ガーシュウィンの知られざる魅力を一夜で表現!菊池亮太×和田一樹が挑む『コンチェルトシリーズ 菊池亮太 ガーシュウィンの世界』

2024.10.18
インタビュー
クラシック

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今年2024年、ガーシュウィン作曲《ラプソディー・イン・ブルー》が初演から100年を迎えるのを記念して、『コンチェルトシリーズ 菊池亮太 ガーシュウィンの世界』が11月1日(金)、東京オペラシティ コンサートホールで開催される。ソリストの菊池亮太は、正統派クラシックの演奏はもちろん、ジャズやポップス、ロックなど多彩なジャンルによるアレンジや即興演奏でも人気を集めるピアニストだ。和田一樹の指揮で、タクティカートオーケストラと共に、《ラプソディー・イン・ブルー》、《ピアノ協奏曲 ヘ調》、《セカンド・ラプソディ》、そして《アイ・ガット・リズム変奏曲》という4つのピアノ協奏曲で、全曲ガーシュウィンのプログラムに挑む。

公演まで1ヶ月を切ったこの日、指揮の和田一樹と菊池亮太に、今回の公演にかける思いやガーシュウィンの魅力について語ってもらった。

《ラプソディー・イン・ブルー》だけじゃない! ガーシュウィン作品の魅力を届ける一夜

——一晩でガーシュウィンのピアノ協奏曲を4曲演奏するという、ものすごくチャレンジングなプログラムですが、どのようなきっかけからこの企画が生まれたのでしょうか?

菊池:昨年、一人の作曲家の複数のコンチェルトを一晩で演奏するコンサートに取り組まれているピアニストの方々がいらっしゃり、コンサートの企画をされている方から「菊池さんもコンチェルト祭りやらない?」と言われたことがきっかけです。僕が演奏するならどの作曲家がいいんだろうと考えて、今年がちょうど《ラプソディー・イン・ブルー》の初演100周年ということで、ガーシュウィンが良いんじゃないかと提案しました。ノリノリで「やりましょう!」とお返事したものの、ことの重大さに翌日から頭を抱えることになりました(笑)

和田:菊池さんのオール・ガーシュウィンはぜひ聴きたいですよね。ガーシュウィンといえば、どうしても《ラプソディー・イン・ブルー》だけがダントツで演奏されているので、今回その他の《ピアノ協奏曲 ヘ調》、《セカンド・ラプソディ》《アイ・ガット・リズム変奏曲》をお客さまに聴いていただけることもうれしいですよね。

菊池:本当に《ラプソディー・イン・ブルー》以外も素晴らしい曲なんですよ。もっと演奏されるべき曲だとずっと思っていたので、全曲を一気に演奏することでガーシュウィンを取り巻く環境のターニング・ポイントになればという願いをもって取り組んでいます。

和田:オーケストラとしてもレパートリーが広がるのは素晴らしいことですからね。作品は演奏されることで育っていく面がありますから。

——ガーシュウィンのどのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか?

菊池:ガーシュウィンは39歳の、ちょうど今の僕と同じぐらいの歳頃に亡くなっているんです。短い人生を駆け抜けた感じが作品にも表れていると思います。例えば、リストは生涯が長かったので、晩年は社会に対して自分が音楽で何を還元していくかといったことを考えながら作曲している印象が強いのですが、モーツァルトやガーシュウィンは、とにかく自分ができることすべてをやり尽くした作曲家だと思うんですよね。だから、和田さんがおっしゃったように、今生きている人間としてそういった作品をより多くの方に知っていただきたいと思います。

演奏することについては、飛び込みやすい作曲家だと感じています。僕は、子どものころからクラシックを勉強していた一方で、ジャズやロック、即興演奏など他分野の音楽に興味を持ち始めるのも早かったんです。そういった自分のルーツみたいなものを受け入れてくれる数少ない作曲家の一人だと思っています。自然体で演奏できるというか。

高校時代に、同級生がエレクトーンでオケパートを弾いて《ラプソディー・イン・ブルー》を演奏したことがありました。当時弾いた、めちゃくちゃなカデンツァを同級生が面白がってくれて、自分の演奏スタイルを肯定されたような気がしました。その出来事が今に至る大きなモチベーションになっています。

——菊池さんもガーシュウィンも、クラシックと他ジャンルが融合したアーティストだから、演奏のしやすさがあるのでしょうか?

菊池:《アイ・ガット・リズム変奏曲》なんて、ガーシュウィン自身のジャズナンバー《アイ・ガット・リズム》をオケとピアノ用に編曲した作品ですが、複旋律の入り方がラヴェル的だったりと、ジャンルや様式を超えた雑多さがある。そういう感じが自分とも重なるので、より自分らしい演奏ができる気がします。

でもそれだけではなくて、もっと雑多な感じというか、1920年代のアメリカの「ごちゃごちゃした」感じがすごく僕の肌にあっているんですよ。例えばクラシックの世界では印象派の作曲家がまだ生きている一方で、ストラヴィンスキーやシェーンベルクが現れ始め、ジャズも生まれてという混沌とした時代です。そういった背景がガーシュウィンの音楽にも投影されていると思うんですよね。

和田:ヨーロッパでもガーシュウィン以前に、バルトークが民族音楽をクラシックに取り入れたり、プッチーニが日本の音階を取り入れたりと、クラシックが新しいものにどんどん進化していった時代でもあります。

そしてガーシュウィンはアメリカ音楽が世界的に認められるようになった最初期の人でもありますよね。指揮者にとっては、「アメリカもの」といったらまずガーシュウィンを勉強しなさいと言われるぐらい、アメリカ音楽の源流となっている作曲家です。

——時代だけでなく、ガーシュウィン自身もポピュラー音楽からキャリアが始まったので、スタイルに変遷のある人という感じもしますね。

菊池:そうですね。《ラプソディー・イン・ブルー》のオーケストレーションはガーシュウィン自身が手掛けていないし、翌年に書かれた《ピアノ協奏曲 ヘ調》もまだ若さが感じられて、全体の和声も意外とシンプルだったりするんです。でも《アイ・ガット・リズム変奏曲》や《セカンド・ラプソディ》になると、和声がより入り組くんで、近現代の作曲家やラヴェルに影響を受けていたようなところが際立ってくるんですよね。

——ガーシュウィンの変遷も辿れるプログラムになっているということですね。

和田:プログラムのなかで目立つのは三楽章で構成されている《ピアノ協奏曲 ヘ調》かもしれませんが、《アイ・ガット・リズム変奏曲》は10分程度の曲で、短いけれど内容がどんどん濃く、作曲技術が上がってくるんです。そんなところも楽しんでいただきたいですね。

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