日本から世界へ、一期一会の管楽アンサンブル~ホルン奏者・福川伸陽が語る新アルバム『ふたつのグラン・パルティータ』

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福川伸陽

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NHK交響楽団首席を経て、現在はソリストとして八面六臂の活躍を見せるホルン奏者、福川伸陽が中心となって企画された『インターナショナル・ウィンド・サミット2024』は、世界から腕利きの奏者が結集して開催された。

モーツァルトの13本の管楽アンサンブルのための傑作《グラン・パルティータ》をメインに、英国在住の作曲家、藤倉大に福川が委嘱した同編成、同タイトルの新作初演、そして冒頭にドヴォルザークがモーツァルトの作品に接したことをきっかけに書いた《管楽セレナード》というプログラム。福川の声かけに賛同して世界から集まった名手たちの奇跡的とも言える名演が繰り広げられたが、そのライヴ録音がリリースされることになった。

東京・名古屋・大阪で3回のコンサートが開かれたが、録音は初日の東京・紀尾井ホールでのライヴ。ドヴォルザークはCDの収録時間の関係で配信のみで聴くことができる。

紀尾井ホールでのライヴの模様

――メンバーがとても豪華ですが、福川さんが集められたのですね。

そうです。以前一緒に仕事をしたことのある人もいますし、そうでなくてもみんな素晴らしい奏者なのは知っていました。クラリネットのニコラ・バルディルーはSNS上で友達だったので、「日本でこういうことをやりたいんだけど、来てくれない?」と声をかけたらすごくウエルカムな感じで「行く行く!」と。オーボエのフィリップ・トーンドゥルは、演奏を何度も聴いたことがあって、本当に素晴らしいのでぜひ、と思っていたら、コントラバスの幣隆太朗君が友達で、間に入ってくれました。

――クラリネットの仲間、バセット・ホルンにも名手がいらっしゃいます。

N響首席の松本さんと読響首席の金子さんが吹いてくれるなんて、もう幸せでした。松本さんは家が近所でよく一緒に飲んだりするのですが、ニコラとこういう企画をやろうと思っていて、よかったら一緒に、と話したら「いいよいいよ、全然やるよ」みたいな感じで。

――ファゴットの小山莉絵さんもすごい。

彼女とはいつが最初だったか覚えていませんが、その時の衝撃がすごくて。とても上手なんだけど、それだけではなくてアンサンブルの中にいる時のバランス感覚と、ソロで出てきた時のフリーダム感が素晴らし過ぎます。

――他のパートも本当に見事で聴き応えが満点ですが、リハーサルはどんな雰囲気でしたか?

モーツァルトではもちろん決めなければならないところはたくさんあるのですが、そこ以外はもう自由に、みたいな感じでしたね。お互いがすぐに聴いてわかってしまうので、一流同士はこんなに言葉が少なくても出来上がるんだと。藤倉さんの作品はかっちりしたものなので、そういうわけには行きませんでしたが。練習の録音をロンドンへ送ってアドバイスをもらいました。すごく難しいところがあるので、「Need Practice!」なんて言われて、全員即「Yes!」みたいな。それがずっとネタになってて、何かあるとすぐ「Practice!」なんて言い合ったりして、そんな和やかで楽しい雰囲気でした。

――そういう雰囲気は、管楽器独特なのでしょうか。

今回の作品がそんなに深刻なところがないものだったのもあるかもしれません。でも全員がハッピー・オーラ全開でしたし、オープン・マインドな人が揃っていたのは確かでしたね。

――今回はモーツァルトと同じ編成、同じタイトルの藤倉大さんの新曲が初演されました。

藤倉さんとは以前から友人でしたし、個人的にも「藤倉推し」なんですが、彼はこの編成のことを知らなかったそうなんです。地味で面白くない編成だと思ったそうなのです。でもいざ書き始めてみたら雅楽みたいな音もできたりするので、筆が勝手に進んでいくこともあったらしい。モーツァルトは演奏される機会が多いので、その前プロにすごく良い曲ができたのではないかと思います。モーツァルトとはまったく違った雰囲気の作品なので​、好対照でもあります。ホルンには負担が大きいのですが(笑)。でも本当に頼んでよかった。シリアスな部分もありながら、キャッチーでもある名作だと思います。

――ドヴォルザークの《管楽セレナード》は配信限定ですね。これはクラシック音楽では珍しいことだと思います。

時間的にCDからはみ出してしまったので。配信というのは手軽で、どこにいても聴けるようになったという意味ではすごくプラスで嬉しいことですが、コンサートにも来てね、と同時に思います。今回のように時間的に1枚のCDに入らない場合に、こういう配信という形にCD会社が決めてくださったことはとてもありがたいことです。ただ、配信音源をスマホのスピーカーから出てくる音だけで楽しむのはもったいない。ホールで音に包まれる感覚をぜひ体験していただきたい。今回は紀尾井ホールの音がそのまま詰め込まれていて、それを配信でも聴けるというコンセプトで音源を作ってくださったようなので、ぜひ今度はホールへ足を運んでほしいです。

今年はホルンのサミットが予定され、さらにバロックやブラスのサミットもやりたいと語る福川。今後のますますの活躍に期待大だ。

文=西村祐 写真=平舘平 

リリース情報

『ふたつのグラン・パルティータ』

『ふたつのグラン・パルティータ』

【発 売 日】2025年1月22日
【品 番】CD:KICC-1624 配信:NOPA-6521 NOHR-861
【ジャンル】室内楽
【レーベル】キングレコード
【POSコード】(CD) 003⁻ 4988003643263   
【定価】3,300円

 
【CD収録内容】KICC-1624
モーツァルト:セレナード第10番「グラン・パルティータ」K.361(370a)
藤倉 大:グラン・パルティータ
 
【配信収録内容】NOPA-6521 NOHR-861
ドヴォルザーク :管楽セレナード ニ短調 Op. 44
モーツァルト:セレナード第10番「グラン・パルティータ」K.361(370a)
藤倉 大:グラン・パルティータ
録音:2024年11月18-19日 東京 紀尾井ホール
 
【アーティスト】
オーボエ:フィリップ・トーンドゥル、荒木奏美
クラリネット:ニコラ・バルディルー、橋本杏奈、松本 健司、金子平
ファゴット:小山莉絵、助野由佳
ホルン:福川伸陽、サボルチ・ゼンプレーニ、ユーフイ・チュアン、熊井 優
中木健二(ドヴォルザークのみ)
コントラバス:幣隆太朗
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