被爆80周年の広島で平和に思いを馳せる――日独共同作品・音楽朗読劇『借りた風景』日本初演
2025年2月16日(日)に音楽朗読劇『借りた風景』が広島で日本初演される。本作はドイツの脚本家ユニットtauchgold(タウフゴルト)と、国際的に活躍する作曲家・藤倉大による共同作品。2022年にドイツの公共ラジオ放送で初演、2023年のニューヨークおよび2024年ワシントンD.C.での舞台公演を経て、この度日本初演を迎えることになる。
1945年8月、広島への原爆投下により19歳の生涯を閉じた河本明子さんが愛用していたピアノは修復され「被爆遺品」として現在広島市平和記念公園レストハウスにて保管・展示されている。劇中では「藤倉大: Akiko’s Diary」を実際の「明子さんの被爆ピアノ」で演奏し、ご本人の日記の一部も物語の中で朗読される。2025年、被爆80周年の広島において、戦争と平和、避難と追放の歴史に思いを馳せる公演となる。
明子さんの被爆ピアノ
音楽朗読劇『借りた風景』出演者
ヴァイオリンは北田千尋(広島交響楽団コンサートマスター/カルテット・アマービレのメンバー)、コントラバスはエディクソン・ルイス(ベルリン・フィル奏者)、そしてピアノは小菅優。朗読は広島の朗読団体Reading Notteの多和田さち子と日髙徹郎、広テレ・アナウンサーの西名みずほ、バリトン歌手・役者の大山大輔が担う。
ドイツの放送初演にも出演したピアニストの小管優よりコメントが到着した。
小菅優からのメッセージ
小菅優 (c) Takehiro Goto
小菅 優(ピアノ)
2005年カーネギーホールで、翌06年にはザルツブルク音楽祭でそれぞれリサイタル・デビュー。ドミトリエフ、デュトワ、小澤等の指揮でシュトゥットガルト放送響やスイス・ロマンド管などと共演。2010年ザルツブルク音楽祭でポゴレリッチの代役として出演。その後も世界的な活躍を続ける。現在は様々なベートーヴェンのピアノ付き作品を徐々に取り上げる新企画「ベートーヴェン詣」に取り組むほか、「ソナタ・シリーズ」も進行中。14年に第64回芸術選奨音楽部門 文部科学大臣新人賞、17年に第48回サントリー音楽賞受賞。
https://www.kajimotomusic.com/artists-projects/yu-kosuge/
――ドイツでの放送初演、出演の経緯
2022年4月、音楽を引き受けられた作曲家の藤倉大さんにお声がけいただきました。脚本を書いている最中だったtauchgold(ハイケ・タウフさん、フロリアン・ゴルトベルクさん)を紹介され、まずオンラインで話し合いました。彼らの持つ、事実を伝えることへのこの上ない情熱から、隅々まで調べる探究心。ただ仕事としてではなく、常に世の中のことを考え、問うことの重要さを訴えたい気持ちが伝わってきました。その後、脚本を読んだその時も、これは今やることに意味のある企画だと思いました。
――ドイツ放送初演時の感触や収録時の思い出など
まず、ピアノ、コントラバス、ヴァイオリンという編成のトリオ自体珍しいことで、ストーリーに合わせて、それぞれの楽器が語り、時には一緒に道のりを歩むのです。tauchgoldの脚本が他と違うところは、音楽をとても大事にしていること。BGMになることは全くなく、音楽自体、楽器自体も主人公の一員として語っている。藤倉大さんの音楽によって、それぞれの楽器の「記憶」がより生き生きと訴えてきます。
ドイツ ラジオ放送初演時 予告動画 *映像中、小菅優(ピアノ)のみが今回の広島公演出演メンバーです。
収録はとてもアットホームな雰囲気で、個人宅でリハーサルをしました。録音は、tauchgoldと前から組んでいるサウンドエンジニアが持つ、ベルリンのかなりディープな場所にあるスタジオで行われました。この時は音楽のみの録音で、作曲の藤倉大さんもオンラインで繋がっていて、全て聴いてコメントしてくださいました。最後に私が一人でブースに残り(他の皆さんはエンジニアの部屋に入り、マイクを通して聴いていました)、静けさの中で「Akiko’s Diary」を演奏しました。(今回広島では、劇中にこの曲を実際の「明子さんの被爆ピアノ」で演奏します)この曲は何回も弾いてきましたが、この音楽劇の最後に、明子さんのお話しの後で演奏する、という重みがあり、気持ちが一番集中した瞬間となりました。ハイケとフロリアンが拍手をしながら外に出てきて、録音が終わりました。
――今回の広島公演への思い、お客様へのメッセージ
昨年59歳の若さで亡くなったハイケ・タウフの言葉ですが、「現在でも、世の中のあちこちに“明子さん”がいる。戦争によって苦しんでいる少年少女たちがいる」。だからこそ、そのような苦しみを防ぐためにも、今訴えていかないといけないと思うのです。この音楽劇の舞台上演を、日本で、広島ですることを、彼女は深く望んでいました。
残念なことに今でも歴史は繰り返され、戦争は現在も続いています。楽器と音楽を通じて、平和を訴えるのは、とても重要なことだと感じています。楽器の記憶と共に語られる3つの人生。それぞれが、かけがえのないお話しです。皆さま、是非足をお運びください。
小菅優による、「明子さんの被爆ピアノ」での演奏 藤倉 大:「Akiko’s Diary」