“今”のために、パラレルワールドを見つめられたら~善雄善雄×鈴木浩文×犬飼直紀インタビュー
(左から)鈴木浩文、善雄善雄、犬飼直紀
2025年2月2日(日)より、シアター711(東京・下北沢)にて、ザ・プレイボーイズ 第12回公演『パラレルワールドより愛をこめて』『パラレルワールドでも恋におちて』が開幕する。
“パラレルワールド”をテーマにした本作。異なるキャスト5名ずつでの2本立て公演だ。さらに、劇団の立ち上げから20周年となる記念公演でもある。本記事では、作・演出の善雄善雄と、『パラレルワールドより愛をこめて』に出演する鈴木浩文、犬飼直紀へのインタビューをお届けする。
20周年の企画としてふさわしいと思いました
ーーまずは20周年、おめでとうございます!
善雄:ありがとうございます。なんだかんだで20周年です。2005年、大学の演劇祭で旗揚げをしました。思い返せば、そのときは右も左も分からないなかでの上演でしたね。20周年の記念公演、下北沢演劇祭の参加作品にラインナップいただけたことも嬉しく思っています。
ーー“パラレルワールド”がテーマとのことですが。
善雄:2年ほど前に『きみ、僕の世界のなんなのさ』という作品を上演しました。主人公の漫画家が、われわれが生きている世界よりも、もっと高次元の存在に恋されるというストーリーです。その上演にあたって、物理学の超ひも理論を調べていました。もしこれが正しければ“パラレルワールドは存在する”とされているそうです。高次元存在があるというていで作品をつくったのだから、パラレルワールドについても、いつか扱いたいテーマだと思っていました。パラレルワールドをテーマにするなら2本立てだと相性が良いのではないか、さらに2本立てなら、20周年の記念公演としてもふさわしいんじゃないかと考え、このタイミングでの上演を決めました。
鈴木:善雄さんは稽古の最初に、パラレルワールドの説明をしてくれました。この世界はすごいおもしろいですね。パラレルワールドって、物語のなかでしか出てこないものだと思っていたので、“あるかもしれない”と考えられていることに驚きました。今回の作品も、ファンタジーというより、日常感をもっと出しても良いかもなあと、うっすらそんなことを考えています。
犬飼:稽古中、パラレルワールドは「あると思う」か、「無いと思う」か、多数決をとりましたよね。僕は「無いと思う」に手をあげたけど、鈴木さんどちらでしたか。
鈴木:僕も「無いと思う」にあげたはず。でも改めて考えると“ある”のかも……。あったほうがおもしろいです。無くてもいいなあとは思うけど(笑)。
ーー鈴木さんと犬飼さんに出演をお願いしたきっかけについてもお聞かせください。
善雄:鈴木さんとは、2020年にオンラインを活用した演劇公演で共演させていただきました。頭の回転がはやく、お芝居も上手な方だなあと。機会があればまた仕事をしたいと思いつづけていて、前作でもお声がけしたのですがスケジュールが合わず、今回もダメ元で聞いてみたところ、奇跡的にご一緒できることとなりました。
鈴木:当時はオンライン上でしかお会いできなかったので、2度もお声がけいただいてうれしかったです。20周年という素敵なときにようやくご一緒できるので「絶対やりたいです、お願いします」とお返事しました。僕は人気芸人を演じるのですが、この作品にはそうでない芸人も登場します。実は最初、その配役にびっくりしました。てっきり僕は人気ではない芸人を演じると思っていたんです。自分に自信がなく、僕にこの役を演じる説得力があるのかと不安でした。でもそれ以上に、ようやく対面で善雄さんに会える嬉しさもありましたね。
鈴木浩文
善雄:鈴木さんはもうずっと人気ですよ!SNSからも、めちゃくちゃ頑張っているようすがひしひしと伝わってくる。
鈴木:ははは(笑)。がむしゃらなだけです、本当に。気合が入りますね、頑張らなきゃ。
善雄:犬飼さんは、出演していた舞台を観に行ったことがあり、向き合い方の大変な役を見事に演じられているなあと感心していました。自分だったらできないと思います。役に真摯に向き合っているようすがよく伝わってきました。また、自分の年齢があがるにつれて、座組の年齢もあがりがちになってしまうから、若い方ともご一緒できたらと思い、お願いしました。まさか受けていただけるなんてありがたいです。
犬飼:パラレルワールドがテーマと聞いて、絶対おもしろい話なんだろうなと想像を膨らませていましたが、僕は今回のような本格的なコメディ作品への出演が初めてなので、どのくらいの芝居感、テンポ感でやったらいいのか、と迷いました。今も迷いつづけていますが、コメディもできる俳優になりたいので、挑戦の機会をいただいたと感じます。
もう、期待以上なんです
ーー台本はどのように書き進められたのですか。
善雄:出演いただく俳優さん同士のお芝居がどのように影響しあうのか、それを見てから執筆したく、12月に数回のプレ稽古を開催してエチュードを行いました。そこで交わされた台詞なども一部拾わせていただいて、年明けに初稿を完成させました。皆さん頭の回転も台詞覚えも早いので、立ち上がるのがはやすぎて、個人的には「本番までまだ2週間もあるのか」と悠々としています(笑)。
鈴木:こっち(俳優)はこわいですよ(笑)。2作品あるので、善雄さんとの稽古の時間も限られますし……。
犬飼:善雄さんはハードワークですね。
善雄:2作品の世界観を行き来するので、時間感覚が不思議になりますね(笑)。
ーーどのようなエチュードをされたのですか。
犬飼:善雄さんがつくられたゲームをみんなでやっています。善雄さんはゲームをつくるのが上手で「ゲーム王」と呼ばれているんですよ。
善雄:既存のゲームを超えるものをつくろうと思っています(笑)!
鈴木:善雄さんのゲームはすごいなと思います。頭も身体も使うので、演劇のアップにちょうどいいです。
ーーどのようなゲームか気になります!
善雄:例えば「台本様の言う通り」というゲーム。これは最初に、“言葉”と“記号”(「…」「、」「。」など)のカードを引いて、組み合わせた台詞を読み上げます。例えば台詞が「本当にごめん…。」だとします。それを聞いた人たちは、記号に「…」「。」が含まれていたことを当てられれば成功です。
ーーなるほど! 話す人は台詞をきちんと伝える力がつくし、聞き手も集中力が身につきそうです。
善雄:台本を書きながら、自分は記号(句読点など)を音符みたいに使っているなと気がつきました。特に、三点リーダー(…)と点(、)と丸(。)は異なる役割をもたせています。俳優さんも、意識的かどうかは問わず記号の違いで表現を変えているはずだと思って、それ自体をゲームにしたらおもしろいんじゃないかと考えました。
犬飼:芝居につながる練習として良いですよね。
犬飼直紀
ーー稽古を重ねられてきて、いかがですか。
鈴木:先ほどもお話ししたように最初は、僕自身が人気芸人を演じることに説得力があるのか不安でした。小っ恥ずかしさもあったかもしれません。しかし稽古を進めていくにつれ、この役にとって人気の度合いはそこまで重要でないな、それよりも、他のキャラクターとの間にあるエピソードのほうが大事だと思うようになりました。楽しく参加できています。
犬飼:僕は鈴木さんとコンビの芸人を演じます。善雄さんはプレ稽古の段階で、僕がボケ担当に向いているんじゃないかと見抜いてくださいました。「他の人からツッコミを受けることで輝く芸人さんっているから、そういうタイプに犬飼さんの役をもっていこうと思う」と仰って台本を書き上げてくださいました。僕がプレ稽古で言い淀んだ台詞が変わっていたりして。俳優をちゃんと見て合わせてくださっているのが、すごいなと思いました。あと、鈴木さんも他の皆さんもお笑いのテンポ感や突っ込みのキレが良いんです。僕もコメディだからこそ役作りを真剣に突き詰めていきたいです。
善雄:台本を細かく修正していることに気づいてもらえたとは、ありがたいです。皆さんすごいコメディがうまいなと思っています。もう、期待以上なんです。この方はこれができるんじゃないか、と予想していた範囲を、はるかに超えたお芝居をされる。このままいけるところまで、めちゃくちゃおもしろいところまでいきたいという気持ちです。
鈴木:嬉しいですね、それを聞けてよかったです。
ーーもう一方の作品『パラレルワールドでも恋におちて』と、キャラクターや場面がリンクする点もありますね。
犬飼:はい、僕の役は『パラレルワールドでも恋におちて』にも登場します。観れば観るほど発見がある作品なので、さまざまな角度からご覧いただき、色々なことに気づいていただけたら嬉しいです。
鈴木:ひとつの作品内でも、パラレル世界を生きる同じキャラクターが登場するので、立ち方やふとしたときのポーズが被っていたらおもしろいんじゃないかと試行錯誤していますね。
善雄:演劇の力は不思議なもので「この人とこの人はおなじ人なんですよ」と言えば、なぜかそう見えてくるんです。「この人の未来の姿が、この人だ」とか、「この人はパラレルワールドのふたりだ」とか。その力を信じているので、同じキャラクター同士を無理矢理寄せる必要はないと思っていますが、俳優さん同士で話し合い、アプローチをしてくださっていることは、めちゃくちゃ嬉しいです。
善雄善雄
もしパラレル世界の自分と会ったなら
ーーテーマと関連してひとつお聞きしたいことがあります。もし、パラレルワールドの世界が存在したとしたら、皆さんは別世界を生きる自分に会いたいと思いますか。
犬飼:僕は俳優でなかった自分に会ってみたいですね。この仕事を始めたのは、中学生の頃にミュージカルのワークショップに参加したことがきっかけです。実はそのとき、応募書類の送付に不備があり、直前まで参加できるか分からない状況でした。自分から参加をあきらめる選択肢もありましたよね。俳優ではなかった自分、想像つかないな。
ーーこうなっていたらいいな、といった願望はありますか。
犬飼:今の人生が楽しいので、今のところこれ以上の自分が存在するとは思っていないです。
ーー素敵です!
鈴木:僕は別世界の自分には会いたくないかな。もし会ったとしても、具体的なことは聞けなさそう。「どんな感じ」「こっちは楽しいよー」みたいな会話しかしないと思う。会いたくない理由としては、今の人生と比べたくないから。会ったら比較してしまいそうで、あまり良いものを得られない気がします。台本ではパラレルワールドに行くことを誘う台詞がありますが、もし僕が誘われても「大丈夫です」と断っちゃうかもしれません(笑)。
犬飼:物語が始まらないですね(笑)。
鈴木:「向こうに行っても俺のことあまり見てこないで」と言っちゃうかも! パラレルワールド自体は楽しそうだから、あってほしいとは思います。
ーー善雄さんはいかがですか。
善雄:僕は会いたいですね! 一晩中飲み明かしたいです(笑)。これまでの人生、分岐点がたくさんありました。地元での就職話や、バイト先から正社員に誘われたこととか。でも会ったとしても、あまり嫉妬はしない気がします。歳を重ねたことで、どんな人も大変な思いをしてきているんだろうなあと感じるようになったので、今ならお互いを肯定できそうです。ただただ話をして、それぞれ頑張ろうぜで別れられたらいいな、そういうイメージですね。
ーー皆さんそれぞれ、今を大切にして生きていらっしゃるようす。とてもかっこいいです。
この世界にふれて、日々がすこし生きやすくなれば
ーー最後に、上演に向けた意気込みや、メッセージをお願いします。
犬飼:今回の劇場は、舞台とお客さまとの距離が近く、さらに出演者の人数も5名ずつと少ないです。集った人の日々のようすで、公演ごとに多様な雰囲気が生まれると思います。上演を目撃するという気持ちで、楽しんでいただけたら嬉しいです。僕も日々、その上演でしか感じられないものを味わいたいと思います。
鈴木:観ようか迷っている方には、上演時間と代のお得さをお伝えしたいです。このご時世でこんなに良心的な代で上演していること、すごいなと思います。また、2作品ありますが、それぞれ約1時間ずつなので、鑑賞に慣れていない人も足を踏み出しやすいと思います。この記事を読んでくださっている方には、ぜひともこの機会に挑戦してほしい、舞台の門をたたいてほしいなと思います!また、来場予定の方は、ぜひ楽しみにしてもらえたら嬉しいです。舞台は観に来てくださる方がいて完成するものだと思います。あなたがきてくださるから舞台が完成します。一緒に作品をつくって、一緒に“恋”と“愛”の作品の想い出を共有して、素敵な世界線を歩みましょう!インタビューを読んでくださりありがとうございます。
善雄:アンダーやキャッシュバック制度を活用して、できればどちらも、可能なら何回でも観ていただけたら嬉しいです。様々な“しかけ”を楽しんでいただけたら。このパラレルワールドの世界にふれたことで、日々がちょっと生きやすくなる、そんな作品にできたらいいなと思っています。人生に悩んでいたり後悔していることがあるなあという方は、ぜひ遊びにきていただきたいです。よろしくお願いします。
(左から)鈴木浩文、善雄善雄、犬飼直紀
取材・文:臼田菜南 写真:堀山俊紀
公演情報
『パラレルワールドより愛をこめて』『パラレルワールドでも恋におちて』
■会場 シアター711
■出演
『パラレルワールドより愛をこめて』 鈴木浩文 犬飼直紀 村田和明 稲葉佳那子 熊野ふみ
『パラレルワールドでも恋におちて』 帯金ゆかり まちだまちこ(メロトゲニ) 砂田桃子(扉座) 佛淵和哉 おなか☆すいたろう
対象日時:
『パラレルワールドより愛をこめて』
2月7日(金)20:00、2月8日(土)15:30
『パラレルワールドでも恋におちて』
2月7日(金)15:30、2月8日(土)13:00
内容:バリアフリー字幕のタブレット貸出/台本貸出/受付での筆談対応
【お問合せ・鑑賞サポート付の予約】
https://udcast.net/workslist/the-playboys-parallelworld/
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