「俺が生きて、音楽やっているうちは大丈夫です!」秋山黄色が『NON-REM WALK TOUR』ファイナルで爆音に込めたこと、叫んだ新たな宣言
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『秋山黄色 NON-REM WALK TOUR』2024.12.1(SUN)東京・豊洲PIT
「ホントに、あっという間。しょうがないんですけど。こんなに楽しいことを、どうして終わらせなきゃいけないんだ」
本編最後に秋山黄色自身、そんなふうに振り返っていたが、見ているこちらも本当にあっという間だった。9月25日にリリースした4thアルバム『Good Night Mare』をひっさげ、10月27日から全国10都市を回った『秋山黄色 NON-REM WALK TOUR』。そのファイナルとなる12月1日(日)の豊洲PIT公演。3,000人キャパの会場がスタンディングの観客で埋まっている光景を眺めながら、「想像以上に感無量です。いつも通り昨日までの自分を超えていきます」と言いながら、秋山はこの日、『Good Night Mare』の曲を中心に全18曲を披露した。秋山をバックアップするのは、井手上誠(Gt)、藤本ひかり(Ba)、田中駿汰(Dr)の3人。以前、秋山がこのメンバーが揃うことは奇跡に近いと語ったプレイヤー達だ。
開演5分前から流れ始めた不吉な音楽がフロアをシーンとさせ、観客を悪夢の世界にひきずりこみ、本編のラストナンバーでアラームを鳴らして、目覚めさせるという演出も交える一方で、序盤から曲をたたみかけるように繋げていったせいか、アンコール2曲目の「吾輩はクソ猫である」でライブが大団円を迎えたとき、開演から2時間が経っていたことが一瞬信じられなかった。
ステージの4人は1曲目の「SCRAP BOOOO」から「ソーイングボックス」「ソニックブーム」とライブのクライマックスを飾ることが多いアッパーな曲をいきなり惜しげもなく披露して、早速、観客のフィジカルな反応をひきだすと、ライブの流れを変えるように「FLICK STREET」からダンサブルな曲を繋げ、フロアをバウンスさせていく。
「踊り散らかせ!空気読まないで声出していけ!」
秋山の歌がラップになるR&B調の「シャッターチャンス」でフロアをぐっと盛り上げると、ギターのカッティングで繋げながら、バンドの演奏はそのままファンキーな「PUPA」になだれこむ。
この日、何度となく秋山とバンドはそんなふうにノンストップで曲を繋げ、スリリングにライブの流れを加速させながら、観客の時間の感覚を麻痺させていった。そんなところに一体感をはじめ、ライブを重ねる中で通じ合ってきた秋山とバンドの蜜月関係が窺えたが、中盤のハイライトを作った「Lonely cocoa」「夢の礫」というバラードに観客がじっと聴きいったのは、夢やうまく行かない人生を持て余す気持ちを言葉にした歌詞や胸に迫る秋山の歌声もさることながら、リリカルなメロディーとともにバラードがいつしかアンセムに変わっていった前者、秋山の弾き語りに寄り添いながら必要なだけの音を加えた後者ともに秋山の歌と呼応するバンド・アンサンブルの妙もあったはず。
その2曲に続く「日々よ」の空間系の音像を描きながら、淡々とした中、繰り広げた熱度満点の演奏も聴きどころだった。
「そろそろ本気でやっていいですか!?」
じっくりと聴かせた中盤の流れを変えたのは、秋山が印象的なギター・リフを奏で、観客に悲鳴に近い歓声を上げさせてからなだれこんだ「Caffeine」だ。曲が内包するラテンのグルーブが観客の気持ちを突き動かす。絶望の淵で発した魂のSOSを歌いながら、この曲がライブ・アンセムになったのは、曲そのものや演奏の躍動感が言葉の意味を凌駕したからだろう。それこそが音楽の力だ。秋山黄色のライブには、それを思わせる瞬間が幾つもある。
「観客の歓声を聴くのが人生で一番楽しい。泣き叫んで生まれてきたんだから、笑いながら叫び散らさないと元が取れない!大声出せるか!?」
「やさぐれカイドー」と「ナイトダンサー」という秋山のライブに欠かせないアンセムを観客の手拍子で繋げながらたたみかけ、さらにフロアを揺らしていく。「Let’s funky!!」のコール&レスポンスで盛り上げた前者は、お立ち台の上で秋山がタッピングしながら閃かせ、左右のスピーカーに大胆にパンニングしたギター・ソロも聴きどころだった。
そのままラストまで駆け抜けるのかと思いきや、「久しぶりに歌おうか」とR&B調のバラード「SKETCH」を挟んで、聴き手の気持ちを鷲掴みにするメロディーの力を見せつけながら、観客の胸に鮮烈な印象を落とし込む。
なるほど。ライブをクライマックスに持っていける曲がこれだけあるんだから、人気曲を惜しげもなくいきなり披露したスタートダッシュも大いに頷ける。そこに新たに加わったアンセムが「負けの負けの負け」。ドラムが2ビートになるこのパンクロック・ナンバーは、ライブのクライマックスを飾るのにぴったりだと思うが、今回のツアーでライブ初披露したにもかかわらず、マイクをオフって、いきなりサビを観客に歌わせる秋山も、秋山に応え、シンガロングしてしまうファンも凄い――と、そんなふうに思ってしまったのは、秋山とファンの関係性をわかっていない筆者の認識不足なのだろう。
秋山、井手上、藤本の3人がお立ち台の上で演奏するというライブの大団円にふさわしい光景を見せ、そのまま終わっても悪くはなかったかもしれない。しかし、秋山には最後にどうしても聴いてもらいたい曲があった。その曲を演奏する前に秋山は「どれだけの年数を生きたら生ききったって言えるんだろう? 80年じゃ足りない」と14歳の時、不意に見出してしまった諦観について語り始めた。
「しっかりと1年を重ねていると思っている。そんな自信がない人もいるかもしれないけど、何もやってないってことはないと思う。ここにいる人だって、こうやってライブに来ている。それはその人なりに意味があるから来てるんだと思う。そんなふうに80年かけて1つ1つ集めた意味を、最後に手放して死んでいかなきゃならないなら、意味なんてないんじゃないか。結局、世の中は悪夢。どうして無意味な人生を生きていられるのか?」
つまり、その諦観が秋山の曲作りの出発点となっているのだが、最近、意味を集めていった80年後、どうなるかわからないじゃないかという考えが芽生え、どうなるかわからないということは希望なんじゃないかと思い始めたという。
もしかしたら、その考えは奇跡に近いバンドと一つになってライブに取り組んだり、そのライブで観客と気持ちを交わしたりしているうちに芽生えてきたものなんじゃないかと想像するが、無意味かもしれない人生に抗いながら、そこに意味を見出そうとするそんな気持ちを歌ったのが本編最後に演奏する「生まれてよかったと思うこと」であり、新たに芽生えた希望を元に“悪夢のような世界でも笑っていく”という思いとともに作り上げた『Good Night Mare』だった――ということなのだと秋山の話を聞きながら思った。
「ターニングポイントになるアルバムができたんだからみんなに教えなきゃ」と秋山が言ったこの一言が重要だ。
「俺の全部を歌います。どう聴いてくれてもいい。音に込めるってこういうことだから」
決意とも思えるそんな言葉とともに「生まれてよかったと思うこと」を渾身の演奏で披露する。これからライブを重ねるごとにメランコリックともエモーショナルとも言える感情が滲む秋山の歌、ディレイを掛けたギターの単音リフが作る淡い音像に秋山がギターとキーボードでエキセントリックなフレーズを加えるアンサンブルともに研ぎ澄まされ、曲が持つ大きな意味にふさわしい曲になっていきそうだ。
アンコールでは「サプライズでカバーします」と藤本がかつてメンバーだった赤い公園への「最大限の敬意」を捧げ「Highway Cabriolet」のカバーを披露したりと、希望を求める秋山の思いは日増しに大きくなっているようだ。いや、すでに確信に変わり始めているようにも感じられるのだった。
「俺が生きて、音楽やっているうちは大丈夫です」と言った秋山は、彼と彼のファンの新しいテーマソングなんて言えそうなオプチティミスティックな「吾輩はクソ猫である」でダメ押しするようにアンセミックな光景を作り出す前に「音楽が好きだから音楽をずっとやっていきます。命よりも音楽を優先できたら怖いものなしです」と言った。さらに付け加えれば、「吾輩はクソ猫である」のエンディングで勢いあまってぶっ倒れる熱演を見せた後、「俺がまた爆音で悪夢から目覚めさせてやる!」と言い放ったが、新たな宣言とも言えるそんな言葉の数々もまた、今回のツアーと、その元になった『Good Night Mare』の成果なのだろう。
取材・文=山口智男 撮影=Ayumu Kosugi
セットリスト
2024.12.1(SUN)東京・豊洲PIT
EN.Highway Cabriolet(赤い公園カバー)
EN2.吾輩はクソ猫である
オフィシャルサイト:https://www.akiyamakiro.com/