワク感を思い出してしまった。その過程を楽しもうと役に向かっていました。
――熊沢が開眼していく様子は、見どころのひとつですね。
そうですね。脱税王から税金を徴収する目的が、最終的にはある復讐へと繋がっていく構造が面白いと思いました。
――見どころと言えば、岡田将生さんらが演じた天才詐欺師集団と手を組んで、脱税王(小澤)をだますビリヤード場のシーンもあります。
池袋にあるビリヤード場でプロの方に習って徹底的に練習しました。ビリヤード自体は初めてではなかったのですが……。熊沢が「そこまでやる必要あるのか」ってボヤくセリフがあるんですけど、同じ気持ちでした(笑)。
――小澤さんとのナインボール対決では、神業ショットもありました。
練習では入っていたのですが、本番になったら突然入らなくなってしまって焦りましたね(笑)。深夜2時頃まで撮影をしたので、集中力は切れる寸前でした……。
――「よっしゃー!!!」という雄叫びは本心からだったのですね。
まったくその通りですね(笑)。
――今回演じた熊沢は、痛みを力に変える役どころでした。内野さんご自身は過去の苦い経験がいまに生きたという経験はありますか。
駆け出しの頃に、とある演出家の方にひどく叱られた経験があって、そのことをふと思い出すときがあります。当時は分からなかったけれど、いまでは「私を鍛えようとする愛情だったんだな」と感じます。厳しい言葉は自分を鍛えてくれた大切な時間だったんだと感謝しています。
――内野さんは1993年にデビューされたので、昨年活動30年目を迎えられました。様々な役を演じておられますが、その原動力について教えてください。
30年も経ったんですか。忘れていました……。原動力は負けず嫌いなところでしょうか。怠惰な自分自身に対して、鞭を打つような気持ちで自分自身を叱咤して。携わらせていただく作品が、より楽しく豊かになるような役者であれるよう、自分自身を育てていきたいです。
映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』本予告
ヘアメイク=柴﨑尚子(shuhari beauté)
スタイリスト=中川原寛(CaNN)
取材・文=翡翠 撮影=岡崎雄昌
上映情報
11月22日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
内野聖陽 / 岡田将生 / 川栄李奈 森川葵 後藤剛範 上川周作 鈴木聖奈 / 真矢ミキ / 皆川猿時 神野三鈴 吹越満 / 小澤征悦
監督:上田慎一郎 脚本:上田慎一郎 岩下悠子
原作:「Squad38 (38사기동대)」邦題「元カレは天才詐欺師 〜38師機動隊〜」
配給:NAKACHIKA PICTURES / JR西日本コミュニケーションズ
©2024アングリースクワッド製作委員会
公式サイト:angrysquad.jp X:@angrysquad2024
税務署に務めるマジメな公務員・熊沢二郎(内野聖陽)。ある日、熊沢は天才詐欺師・氷室マコト(岡田将生)が企てた巧妙な詐欺に引っかかり、大金をだまし取られてしまう。親友の刑事の助けで氷室を突きとめた熊沢だったが、観念した氷室から「おじさんが追ってる権力者を詐欺にかけ、脱税した10億円を徴収してあげる。だから見逃して」と持ちかけられる。犯罪の片棒は担げないと葛藤する熊沢だったが、自らが抱える”ある復讐”のためにも氷室と手を組むことを決意。タッグを組んだ2人はクセ者ぞろいのアウトロー達“どんな役にもなれる元役者”“強靭な肉体の当たり屋”“特殊な偽造のプロ”“母と娘の闇金親子”を集め、詐欺師集団《アングリースクワッド》を結成。脱税王から大金を騙し取る方法を、所有者に成りすまして土地を売る地面師詐欺に設定し、綿密&大胆な計画を練り上げ、チームは壮大な税金徴収ミッションに挑むが……その先には「裏」を読み合う壮絶な騙し合いバトルが待ち受けていた。