ガーシュウィンの知られざる魅力を一夜で表現!菊池亮太×和田一樹が挑む『コンチェルトシリーズ 菊池亮太 ガーシュウィンの世界』
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時代を象徴するガーシュウィンの存在
——今、《ラプソディー・イン・ブルー》のお話が出ましたが、《ピアノ協奏曲 ヘ調》はいかがですか? 初演時にはクラシックかジャズかで評価が分かれ、ストラヴィンスキーは絶賛し、プロコフィエフは拒絶反応を示したというエピソードが残っています。
菊池:ガーシュウィンは名前の通り、意欲的なクラシックの曲として発表して評価されたかったのだろうと思うんですよ。でも、ガーシュウィンがポップスから作曲を初めていることもあって音楽自体は非常にポップ。そして、彼自身がオーケストレーションを自分で作り始めた最初期の作品なので、非常に手探りだと思うし、作品そのものにそうした試行錯誤の跡が見えるんですよね。
だから僕はこの曲を演奏するにあたって、ピアノ・トリオとオーケストラでやってみたいというわがままを言ってみたんです。今回それはちょっと難しくて実現には至らなかったけど、例えばもし第3楽章にドラムが入っていたら16ビートの曲になると思うので、間違いなく作品の可能性がさらに広がるんじゃないかって。
だから完成している作品でもあり、完成しきっていない作品でもあると思います。ただ僕は2楽章の一番エモーショナルなところを聴くととても感動します。だから分類や賛否は置いておいて、素晴らしいメロディの作品です。
和田:当時はクラシックとそれ以外の音楽との出会いの時代だったのだと思いますね。コルンゴルトがアメリカに亡命して映画音楽を手掛け始めたら、「クラシックの作曲家ではなくなった」とみなした人たちもいましたよね。それにしてもクラシックを破壊するかのようなサウンドを作ったストラヴィンスキーが絶賛したというのは面白い話ですよね。
菊池:本当に。ストラヴィンスキーとプロコフィエフというところが象徴的ですよね。ストラヴィンスキーは《春の祭典》で大バッシングを浴びつつも、そういう作品を作り続けた前人未到の人。一方でプロコフィエフは作風こそ近現代的ですが《ピーターと狼》なんかを聴くと古典的部分が核にあった人だと思うので、抵抗感をもったのかも。わかりやすい対比になっていますね。
和田:プロコフィエフはもしかしたら嫉妬したのかもしれないですね。そういった意味でも、ある意味、クラシック音楽の転換期でもあった時代を象徴する曲かもしれませんね、《ピアノ協奏曲 ヘ調》は。
菊池:定義付けの話をすると、ガーシュウィンは未だに純然たるクラシックではないというところにフォーカスされすぎているような気がします。かつてラフマニノフが映画音楽的と言われていたり、カプースチンが変わり種のようにみなされていましたが、今はそうは思われていませんよね。だからガーシュウィンもさまざまな音楽の視点を与えてくれる作曲家として、《ラプソディー・イン・ブルー》以外の作品も頻繁に演奏されて、楽しんでいただける作品になったらいいなと思います。
和田:今回、亮太さんの演奏でガーシュウィン作品4曲を聴けるという豪華さもありますが、なによりも亮太さんのガーシュウィンへの強い愛情があります。それをオケと一緒に受け止めて、楽しい演奏にしたいと思っています。
取材・文=東ゆか
公演情報
『菊池亮太 ガーシュウィンの世界』
会場:東京オペラシティコンサートホール
一般S席:8,000円
学生S席:6,000円